妻の名前は、芳枝と言います。
芳枝さんと初めて会ったのは、僕たちが19歳のときです。
学費や生活費を工面するためアルバイトを探していたとき、親友がデパートにはいっているせんべい屋を紹介してくれました。そのとなりの海苔とお茶を販売しているお店で、芳枝さんが働いていました。
芳枝さんを見た瞬間、お互い目と目が合い、しばらく動けませんでした。
照れ臭いけど、一目惚れでした。
そのあと、芳枝さんもチラチラと僕のほうを見ていたので、絶対に意識していたと思います。
でも、あとで本人に確かめたら「ぜんぜん~意識してないよ」と言っていました。
彼女なりの照れ隠しだと理解しています。
お互いにシフトが被ったときに顔を合わせて、少し会話する関係になってしばらくして、親友が僕と芳枝さんを誘い、三人で鎌倉へ出かけました。
鎌倉散策の途中で、親友は用事があると言って帰ったため、僕と芳枝さんのふたりになりました。
実は親友が気を利かせてくれたらしく、僕はこのひと押しがきっかけで、芳枝さんに告白をすることができ、お付き合いが始まりました。
ふたりで重ねた日々をたどって
芳枝さんは、茨城県出身で地元の高校卒業後、神奈川県の藤沢市にあるデパートに就職をして、江ノ島の近くの片瀬海岸にある社員寮に住んでいました。
僕と芳枝さんは、お互いに仕事が終わったら江ノ島駅まで行って社員寮の夕食まで海岸沿いを散歩するのが日課でした。そうやって、夕食までの短い逢瀬を楽しく過ごしていました。
休みの日には、一緒に鎌倉のお寺をまわって地図に印をつけていきました。
さほど時間はかからず、ほぼ制覇することができてふたりで笑い合ったのを憶えています。
付き合いはじめて2年目の21歳のときに芳枝さんが社員寮を出るタイミングで同棲をはじめました。
同棲といえば、2024年の年末にNHK紅白歌合戦で、南こうせつさんが「神田川」を歌っているのを聴いて、思わず泣いてしまいました。この「神田川」は、芳枝さんと僕の思い出の曲なのです。
同棲をしていたアパートは、風呂がついていなかったので毎日銭湯に行っていました。
僕たちの部屋は「神田川」の歌詞にあるような3畳一間ではなく6畳でしたが、当時の生活が歌詞と重なって、聴きながらふたりで過ごしたことを思い出しました。
思い出すのは、楽しかったことばかりです。
それから2年後の23歳のときに僕たちは結婚をしました。

