認知症のパートナーが「嫉妬妄想」を起こすと、何の根拠もないのにその方のパートナーは不貞を疑われます。
嫉妬妄想は、パートナーに辛い思いをさせるだけではありません。
時に生活の破綻や暴力に発展することもあります。
本記事では、認知症による嫉妬妄想について以下の点を中心に解説します。
- 嫉妬妄想について
- 認知症による嫉妬妄想の対応方法
- 認知症が嫉妬妄想を引き起こす原因
- 嫉妬妄想を放置する危険性
ぜひ最後までお読みください。
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嫉妬妄想とは
嫉妬妄想は、恋人や配偶者が、浮気していると思い込む症状です。
認知症の周辺症状の一つで、本人の性格や周囲の環境に起因して発症します。
嫉妬妄想が起こると、根拠がないにも関わらずパートナーが浮気していると確信します。
一度思い込むと、二度と思い込みを訂正できないのが嫉妬妄想の特徴です。
たとえパートナー本人が浮気を否定しても、疑いを捨てることはできません。
また、パートナーが少しでも異性と接触すると、「やっぱり浮気していたんだ!」とますます確信を強めることもあります。
たとえば、認知症の男性の自宅へ、宅配便スタッフが荷物を届けに来たとしましょう。
宅配便スタッフは男性で、妻が応対に出ます。
荷物を受け取る際に、世間話をすることもありますね。
たったそれだけで、認知症の夫は「あの男が浮気相手だ!」と信じ込んでしまいます。
嫉妬妄想に駆られた夫は、面と向かって妻の不貞を非難します。
あるいは、浮気相手と信じ込んだ宅配便スタッフに、非難が向かうこともあります。
さらに、近所の人や知人にパートナーの浮気を触れ回るケースもしばしば見られます。
覚えのない浮気を周囲に言いふらされたり非難されたりするのは、パートナーにとってとても辛いことです。
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認知症による嫉妬妄想の対応法
嫉妬妄想の原因が認知症だと分かっていても、たびたび浮気を疑われれば、パートナーには大きなストレスが溜まります。
また、知人や近隣の方に誤解されるのも、いたたまれないでしょう。
そこで、認知症による嫉妬妄想が現れたときの対応法について、解説します。
嫉妬妄想の対応法には、大きく分けて「家族でできること」と「病院を頼るべきこと」の2種類があります。
家族にできること
まず、家族内で取り組める対応法について、解説します。
不安を取り除く
嫉妬妄想の原因は、多くの場合、認知症である自分に対する不安です。
そのため、不安を取り除けば、嫉妬妄想は落ち着くことが一般的です。
認知症の方が抱く不安とは、認知症の自分は見捨てられるかもしれないというものです。
その不安を取り除くためには、あなたは大切な存在だと伝えることが大切です。
認知症の方が必要とされていると感じることができれば、不安は落ち着き、嫉妬妄想も現れにくくなります。
綿密なコミュニケーションを取ることで、不安感を与えないように心がけましょう。
【具体的な対応法】
- 介護に携わる時間を増やす
- 一緒に買い物や旅行に行く
- スキンシップを取る
- あいづちやアイコンタクトなどで、コミュニケーションを充実させる
- 簡単な家事などは思いきって任せる
気を紛らわせる
嫉妬妄想の兆候が現れたら他のことに気を逸らしましょう。
たとえばお茶やお菓子を出したり、全然違う話題を振ったりするのが効果的です。
認知症の方は、同時に複数のことを考えるのが苦手な場合があります。
そのため、他のことに注意が向くと、嫉妬していたことを忘れてしまうのです。
反対にしてはいけないことは、向けられる疑いを強く否定することです。
強い口調で否定すると、認知症の方は「本当は浮気しているからこんなに怒るんだ」と思い込む傾向が強いからです。
疑いを強めさせないためにも、嫉妬妄想自体には反応せず、上手に他のことに注意を逸らしてください。
【具体例】
- お茶やお菓子をすすめる
- 一緒にテレビを見る
- 全然違う話題を振る
距離を取る
嫉妬妄想があまりに激しいときは、一旦認知症の方と距離を取るのも良い方法です。
パートナーが目の前から消えると、認知症の方は嫉妬や怒りを忘れることがあるからです。
また、認知症の方と距離を取ることで、介護するパートナーの心理的負担を減らすこともできます。
お互いが冷静になれるまで少し距離を取るのは、とても大切なことです。
可能であれば、認知症の方と離れている間にケアマネージャーや医師にアドバイスを求めるのも良い方法の一つです。
効果的な対応策を見つけられるかもしれません。
【具体例】
- 部屋から出る
- ショートステイを利用し、一時的に認知症の方と会わない
浮気は認めない
浮気は強く否定してもいけませんが、肯定してもいけません。
嫉妬妄想に対応するうえで重要なのは、認知症の方を安心させることです。
もし浮気を認めてしまうと、認知症の方は深く傷つき混乱します。
混乱した結果、嫉妬妄想や認知症の症状がますます激しくなることもあり得ます。
よって、嫉妬妄想に対応するときは、認知症の方の本音に寄り添いながら柔軟に対応する必要があります。
病院でできること
家族だけでの対応に限界があるときは、遠慮なく病院を頼りましょう。
嫉妬妄想は薬物療法で収まることが多いです。
ただし、薬物療法は副作用のリスクもあります。
たとえば嫉妬妄想が収まると、一緒に感情や自発性も無くなるケースがあります。
薬物療法を用いるときは、症状の改善と副作用のバランスに気をつけましょう。
メマリー
メマリーは、アルツハイマー型認知症の治療に用いられる薬です。
気分を落ち着かせる作用があるため、「興奮」「攻撃性」「妄想」などの周辺症状の治療にも役立てられます。
メマリーは、嫉妬妄想に強い効果を発揮することが分かっています。
しかし、気分を落ち着かせる作用が強いため、用量などを間違うと意欲減退などの副作用が生じることがあります。
服用する際は症状や体調の変化を見守りつつ、適切な用量を守りましょう。
抑肝散
抑肝散は漢方薬の一種で、メマリーと併用されることもあります。
興奮や怒りをやわらげ、気持ちを落ち着かせる作用があります。
抑肝散も嫉妬妄想の鎮静に効果的な薬の一つです。
一方、意欲減退や抑うつなどを引き起こすこともあるため、適切な用量を守ることが大切です。
認知症が嫉妬妄想を引き起こす原因
前述したように、嫉妬妄想は認知症の周辺症状の一つです。
周辺症状は、本人の性格や周辺の環境に起因するものであり、認知症であれば必ず現れるというわけではありません。
つまり周辺症状があらわれるのには、認知症以外の理由があります。
周辺症状の中でも嫉妬妄想があらわれる理由は、認知症である自分に対する不安です。
認知症の方は、自身の認知機能の低下を自覚しています。
だんだんできないことが増えていく自分に不安や焦りを覚えています。
常に自分への不安を抱えている認知症の方にとって、介護してくれるパートナーはとても大きな存在です。
命綱ともいえるパートナーに対し、パートナー無しでは生きていけないという執着が強くなるのです。
一方で、自分に対する不安から、「こんな自分はパートナーに捨てられるかもしれない」という恐怖も抱いています。
結果、パートナーへの猜疑心が強くなり、浮気しているかもしれないと思うようになります。
認知症の方は、感情のコントロールが難しくなることが多いです。
そのため、一度芽吹いた不安をエスカレートさせやすく、「絶対に浮気している!」という妄想に取りつかれやすくなるのです。
嫉妬妄想はレビー小体型認知症に多い?
認知症の中でも、代表的なのは「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「血管性認知症」です。
嫉妬妄想は、とくに「レビー小体型認知症」の方によく現れる周辺症状です。
レビー小体型認知症では、記憶障害よりも幻視や誤認などの症状が目立ちます。
幻視は、現実には存在しないものを見る症状です。
たとえば、「妻の部屋に知らない男がいる」と訴えるケースがあります。
誤認は、現実を正しく認識できない症状です。
人間違いも多くなるため、嫉妬妄想を起こすことがあります。
嫉妬妄想以外の妄想症状
認知症による妄想は、嫉妬妄想以外にもいくつか種類があります。
物盗られ妄想
自分の大切なものを盗まれたと思い込む症状です。
たとえば「財布を盗まれた」と訴えるケースが代表的です。
物を失くした原因は多くの場合、自分が物を置き忘れたことです。
しかし認知症の方は、置き忘れたこと自体を忘れるために盗まれたと思い込みます。
物盗られ妄想は、認知症による妄想の中でも、出現率が高い症状です。
見捨てられ妄想
被害妄想の一種で、家族に見捨てられると思い込む症状です。
あるいは、家族が自分の悪口を言っていると思い込むケースもあります。
たとえば会話の輪に入れなかったり、1人で留守番を頼まれたりしたときに、現れやすいです。
見捨てられ妄想は、嫉妬妄想と同じように、認知症の自分は必要とされていないのではないかという不安の裏返しです。
嫉妬妄想を放置するとどうなる?
嫉妬妄想が激しくなると、介護する側は疲れてしまいます。
逐一相手をするのが面倒になり、無視したくなるのも仕方ありません。
しかし、嫉妬妄想は、放っておくと思わぬトラブルに発展することがあります。
暴力に発展する
嫉妬心が強すぎると、パートナーへの暴言や暴力に発展することがあります。
とくに認知症の方は感情の制御が効かないため、怒りが爆発しやすいので注意しましょう。
暴力や暴言は、パートナーだけでなく、浮気相手と信じ込んだ相手やその他の周囲に及ぶこともあります。
また、嫉妬のあまりイライラを抑えきれず、自傷行為に走ることもあります。
あるいは、自分の嫉妬心に耐えられなくなり、自殺を図る可能性もあります。
生活が破綻する
嫉妬妄想が強くなりすぎると、他のことに何も手につかなくなります。
常に「パートナーが浮気しているかもしれない」ということが頭の中を占め、日常生活が破綻してしまうことがあります。
浮気調査にお金を費やすケースも多く、金銭的に生活が苦しくなることもあります。
精神科に入院
嫉妬妄想は多くの場合、家族内での対応や外来での薬物療法で治療が可能です。
しかし、あまりに症状が重くなると、精神科に入院しなければならないこともあります。
望まない入院は本人だけでなく、家族にも精神的に辛いものがあります。
認知症による嫉妬妄想のまとめ
ここまで、認知症と嫉妬妄想に関する事柄についてお伝えしてきました。
要点を以下にまとめます。
- 嫉妬妄想とは、「パートナーが浮気している」などと根拠なく思い込むこと
- 認知症による嫉妬妄想の対応には「家族内の対応」や「薬物療法」がある
- 認知症が嫉妬妄想を引き起こす原因は、認知症である自分に対する不安
- 嫉妬妄想を放置すると、「暴力」「生活の破綻」「入院」に発展しやすい
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。