「高齢者が高速道路に立ち入ってしまった」など、認知症の徘徊による危険行動が増えています。
日本の65歳以上の認知症有病者数は約600万人と言われており、約6人に1人程度は認知症有病者です。
したがって年々認知症の方の徘徊は増加しています。
ここでは認知症の人が徘徊してしまう原因や徘徊の危険性・対策方法について紹介します。
- 徘徊の概要
- 徘徊する原因について
- 徘徊における危険性と対処法について
- 徘徊に使えるグッズ
ぜひ最後までお読みいただき、徘徊対策の参考にしてください。
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認知症について
認知症には種類があります。
代表的な認知症が、「アルツハイマー型認知症」「前頭側頭型認知症」「レビー小体型認知症」「血管性認知症」の4つです。
この4つの認知症は4大認知症とも呼ばれ、全体の9割はこの4つの認知症に分けられます。
アルツハイマー型認知症
中でも「アルツハイマー型認知症」が特に発症する人が多くなっています。
「アルツハイマー型認知症」は、脳にたんぱく質が蓄積し、脳細胞の損傷・萎縮が起こることが原因です。
主な症状としては、物忘れ・見当識障害・実行機能障害・失行・失語などが挙げられます。
前頭側頭型認知症
「前頭側頭型認知症」は、脳の前頭葉や側頭葉にたんぱく質の塊ができ、萎縮が見られることが原因と言われています。
主な症状としては、理性が効かない状態や常同行動、失語、遂行機能障害が挙げられます。
レビー小体型認知症
「レビー小体型認知症」は、脳の神経細胞が減少することが原因とされ、アルツハイマー型認知症に続いて多い認知症です。
主な症状としては、幻視・妄想・パーキンソン症状・抑うつ症状・自律神経症状などが挙げられます。
血管性認知症
「血管性認知症」は、脳梗塞やくも膜下出血のような脳血管の病気が原因で、細胞が壊れることによって起こる認知症です。
主な症状として、記憶障害・認知機能障害・歩行障害・感情失禁・パーキンソン症状・夜間せん妄などが挙げられます。
しかし他の認知症と違い、記憶障害と認知機能障害は症状の出方に変動があるため、「まだら認知症」とも言われます。
認知症の症状の中でも、記憶障害や見当識障害を起こすことで、徘徊という行動に繋がります。
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徘徊による危険性
徘徊はただ高齢者がフラフラ歩いているだけと軽く考えることはできません。
家から距離のある位置で保護されることも多く、見つかるまでに時間を要することもあります。
行方不明になってから5日以上経過すると生存率が0%に近づくと言われています。
それほど徘徊は危険を伴っています。
ここでは徘徊による危険性を紹介します。
交通事故
徘徊をしているとき、本人は不安な気持ちでいっぱいで、周りの状況にまで気を配れていない場合が多く、道路に飛び出してしまうことがあります。
また自分の帰り道が分からず歩き回っている際に、誤って自動車専用道路に入ってしまう人も少なくありません。
徘徊中に交通事故にあうという事例も多くあります。
また、交通事故は本人が歩きの時とは限りません。
自転車や車での徘徊もあります。
その場合、本人だけではなく人を巻き込み交通事故を起こす可能性もあるのです。
怪我
足元がおぼつかない状態で外に出ることで、徘徊中に転倒しケガをする事もあります。
「階段から落ちた」「坂道を転がってしまった」などの骨折でもすれば、入院は免れないでしょう。
また山道や水辺の近くを歩いていることもあり、怪我する可能性は高いです。
熱中症
夏の暑い日の徘徊では熱中症の危険があります。
買い物や散歩などちょっとした理由で外出し、長時間歩き回ってしまった場合、熱中症対策をして出かけていることは少ないです。
また水分補給をする判断を自分でできないことや、季節の認識ができておらず厚着をしていることもあります。
低体温症
徘徊した季節が冬の場合、寒い中長時間歩き回った結果、体力を消耗してしまい低体温症になることもあります。
また薄着で家を出てしまったり靴を履かずに家を出ることもあり、長時間の徘徊でなくても、低体温症になる可能性があります。
事故や怪我はしていなくても、冬場は保護が遅れることで低体温症が死亡原因となりえます。
徘徊の原因
徘徊は本人の目的もなく不自然に歩き回ることです。
しかし本人には徘徊してしまう原因と理由があるのです。
ではどのような理由で歩き回ってしまうのでしょう。
徘徊をしてしまう原因を解説していきます。
道に迷った
家を出た後に記憶障害や見当識障害の症状が現れ、帰る道や自分の現在地、時間がわからなくなってしまうことがあります。
分からない道をひたすら歩き続けてしまい、目的地からかなり離れた場所で発見されることもあります。
また、外で起きることと思われそうですが、家の中でも迷って歩き続けることがあります。
トイレや部屋の位置がわからず歩き続けるなど、家の中でも迷ってしまうことを理解する必要があります。
目的が分からなくなった
自分がなぜ家を出たのか、目的がわからなくなり徘徊に繋がってしまうこともあります。
記憶障害によって起こるものです。
記憶障害は「今」を忘れてしまいます。
逆に過去の記憶は鮮明に覚えていることが多いです。
病院に来た、買い物に来た、デイサービスに来たといった、「今」の状況がわからなくなります。
本人としては、なぜ今この場にいるかを理解しようと歩き回っているだけです。
過去の習慣の再現
目的が分からなくなるのと同じで、本人は「今」を忘れていることがあるため、過去の記憶を現在のことのように認識してしまうことがあります。
例えば、過去に子どもが通っていた学校に、今は子どもが通っていないのにお迎えに行くことが挙げられます。
習慣化したことを行う際に考えなくても行動できるのと同じで、認知症であっても過去に習慣化されたことは、無意識に行動する場合があります。
引っ越し前の家に帰ってしまい、他人の家に入り不法侵入で通報されてしまったというケースもあるため、環境の変化にも気を付けなくてはいけません。
自分の居場所を探して
自分の家に知らない人がいたら怖いですよね?
認知症の方はその状況に陥っていることがあります。
見当識障害の症状が表れると、家族の顔も認識できなくなることがあります。
この不安な状況から抜け出すため、外に出てしまい徘徊に繋がります。
また老人ホームに入所している人では、施設の環境に慣れることができなかったり、不満があるという理由で外に出てしまうこともあります。
本人としては、自分が安心して生活できる環境を求めて行動した結果が徘徊になってしまったのでしょう。
徘徊が発生した時の対処法
徘徊が発生した時の対処法には以下の3つがあります。
- 警察に連絡する
- 無理に止めない
- 行動や言動を否定しない
それぞれの対応についてご紹介します。
警察に連絡する
徘徊が発生した時はためらわずすぐに警察へ連絡するようにしましょう。
通報時間が遅れると捜索範囲も広がり、発見する確率も低くなります。
認知症高齢者の徘徊には事故などに遭う危険性があります。
家族だけで探そうとしないで、地域との連携で対処することが大切です。
警察に通報すると共に、地域包括支援センターや担当ケアマネジャーにも連絡しましょう。
介護サービス事業所の経験や対策法、捜索のコツを活用することができます。
無理に止めない
徘徊を無理に止めることは賢明な対処の仕方ではありません。
徘徊を無理に止めたり、責めるような口調で注意したりしないことが大切です。
気持ちを逸らすため本人が落ち着くまで一緒に歩くなどの工夫も必要です。
気持ちが落ち着いてくると、自分から家に戻ることもあります。
行動や言動を否定しない
徘徊をするには本人なりの理由があるので、行動や言動を否定しないことも大切です。
家にいることで不安や焦りがつのり、徘徊につながることがあります。
幻覚などで恐怖を感じ外へ逃げようとしているかもしれません。
まずは本人の言葉に耳を傾けるようにしましょう。
徘徊による行方不明者数
2019年の警察に届けを出された徘徊での行方不明者の人数は、全国で年間約1万7千人と言われています。
2016年には約1万5千人、2017年では約1万6千人と、年々行方不明者数が増えていることが分かります。
身内がおらず、徘徊で行方不明になっていても届けが出されていない人も含めると、さらに多くなるでしょう。
行方不明になり保護されるまでの日数は、生存率に関わります。
徘徊し行方不明になってから5日以上経過すると生存率0%と言われ、早い段階での保護が重要と言えます。
行方不明時の場所と発見場所
認知症の徘徊によって行方不明になった人の行方不明時の場所と発見場所の割合を以下の表に示します。
【行方不明時の場所の割合】
行方不明時の場所 | 割合(%) |
自宅 | 52.6 |
通所型サービス事業所 | 2.2 |
入居型サービス事業所 | 4.2 |
病院 | 2.0 |
移動中 | 23.3 |
その他 | 15.7 |
出典:愛知県【認知症高齢者の徘徊の実態 (5)行方不明時の場所と気付いた人
【行方不明者の発見場所の割合】
行方不明者の発見場所 | 割合(%) |
自宅敷地内(1) | 11.4 |
自宅の付近よりは遠いが近所(2) | 12.3 |
(2)よりは遠いがおよそ普段移動する範囲(3) | 15.9 |
(3)よりは遠いが市町村内(4) | 22.0 |
(4)よりは遠いが県内(5) | 21.1 |
県外(6) | 2.4 |
不明(7) | 14.9 |
出典:愛知県【認知症高齢者の徘徊の実態 (8)行方不明高齢者の発見者と発見場所】
徘徊しないようにするには
徘徊してしまうのには原因があると紹介しましたが、この原因を全て取り除くことは難しいでしょう。
しかしなるべく徘徊しない方へ導くことはできます。
ここでは徘徊しないようにするための対策を紹介します。
趣味を見つける
趣味を見つけ集中して楽しむことは、認知症の人が持つ孤独感や不安感の軽減に繋がります。
何もやることなく過ごす毎日は1日が長く、考え込む時間が増えるため、マイナス思考になりがちです。
趣味に夢中になっている時間が増えれば、意識をそらすことができます。
適度な運動をさせる
運動は体を疲れさせ、夜自然な睡眠を促す良い方法です。
また運動をすることで気分転換にもなり、ストレス軽減にもつながります。
運動といっても無理をしない程度で大丈夫です。
軽いストレッチや散歩、ラジオ体操など、高齢者でも負担なく行える内容がいいでしょう。
生活リズムを整える
早寝早起きは生活リズムを整えるために大切なことです。
日中はしっかりと体を動かし、夜は疲れて寝れるというリズムを作ることで、昼夜逆転した生活や深夜の徘徊を防ぐことができます。
日中の活動として家事分担をし、役割を与えることで、自分の存在意義を認識するとともに良い運動にも繋がります。
デイサービスを利用する
家族が常に一緒に行動できるとは限りません。
症状が悪化し昼夜関係なく徘徊を行ってしまうとなれば、家族の負担は大きいものとなるでしょう。
その場合はプロの介護職員がいるデイサービスを利用し、家族も本人も気分を変えることは徘徊対策として有効です。
デイサービスでは施設スタッフや利用者との交流ができたり、レクリエーションも行う所もあるため、良い刺激になるでしょう。
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徘徊を止められない場合
徘徊しないように運動をしたり趣味を探すなどの予防をしたとしても、徘徊を完全に防ぐことができるとは限りません。
また家から出ないようにする、夜間徘徊をしないよう睡眠薬を使用するなどの対策を取られている家族の方もいるでしょう。
しかし、家から出れないストレスや薬の依存性、また効きの悪さが原因で、さらなる悩みを感じることもあります。
実は徘徊は無理に止めない方がうまく行くこともあります。
ここでは止めるのではなく、本人に寄り添った対策を紹介します。
一緒に外に出る
自分の思うとおりに歩くことで落ち着きを取り戻すこともあります。
やりたいことができないということは本人にとってストレスになります。
家族の人で時間に余裕があれば、一緒に外に出て自由に歩き回るのを見守って上げると良いでしょう。
一緒に季節を感じ会話を楽しむことは、脳への良い刺激になります。
また家族と本人のコミュニケーションにもなります。
安全な外出先を探す
安全に外出ができれば何の問題もないです。
安全な外出先があれば、本人は家に閉じこもってストレスをためることはありません。
認知症であることや徘徊をしてしまうということを、理解して受け入れてくれる場所を探しましょう。
また一緒に見守ってくれる地域住民や警察など、支援者を見つけておくのも大切です。
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徘徊に気づくためのグッズ
家族がどんなに細心の注意を払っても、徘徊を止められない時はあります。
徘徊したことに早い段階で見つけないと危険性が高まるため、本人が出て行ってなるべく早く気が付きたいものです。
このような時に便利なのが、様々なグッズです。
徘徊に困った時に活躍するグッズを紹介します。
ドアセンサー
ドアセンサーは玄関などのドアに設置することができるセンサーです。
ドアを開くことでアラーム音がなり、外に出たことを知らせてくれます。
家族が家事などで目を離している間や、夜間時にアラームで知らせてくれるのは非常に便利です。
ポケットGPS
何も言わずに外に出てしまい、どこに行ったかわからないと探す範囲も広く家族は困ってしまいます。
そのような時に便利なのがポケットGPSです。
本人が持ち歩くカバンやジャケットに入れておくことで、現在地が分かります。
小型な物も多いため、本人に気づかれずに入れておくこともできます。
名札
洋服自体に名札を縫い付けておくのも一つの手段です。
保護してもらったとしても、名前や住所を答えられる状況とは限りません。
名札には、名前・住所・連絡先を記入しておくと、見つけてくれた人に身元を確認してもらいやすくなります。
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認知症の徘徊についてのまとめ
- 徘徊によって交通事故や熱中症などの危険がある
- 徘徊の原因には道に迷うことや過去の習慣の再現などがある
- 徘徊の対処法として趣味の発見、適度な運動、また、一緒に外に出ることなどがある
- 徘徊の際に使えるグッズは、ドアセンサー、ポケットGPS、名札など
ここまで認知症における徘徊の原因や対処法を中心にお伝えしました。
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。