認知機能に問題はないのに異常な振る舞いがみられる場合は、前頭側頭型認知症またはピック病の可能性があります。
それでは両者の違いはどこにあるのでしょうか。
本記事では、前頭側頭型認知症とピック病についてそれぞれ解説します。
- 前頭側頭型認知症とピック病の症状と原因
- 前頭側頭型認知症とピック病の治癒の可能性
- 前頭側頭型認知症とピック病患者のケア方法
ぜひ本記事を最後までお読みください。
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前頭側頭型認知症とピック病の違いとは
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ピック病は、前頭葉と側頭葉の萎縮によって発症する病気です。
前頭側頭型認知症の一種に位置付けられています。
ピック病と前頭側頭型認知症はいずれも、異常たんぱくが蓄積することにより、前頭葉と側頭葉が萎縮します。
前頭葉は人格・社会性を司る器官で、側頭葉は言語機能を制御します。
そのため、前頭側頭型認知症もピック病も人格障害や言語障害などが主な症状です。
両者の異なる点は原因物質です。
前頭側頭型認知症ではタウ等の異常たんぱくが蓄積します。
一方ピック病ではピック球が蓄積します。
急速に加速する超高齢社会の中、前頭側頭型認知症の発症者数は1万2000人を超えています。 そうした前頭側頭型認知症は、指定難病の一つでありまだ解明されていない点が多数存在しています。そこで、今回の記事では、[…]
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前頭側頭型認知症とは
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前頭側頭型認知症は、四大認知症の一つです。
四大認知症の中で唯一指定難病に認定されています。
前頭側頭型認知症は、65歳未満の非高齢者の発症率が高いのが特徴です。
実際に65歳未満が発症する若年性認知症のうち、2番目に大きな割合を占めます。
症状
前頭側頭型認知症には行動障害型と言語障害型の2類型があります。
あらわれる症状は類型によって異なるものの、患者の中には両方の類型を併発する方も多くいます。
類型に関わらず、前頭側頭型認知症では記憶力、判断力は比較的維持されやすいのが特徴です。
さらにある程度認知症が進行しても、日常生活に支障をきたすほどの認知機能の低下は見られないこともあります。
一方で前頭側頭型認知症では他の認知症にはない、特有の症状があらわれます。
行動障害型と言語障害型に分けて、それぞれの特有症状を紹介します。
行動障害型の症状の特徴
前頭側頭型認知症の行動障害型では、主に人格・嗜好の変化が目立ちます。
初期段階では、無気力・無関心が起こります。
何事にも興味・関心・意欲がわかず、無断欠勤や怠慢が目に付くようになります。
同時に感情の起伏が少なくなり、周囲の人への共感や感情移入が低下します。
そのため、周囲からすると人が変わったように見えることがしばしばです。
人格の変化に加え、食べ物の好みが変化することも少なくありません。
また行動障害型の特徴的な症状と言えるのが社会性の欠如と脱抑制です。
周囲への無関心と同時に社会的な礼儀やマナーは失われ、自分の欲望や本能のままに行動しようとします。
たとえば万引き、痴漢行為などの犯罪行為にも平気で手を出すようになり、何を言われても本人は反省しません。
前頭側頭型認知症の中期段階に入ると、同じ動作・行動に強くこだわるようになります。
たとえば、同じ道順を延々と歩き続けたり、一つの食べ物をずっと食べ続けたりする行動があります。
常同行動、反復行動と呼ばれ、脱抑制などと並んで前頭側頭型認知症の特徴的な症状の一つに数えられます。
常同行動の一つである時刻表的行動が見られる方も多くいます。
時刻表的行動は毎日同じ時間に、同じ手順で、同じ物事をする行動です。
後期段階に入ると、前頭側頭型認知症はしばしばASL(筋力低下)を伴うため身体を自由に動かせず、寝たきりになる方も少なくありません。
【前頭側頭型認知症・行動障害型の主な症状】
- 無気力・無関心
- 感情の鈍化
- 食べ物の好みの変化
- 共感・感情移入の低下
- 社会性の欠如(会話中に立ち去る・身だしなみに気を使わないなど)
- 脱抑制・逸脱行為(暴力をふるう・万引きなどの犯罪行為)
- 常同行動・反復行動(電気を点ける・消すを繰り返すなど)
- 時刻表的行動(同じ時間に決まった手順の物事を行う)
言語型障害の症状の特徴
言語型障害では次第に言葉の意味を理解し、文章を組み立てることが困難になります。
初期段階であれば、物や人の名前が出てこないなどの物忘れ程度です。
あるいは、文字を読み間違うこともあります。
症状が進行すると言葉の意味を理解できなくなります。
代表的なのは相手の話す内容を理解できない症状です。
たとえば「ティッシュを取って」と言われてもティッシュが何なのか分かりません。
あるいは自分が話をするときに、言葉が見つからないこともあります。
同じく、言葉の意味を理解できないことが原因です。
このように、言葉を理解して話せなくなる症状を失語と呼びます。
言葉の意味を理解して文章を組み立てられないため、次第に発話が少なくなります。
重症化すると全く話をしなくなることもあります。
【前頭側頭型認知症・言語障害型の主な症状】
- 人や物の名前が出てこない
- 文字を読み間違える
- 失語(言葉の意味を理解できない)
- しゃべろうとしても言葉が見つからず、「あー」「うー」などと言う
- 声が出なくなる(構音障害)
前頭側頭型認知症とピック病の治療
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ここからは、前頭側頭型認知症とピック病に対するアプローチ方法について紹介します。
前頭側頭型認知症とピック病は治るの?
前頭側頭型認知症もピック病も完治は見込めません。
また、進行をゆるやかにする治療方法や薬も現在見つかっていません。
前頭側頭型認知症やピック病の治療は、症状の緩和に重きを置く対症療法が中心です。
暴力や犯罪などの逸脱行為が目立つ場合は、気分を落ち着かせる向精神薬などが用いられます。
どんなケアがいいの?
前頭側頭型認知症やピック病は、一つの行動に強くこだわる傾向があります。
本人のこだわりを無視すると、パニックや逆上の原因となりかねません。
そのため、ケアの際は本人のこだわりや意思を尊重するのがポイントです。
ルーチン療法
一日のスケジュールをルーチン化する方法です。
同じ時間に決まったことをする「常同行動」の習性を利用します。
「毎日何時に〇〇をする」と決めておけば、本人の行動を管理しやすくなります。
また、毎日のスケジュールを決めることで本人が予想外の行動をしにくくなります。
「ケガ」や「迷子」などのトラブルの予防にも有効です。
よく顔を合わせる相手・店に周知する
前頭側頭型認知症では、本人が突発的な暴力・社会性を無視した行動に出ることが少なくありません。
そのため、本人と頻繁に顔を合わせる相手にはあらかじめ認知症のことを伝えると無用なトラブルを避けやすくなります。
万引きする場合は、店にあらかじめ代金を多めに預けておくのも良い方法です。
家族だけで抱え込まず、他人を頼る
前頭側頭型認知症は多くの場合、本人に認知症だという自覚がありません。
そのため、介護する家族の負担はかなり大きくなります。
家族だけで頑張りすぎると、かえって介護する側が体力的・精神的に参ることもあります。
無理をせず、介護サービスや介護施設などを上手に利用するのが介護を長続きさせるポイントです。
高齢者もピック病を発症する?
ピック病の一般的な発症年齢は、40代~60代と比較的若い年齢で発症します。
65歳未満の非高齢者の発症率が高いですが、65歳以降の高齢者でも発症する可能性は十分あります。
指定難病の医療費助成制度
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指定難病に登録されている患者は、医療費助成制度を利用することができます。
ここでは指定難病医療費を受けるための方法、条件について紹介します。
指定難病医療費制度とは
指定難病医療費制度とは、国が指定難病の方の医療費等の一部を助成する制度のことです。
指定難病の患者数は少なく、治療法が確立されていないことが多いです。
そのため、難病の方とご家族には経済的な負担が多くかかってしまいます。
ご家族の経済的な負担を減らすために、国が特定の難病を指定難病と定め、医療費助成制度を設けています。
医療費の助成は、各世帯の所得によって異なります。
1ヶ月の医療費の自己負担金額の上限が決められており、上限額を超えた部分は支払う必要がありません。
上限額を超えた場合に特定医療費として助成を受けとることができます。
指定難病医療費制度を受けるには
指定難病医療費制度を受けるには、まず指定難病であるという医師の診断が必要となります。
さらに重症度分類と呼ばれる病状が一定程度以上の場合に医療費助成の対象となります。
その後、都道府県・指定都市の窓口へ臨床調査個人票と必要書類を提出し申請します。
申請が認定されると医療費受給者証が交付され、医療費助成を受けられます。
前頭側頭型認知症とピック病のまとめ
ここまで、前頭側頭型認知症とピック病に関する事柄についてお伝えしてきました。
- 前頭側頭型認知症の主な症状は人格障害と言語障害
- 前頭側頭型認知症の原因は前頭葉と側頭葉の萎縮
- ピック病の原因と症状は、前頭側頭型認知症とほぼ同じだが、原因物質が異なる
- 前頭側頭型認知症とピック病の有効な治療方法はない
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。