やってみると記憶が蘇る
体で覚えた記憶はそう簡単には失いません。しかし、しばらくやっていないことは、やや自信が揺るぎます。自分がペーパードライバーだと想像してみてください。目の前に運転しても良い車があったとしても、その運転はかなり躊躇するのではないでしょうか。
しかし、どうしても車で移動しなければならない事態に、運転免許を持っているのはあなただけだとしたら。あなたは意を決して運転席に座りハンドルを握ります。するとどうでしょうか、無意識にブレーキを踏み、自然とエンジンスタートボタンに手が伸び、ミラーを確認します。そしてシフトレバーをドライブに入れて、静かにブレーキをを踏んだ足を緩めることでしょう。
体はガチガチに緊張するかもしれませんが、おそらく何とか目的地にたどり着くと思います。そう、運転席に座ってハンドルを握る。つまりやってみる。やり始めてみると記憶が蘇り、体が無意識にサラサラと反応するのです。
介護が必要となった生活動作も体で覚えた記憶です。しかし、体調の変化などでしばらくやらなくなった動作はペーパードライバーのように自信が揺らいでいます。「できない」、「恐ろしい」などと言われることもあると思います。そんな時には、まずは運転席に座り、ハンドルを握ってみるのが一番の解決策です。
まず何でも良いから、思ったとおりやり始めてみるのです。例えばベッドから起き上がる動作では、「できるところまでで大丈夫ですから、自分で起きてみてください」、「さあ、どうぞ」と言葉かけをします。自分でやってみようとする、運転席に座ることをしなければ何も始まりません。
しかし、運転席に座ってみると、ブレーキがゆっくりと解放され、体は動き始めます。進むべき方向にハンドルも切られるのです。助手席に座った介助者は、危険を察知すれば補助ブレーキを踏めば良いのですし、必要に応じてハンドル操作をサポートしたり、アクセル踏んで動きを促す役目を担います。
自動車教習所と同じように、あくまで運転手は本人です。助手席で教官のサポートがあったとしても、自分が運転をした(動作をした)という実感が、次なる動きの動機につながるはずです。
体で覚えた記憶は、やってみることで蘇ります。介護も、「まずはあなたから動き出してください」という姿勢で臨むのが何より大切だと分かります。