認知症になると、的確な財産管理や各種契約が困難になります。
もしかしたら、詐欺や犯罪に巻き込まれ、財産をすべて失うかもしれません。
そんなリスクを回避できるのが、認知症発症後の成年後見制度です。
本記事では、認知症の方のための後見制度について解説します。
- 認知症発症後の成年後見制度ってなに?
- 認知症発症後の成年後見制度ができること・できないことは?
- 認知症発症後の成年後見制度の手続きや解任手続きの方法とは?
- 認知症後見制度の注意点は?
ぜひ最後までお読みください。
スポンサーリンク
認知症発症後の成年後見制度とは
「認知症発症後の成年後見制度」とは、認知症の方を後見する人を指します。
後見人制度はさまざまな種類がありますが、認知症の方を後見する場合、「成年後見制度」の利用が一般的です。
「成年後見制度」とは、その名の通り、成年を後見するための制度です。
後見される人(被後見人)は、何らかの原因で、判断力や認知力を著しく失っています。
自身での資産管理や法的行為が難しいため、後見人が資産管理や各種権利を代行します。
スポンサーリンク
なんで認知症発症後の成年後見制度ができたの?
認知症の方に後見制度を利用する理由として、もっとも一般的なのが貯蓄・口座の管理のためです。
口座の名義人が認知症だとわかると、銀行は口座を凍結します。
認知力が低下した名義人が、犯罪や詐欺に巻き込まれて、資産を失うのを防ぐための措置です。
たとえ、介護施設への入所資金を、認知症当事者の口座から引き出す必要に迫られたとしても凍結された口座からはお金を引き出せません。
もっといえば、介護サービスの契約も、本人以外はおこなえません。
しかし、本人は著しく認知機能が低下している場合が多く、お金の引き出しや契約が困難です。
こうした時に活用されるのが、成年後見制度です。
法的に認められた成年後見人は、本人(被後見人)にかわって、口座からお金を引き出すことや、介護サービス利用などの各種契約が可能です。
このように、成年後見制度とは、判断力や認知力が低下した人の法律行為をサポートするために、生まれた制度です。
あなたは自分の親が認知症になったときの預金引き出しについて考えたことはありますか?親が認知症になったときの対策ができていないと、どのように親の口座の預金引き出しに制限がかかったり、介護費用をどのように工面すべきか分からず困ってし[…]
認知症発症後の成年後見制度でできること・できないこと
認知症発症後の成年後見制度には、「できること」と「できないこと」があります。
認知症の方以上に、認知症後見制度について理解を深めることが大切です。
できること
認知症発症後の成年後見制度で許可されているのは、代理権、同意権、取消権です。
後見人の類型によって、できることは変動しますが、おおまかに以下のことが可能です。
- 預金口座の管理・解約
- 預金口座からの引き出し
- 本人がおこなった契約の取り消し
- 本人がおこなう借金の承認・本人がおこなう相続の承認
- 本人がおこなう不動産の売買や増改築の同意・取り消し
できないこと
後見人制度は、被後見人のかわりに法律行為をおこなうものです。
そのため、法律行為でない事柄については、後見人の権限が及びません。
そのほか、本人の意思によってのみおこなえるものや、後見人の役割でない行為についても、権限はありません。
- 日用品の売買
- 本人への強制(介護施設の入所・手術などの医療行為の強制)
- 医療行為に対する同意
- 身元保証人・身元引受人
- 被後見人の介護
- 本人の意思によってのみ可能なこと(結婚・離婚・養子縁組・遺言書の作成など)
認知症発症後の成年後見制度の種類について
後見人には法定後見人と任意後見人の2種類があります。
それぞれの権限や、被後見人の意思反映の程度を解説します。
法定後見人
法定後見人は、被後見人がすでに認知症を発症している場合に選ばれます。
認知症発症後の成年後見制度の多くは、法定後見人です。
法定後見人の審判・選出は家庭裁判所がおこないます。
法定後見人には3つの類型があります。
類型によって、「後見人の権限」や「被後見人の意思反映の程度」は異なります。
ただし、法定被後見人は判断能力がないため、基本的に本人の意思は反映されません。
法定後見人が選出されると、原則として後見人以外は、被後見人の資産管理ができなくなります。
任意後見人
任意後見人は、被後見人が認知症を発症する前に、被後見人自身が指名・契約する制度です。
被後見人の判断能力が低下した場合に、後見人としての権限を発動できます。
任意後見人と被後見人は、あらかじめ「任意後見契約」を結んできます。
契約内容は、被後見人が、ある程度自由に決定できます。
このように、任意後見人は、法定後見人より融通が利くのが特徴です。
一方で、任意後見契約に記載されていない事柄については、権限が付与されません。
認知症発症後の成年後見制度の類型について
認知症発症後の成年後見制度、すなわち「法定後見人」は、さらに3つの類型にわかれます。
どの類型が選択されるかは、家庭裁判所にゆだねられます。
後見類型
後見は、被後見人の判断能力が著しく低い場合に選出されます。
たとえば、日用品の買出しが1人で困難な場合などがあてはまります。
後見は、法定後見人の中でも、もっとも大きな権限が与えられるのが特徴です。
後見が選出された場合、被後見人は税理士などの各種資格や、会社役員・公務員などの地位を失います。
保佐類型
保佐は、本人の判断能力に著しい不足があるものの、問題なく日常生活が送れる場合に選出されます。
たとえば、1人で買い物にはいけるものの、お金の的確な管理や、各種契約を結ぶのが難しい場合などが該当します。
保佐に与えられる権限は、原則として法律行為における「同意権」と「取消権」です。
さらに、家庭裁判所が認めた事柄のみ、代理権が付与されることもあります。
補助類型
補助は、本人にある程度の判断能力がある場合に選出されます。
1人でも借金や不動産の売買などの財産管理が可能ですが、誰かのサポートがあるほうが安心できるといったケースが当てはまります。
3類型のうち、もっとも本人の意思や判断が尊重されており、代理権・同意権・取消権の行使には、制限が加わります。
他の2類型と異なり、被後見人が各種資格や地位を失わない点も特徴です。
認知症発症後の成年後見制度の手続きについて
成年後見制度は、申立人が家庭裁判所に審判の申立てを行うことにより、利用できます。
一般的に、申立ては本人・配偶者・四親等以内の親族がおこないます。
流れ
成年後見人の手続きの大まかな流れは、以下の通りです。
- 1 家庭裁判所への後見開始の審判の申立て
- 2 家庭裁判所に申立書や関係書類を提出
- 3 家庭裁判所による申立人・後見人候補者との面談
- 4 家庭裁判所による本人の面談
- 5 家庭裁判所による審理・審判
- 6 家庭裁判所による審判確定
- 7 後見登記・後見人の仕事開始
- 8 後見人による1カ月以内の被後見人の財産目録の作成・提出
- 9 以後、後見人による家庭裁判所・後見監督人への定期報告
期間
成年後見人の手続き期間は、事案によって異なります。
一般的には、申し立て~審判に2カ月程度かかるといわれています。
その他の手続きを含めると、全体で3~4カ月程度を目安にするとよいでしょう。
費用
成年後見人の申し立てには、費用がかかります。
申し立て自体にかかる費用は1万円程度です。
しかし、その他に、医師による診断書や精神鑑定、別途書類の取得が必要な場合、その手数料が必要です。
また、書類の作成や手続代行を士業に依頼する場合は、手数料や報酬も必要となります。
自力で手続きを行う場合、一般的には、2万円~18万円程度の費用がかかるといわれています。
準備するもの
成年後見人の申立てには、膨大な書類の提出が必要です。
必要書類は事案によって異なります。
今回は、一般的に必要とされる書類の例をご紹介します。
- 申立書
- 本人・後見人等候補者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 本人・後見人等候補者の住民票又は戸籍附票
- 本人の診断書
- 本人の健康状態に関する資料
- 介護保険認定書などの写し
- 本人が成年被後見人等でないことの証明書
- 本人の財産状況の資料
- 本人の収支状況の資料
成年後見制度の後見人になれない人ってどんな人?
成年後見制度を利用するために特別な条件は必要ありません。
しかし、以下の欠格事由に該当する場合、後見人になることはできません。
- 未成年者
- 家庭裁判所により過去に後見人等を解任された人
- 破産者
- 被後見人と過去に裁判をした人、その配偶者と直系血族
- 行方不明者
スポンサーリンク
成年後見制度の利用上の注意点について
成年後見人制度を利用する場合、いくつか注意すべき点があります。
後見人制度は被後見人が亡くなるまで適用される
後見人制度を利用すると、原則として、被後見人が亡くなるまで継続します。
したがって、お金の使い道は一生、本人・家族の自由にならない点を留意しましょう。
後見人には報酬が必要
家庭裁判所の判断により、後見人には、被後見人の財産から、月額報酬が支払われる場合があります。
後見人への報酬は、月あたり2~3万円が相場です。
ただし、弁護士などの専門家が後見につく場合、もっと高額になるケースもあります。
スポンサーリンク
後見人を解除しようと思ったら?
後見人が不適だと感じられる場合、家族や親族は、後見人を解除できるのでしょうか?
後見人解除の是非と手続き方法を解説します。
解除できるの?
後見人の解任は可能です。
ただし、解任は、原則として後見人に以下の条件が当てはまる場合のみです。
- 不正な行為がある(被後見人の財産の横領など)
- 著しい不行績がある(財産管理・身上監護事務を適切におこなわないなど)
- 後見人の任務に適しない事由(職務怠慢、家庭裁判所の命令違反など)
解任手続きについて
解任手続きは、家庭裁判所に申立てを行うことで可能です。
申立て資格のある人や、おおまかな解任手続きの流れは、以下の通りです。
●申立てできる人
・後見監督人
・被後見人
・被後見人の親族
●申立ての流れ
・解任事由の理由や証拠をまとめる
・解任申立て書の作成
・家庭裁判所で解任の申立てをおこなう
スポンサーリンク
成年後見登記制度Q&A
Q1 成年後見登記制度ってどんな制度?
A.成年後見登記制度は、成年後継人等の権限や任意後見制約の内容などを登記官がコンピュータシステムを用いて登記し、登記官が登記事項を証明した登記事項証明書を交付することによって登記情報を開示する制度です。
Q2 登記はどのようにされるの?
A .東京法務局の後見登録科で、全国の成年後見登記事務を行っています。
後見開始の審判や任意後見契約の公正証書が作成された時など、家庭裁判所や公証人からの嘱託によって登記されます。
登記後の内容の変更や、法定後見・任意後見が終了した時は、「変更の登記」「終了の登記」を申請する必要があります。
Q3 どういう時に証明書を利用することがあるの?
A .例として、成年後見人が、本人に代わって財産の売買や介護サービス提供契約をするのに、取引相手に対して登記事項を確認してもらうことで、権限を確認してもらうことがあります。
また、成年後見人を受けていない方は、登記されていないことの証明書の交付を受けることができます。
出典:法務省民事局「成年後見制度 成年後見登記制度」
出典:法務省「成年後見制度・成年後見登記制度」
成年後見人制度について・成年後見登記制度について、登記事項証明書の交付請求・申請用紙などについては、各地方の法務局にお問合せください。
認知症発症後の成年後見制度まとめ
- 認知症の方の後見には、「成年後見制度」を利用する
- 認知症発症後の成年後見制度の目的は、本人に代わって口座などを管理すること
- 後見制度は、被後見人が亡くなるまで続く
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。