前頭側頭型認知症は、他の認知症と異なり認知機能や判断力にはあまり影響が出ません。
発症年齢や初期段階の症状など、その他の情報が診断基準とされます。
知らない間に症状が進行していたという方も多いのではないでしょうか?
本記事では、前頭側頭型認知症の診断基準について以下の点を中心に解説します。
- 前頭側頭型認知症の診断基準
- 前頭側頭型認知症の検査
- 前頭側頭型認知症の誤診の可能性
- 前頭側頭型認知症の特徴的な症状
誤診を防ぐためにも、ご参考いただけますと幸いです。
ぜひ本記事を最後までお読みください。
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前頭側頭型認知症の診断基準
前頭側頭型認知症の診断基準について解説します。
発症の過程
前頭側頭型認知症は、65歳未満の非高齢者の発症率が高いことが特徴です。
たとえば、55歳前後の働き盛りで発症するケースが多いです。
中には、40代で発症する方もいます。
64歳未満の認知症は「若年性認知症」と呼ばれます。
東京都健康長寿医療センター研究所が2018年に行った「わが国の若年性認知症の有病率と有病者数」という調査によると、前頭側頭型認知症は、若年性認知症の9.4%を占めています。
発症後の進行過程は初期・中期・後期の3段階あり、それぞれあらわれる症状が異なります。
【初期段階】
- 無気力・無関心
- 感情のまひ・共感や感情移入の低下
- 食嗜好の変化
- 社会性の欠如・脱抑制
【中期段階】
- 同じ行動を繰り返す
- 特定の時間に特定の手順で行動する
【後期段階】
- 無気力・無関心(初期段階より著しい)
- 寝たきり状態
もし上記のような順番で異常が見られた場合、前頭側頭型認知症の可能性が高いです。
前頭側頭型認知症は、10年ほどかけてゆっくり進行するのが一般的です。
発症後の余命は平均6~11年です。
また、前頭側頭型認知症はしばしばALS(筋萎縮性側索硬化症)を併発し、その場合、寿命は3~5年とさらに短くなる傾向があります。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは脳の運動神経が障害を受ける病気で、呼吸器・循環器を含む全身の筋力が低下します。
出典:東京都健康長寿医療センター研究所「わが国の若年性認知症の有病率と有病者数」
典型的な症状
前頭側頭型認知症の診断基準として、以下の6つの症状があります。
- 脱抑制
- 無気力・無関心
- 共感や感情移入の欠如
- 常同的または強迫的な行動
- 口唇傾向と食習慣の変化
- 特徴的な認知機能障害
特徴的な認知機能障害とは、記憶と視空間認知は保たれ、遂行機能に障害がある状態です。
6つの診断基準のうち、3つ以上該当すると前頭側頭型認知症の可能性が高いです。
前頭側頭型認知症の診断では、「記憶障害」や「認知機能障害」は比較的重視されません。
かわりに重視されるのが、人格・行動・嗜好などの変容です。
人格の変貌や、食べ物の好みの変化は、発症後比較的早い段階であらわれます。
穏やかだった人に乱暴な言動が目立つようになったり、甘いものを食べすぎたりする場合は要注意です。
また、上記の診断基準には含まれませんが、言語障害も典型的な前頭側頭型認知症の初期症状です。
はじめは言葉が詰まる程度ですが、次第に言葉の意味を理解したり、文章を組み立てたりするのが困難になります。
中期段階には、同じ動作・行動にこだわる傾向が強くなります。
「1つのものを食べ続ける」「決まった時間に食事・散歩をしないと苛立つ」などが挙げられます。
症状の段階を問わず、人格・行動・言語力の変容が、前頭側頭型認知症の重要な診断基準とされています。
脳の損傷の有無
客観的な診断基準としては、脳の損傷の有無があります。
前頭側頭型認知症は、脳の中でも前頭葉と側頭葉が著しく損傷するのが特徴です。
前頭葉は「人格」や「社会性」を司り、側頭葉は「記憶」や「聴覚」を制御する器官です。
前頭側頭型認知症の特徴的な症状である「社会性の欠如」や「脱抑制」は、前頭葉と側頭葉が障害を受けるために発生します。
前頭葉と側頭葉の萎縮は、タウタンパク質やTDP-43などの異常タンパク質の蓄積が原因です。
蓄積した異常タンパク質は脳の神経細胞を破壊し、結果として前頭葉の萎縮を引き起こします。
アルツハイマー型認知症は脳の後部にある「海馬」の萎縮が原因です。
同じ脳の損傷が原因であっても、前頭側頭型認知症とアルツハイマー型認知症では、脳の損傷部位が異なります。
脳画像検査で、脳の前頭部分に損傷が見られた場合は、前頭側頭型認知症と診断されます。
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前頭側頭型認知症の検査
前頭側頭型認知症の疑いが強い場合は、脳の画像検査を行います。
前頭側頭型認知症の検査方法は、主に以下の3つです。
CT検査
CT検査は、レントゲンと高度なコンピュータ解析を組み合わせた検査方法です。
頭部にX線を照射し、通過した線量を読み取ることで、脳の内部を撮影できます。
CT検査では、脳の横断面の画像を断層状に撮影できます。
イメージしやすく言い換えると、脳をいくつも輪切りにした画像が撮影できます。
CT検査で前頭部に萎縮が認められた場合、前頭側頭型認知症と診断されます。
CT検査は一度に広範囲の画像を撮影できるため、検査時間は10~15分と短いのが特徴です。
1mm以下の小さな腫瘍を発見できるのも、CT検査のメリットです。
一方で、骨以外の部分は黒く沈んで見えるため、病巣と正常組織の判別が難しいという側面もあります。
MRI検査
MRI検査は、磁場を利用し、体内の元素の動きを検出・分析することで、脳の内部を撮影する方法です。
イメージしやすく言うと、大きな磁石の中に入り、体内にもともとある磁石の動きを検出する方法です。
体内の磁石の動きを高度なコンピューターで分析し、画像として見ることができます。
MRI検査では、CT検査と同じく、脳の輪切り画像が撮影できます。
ただし、CT検査が横断面のみであるのに対し、MRIでは任意の場所や角度で断面画像を撮影できます。
MRIは脳の内部をより詳細に撮影できるため、脳の萎縮の程度や病巣の部位を特定しやすいのがメリットです。
CT検査よりも詳細に、前頭葉と側頭葉の萎縮具合を把握できます。
1回あたりの検査時間は20分~40分程度です。
また、磁力を利用するため、ペースメーカーなどの体内金属がある方には向きません。
PET検査
PET検査は、薬剤を認知症の方に投与し、その薬剤の体内での動きを検出して、脳内部を撮影する方法です。
臓器や脳の糖代謝の様子を観察できます。
糖代謝が著しく低下している部位では、血流の悪化による萎縮が考えられます。
すなわち、前頭葉と側頭葉での糖代謝の低下が認められれば、前頭側頭型認知症の可能性が高くなります。
認知症検査の場合は、CTと組み合わせた「PET-CT検査」を用いることが一般的です。
脳の糖代謝と、脳の断面図を併用することで、脳内部をより詳細に把握できます。
PET検査は、断面図を撮影するCTやMRIと異なり、脳全体を俯瞰して観察するため思わぬ病巣を発見しやすいのが特徴です。
また、ごく小さな異常も見逃さない点も、大きなメリットです。
一方、検査の前に5時間の絶食時間を設けるほか、薬剤の投与から実際の検査まで1~2時間ほどの安静時間があります。
実際の検査時間は30~60分程度ですが、総合で見ると、検査に半日以上費やすことになります。
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前頭側頭型認知症が誤診されやすい理由
前頭側頭型認知症は、うつ病などの精神病と誤診されやすい病気です。
理由として、発症の初期段階では人格変貌が目立つことが挙げられます。
前頭側頭型認知症は、軽微であれば認知機能に大きな支障はあらわれません。
一部「言語障害」が出ることもありますが、発話自体は流暢にできるため、認知症を疑うことは稀です。
代わりに初期段階で目立つのが、性格や趣味・嗜好の変化です。
無気力・無関心の症状も初期からあらわれるため、脳より「心」の病気を疑うケースが多くあります。
また、前頭側頭型認知症は、発症年齢が比較的若い点も、発見を見落とす原因です。
60歳未満の働き盛りの方で、しかも認知機能に問題がなければ、やはり認知症を思い浮かべることは少ないでしょう。
精神科等の病院で受診しても、うつ病などと誤診されやすい傾向があります。
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前頭側頭型認知症の症状
前頭側頭型認知症の特徴的な症状を解説します。
一見認知症とは関係ない症状に思われがちですが、前頭側頭型認知症の重要な診断基準となります。
社会性の欠如
周囲への関心や遠慮が失われ、他人の目に無頓着になります。
自分を顧みなくなるほか、反社会的な言動が増えるのが特徴です。
- 身だしなみに気を使わない
- 万引き
- 信号無視
- 会話中や診察中にふいに立ち去る
抑制が効かない
脱抑制と呼ばれています。
理性のブレーキが利かず、欲望や本能のままに行動する症状です。
- 相手への遠慮がなくなる
- セクハラ・痴漢などの性的逸脱行為
- カッときて暴力をふるう
- 度を越した悪ふざけ
同じことを繰り返す
常同行動と呼ばれます。
具体的に、以下のような行動が見られます。
- 決まった時間に決まった行動
- 1つの料理を作り続ける
- 同じものしか食べなくなる
- 電気を点ける・消すという動作をずっと繰り返す
- ずっと手をたたき続ける
- 相手の言葉をそのまま繰り返す
- 相手の動作をまねる
感情の鈍化
感情が鈍くなり、人や物事への関心を持てなくなります。
共感・感情移入が困難になるのも特徴です。
- 感情の起伏が少なくなる
- 病気やケガの家族を気遣えない
前頭側頭型認知症とピック病の違い
前頭側頭型認知症とよく似た病気に、「ピック病」があります。
「ピック病」は、前頭側頭型認知症の1種と位置づけられています。
ピック病も前頭側頭型認知症も、原因は異常タンパク質の蓄積による前頭葉・側頭葉の萎縮です。
症状もよく似ており、発症後は、人格障害や社会性の欠如などがみられます。
ピック病と前頭側頭型認知症の違いは、蓄積する物質です。
前頭側頭型認知症は、脳内にTDP-43という異常タンパク質が蓄積します。
一方ピック病では、タウタンパク質という物質が一塊になったピック球が蓄積します。
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前頭側頭型認知症の診断基準のまとめ
ここまで、前頭側頭型認知症の診断基準についてお伝えしてきました。
要点を以下にまとめます。
- 前頭側頭型認知症の診断基準は、「特有症状の有無」「脳の損傷」など
- 前頭側頭型認知症の検査は、「CT」「MRI」「PET」など
- 前頭側頭型認知症は、うつ病などの精神病と誤診されやすい
- 前頭側頭型認知症の主な症状は「脱抑制・社会性の欠如」「常同行動」など
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。