脳梗塞は脳の血管が詰まって起こる病気です。
脳梗塞のリハビリは、発症後の期間別に適切な内容を行うと効果が高いといわれています。
では、脳梗塞のリハビリとはどのようなものなのでしょうか?
本記事では、脳梗塞のリハビリについて以下の点を中心にご紹介します。
- 脳梗塞の種類と前兆
- 脳梗塞の後遺症に代表される症状
- リハビリの必要性と期間別で行う内容
脳梗塞のリハビリについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
脳梗塞の原因や症状について詳しく知りたい方は下記の記事を参考にしてください。
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脳梗塞とは
脳梗塞とは、脳の血管が詰まりさまざまな後遺症が表れる病気です。
脳は血管から酸素や栄養を与えられています。
血管が詰まると血液の流れが悪くなり、酸素や栄養が脳にいきわたらなくなります。
その結果、脳の神経細胞が死んでしまうのです。
脳梗塞は血管が詰まる場所や原因によって、以下に分けられます。
種類 | 症状 |
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また、脳梗塞の原因には病気や生活習慣などが関わっており、以下のようなものがあります。
【病気】
高血圧 | 糖尿病 |
脂質異常症(高コレステロール血症) | 心房細動などの心疾患 |
慢性腎臓病 | – |
【生活習慣】
肥満 | 運動不足 |
大量の飲酒 | 喫煙習慣 |
ストレス | 過剰な塩分摂取 |
食生活の欧米化 | – |
持病のある方は定期的に医療機関を受診し、適切に治療をしておきましょう。
また、生活習慣を見直し規則正しい生活を送ることが脳梗塞の予防には効果的です。
しかし、脳梗塞の予防をしていても脳梗塞を発症することはあります。
そのため、脳梗塞の前兆にはどのような症状があるかを知り、万一に備えて対処できるようにしておきましょう。
具体的には以下のような症状が表れたら脳梗塞の疑いがあります。
- 顔:片方が垂れ下がっている、ゆがみがある、笑顔になると片方の口が垂れ下がる
- 腕:目をつむって両手を肩の高さまで上げると、徐々に片腕が下がってくる
- 言葉:ろれつが回っていない、言葉が理解できない、話ができない
顔、腕、言葉の1つでも症状がある方のうち、およそ7割の方が脳卒中であるといわれています。
これらの症状の有無をご自身もしくは周囲の方が確認しましょう。
できるだけ早期に受診することが大切です。
治療が早いほど救命率や後遺症の軽症化が期待できます。
脳梗塞と認知症の関係について知りたい方は下記の記事を参考にしてください。
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脳梗塞の後遺症
脳梗塞を起こすと、さまざまな後遺症が発生します。
なぜなら、脳は部位により担当している役割が異なるからです。
例えば大脳にある前頭葉には、手や足を動かす命令を手足の筋肉に送る役割があります。
前頭葉に栄養を与える血管が詰まり、神経細胞が死んでしまうと、手足を思うように動かせない後遺症(運動麻痺)が発生するのです。
また、脳のどこの血管が詰まったかによって後遺症の種類が異なります。
代表的な後遺症として、神経障害、高次脳機能障害、精神障害などがあります。
ほかにも上記の運動麻痺をはじめ、失語症(思ったように話せない)や嚥下障害(飲み込みの障害)などさまざまな後遺症があります。
神経障害
神経障害には以下のような症状があります。
- 感覚障害:熱い・冷たいなどの感覚が鈍くなる、しびれを生じる、痛みに過敏になる、五感が鈍くなる
- 視野障害:見た物が二重に見える(複視)、視野の左右どちらかが見えなくなる(半盲)、視野の一部が欠けて見えなくなる(視野欠損)
高次脳機能障害
高次脳機能障害には以下のような症状があります。
- 記憶障害:ものごとを忘れる、新しいことが覚えられなくなる
- 注意障害:集中力が欠ける、あちこちに気が向いてしまう、二つのことを同時にできなくなる(計算しながら歩くなど)
- 遂行機能障害:自分で計画を立ててものごとをすすめられない(料理の手順がわからないなど)
- 社会的行動障害:欲求が抑えられない(欲しいと思ったらすぐ買ってしまうなど)、ささいなことに固執する
- 失行:物の使い方がわからなくなる(服が着られなくなるなど)
- 失認:道や方向がわからなくなる、物の形や大きさが認識できなくなる
精神障害
感情障害には以下のようなものがあります。
- うつ病:意欲がなくなり何もする気がなくなる、無為に過ごす
- 認知症:記憶障害が表れる、感情のコントロールが難しくなる(急に怒る・泣く)
リハビリの必要性
脳の神経細胞は、一度死んだら再生することはありません。
つまり、後遺症が完全に治るのは現実的ではないということです。
しかし脳には死んでしまった神経の代わりに、周りの神経が本来の機能を代行する働きがあります。
これを脳の可塑性(かそせい)といいます。
リハビリは、正しい運動や言語訓練などを行い脳を刺激することが大切です。
脳への刺激が可塑性を引き出し、後遺症の回復に役立ってくれるのです。
また、リハビリは廃用症候群の予防にも効果的です。
脳梗塞の発症後は、運動機能や意識レベルの低下が見られることがあります。
体の状態が良くないからと安静にしていると、
- 筋力などの運動機能
- 精神状態
に悪影響を及ぼします。
発症後早期から積極的にリハビリを行うことが大切です。
記憶障害のリハビリについて知りたい方は下記の記事を参考にしてください。
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期間別のリハビリ
脳梗塞のリハビリは3つの期間に分けて行います。
発症から3ヶ月頃までを急性期、3〜6ヶ月頃までを回復期、6ヶ月以降を維持期といいます。
時期を分けてリハビリを行う理由は、発症後の期間により期待できる効果や必要なリハビリの内容が異なるからです。
それぞれの期間で適切なリハビリを行い、効果を最大限に引き出すことが脳梗塞のリハビリには求められます。
急性期(発症~3ヶ月頃)
急性期のリハビリは以下のような効果を期待して行います。
- 機能の回復
- 身の回りの動作(立つ・歩く・食事・排泄・着替え・入浴など)の獲得
- 廃用症候群の予防
運動麻痺や言語障害などの機能障害に対して、回復させるリハビリを行います。
また、ベッドから起きる・立つ・歩くなど基本的な動作や、食事・排泄・着替え・入浴などの日常生活に関する動作の獲得を目指します。
いずれも社会復帰の第1歩として重要なリハビリです。
また、急性期のリハビリで特に重要なのは廃用症候群の予防です。
廃用症候群は、発症直後から安静にしすぎず早期にリハビリを行うことで予防できます。
急性期では意識レベルが低く、血圧や脈拍などのバイタルサインが不安定です。
しかし、寝たきりでいると低下した機能は廃用症候群によりさらに悪化してしまいます。
その結果、全身状態の悪化により二次的な合併症(肺炎や静脈血栓症など)を引き起こし、命の危険も生じます。
急性期では、廃用症候群を起こさずリハビリを進めていくことが最も重要といっても過言ではありません。
回復期(3ヶ月頃~6ヶ月頃)
回復期のリハビリは以下のような効果を期待して行います。
- 自宅で過ごすための機能・日常生活動作のさらなる改善
- 復職などのサポート
回復期は1日に行えるリハビリの時間が最も長く、集中的にリハビリを行える期間です。
自宅での生活に向け、具体的な体の動きや身の回りの動作の獲得を目指します。
また、退院後に復職を希望する場合はそのサポートもできる環境になっています。
意識レベルやバイタルサインも安定していることが多いです。
そのため、集中的にリハビリを行い効果的に回復をすることが期待できます。
しかし、脳の可塑性には限界があるため、麻痺した手足の回復にばかりとらわれてはいけません。
退院後の生活環境を見据え、麻痺していない側の手足を利用した生活の仕方なども練習していくことが求められます。
維持期(6ヶ月頃~)
維持期のリハビリは以下のような効果を期待して行います。
- 自宅や施設での生活を安定・継続させる
- 廃用症候群の予防
病院から退院すると、多くの人は自宅へ戻ることになります。
自宅へ戻るということは病院に比べて高い自由度を確保することができるということを意味しています。
しかし、自分らしい生活を実現するためには、問題が生じます。
また、住む環境や地域により解決する課題も異なります。
そのため、より生活に密着したリハビリが必要になります。
例えば、「友人と旅行に行きたい」などの希望に対して必要なリハビリを行うのが維持期です。
この場合、行き先までの移動手段や旅行先で必要な動作など、詳細を確認しながら行うことが重要です。
また、維持期は発症して6ヶ月以上が経過しているため、機能の劇的な回復は難しいといわれています。
そのため、廃用症候群を予防しつつ補助具や住宅改修などをうまく使いながら生活環境を整えることも重要です。
通所リハビリと訪問リハビリ
通所リハビリと訪問リハビリの違いについて解説します。
利用状況 | メリット | デメリット | |
通所 | 医療機関での外来リハと比較し、長時間施設に滞在する方が多い | 長時間の滞在によってさまざまなプログラムを受けられる。医療的なケアや介護を受けられる。家族の介護負担の軽減になる | 通所介護との差別化が難しく、どちらも似通ったサービス提供になっている |
訪問 | 全国的に受給者数・事業所数が増えている | 自宅で専門的なリハビリが受けられる。(実際に住んでいる環境での課題に直接リハビリができる) | 地域によってサービス提供が不十分 |
出典:厚生労働省「医療介護の連携(その3)」
いずれのサービスも、維持期のリハビリとして在宅生活の継続や機能の維持を目的とするところは同じです。
どちらのサービスがご自身に合うかは、利用者によって異なるでしょう。
それぞれの特徴を知り、適切なサービスを選択しましょう。
訪問リハビリについて知りたい方は下記の記事を参考にしてください。
脳梗塞のリハビリ費用
脳梗塞のリハビリ費用の目安についてご紹介します。
診療報酬から試算すると脳梗塞のリハビリ費用は約200万円になります。
ただし、以下の費用は含みません。
- ベッド代
- 薬代
- 食事代
脳梗塞のリハビリ費用200万円の試算内訳は以下の通りです。
【脳梗塞が対象の脳血管リハビリテーション料(Ⅰ)で回復期リハビリテーション病棟の場合】
- 診療報酬 245点(1単位20分)
- リハビリ単位 9単位/日
- 入院日数 90日
- 保険点数 10円/点
よって、診療報酬額は 9x90x245x10=1,984,500円と計算できます。
脳梗塞で3ヵ月200万円のリハビリ費用はかなりの高額といえます。
費用を抑えるために医療保険制度を利用することで負担を軽減することができます。
負担額は負担割合で以下のように変わります。
- 1割負担の場合 20万円
- 2割負担の場合 40万円
- 3割負担の場合 60万円
ただし、医療保険を用いる場合は以下の事に注意が必要です。
- 脳梗塞リハビリの場合、発症より180日以内の算定期限がある
- 算定期限(180日)を超えると実施できるリハビリ量に制限が出てくる
脳梗塞のリハビリ費用
脳梗塞のリハビリ費用の目安についてご紹介します。
診療報酬から試算すると脳梗塞のリハビリ費用は約200万円になります。
ただし、以下の費用は含みません。
- ベッド代
- 薬代
- 食事代
脳梗塞のリハビリ費用200万円の試算内訳は以下の通りです。
【脳梗塞が対象の脳血管リハビリテーション料(Ⅰ)で回復期リハビリテーション病棟の場合】
診療報酬 | 245点(1単位20分) |
リハビリ単位 | 9単位/日 |
入院日数 | 90日 |
保険点数 | 10円/点 |
診療報酬額 | 1,984,500円=9x90x245x10 |
脳梗塞で3ヵ月200万円のリハビリ費用はかなりの高額といえます。
費用を抑えるために医療保険制度を利用することで負担を軽減することができます。
負担額は負担割合で以下のように変わります。
- 1割負担の場合 20万円
- 2割負担の場合 40万円
- 3割負担の場合 60万円
ただし、医療保険を用いる場合は以下の事に注意が必要です。
- 脳梗塞リハビリの場合、発症より180日以内の算定期限がある
- 算定期限(180日)を超えると実施できるリハビリ量に制限が出てくる
脳血管疾患の現状
脳血管疾患は、日本人に身近な疾患です。
日常生活にも影響を多く及ぼしています。
脳血管疾患の死亡者数
1950年代以降、約20年ほど脳血管疾患は日本人の死因の第1位でした。
徐々に減少し、2019年における日本人の死因の順位で脳血管疾患は第4位になります。
2019年における脳血管疾患の死亡者数の内訳は以下の表のとおりです。
死亡者数(人) | |
総数 | 10万6552 |
男性 | 5万1768 |
女性 | 5万4784 |
脳卒中患者の日常生活への影響
脳卒中発症後、約半数の方は日常生活に何らかの影響が出ています。
また、日常生活動作は約3人に2人の割合で影響が出ているとの報告があります。
その他外出や仕事、学業、運動などに影響が出ている方が多いです。
日常生活に影響が出ている脳卒中患者の総数と内訳は以下の表のとおりです。
日常生活への影響 | 人数(人) | 割合(%) |
あり | 41万4000 | 50.3 |
なし | 37万9000 | 46.1 |
不明 | 2万9000 | 3.5 |
総数 | 82万3000 | 100.0 |
日常生活への影響の内訳 | 人数(人) | 割合(%) |
日常生活動作 | 25万9000 | 62.6 |
外出 | 22万2000 | 53.6 |
仕事・家事・学業 | 17万0000 | 41.1 |
運動 | 17万0000 | 41.1 |
その他 | 5万0000 | 12.1 |
不明 | 1000 | 0.2 |
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脳梗塞のリハビリまとめ
今回は脳梗塞のリハビリについてご紹介しました。
脳梗塞のリハビリについての要点を以下にまとめます。
- 脳梗塞の前兆は顔・腕・言葉に出やすく、1つでも異常があればおよそ7割が脳梗塞である
- 脳梗塞の後遺症には運動麻痺に加え、神経障害・高次脳機能障害・精神障害などがある
- 脳梗塞のリハビリは、脳の可塑性を利用した機能回復・廃用症候群の予防・身の回りの動作の獲得・復職支援など多岐にわたる
- 発症後の時期により優先すべきリハビリの内容が異なる
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。