ワンポイントコミュニケーション その15
いつもは車椅子で移動されている方が、少しだけでも歩いてみようかしら。いつもは介助で立たせてもらっている方が、自分で立ち上がってみようかしら。そのように心に浮かぶ瞬間は、おそらく突然訪れるように思います。
道を歩いていて、目的にはなかった場所にふらっと立ち寄ってみようかと、ふと思うのとさほど変わりありません。自由に安全に動ける人にとって、やってみる・やってみない、行く・行かないの選択は常に五分五分といったところでしょう。
しかし、介助を必要している人の心に浮かんだ、やってみようかしらの刹那、やってみる・やってみないの選択は圧倒的に「やってみない」に決してしまうのではないでしょうか。それは、やっぱり出来ないかもしれない、恐ろしい、失敗して誰かに迷惑をかけてしまうかもしれないなど、やってみるに回す側だけスイッチはとても重たいものになってしまうからです。
しかし、生活をしているとは本来、一日中無数の選択をしており、仮に2択の選択であってもあるときは一方に、またあるときは他方に選択され1ヶ月、一年を通じて多様な活動を経験することになります。それが、とりも直さず心身の健康に寄与しているのは間違いないと思います。
介助を必要とする人が、何かやってみる、やってみないの選択が当たり前のように五分と五分になるように、本人に対して“伺う”コミュニケーションが重要です。本人の心に浮かぶ“少しだけ歩いてみようかしら”、“自分で立ち上がってみようかしら”の瞬間は他人である介護者には分かりません。だからこそ、その選択肢はいつでもあなたにあるという言葉がけが必要なのです。
「少し歩いてみませんか?」
「自分で立ってみませんか?」
“伺う”ことは、やらなくなった動作(本当はできる動作)をお誘いするコミュニケーションになります。「私がおりますので安心してやってみて下さい」の一言が加われば、やってみるに回すスイッチも少しは軽くなるはずです。
そうして本人の経験の量と種類を増やすことがまさに自立支援です。伺うことで、普段やっていなかった動作をお誘いし、介助を必要とする本人に選択の機会を作っていきましょう。