ワンポイントケア その15
介護の場面でどなたかに付き添って歩く時、自分で歩けると分かっていても、介護者はついその方の体のどこかに触れてしまいがちです。転倒などの危険を未然に防ぐためと言ってしまえば至極妥当な対応ですし、優しい介護の様子として他者には映るかも知れません。
しかし、この何気ない触れるという行為が、実は本人にとって決して良くはないということを教えてくれる方もいます。良かれと思って体に触れると、「歩きにくいから触らないで」、「触られると恐ろしいから離して」などと言われてしまいます。
つまり、他者目線の安全と、本人が感じる安全は同じではないということです。自動車の運転をしていて、助手席の人が危険を感じて運転席のハンドルを操作したらどうでしょうか、運転をする人なら想像がつくと思いますがその恐怖たるや、それこそ“触らないで!”になるでしょう。
たとえ介護の場面であっても、生活動作を運転しているのは本人です、その運転席のハンドルやアクセルやブレーキを安易に助手席から操作してはいけないのです。安全を感じるのも、危険を感じるのも本人ですし、真実は本人にしかわからないからです。
だからといって、危険回避が遅れてしまい転倒など大きな事故につながってしまってはいけませんから、いざとなればいつでも介護者がハンドルを切れる、ブレーキを踏んで差し上げるという準備は必要です。自動車教習車の教官側の補助ブレーキはごく稀にしか踏まれないように、教官が運転者のハンドルを操作するようなことがまず無いのと同じように。
運転者が運転することを通じて安全運転を体で覚えます。介護も、本人が運転(動作する)することを通じて安全に動作することを思い出すのです。
介護は相手の体に触れたい気持ちをグッと堪えて、本人の運転を尊重する。触れないが優しさになることだってあるのです。何か動作するとき、誰かに触れられていることで安心を感じる場合もあるでしょう。しかしそれは、誰かに守られなければならないという、自立とは対極の思いとセットです。
触れられた手が離れることで、少しの危険は増すかも知れませんが、任されているという自立心は養われます。通常、何かに触れるという行為はそれを操るという目的があります。人を操るのが介護の目的ではありませんから、離せる手は離してみると良いと思います。
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