物盗られ妄想とは、認知症になるとよく見られる妄想のことです。
主に財布や現金、通帳などの財産に関わる大事なものを盗まれたと思い込み、訴える症状のことを言います。
介護している親御さんに物盗られ妄想の症状が出て、辛い思いをされている介護者の方もいるのではないでしょうか?
今回は、物盗られ妄想の対応策やその背景について、以下の項目を中心に解説します。
- 物盗られ妄想の原因とその背景にある状況
- 物盗られ妄想の対応策
- 物盗られ妄想以外の妄想
いざという時に落ち着いて対応できるようにするための役立つ情報をまとめましたので、ぜひ最後までお読みください。
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認知症とは
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認知症とは、脳の神経細胞が死んでしまったり減少することにより、認知機能に障害が起こり、日常生活に支障が出る状態のことを言います。
認知症は一般的に知られているように、老いにともない表れる症状の一つです。
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認知症による物盗られ妄想の原因
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ここでは、物盗られ妄想が起こってしまう原因について、以下の項目別にご説明します。
記憶障害
認知症の方は、認知機能に障害が起こることによって、新しいことが覚えられなくなります。
そのため、ついさっき聞いたことや行動したことを記憶するのが困難になります。
大切なお金などのものを自分でしまったのに、お金をしまったこと自体を忘れてしまいます。
また、普段は使わずに押し入れの奥などにしまい込んでいる物のことを、急に思い出したりすることもあります。
当事者の元々の性格、生活背景などと相まって、分からなくなってしまった記憶を取り戻そうとするため、物盗られ妄想が引き起こされるとされています。
怒りや不安感
認知機能に障害が起こることで、記憶力や思考力が低下していくと、だんだん思い通りに行動することができなくなり、不満がつのります。
また、家族がしてくれるサポートに対して劣等感を抱いてしまったり、忙しい家族からはあまり相手にしてもらえないことなどが寂しく感じて、疎外感を抱きます。
このような不満がたまると怒りや不安感につながり、八つ当たりをするかのように家族を疑うような言動をしてしまうことが多くなります。
家族など身の回りの方への疑いが物盗られ妄想に発展します。
認知症の方の怒りや不安をためないように、周りでサポートしてあげましょう。
認知症による物盗られ妄想の対応
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家族に物盗られ妄想が始まってしまったら、どのようにサポートしていけば良いのでしょうか?
急な状況の場合、冷静な対応は難しいでしょう。
そこで、事前に心得ておいた方が良いことについて以下にまとめました。
否定せずに聞く
認知症の方がいつも身近でお世話をしてくれる介護者に向かって「あなたが盗った!」と泥棒扱いしてしまうケースがあります。
介護者からしてみれば、悲しくて否定してしまいたくなるのは当然ですが、まずは否定せずに「それは大変だね」などと共感してあげましょう。
認知症の方は大切な物がなくなり、ただ動揺しているだけかもしれないです。
言い争いをしているとお互いの関係に亀裂が入ることで、ますます疑いの目がかかるかもしれません。
落ち着いて話を聞いたら、「一緒にさがそう」と声をかけ、周辺を探しましょう。
見つかった時は、「よかったね、あったよ」と声かけをして安心させてあげましょう。
または、介護者が先に見つけてしまった場合に、当事者が見つけやすい場所にそっと置いて、当事者自身に発見してもらうのも良いでしょう。
本人の立場や感情に注目
認知症の方が興奮していないときに、不安に思っていることがないかを聞いてみるのも一つです。
認知症の方は、自身の置かれている状況や不安な気持ちを身近な人が理解してくれることを求めています。
物盗られ妄想の裏には、自分の不安な気持ちをわかってほしい、一人の人間として対応してもらいたいと願う感情が隠れていることが多いです。
認知症の方の立場や感情に注目し、本人の気持ちに寄り添った対応をしてあげるように心がけましょう。
ひとりで闘わない
介護者の方の多くは、日々の大変な介護生活から、常に心労をかかえています。
そのような状態で、さらに犯人扱いされてしまったりすれば、心がさらにすり減ってしまうでしょう。
誰かに頼ることに躊躇する必要はありません。
万が一介護している方が倒れ、認知症の方の介護ができなくなってしまったら大変です。
一人で抱え込まず、ぜひ周りに相談して助けを求めてください。
また、友人に相談しにくいといった方は地域包括支援センターやケアマネジャーがオススメです。
やってはいけない対応方法
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ここでは、物盗られ妄想のある当事者に対してやってはいけないことをまとめました。
項目ごとに解説します。
否定
物盗られ妄想による間違いを正そうとして、当事者と介護者の言い争いに発展してしまうと、お互いの関係に亀裂が入りかねません。
否定するより話を聞いてあげて共感することで、当事者を安心させることができます。
話を終わらせる
忙しい中、物盗られ妄想にじっくり向き合ってあげることは難しいことです。
しかし、「後で探しておくので、少し待っていてね」などと話を終わりにして立ち去ると、当事者に不安感を抱かせてしまいます。
当事者が疑いを強め、興奮し、落ち着かない状況が長く続いてしまうこともあります。
認知症の方の疑いを強めないためにも、じっくり向き合ってあげましょう。
注意・説得
当事者に、盗まれた事実などないと注意し説得しても逆効果になりかねません。
間違いなく盗まれたと思っていることを否定されると被害妄想がさらにひどくなり、より落ち着かなくなる恐れがあります。
見て見ぬふり
当事者は、盗まれたという事実を信じてもらえず、見て見ぬふりをされてしまうと、混乱して興奮状態が続く恐れがあります。
前述したとおり、一通りの話を聞いて、肯定したうえで対応するようにしましょう。
そのほかの認知症の妄想
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ここでは、物盗られ妄想以外の妄想についてご紹介します。
以下のような妄想が引き起こされるのは、物盗られ妄想と同じように、認知症に対する苦しみや不安感などが原因であることが多くなっています。
見捨てられ妄想
認知症の当事者は、介護者にお世話になっていることに感謝しつつ、負い目も感じがちです。
そのため、「自分は介護者の重荷でやっかいな存在だ」と思い悩み続けると、いつか見捨てられるのではないかと思い、見捨てられ妄想が起きます。
そうすると、家族でさえ信じられなくなり、引きこもることで徐々に認知症が進行してしまいます。
対策としては、当事者が得意なことや無理なくできる簡単な作業をお願いしてみるのが良いでしょう。
「自分はまだまだ役に立つことができる」という、当事者が自信を持つことが見捨てられ妄想の予防に繋がります。
幻覚・見間違い
認知症の当事者によく見られる幻覚の症状は、そこにいるはずもない人がいると訴えることです。
「子どもがいる、お客さんがいる、怖い人がいる」など、本当にハッキリ見えているかのように訴えてきます。
そのため、周囲の方は不気味に感じてしまうかもしれません。
「人だけではなく虫や蛇がいる」と訴える方、「人の声が聞こえる」といった幻聴を訴える方もいます。
また、「虫が背中を這いずり回っている」と感じる体感幻覚を訴える方もいます。
対応としては、否定せず話を合わせるようにするのが良いでしょう。
また、幻覚や見間違いは暗いところで起こりやすいため、部屋を明るい環境に整えるのも一つです。
衣類を壁にかけないようにすることなど、見間違いやすい環境を変えることも効果的です。
嫉妬妄想
嫉妬妄想とは配偶者や愛人が他の者と愛情や性的関係を持っていると思う妄想です。
また、嫉妬妄想で多く見られるのは配偶者の浮気を疑うことです。
この妄想の背景には、不安感と孤独感が根本にあると考えられています。
「自分にはもう役割がなく、頼ってもらえない」といった悲しみが原因となっているのです。
対応としては、毎日当事者と「会話すること」を心がけて、介護者が、どれだけ当事者のことを大切に思っているかきちんと伝えるのが良いでしょう。
薬の副作用で妄想が強くなる?
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もう一つご紹介したいのが、認知症薬の副作用で妄想が強くなるケースもあるということです。
「アリセプト」という薬は、アルツハイマー型認知症の初期から中期に、認知症の進行を遅らせることができると言われています。
しかし、副作用として吐き気、嘔吐、食欲不振、下痢、興奮などの症状や、せん妄などが引き起こされる可能性があります。
あまりにも妄想が強くなって困るようでしたら、主治医の方と相談してみましょう。
皆様もご存じの通り、日本では少子高齢化の影響で、高齢者の数が増加しています。少子高齢化に伴って、認知症の患者数も急増しています。認知症は自分だけでなく、家族など周りの人も巻き込んでしまう病気です。そのため、「認知症になってしまったら[…]
認知症による物盗られ妄想の対応のまとめ
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ここまで認知症による物盗られ妄想について詳しくお伝えしてきました。
以下まとめです。
- 認知症による物盗られ妄想の原因は認知機能の低下や薬の副作用によることが多い
- 認知症による物盗られ妄想の対応策は、「否定せず本人に寄り添うこと」「本人の立場や感情に注目すること」「一人で抱え込まないこと」が大切
- 物盗られ妄想以外の妄想は、見捨てられ妄想、幻覚・見間違い、嫉妬妄想、対人関係の妄想など
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。