私たちは、食事をするとき、無意識に咀嚼しています。
咀嚼には、食べ物をかみ砕くこと以外にも、私たちの健康を守るためのさまざまな役割があります。
咀嚼の役割や重要性は、どのようなものなのでしょうか。
本記事では咀嚼について以下の点を中心にご紹介します。
- 咀嚼することの重要性
- 咀嚼不足による弊害
- 咀嚼と歯の関係
咀嚼について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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咀嚼とは
食べ物を噛むことで柔らかく小さくし、飲み込みやすい食塊にすることを咀嚼といいます。
一見、無意識に行われている行動ですが、咀嚼は以下のようなパーツが正常に機能していないとできない行動なのです。
- 歯
- 舌
- 唇
- 顎
- 頬
しかし、現代人は咀嚼力が弱くなっているといわれています。
例えば、弥生時代の人々は1回の食事で約4,000回も咀嚼していました。
食事内容が硬い木の実や穀物、肉類だったことから多く咀嚼されていました。
しかし、わずか100年前の江戸時代や戦前は、約1,500回まで落ちましたが、さらに現代では約600回という咀嚼数になっています。
咀嚼数が激減したことで、噛む力だけでなく、咀嚼を支えるパーツの衰えも顕著になっています。
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咀嚼の重要な役割
咀嚼は、毎食欠かさず行うものです。
ですが、意識しなければ自分が咀嚼していることすら忘れているかもしれません。
咀嚼には、以下のようなさまざまな役割があります。
詳しく説明していきましょう。
唾液分泌により消化を円滑化
咀嚼の役割は、食べ物を消化しやすくすることです。
消化器官である胃は、食べ物を溶かすことはできても、すりつぶすことはできません。
胃で消化するためには、歯でよくすりつぶし、食片の表面積を多くし、消化液がまんべんなく行き渡るようにする必要があります。
また、咀嚼には唾液を促すという働きもあります。
人間は、1日に1〜1.5リットルもの唾液を分泌するといわれています。
唾液には、消化酵素が含まれており、胃腸への負担を軽減する効果があります。
口腔内のトラブルの予防
咀嚼することで、唾液の分泌が活発化します。
唾液には、自浄作用があり、汚れが溜まって細菌が増殖することを防ぎます。
さらに、細菌を死滅させるための酵素が含まれており、
- 虫歯
- 歯周病
など、口腔トラブルを予防する役割があります。
がん予防
唾液に含まれる酵素「ペルオキシダーゼ」は、虫歯や歯周病を予防するだけではありません。
食べ物に含まれる発がん性物質が作り出す活性酸素を除去する働きがあることがわかってきました。
がん予防のためにも、咀嚼の必要性が高まっています。
脳を刺激する
咀嚼することは、顎を閉じるための筋肉をはじめ、頬、唇、舌などの筋肉が協調しなければなりません。
協調させる司令塔が脳です。
とくに大脳皮質が深く関係しています。
咀嚼によって、広い範囲の脳細胞が活性化させられるため、
- 脳の発達
- 脳の老化防止
などの効果があると考えられています。
また、咀嚼するときの筋肉は、強い力を発揮します。
この力は、頭蓋骨に伝わって脳の血流量を増加させるため、脳細胞の活性化にも重要な働きをしています。
嚥下しやすくする
咀嚼の次には嚥下、つまり飲み込むという作業があります。
嚥下するときに食べ物が大きくては、喉に詰まりとても危険です。
お正月になると、よく高齢者が餅をのどに詰まらせるという事故が頻発します。
この事故も、咀嚼力の衰えが原因です。
食べ物を細かくすり潰して、のどに詰まらせないようにするのも、咀嚼の重要な働きです。
ダイエット効果
咀嚼数が増える(たくさん噛む)と、脳の中の満腹中枢が活発になります。
満腹中枢は、満腹感を生じさせることで、食べ過ぎを予防します。
満腹感というのは胃で感じるのではなく、脳で感じています。
時間をかけて、よく噛んで食べることで、満腹感を長持ちさせることができます。
食べる量を減らしながらも、満足感を得ることができるので、ダイエット効果を期待できます。
また、しっかり咀嚼することで、食べ物が細かくなり、胃や腸での消化吸収が高まります。
消化吸収が活発になることに伴い、カロリーの消費量も増えます。
このように、咀嚼数を増やすことで、カロリー消費量を増やしながら食事ができるため、ダイエット効果を期待できます。
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咀嚼が不足するとどうなる?
十分に咀嚼せずに食事を続けていると、色々な弊害が起こります。
それぞれ詳しく説明していきましょう。
唾液の量が減る
咀嚼により、副交感神経が刺激され、唾液の分泌が促されます。
咀嚼が足りない場合、脳に指令が伝わりにくくなるため、唾液が出にくくなります。
唾液には、自浄作用や抗菌作用があり、口の中の雑菌を抑え、清潔に保つ働きがあります。
また、飲食によって酸性に傾いた口の中を中性にしようとする働きもあります。
咀嚼不足で唾液の量が減り、口の中の雑菌が増えることで、
- 口内炎
- 口臭
などの症状が生じやすくなります。
さらに、口の中が酸性に傾くことで虫歯にかかりやすくなってしまいます。
顎の筋肉が低下する
咀嚼するためには、顎の筋肉など、たくさんの筋肉の運動が必要になります。
咀嚼が足りなくなると、筋肉が使われなくなり、どんどん衰えていきます。
筋肉が衰えると、ますます「咀嚼しにくくなり噛まない」という悪循環に陥ってしまいます。
さらに、美容面にも影響がでます。
顎の筋肉が衰えることで、
- 顔のたるみ
- シワ
などの原因になり、口元が弛緩して年齢よりも老けた顔つきになってしまいます。
栄養バランスが崩れる
咀嚼不足、あるいは咀嚼したくてもできない状態では、どうしても柔らかいものばかりを選んでしまいます。
柔らかい食事は、煮たり、揚げたりと調理方法も限られてくるため、メニューや食材に偏りがでます。
揚げ物が多い食事では、カロリーが高く肥満の原因になります。
よく噛むことができなければ、食物繊維が十分に摂取できず、便秘になりやすくなります。
咀嚼の口腔機能トレーニング
とくに高齢者は、十分な咀嚼をしたくても筋力の衰えで上手に咀嚼できないという場合があります。
そのような場合には、トレーニングを継続して行うことが効果的です。
それぞれ詳しく説明していきましょう。
唇のトレーニング
唇の筋力を鍛えることで、
- 食べこぼしの防止
- 飲み込む力の維持
に、つながります。
トレーニング方法は、
- 思い切り口をすぼめ「ウー」という
- 広角を横に思い切り開いて「イー」という
これを何回か繰り返しましょう。
舌のトレーニング
舌のトレーニングは、唾液を出やすくして、食べ物を安全にのどの奥に運ぶために効果的です。
- 舌をできるだけ「べー」と前に出す
- 上唇を舌で持ち上げる
- 左右の口の端を舌先で触る
これを何回か繰り返しましょう。
また、デイサービスなどの介護施設では、食事の前に「パタカラ体操」を行っています。
パタカラ体操とは、舌の動きをよくするトレーニングです。
- 「パ」は唇をはじくようにする
- 「タ」は舌先を上の前歯に付けるようにする
- 「カ」は舌の奥を上顎の上に押し付けるようにする
- 「ラ」は舌を丸めるようにする
を意識しながらトレーニングしましょう。
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嚥下機能トレーニング
嚥下機能を高めるためには、呼吸が大切です。
深い呼吸をすることで、気管に食べ物が入ってしまう「誤嚥」も無くなります。
誤嚥は、食べ初めに最も起こりやすいです。
食事前に腹式呼吸し、落ち着いてから食事するように心がけましょう。
また、リラックスすることで、嚥下するときの筋肉運動をスムーズにします。
肩の力を抜いて、首をゆっくり前後左右に動かして、首筋を伸ばすようにします。
口のトレーニングは、頬をふくらませたり、へこませたりします。
舌のトレーニングは、思いきり出したり、ひっこめたりします。
これを毎日続けることで、嚥下に必要な筋肉が徐々に付き、誤嚥を防ぐことができます。
咀嚼をして食べる為に気を付けること
咀嚼して食べるために、気を付けることが以下のようにいくつかあります。
- ひと口30回以上噛む
- 歯ごたえのあるものを選ぶ
- ひと口30秒かけて咀嚼する
- 咀嚼中は箸を置く
まず、ひと口に30回以上噛むことを目標としましょう。
柔らかい食べ物では、すぐに溶けてなくなってしまいます。
できるだけ歯ごたえがある食材や調理法を選ぶようにしましょう。
また、ひと口30秒間で咀嚼することを目標としましょう。
よく噛んで食べるためには、ゆっくり食べることが大切です。
早食いが習慣になっている人は、ひと口入れたら一旦箸を置き、咀嚼に集中しましょう。
そのために、テレビや新聞、スマホを見ながらといった「ながら食い」は、控えましょう。
咀嚼には多くの歯が重要?
高齢になっても咀嚼を十分するためには、歯が大切です。
20本以上自分の歯があれば、食生活への満足度も高まります。
厚生労働省では、歯科疾患実態調査を5〜6年に1度行っています。
その結果は、年々保有する歯の数は増加傾向にあります。
しかし、年齢別に見たとき70歳以上になると、自分の歯が20本以下という方が多くなります。
どんな食べ物でも噛んで食べることができる、という高齢者が減ってきています。
歯が少ないと、柔らかいものが多い炭水化物の摂取量が多くなります。
また、硬いナッツ類などの摂取は、ほとんどできません。
そのため、
- ビタミンB2
- ビタミンK
- 葉酸
- パントテン酸
など、ビタミン系の栄養不足が目立ってきます。
高齢になり歯の数が減ると、咀嚼に障がいが起こり、栄養失調になるリスクが高まります。
若いうちから歯のケアを怠らず、定期的に歯医者で歯のメンテナンスをすることが大切です。
出典:厚生労働省【高齢者がよりよい食事をするために歯科医療にできること】
咀嚼音について
「パリパリ」「クチャクチャ」など人がモノを食べているときの音を咀嚼音と言います。
この咀嚼音が、近年、注目を集める動画コンテンツになっています。
ASMR
咀嚼音に限らず、雨の音、包丁でモノを切る音など、ある音にピンポイントで注目して、録音をし、映像とともに動画化したものが「ASMR動画」と呼ばれるものです。
例えば、「ASMR」という言葉で検索すると、クッキーを食べる音などが、クッキーの映像とともに配信されています。
動画コンテンツの1つのジャンルと言ってよいでしょう。
ASMRとは“Autonomous Sensory Meridian Response”の単語の頭文字をとったものです。
日本語では「自律感覚絶頂反応」と訳されています。
2010年に米国で誕生したジャンルで、日本では2018年頃に認知度が高まりました。
音に対するフェチ動画として、若い世代を中心に流行しています。
企業が商品のプロモーションとして、食べるときの音を録音して、映像とともに食感を音で訴求するという動きも出てきています。
「バイノーマル(立体音響)マイク」の技術で録音をすると、立体的に音を聞くことが可能になり、リアリティを高めることができます。
咀嚼音が嫌な人も
ダイバーシティ(多様性)というのは、聞こえ方や音への反応という面でもあてはまります。
誰にも苦手な音、不快な音があるかと思いますが、他人がモノを食べる音を嫌だと感じる人もいます。
不快に思うだけではなく、相手に対する怒りや憎しみの感情につながってしまう人もいます。
そういう人もいるということを理解し、配慮をすることが大事です。
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咀嚼のまとめ
ここでは、咀嚼について紹介してきました。
その要点を以下にまとめます。
- 咀嚼は「消化の円滑化」「口腔内のトラブル予防」「がん予防」「脳の活性化」「嚥下しやすくする」などの重要な役割を担う
- 咀嚼不足になると「唾液の減少」「顎の筋肉の低下」「栄養バランスの崩れ」のリスクが高まる
- 咀嚼には歯が欠かせないため、高齢になっても20本以上の歯を残すことが大切
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。