入院していた方が退院し自宅に戻られると、入院中では想像もできないほどしっかりとした身のこなしで生活をされることが多いように思います。入院中は何となく弱々しく、動作もおぼつかなく見えていたのに、いったいどういう事なのでしょうか。
弱々しい、その背景には本人の心身の状態以前に病衣をまとった病人としての姿や、検査やリハビリ、時にはトイレや入浴などにも必要以上に職員に付き添われて行われるという実情があるように思います。つまり弱々しいのではなく、弱々しくさせられてしまっているのです。
過保護にすればするほど心配になり、過保護に追い討ちをかけてしまうといった子育てに似たものがありそうです。もちろん、病状の悪化や転倒などによる怪我のリスクを避けなければなりませんので、入院中は知らず知らずのうちにちょっとした動作を一人で行う機会は少なくなってしまいます。
しかし、例えば自宅でソファーから立ち上がる、絨毯やフローリングなどつまづきやすさや滑りやすさの異なる場所を歩く、冷蔵庫を開けて覗いてみる、玄関で靴を履くなどなどそれぞれの場面で微妙な体の使い方やバランスを経験するからこそ、筋肉や関節の動きも維持されますし鍛えられます。
何よりちょっとした動作であったとしても自分で行うという自覚や、安全に行わなければならない緊張感をもった経験が心身機能に良い影響があるのです。
また、リハビリでどんなに具体的場面を想定して練習をしたとしても、慣れた環境で行うことにはかないません。人の動作は体が覚えている記憶なのですが、それは体の機能のみが担っているのではなく、行ってきた環境とセットで覚えているのであり、その環境のもとで発揮されやすいという特徴があります。
段差の多い自宅を安易に改修しても住み良くならないこともしばしば起こるくらいです。
もし、退院後の生活に不安があり、自宅か転院、あるいは施設入所に迷うのであれば、まずは思いきって自宅に戻ってみてはいかがでしょうか。慣れた環境では意外に動作はスムースになります。動作は必要に迫られてこそ、その人の本当の能力が引き出されます。
したがって、自宅に戻ってからが本当のリハビリであり一番効果的なリハビリなのです。