現在、世界中で認知症を引き起こす遺伝子についての研究が進められています。
認知症は遺伝によって起こる病気なのでしょうか?
認知症と遺伝について、以下の項目を中心に解説します。
- 認知症は遺伝するのか
- 認知症を引き起こす遺伝子
- 遺伝が要因となる認知症やその他の要因
- 遺伝が心配な場合の対処法
具体的な確率なども踏まえて解説していますので、是非最後までお読みください。
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認知症の遺伝とは
未だ解明に至らない点の多い認知症ですが、遺伝によって発症リスクが高まる認知症も存在します。
中でも、アルツハイマー型認知症は、2つの種類があります。
遺伝が関係するとされる家族性アルツハイマー型認知症と、遺伝は関係しない孤発性アルツハイマー型認知症です。
アルツハイマー型認知症の約90%は、遺伝と関係のない孤発性アルツハイマー型認知症です。
また、両親に家族性アルツハイマー型認知症の患者がいる場合、その子供は50%の確率でアルツハイマー型認知症を発症すると考えられています。
それぞれの確率をみると、全体の約5%が遺伝と関係するアルツハイマー型認知症であるという計算になります。
したがって遺伝によって認知症を発症する割合は、統計的にみると少ないと言えます。
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認知症を引き起こす遺伝子
家族性アルツハイマー型認知症は、通常より20歳ほど若く発症するケースが多いとされています。
1990年代、この若年性に発症したケースを中心に、患者がもつ遺伝子配列の研究が盛んに行われました。
その結果、原因遺伝子と感受性遺伝子についていくつか明らかになってきています。
以下に詳しく解説しますのでそれぞれ見ていきましょう。
原因遺伝子
原因遺伝子とはその病気を引き起こす原因と考えられる、通常とは異なった配列をもった遺伝子を指します。
家族性アルツハイマー型認知症の患者からは通常のたんぱく質とは異なるたんぱく質が確認されました。
アミロイド前駆体たんぱく質(APP)、プレセニリン1(PSEN1)、プレセニリン2(PSEN2)の3つです。
また、この3つの原因遺伝子が原因で発症するとされる代表的な認知症は以下の通りです。
- 家族性アルツハイマー型認知症
- 家族性クロイツフェルト・ヤコブ病
- 家族性脳血管性認知症
感受性遺伝子
一方で、症状の出現をより高めてしまう性質を持つ遺伝子を感受性遺伝子と呼びます。
現在では、アルツハイマー型認知症の発症に関係する感受性遺伝子が多く見つかっています。
その中でも特に関係性が深く、危険性が高いとされているのが、アポリポたんぱくE4遺伝子(APOE4)です。
この遺伝子は日本人の約10~15%が保有しています。
この感受性遺伝子があると3~5倍アルツハイマー型認知症を発症しやすいとされています。
しかし、感受性遺伝子そのものが発症の原因になるわけではありません。
感受性遺伝子を持っている人が、生活習慣やほかの病気などと複合的に関係して認知症の発症に至ります。
そのため、発症のリスクを高める1つの要因と考えるべきです。
認知症の要因
認知症は脳細胞が減少・死滅することで起こる症状を指しますが、様々な種類の病気によって発症します。
アルツハイマー型認知症は、脳に特殊なたんぱく質がたまり、脳細胞が破壊され、減ることで発症します。
また、レビー小体型認知症は、神経細胞に特殊なたんぱく質が蓄積することで発症します。
脳梗塞や脳出血、くも膜下出血を原因として発症する脳血管性認知症では、病気が原因ではありません。
頭部外傷などによる脳内の出血が元となり、後になって認知症を発症します。
原因となる病気によって、症状の現れ方や治療方法が異なるので、出来るだけ早く診断を受け適切な治療を受ける事が重要です。
また、病気によって発症するだけでなく、加齢やストレス、食生活など、その人の生活習慣も大きな要因として挙げられます。
日ごろから健康的な生活を送ることで認知症の発症を予防したり、発症を遅らせる事が可能となります。
遺伝的要因
遺伝的要因として、両親のどちらかにアルツハイマー型認知症の患者がいると、家族性アルツハイマー型認知症を発症する可能性が高まります。
遺伝子検査を受けなくても注意すべき特徴がいくつかありますので、この後詳しく解説していきます。
後天的要因
脳が変形することで引き起こされる認知症は、脳の血流の障害が大きく関与していると考えられます。
具体的には、
- 生活習慣病
- 心臓疾患
- 脳卒中
- 高コレステロール
- 頭部外傷
- 動脈硬化
- 喫煙
- アルコールの過剰摂取
- 肥満
- 加齢
- 薬物の乱用
などが挙げられ、生活習慣の改善から予防が出来るものが多く、認知症の要因の大部分がこの後天的要因だと言えるのです。
認知症の遺伝を予防できるのか
現段階では認知症の遺伝的要因を制御して予防することは難しいとされています。
ただし、生活習慣病などの後天的要因については予防可能とされています。
生活習慣病予防のために注意すべきことは以下のようなものです。
- バランスのとれた食事を心がける
- 過度な飲酒は辞める
- 喫煙習慣の抑制
喫煙については、アルツハイマー型認知症の発症リスクが喫煙者は非喫煙者に比べ約2.3倍高いことがわかっています。
レビー小体型認知症の遺伝
レビー小体型認知症はアルツハイマー型認知症、血管性認知症に次いで多い認知症です。
レビー小体型認知症はほとんどが孤発性で家族に遺伝することは稀です。
ただし、アルツハイマー型認知症などと同じように生活習慣病には注意が必要です。
生活習慣病がレビー小体型認知症の症状を悪化させる可能性はあります。
家族性アルツハイマー型認知症の特徴
認知症には様々な要因が関与しており、原因となる病気も複数あることを解説してきました。
遺伝が関係している認知症の代表例である家族性アルツハイマー型認知症について、特徴を解説します。
認知症全体の2~3%程度
アルツハイマー型認知症のうち、家族性アルツハイマー型認知症の割合は2~3%と少ない数字で、決して多くはないケースであることがわかります。
遺伝子の変異が明らかになっているものは半分も確認されていません。
そのため、家族にアルツハイマー型認知症の患者がいても、極端に怯える必要はありません。
リスクがあると知ることで日ごろの生活習慣を改善することが、認知症発症を予防する重要なポイントになるのです。
発症時期が早い
家族性アルツハイマー型認知症は若年性に発症するケースが多く、高齢者と比べ進行が早いとされています。
具体的には、通常認知症を発症するより20歳程度早く発症する特徴があります。
通常65歳以上の高齢者に多い認知症ですが、家族性アルツハイマー型認知症は40~50歳で発症することが多く、なぜ若年性に発症するのか原因はまだ解明されていません。
進行が早い
家族性アルツハイマー型認知症は、若年性に発症するケースが多くあります。
そのため、初期の段階では異変があっても周囲や本人が認知症だと思わず、発見が遅れてしまいます。
その結果、正しい診断が付くころにはすでに進行してしまっている場合が多いのです。
働き盛りの年代なので、社会活動や家庭内でもストレスが多く、高齢者のように穏やかに暮らす事が難しい点も進行を早める要因になります。
認知症が遺伝しないか不安な場合
認知症が遺伝によって発症する頻度は高くないとわかっていても不安な場合、どのように過ごしたらよいのか、具体的に取るべき行動を解説します。
生活習慣を改善する
後天的要因として、その人の生活習慣が認知症の発症に大きく関わっていることがわかりました。
認知症を発症するメカニズムについては未だはっきりと解明はされていません。
しかし、脳の血流障害を予防し、健康的な生活を送ることが発症を防ぐ有益な方法であると言えます。
生活習慣は、運動・睡眠・食事など日々の生活の中で意識して改善することが可能です。
具体的には、一駅分歩くといった適度な運動を取り入れたり、油っこいものや塩分を控えるなど、生活習慣病を予防するような食事を心がけます。
これらの対策をとることで、動脈硬化や肥満といった生活習慣病につながるリスクが軽減し、脳血管の血流改善にも効果的です。
頻繁に受診する
認知症を発症していても、症状の現れ方はその人によって様々で、進行のスピードや程度も異なります。
また、本人が自分は認知症であると自覚することは難しいです。
一緒に生活している家族でも気付かなかったり、指摘しにくいため、時間が経つにつれて症状が進行してしまうことも多く見られます。
そのため、家族性アルツハイマー型認知症を疑う場合や、少しでも不安を持っている場合は、定期的に受診をして検査を受けておくと安心です。
こまめな受診をすると、症状が軽い初期の段階で診断を受けることができます。
早期に治療を開始することで、進行を遅らせたり症状を軽くすることが可能になります。
APOE遺伝子検査
アルツハイマー型認知症では、アミロイドベータペプチドという老廃物が脳に蓄積して神経系に障害を与えることで発症するとわかりました。
このアミロイドベータペプチドの蓄積に関与する物質の一つがAPOE遺伝子です。
主に3種類あり、そのうちの2つが合わさって遺伝子型を構成しています。
APOE遺伝子のうち、E4という型の遺伝子を持っているとアルツハイマー型認知症の発生リスクが3~12倍高くなるといわれています。
しかし、このE4遺伝子を持っていたとしても必ずアルツハイマー型認知症を発症するわけではありません。
APOE遺伝子検査は、アルツハイマー型認知症の発生リスクを知る目的で検査されます。
そのため、将来的に発症するかどうかを判定するものではありません。
あくまでも、リスクを知ることで、生活習慣の改善を行い、認知症の発症を防ぐ目的で行われる検査なのです。
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APOE遺伝子検査の受け方
APOE遺伝子検査は簡単な血液検査になっています。
APOE遺伝子検査の流れは以下のようになります。
- 病院に検査の予約を入れる
- 医師の診断と採血
- 病院で2~3週間後に検査結果を受け取る
APOE遺伝子検査は認知症検査を行っている病院で受けることができます。
病院によっては人間ドックの検診メニューに入れているところもあります。
尚、費用については健康保険適用外で自費で受けることになります。
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遺伝性の認知症だった場合
家族性アルツハイマー型認知症などの遺伝が深く関係する認知症は、若年性に発症することが多くあります。
一般的に進行が早いとされているため早期に診断を受け、治療を開始することが重要です。
発症年齢が若いことから、患者は働き盛りの年齢となります。
診断を受けたことで将来への不安や、治療と生活を両立させていくことに大きな精神的苦痛を受ける場合もあります。
家族から直接サポートを受ける事ができない環境であっても、医師やソーシャルワーカーなどとコミュニケーションをとり、サポート体制を整えていきましょう。
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認知症の遺伝についてのまとめ
- 遺伝によって発症する認知症の割合は少ない
- 認知症を引き起こす遺伝子には原因遺伝子と感受性遺伝子があるが、保有しているからといって、必ず発症するわけではない
- 家族性アルツハイマー型認知症は後天的要因として生活習慣が発症に大きく関わっており、改善をすることで予防や発症を遅らせる事が出来る
- 遺伝が心配な場合は生活習慣を改善し、定期的な受診をしたり、発症リスクを知るためのAPOE遺伝子検査を受ける事が出来る
ここまで認知症の遺伝に関する情報や、家族性アルツハイマー型認知症の特徴や予防法などを中心にお伝えしてきました。
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。