認知症を発症することにより、生じる恐れのある時間感覚のずれ。
時間感覚のずれが生じることにより、日常生活にさまざまな支障をきたす可能性がありますが、どのような原因や影響があるのでしょうか?
今回は、認知症による時間感覚のずれについてご紹介したうえで、その特徴や対策方法についてもご紹介します。
- 時間感覚のずれを引き起こす原因となる中核症状
- 季節感のずれが生じるとどうなるのか
- 見当識障害による時間感覚のずれはいつごろからみられるのか
認知症による時間感覚のずれを対策する参考にしていただけたら幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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認知症の方の時間感覚がずれる原因
認知症によって生じる症状はさまざまですが、その中の一つに時間感覚が失われるという症状がみられることがあります。
時間感覚のずれは、主に認知機能の低下から引き起こされる中核症状が影響しています。
以下では、なぜ認知症の方は時間感覚が失われるのか、その原因について説明します。
記憶障害
記憶障害は認知症の中核症状の一つです。
記憶には、情報や知識を覚えるための「記銘」、それを保存しておく「保持」、必要な時に記憶を引き出す「想起」といった機能があります。
記憶障害とは、これら記憶に関する機能が障害を受け、体験したことや覚えたことを忘れてしまう症状のことを指します。
また、記憶は時間軸で分けることもでき、直近の出来事を留めておく「短期記憶」、過去の記憶を留めておく「長期記憶」があります。
時間感覚のずれが生じるのは、これら記憶障害も原因の一つです。
たとえば、いつ、どこで、何をしたかという記憶が曖昧になれば、日常生活に影響を与えてしまう恐れがあります。
よくある例として、内服の管理で薬を飲むべき時間がわからなくなってしまうため、お薬カレンダーを利用するというケースがあります。
見当識障害
時間感覚のずれが生じる最大の要因としては見当識障害による影響が考えられます。
見当識障害も認知症の中核症状の一つです。
見当識とは、時間、場所、人に関する情報を認識する能力のことを指します。
見当識障害では、情報の認識をつかさどる脳の部位が障害を受けることで時間、場所、人のことがわからなくなってしまうといったことが起こります。
つまり、時間に関する見当識が障害を受けてしまった場合、時間感覚にずれが生じることになります。
今が何時なのか、朝なのか夕方なのか、もっと大きな単位でいえば季節感にもずれが生じますので、夏なのか冬なのかわからないといったケースも起こりかねません。
見当識障害の発症は、記憶障害や判断力障害が背景にあると考えられており、脳内にある情報の保持や選択ができなくなることが見当識障害につながります。
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時間感覚がずれるとどうなるの?
時間感覚のずれは日常生活に大きな支障をきたす恐れがあるほか、介護者にかかる負担が増えてしまう場合もあります。
そのため時間感覚のずれはどのような症状や行動を引き起こすのか、認知症介護を行ううえで知っておくことが重要です。
以下、認知症による時間感覚のずれが生じた場合にみられる症状や行動について説明します。
昼夜逆転
昼夜逆転は見当識障害の影響によりみられる時間感覚のずれです。
見当識障害では時間に関する見当識が低下してしまうため、今が朝なのか夜なのかがわからなくなることがあります。
深夜に突然起きて行動し始めたり、日中に寝てしまったりするような様子がみられることもあります。
介護者としては夜間に起こされ面倒を見なければならないなど負担が大きくなります。
季節感のずれ
季節感のずれも見当識障害がもたらす時間感覚への影響の一つです。
症状が進行することで、季節感に対する感覚が失われるケースもあります。
夏なのに冬用のコートで厚着をしたり、毛布をかけて寝ようとしたりすることもあります。
もしこのような行動がみられた場合、気をつけなければならないのは脱水症や熱中症です。
見当識障害が生じている場合には、このような時間感覚のずれが体調不良につながらないように注意して見守らなければなりません。
不安や焦燥感
記憶を喪失してしまったり、時間がわからなくなったりすることで本人は不安や焦燥感を感じてしまいます。
何か約束をしたのに内容が思い出せないうえに、今が何時なのかもわからないといった心理状況が生まれると余計マイナスな感情が発生してしまう恐れがあります。
時間がわからないということは、誰にとっても不安を抱いてしまうことです。
介護者としては、本人に寄り添いながら不安を取り除いてあげられるよう関わっていく必要があります。
認知症の方の時間感覚のずれはいつ出るの?
認知症の影響による時間感覚のずれは、認知症初期からみられるようになります。
特にアルツハイマー型認知症の場合、初期症状で記憶障害や見当識障害が生じます。
見当識に障害が現れ始めるのは基本的に時間、場所、人の順です。
そのため、認知症初期から時間感覚のずれが生じるようになり、人によっては予定通りに日常生活を送ることが困難になる場合もあります。
このように認知症による時間感覚のずれに対しての対策は、認知症初期から行う必要があります。
時間感覚がずれた時の対応法
認知症により、記憶障害や見当識障害が生じてしまった場合、治療をしても障害を受けた脳機能を完全に回復させることはできません。
そのため、日常生活に支障が出ないような環境整備が大切です。
時間感覚にずれが生じている場合も同様です。
具体的には、時計をデジタルなものにし、目につきやすい場所に配置することなどが有効です。
また、カレンダーに印を付けて今日が何日なのかをわかりやすくすることで、日付に対しての混乱を軽減できます。
そのほか、季節感にずれが生じている場合には、季節に適さない服装をしてしまうことがあります。
季節に合わない服装は体調不良を引き起こす可能性もありますので、衣服の管理も忘れてはならない対応です。
その他のリハビリ法は?
先述した対処法のほか、言葉のやりとりによって行うリハビリ法があります。
リアリティ・オリエンテーション(現実見当識訓練)という方法です。
形式や対象者、効果について解説していきます。
リハビリ法の形式は?
リアリティ・オリエンテーションには、以下の2つの形式があります。
- 24時間リアリティ・オリエンテーション
- クラスルームリアリティ・オリエンテーション
それぞれ見ていきます。
【24時間リアリティ・オリエンテーション】
日常的な関わりにおいて、現実認識の機会を提供する方法です。
「自分は誰か」「今どこにいるのか」「今は何月何日の何時か」などのやりとりを行います。
着替えやトイレ、食事のケアの際に、
- 季節・天候
- 月日・曜日
- 時間
- 食事の内容・香り・味
- 身近にあるもの
- 起きているできごと
などを会話の中で上記の内容を取り入れ、意識してもらうようにします。
【クラスルームリアリティ・オリエンテーション】
少人数でのグループになり、名前や場所、時間などの基本的な情報を発表する方法です。
決められたプログラムで行い、スタッフが進行役になる場合もあります。
リハビリ法の対象者は?
リアリティ・オリエンテーションの対象者は、言語機能に障害がみられない方です。
長期記憶が明確で、部分的に短期記憶の障害がみられる方であれば対象となります。
リハビリ法の効果は?
リアリティ・オリエンテーションは、初期段階ではある程度有効であることが分かっています。
ただ、中等度以上の方への効果はまだ明らかになっていません。
見当識障害自体を改善するよりも、コミュニケーションのほうが大切です。
お互いによって生まれるコミュニケーションによって、リハビリの効果が変わってくるでしょう。
認知症の方の時間感覚についてのまとめ
ここまで認知症による時間感覚のずれが生じる原因や、その特徴・対策方法などを中心にお伝えしてきました。
- 時間感覚のずれを引き起こす原因となる中核症状は、記憶障害と見当識障害
- 季節感のずれが生じると、季節に適さない服を着てしまい体調不良を引き起こす可能性がある
- 見当識障害による時間感覚のずれは、見当識障害発症の初期からみられるようになる
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。