急速に加速する超高齢社会の中、前頭側頭型認知症の発症者数は1万2000人を超えています。
そうした前頭側頭型認知症は、指定難病の一つでありまだ解明されていない点が多数存在しています。
そこで、今回の記事では、前頭側頭型認知症に関して下記の点を中心にご説明します。
- 前頭側頭型認知症の症状は他の認知症とは異なるのか
- 前頭側頭型認知症はなぜ発症するのか
- 前頭側頭型認知症になるとどのような経過をたどるのか
- 前頭側頭型認知症の診断方法と治療法について
前頭側頭型認知症についての理解を深め、病気の早期発見などに役立てていただければ幸いです。
ぜひ、最後までお読みください。
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前頭側頭型認知症ってどんな症状なの?
前頭側頭型認知症とは「神経変性」による認知症の一つです。
「神経変性」とは、神経細胞の構造や機能が欠落することを言います。
神経変性による認知症は、脳の神経細胞が徐々に減り、本来は脳の一部にみられない細胞ができ、脳が萎縮することで発症することがわかっています。
特に、前頭側頭型認知症では脳の前方にある「前頭葉」や「側頭葉前方」の萎縮が見られます。
前頭葉とは「人格・社会性・言語」などの人間らしさをつかさどっている器官です。
また、側頭葉は「記憶・聴覚・言語」を主につかさどっています。
アルツハイマー病と比べて、前頭側頭型認知症は人格の変化、繰り返し行動、言語機能への障害などが目立ちます。
なお、他の認知症の中心的な症状である記憶への影響や幻覚や妄想などの症状はほとんどありません。
したがって、他の疾患と間違えることが多く前頭側頭型認知症だと気づくまでに時間がかかることがあります。
また、発症年齢は65歳未満の若年層に多く、平均発症年齢は55歳くらいといわれています。
比較的働き盛りの年齢であるため、家庭や仕事に大きな影響を与えます。
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前頭側頭型認知症の原因は?
前頭側頭型認知症は脳の前方にある前頭葉や側頭葉が萎縮することによって障害が起きます。
最近の研究では脳の神経細胞の中にある「タウ蛋白質(たんぱくしつ)」および「TDP-43」という病的タンパク質が関与しているとされています。
これらのタンパク質の性質が変化して蓄積されることで、前頭葉や側頭葉に萎縮が起こります。
また「TDP-43」は筋肉が衰える難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の原因でもあります。
「TDP-43」が脳と脊髄の両方に蓄積することで、前頭側頭型認知症の方の一部がALSを併発します。
しかし、なぜそのような病的タンパク質の蓄積が起きるのかという原因解明まではわかりません。
前頭側頭型認知症の経過は?
次は前頭側頭型認知症の経過について見てみましょう。
初期
初期段階では毎日決まった行動をするなどのこだわりが見られ、周囲への気遣いができなくなります。
また人格が変わったようになり、行動を制止されると暴力を振るったりします。
しかし、物忘れなどの記憶への影響が見られないため、日常生活は以前と変わらずに送れます。
中期
行動異常が目立つようになり、日常の動作において様々な能力の低下が出てきます。
意欲の低下が見られるため、初期段階で現れやすい暴力行為や配慮にかけた行動は起こりにくくなります。
また、言葉の使用や理解が次第に難しくなり、声を出すことが難しくなります。
後期
後期になると個人によって病気の進行に大きな差が出てきます。
日常生活における食事の管理や金銭管理等、会話が困難になります。
したがって、自宅で一人で過ごすことは難しくなると考えられます。
最終的には寝たきりの状態になり、感染症などが原因で亡くなる方がいます。
前頭側頭型認知症の寿命は?
発症後平均6年から9年で寝たきりの状態になり、病状によっておおよそ8年前後で亡くなる方が多いとされています。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの運動ニューロン疾患を併発すると進行速度が著しく早まる場合があります。
もし前頭側頭型認知症かもと思ったら?
まずかかりつけの医師に相談し、必要であれば認知症専門医に紹介状を書いてもらいましょう。
かかりつけ医がいない場合には、近くの病院の物忘れ外来、認知症外来、精神科、脳神経外科などを受診をします。
前頭側頭型認知症の診断方法は?
前頭側頭型認知症の診断はどのようにされるのか見てみましょう。
問診
本人に家族が付き添う形で、認知症の専門医を受診します。
医師からは現在の症状やこれまでの経過、服用している薬、他の疾患、家族歴などが聞かれます。
本人の普段の生活をよく知っている人が付き添って受診し、あらかじめメモなどを準備しておくと診断の手がかりになります。
病院では似た症状を起こす病気と区別するため、内科での診察と血液検査などを行います。
そして、さらに詳しい原因を調べるために様々な検査を行い総合的に診断します。
認知機能検査
前頭葉や側頭葉の働きを調べるテストを行います。
一般的にはミニメンタルステート検査や改訂長谷川式簡易機能評価スケールがよく用いられます。
これらは設問形式で10分程度で多領域の認知機能を評価できます。
注意機能、集中力、記憶、言語、計算、見当識などについて確認できます。
また、症状に合わせて他にも多くの検査方法があります。
言語機能検査
「聴く」「話す」「読む」「書く」「計算」について検査を行います。
例えば「話す」の項目では絵を見てその名前を答えたり、動物の名前を列挙したりします。
さらに、漢字やカナ文字の音読なども行います。
また、言語機能面だけでなくコミュニケーションについても検査します。
実際の生活用品を用い、日常のコミュニケーション場面を想定して課題を出します。
MRI検査
超電磁力が埋め込まれた機械に体を入れて、磁石による磁場と電波によって体の内部の情報を調べます。
20分ほど横になった状態で、検査が進みます。
この検査により脳の断面や血管の状態を画像化し、脳の萎縮などを確認します。
脳血流SPECT
SPECT(スペクト)検査では、カメラが体の周りを回って撮影し、人体臓器の機能情報を画像から判定します。
前頭側頭型認知症の場合、SPECT検査の中の脳血流シンチグラフィという検査を行います。
薬剤を注射し撮影を30分ほど行い、脳全体の血流が保たれているかを観察します。
前頭側頭型認知症の治療法は?
次に治療法についてご紹介します。
根本的治療法
前頭側頭型認知症には現時点では根本的な治療法は見つかっていません。
また、アルツハイマー病認知症のように進行を遅らせる治療薬もありません。
そのため、症状を緩和するケアが治療の中心です。
精神的軽減
精神安定には薬物療法を用いることがあります。
SSRIは精神安定を図る神経伝達物質であるセロトニンの働きを強め、うつや不安を改善するための薬です。
しかし、この薬で繰り返し行動などがなくなるわけではなく、少し和らぐ程度です。
一方、SSRIなどの薬を利用することは本人だけでなく、介護をする人の精神的な負担を軽減するためにも有用です。
言語訓練
前頭側頭型認知症はアルツハイマー病に比べて、言語機能に強く障害が出ます。
そのため言語訓練において呼吸や発声の練習、発話練習を行います。
また、言葉を思い浮かべて発話をする練習もします。
言葉を発することが難しくなると、ジェスチャーや文字などの言葉以外の手段を取り入れた練習も行います。
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前頭側頭型認知症になったら?
万が一、前頭側頭型認知症になってしまったらどうすればよいのでしょうか?
今回は本人と家族という視点に分けてそれぞれ紹介します。
本人
普段の生活において自分の行動に違和感や不安を感じたら、かかりつけ医の診察を受けるようにしましょう。
前頭側頭型認知症になると退職や運転の中止などの決断をしたり、治療方法の選択をしたりする場合があります。
意思決定が可能なうちに、治療の方針に関する本人の希望や、金銭管理等について明確に意思を伝えておくと良いでしょう。
これからの人生を有意義に生きていくために、自分の病気や周囲の支援を受け入れていくことが重要です。
家族
前頭側頭型認知症の患者さまは理性的な行動が取れなくなったり、人が変わったような行動を取ることが多くなります。
そのため、介護者にとってはケアの行き詰まりが起きやすく、悩むことも必然的に多くなります。
患者さまの人格や行動の変化は、脳の疾患によるものだと理解しましょう。
そうすることで、患者さまの行動を受け入れることができるようになります。
実際、前頭側頭型認知症の患者さまには残されている脳の機能がたくさんあります。
また、身体機能は比較的失われず、記憶にも障害が出にくいです。
トラブルを避けるためにも、よく立ち寄るお店や身近な人には病気のことを事前に説明し、相談しておきましょう。
そして、介護者が「介護疲れ」にならないように介護者自身の日常を大切にしましょう。
その際、介護者の負担を減らすために、社会的な援助や経済的な支援を積極的に受けることをお勧めします。
また、他の介護者に相談できるよう仲間を作ったり、市区町村の窓口等を確認し、悩みを抱え込まないようにしましょう。
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どんな支援が受けられるの?
前頭側頭型認知症の方はどんな支援が受けられるのか見てみましょう。
指定難病の医療費助成
2015年に前頭側頭型認知症は厚生労働省が定める難病に指定されました。
指定難病と診断され、重症度分類等に照らして一定の要件を満たした場合には医療費の助成が受けられます。
必要書類を都道府県・指定都市の窓口に申請すると、医療受給者証が発行されます。
医療受給書が発行されると、所得に合わせて自己負担額の上限が設定され、超えた部分については支払う必要がなくなります。
精神障害者保健福祉手帳の申請
前頭側頭型認知症と診断された場合には精神障害者福祉手帳が申請できます。
等級が1から3級まであり、税額計算上の控除を受けられたり、生活保護費の増額、各種公共料金の割引が受けられます。
市区町村の精神保健福祉に関する窓口が担当しているので相談しましょう。
介護保険サービスの利用
特定疾患として定められた病気によって介護が必要となった場合、要件を満たした方で40歳以上の人は介護保険サービスを利用することができます。
なお、介護保険サービスを利用する場合には要介護認定を受ける必要があります。
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前頭側頭型認知症まとめ
ここまで前頭側頭型認知症に関して症状や原因、病気の経過、社会的な援助などを中心にお伝えしてきました。
- 前頭側頭型認知症は記憶障害や幻覚、妄想の影響があまりない
- 前頭側頭型認知症は前頭葉と側頭葉が委縮することで発症する
- 症状は個別差はあるが、初期、中期、後期となるにつれて人格変化、行動異常、生活困難といった段階を踏む
- 前頭側頭型認知症の検査方法は問診、認知機能検査、言語機能検査、画像検査などを行う
- 受けることのできる支援は医療費助成や介護保険サービスなどがある
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。