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動作を分解しすぎない

リハビリやスポーツの世界では動作分析という考え方を用いて、ある動作を細かく分解し改善点やさらに能力を伸ばすトレーニングが行われています。例えばベッドから起き上がるという動作は、顔を向ける、体が横向きになる、下肢がベッドから降りる、上体が起き上がるなどの要素に分解が可能です。

一人で起き上がれない方に対して、分解した要素のどこがうまくいっていないかを見つけ出し、その要素を繰り返し練習したりします。

しかし、分解した要素の一つ一つが可能になったとしても、起き上がるという結果につながらないこともしばしば起こります。人の動作における体のパーツ(手・足・体幹など)はいつでも、どこでも順番のあるプログラムのように動いているわけではなく、状況や環境によって各パーツの動き出す順番やタイミング、出力の加減も異なります。

 

さらに、動作をいくら分解したとしても、分解した各要素の重要度は状況ごとに異なり、場合によっては必要のない要素もあります。どんなに精巧なパーツを集めてそれを組み合わせても一つの動作にはならないのが人間の動作です。

例えば、スーパーアスリートと同じ動きを再現できたとしても、おそらく同じ記録を打ち立てることはできません。オリンピックの一つの競技で同じ動きをする人ばかりが集まってくるようなことになっても見ていてつまらないですし…。

 

さて、部分を極めても全体としては不足するのです。起き上がるという動作は起き上がるという経験をとおして可能たらしめるわけであり、もっと言えば、介護の必要な方の日常生活の改善は、日常生活をもって起こり得るということです。

つまり、病院にしても施設や在宅にしても、治療やリハビリ、介護という名のもとに、本人の日常生活における大事な経験を奪うような関わりにならないよう気をつけることが何より大切だと言えます。

 

リハビリで入院中の患者さんに対して、退院後の生活に今ひとつ不安を感じて退院が伸びてしまう、一旦別の医療機関などに転院されるなどという場合があります。日常生活を分解しすぎると、逆に不安な要素をあぶり出してしまうからです。

逆に思いきって退院してみると、意外に問題なく生活できたということも多いのです。自宅での生活は要素のかき集めではなく、ただ全体としての生活が存在するだけなのでしょう。

 

筆者
大堀 具視(おおほり ともみ)
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