脳梗塞は、命に関わる重大な疾患です。
しかし、適切な治療を受けることにより、重症化や後遺症のリスクを低減できます。
それでは、脳梗塞の治療法とは、どのように行うのでしょうか。
また、病院を受診するのはどのタイミングでしょうか。
本記事では、脳梗塞の治療について、以下の点を中心にご紹介します。
- 脳梗塞の主な治療法
- 脳梗塞の後遺症とは
- 脳梗塞のリハビリ
- 脳梗塞の治療を受けるべきタイミング
脳梗塞の治療について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までご覧ください。
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脳梗塞とは
脳梗塞は、脳の血管が詰まることで、その先の脳細胞に血液が行き渡らなくなる状態です。
血管が詰まった先の脳細胞は、壊死します。
壊死した細胞は、2度と元には戻りません。
細胞の壊死が広範囲に及んだ場合、脳機能は著しく低下します。
なお、脳の血管が詰まる原因は、血管内部が狭くなることです。
あるいは、血栓という血の塊が血管内を塞ぐ場合もあります。
脳梗塞には、以下の3つのタイプがあります。
- ラクナ梗塞:細い血管が詰まるタイプ
- アテローム梗塞:太い血管が詰まるタイプ
- 心原性脳梗塞:心臓でできた血栓が脳血管を詰まらせるタイプ
出典:厚生労働省【脳血管障害・脳卒中 | e-ヘルスネット(厚生労働省)】
脳梗塞というと、突然倒れて意識を失うイメージを持っている方が多いかもしれません。しかし、それは脳梗塞の症状のほんの一部なのです。脳梗塞の原因や症状についてよく理解することで、もしもの時に適切な対応ができるようにしましょう。また、[…]
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脳梗塞で用いられる治療方法
脳梗塞の主な治療法をご紹介します。
脳梗塞は、発症から治療開始までの時間が短いほど、予後がよくなるケースが多いです。
経静脈血栓溶解療法(t-PA治療)
t-PA治療は、脳梗塞の代表的な治療方法です。
日本では2005年10月から実施できるようになりました。
t-PA治療では、静脈に血栓を溶かす薬剤を注射します。
目的は、血管の詰まりを解消して脳の血流を再開させることです。
脳細胞が壊死する間に血流を再開できれば、脳梗塞を未然に防げる場合もあります。
つまり、t-PA治療は脳細胞が壊死する前に行わなければ意味がありません。
具体的には、症状があらわれてから4.5時間以内の処置が有効とされています。
局所線溶治療
血管内に細い管を挿入して薬剤を投入し、血栓を溶かす治療法です。
t-PA治療が受けられない方や、t-PA治療の効果があまり得られなかった方に用いられます。
局所線溶治療では、血管が詰まった部位にマイクロカテーテルという細い管を挿入します。
次に、梗塞の近辺に、血栓を溶かす作用のある「ウロキナーゼ」という薬剤を注入します。
局所線溶治療は、症状があらわれてから6時間以内の処置が有効と考えられています。
血管内治療
血管内に、カテーテルという管を通して血栓を取り除く治療法です。
血管内治療は、t-PA治療が適用できない方や、t-PA治療の効果があまり得られない方に用いられます。
メルシーリトリーバー
カテーテルの先にらせん状の針金を取り付けて、血栓を絡め取る治療法です。
血栓回収療法とも呼ばれており、日本では2010年8月から保険適用になりました。
メルシーリトリーバーは、症状があらわれてから8時間以内に有効です。
t-PA治療と比べると、血管の再開通率が高いというメリットがあります。
具体的には、メルシーリトリーバーによる再開通率は70〜80%といわれています。
一方、針金で血管を傷つけるリスクも高いため、対応できるクリニックが限られています。
ペナンブラシステム
カテーテルの先にポンプを取り付け、血栓を吸引する治療法です。
血栓回収療法の主流となりつつあります。
メルシーリトリーバーに比べると血管を傷つけるリスクが低いため、より質の高い予後を期待できます。
ペナンブランシステムは、日本では2011年6月に承認されました。
抗血栓療法
抗血栓療法は、血液をサラサラにする薬剤を投与し、血栓の生成を抑制する治療法です。
代表的な薬剤には、以下があります。
- 抗血小板薬
- 抗トロンビン薬
- 抗凝固薬
抗血栓療法は、主に心臓病を原因とする脳梗塞の治療に用いられます。
たとえば、
- 動脈硬化
- 不整脈
を患っている方が代表的です。
脳梗塞を起こすことで脳への血流が悪くなり、物忘れが多くなる見当識障害など様々な症状が起こります。脳梗塞と見当識障害はどのように関係しているのでしょうか?今回は、脳梗塞と見当識障害の関係について、以下の項目を中心に解説します。[…]
脳梗塞急性期の治療方法
脳梗塞には、以下の3つの段階があります。
- 急性期
- 慢性期
- 回復期
急性期とは、発症後すぐの段階です。
一般的には、発症後1〜2週間が急性期に該当します。
また、発症後4.5〜6時間以内は超急性期とも呼ばれます。
超急性期には血流は止まっているものの、脳細胞が残存している可能性が高いです。
そのため、血栓を取り除いて血流を再開させるための治療が行われます。
具体的には、以下のような治療があります。
- t-PA治療
- 局所線溶治療
- 血管内治療
局所腺溶治療や血管内治療は、発症後8時間以内まで利用できる場合があります。
発症後8時間を過ぎた場合は、すでに脳細胞の壊死が起こっている可能性があります。
そのため治療は、脳梗塞をこれ以上広げないことに重点が置かれます。
あるいは症状の悪化・寝たきりを防ぐために、リハビリや機能回復訓練が開始されることもあります。
具体的な治療・リハビリ法は、症状や梗塞の状態に応じて異なります。
脳梗塞慢性期の治療方法
慢性期は、急性期を過ぎて病状が安定した段階です。
具体的には、発症後2〜3週間以降から慢性期に移行します。
慢性期では、再発・後遺症を予防するための治療が行われます。
たとえば、脳梗塞の原因がその他の全身疾患にある場合は、原因疾患の治療・生活習慣の見直しが重点的に行われます。
あわせて抗血小板薬・抗凝固薬などの投与も行われます。
抗血小板薬・抗凝固薬は、血液の凝固を防ぐ薬剤です。
血栓ができにくくなるため、脳梗塞の再発リスクを低減できます。
また、脳梗塞はしばしば後遺症を伴います。
そのため慢性期には、できるだけ後遺症を軽減するためのリハビリ・機能訓練なども行われます。
脳梗塞で残りやすい後遺症
脳梗塞によって死滅した脳細胞は、2度と元には戻りません。
そのため梗塞の範囲が広いほど、重大な後遺症が残りやすくなります。
なお、脳の損傷が原因であらわれる障害は、まとめて「高次脳機能障害」と呼ばれています。
脳梗塞の主な後遺症を以下のように紹介します。
- 運動麻痺
- 感覚障害
- 失語症
- 構音障害
- 嚥下障害
- 注意障害
- 遂行機能障害
- 社会的行動障害
- 病識欠落
- 自発性障害
運動麻痺
全身または上半身・下半身が自由に動かしづらくなります。麻痺は多くの場合、身体の左右どちらかにのみ残ります。
- 手足が自由に動かない
- 自力での立ち上がり・歩行が困難
- めまい・ふらつき
感覚障害
手足に異常な感覚が残ります。
具体的な症状には、以下があります。
- 手足がしびれる
- 手足の感覚がにぶい・ない
- 手足の感覚が過敏になる
失語症
言葉の意味が分からなくなる状態です。
あるいは、意味は理解できても言葉が出てきづらくなることもあります。
- 言葉・名前がうまく出てこない
- 言葉の意味が理解できない
構音障害
口の動きが制限されることで、言葉を発しにくくなる後遺症です。
多くの場合、言葉の意味の理解自体には問題はありません。
- ろれつが回らない
- 話し方がぎこちない
構音障害と失語症をあわせて「言語障害」と呼ぶこともあります。
嚥下障害
食べ物・飲み物などをうまく飲み込めなくなる状態です。
原因は、のど・口周りの筋肉の運動に支障が出ていることです。
嚥下障害が起こると、食べ物が誤って気管に入ることが多くなります。
誤嚥と呼ばれる状態で、そのまま肺炎に移行することも少なくありません。
誤嚥性肺炎は、高齢者には命の危険が高い疾患です。
記憶障害
新しいことが記憶できなくなる障害です。
あるいは、古い記憶を思い出せなくなるケースもみられます。
- 物の置き忘れが増える
- 数分前の会話の内容を覚えていない
- 何度も同じ会話・質問を繰り返す
- 記憶が前後し、現在の日付・時間などが分からなくなる
注意障害
注意力が著しく低下する状態です。
以下のように、1つの仕事・家事を遂行したり、複数の作業を同時進行したりすることが難しくなります。
- すぐ他のことに注意がそれる
- 洗濯しながら掃除ができない
- 料理していることを忘れて鍋をこげつかせる
- 疲れやすい
遂行機能障害
物事の段取りをつけて実行するのが難しくなる障害です。
以下のように、物事の優先順位を決めることも難しくなります。
- 料理の段取りが分からない
- 複数の作業を同時進行できない
多くの場合、1つ1つの作業自体に問題はありません。
そのため、具体的な指示があれば、物事を遂行することは可能です。
社会的行動障害
社会的な行動を取れなくなる障害です。
以下のように、他人との円滑なコミュニケーションが難しくなります。
- 感情をコントロールできない
- すぐカッとなって手が出る
- 万引きなどの軽犯罪を平気で犯す
- 会話中に突然立ち去る
病識欠落
自身の病状や、異常な行動を自覚できません。
他人に指摘されても理解できないことがほとんどです。
自発性障害
自発性がなくなる障害です。
以下のように、仕事や他人とのコミュニケーションに支障をきたしやすくなります。
- 指示されないと行動できない
- 仕事・家事・勉強に取り組めない
脳梗塞の治療後のリハビリ
脳梗塞が治癒しても、後遺症が残ることは多々あります。
後遺症がある場合は、リハビリが行われます。
脳梗塞の後遺症のリハビリは、以下の3段階に分けられます。
- 急性期
- 回復期
- 維持期
それぞれの特徴をみていきましょう。
急性期のリハビリ
急性期のリハビリは、発症後48時間以内に始めるのが理想的です。
リハビリ期間は、個人によって異なるものの、3ヶ月が平均的です。
急性期に行うリハビリの主な目的は、寝たきり状態を防ぐことです。
脳梗塞後に寝たきり状態が長く続くほど、筋力が低下しやすくなります。
すると脳梗塞の症状が落ちついても、そのまま寝付いてしまうことが多々あります。
そのため急性期には、なるべく早く身体を動かして、筋力の低下などを予防する必要があります。
主なリハビリには、以下があります。
関節可動域訓練
関節の硬直を防ぐための訓練です。
より具体的には、関節・筋肉の柔軟性を保つことで、寝たきりになるのを防ぎます。
関節可動域訓練は、以下の2種類に分けられます。
- 自分で身体を動かす「自運動」
- 介助人が身体を動かす「他運動」
そのほか、関節・筋肉のマッサージなどが行われることもあります。
離床訓練
離床訓練は、ベッドから離れるための訓練です。
具体的には、ベッドからの立ち上がり・歩行のための訓練を行います。
以下も、離床訓練に含まれます。
- 車椅子に乗り移るための訓練
- ベッドの上に自力で座る立位保持訓練
機能回復訓練
失われた身体機能を補うための訓練です。
たとえば、以下があります。
- 歩行訓練
- 自力で食事をする訓練
- 衣類の着脱
理学療法士によるマッサージや鍼灸治療も含まれます。
ADL訓練
ADL訓練は、日常生活動作訓練とも呼ばれます。
その名の通り、日常生活を送る上で必要な身体機能のリハビリを行います。
- 食事を摂るための訓練
- トイレの訓練
- 入浴の訓練
- 身だしなみを整える訓練
- 車椅子に乗り移るための訓練
摂食・嚥下訓練
自力で食べ物・飲み物を摂るための訓練です。
誤嚥を防ぐとともに、食事の楽しみを失わせないことを目的としています。
- 歯磨き・歯石除去などの口腔ケア
- 嚥下に必要な筋肉の強化
- 食べ物を複数回に分けて飲み込む訓練
回復期のリハビリ
一般的には、発症後2週間〜半年程度が回復期のリハビリ期間です。
回復期に行うリハビリの目的は、日常生活に必要な身体機能を強化することです。
主なリハビリには、以下があります。
ボツリヌス療法
ボツリヌス療法は、ボツリヌストキシンを注射して、筋肉を緩める治療法です。
ボツリヌストキシンとは、ボツリヌス菌が作り出す物質です。
特に、筋肉の硬直・突っ張りのために、身体を動かしづらくなっている場合に有効です。
磁気・電気刺激療法
電気刺激を手足の筋肉・神経に与える方法です。
筋肉の硬直・萎縮の予防に役立ちます。
電気刺激には、手足を動かすときに脳から送られる指令を増強する作用もあります。
すると筋肉の動きがサポートされるため、ひいては運動機能の向上が期待できます。
ロボットリハビリ
ロボットで手足の筋肉をサポートしながら、身体機能訓練などを行います。
具体的には、歩行訓練・手や指先を動かす訓練などに用いられます。
ロボットを利用しながら同じ運動を繰り返すことで、日常動作に必要な筋肉が自然と鍛えられます。
また、筋肉を正しく使うことで、脳の運動機能を司る分野の回復も期待できます。
失語のリハビリ
円滑に会話ができるようになるための訓練です。
たとえば、言葉が出づらくなっている場合は、同じ単語を繰り返すなどして、スムーズに言葉を発する訓練を行います。
あるいは、
- 短い日記をつける
- 簡単な文章を読み書きする
などのことも、失語の解消に役立ちます。
維持期のリハビリ
維持期は一般的に、退院後を指します。
具体的な期間は、個人差があるものの、発症後半年以降が維持期に該当します。
主なリハビリには、以下のものがあります。
自宅でのリハビリ
維持期のリハビリは、自宅・介護施設などで行います。
そのため、リハビリしやすいようにあらかじめ生活環境を整えておく必要があります。
たとえば屋内の段差をなくしたり、手すりをつけたりするバリアフリー工事が代表的です。
また、維持期には積極的に身体を動かすことが求められます。
食事・入浴・排泄は、できる限り自分で行うように心がけましょう。
無理のない範囲で外出・運動することも大切です。
脳梗塞は脳の血管が詰まって起こる病気です。脳梗塞のリハビリは、発症後の期間別に適切な内容を行うと効果が高いといわれています。では、脳梗塞のリハビリとはどのようなものなのでしょうか?本記事では、脳梗塞のリハビリについて以下[…]
脳梗塞は治療開始までの時間が大切
脳梗塞の治療は、早ければ早いほど、その後の重症化や後遺症のリスクを低減できます。
脳血管が詰まっても、ただちに脳細胞が壊死するわけではないためです。
脳の血流がストップしたとしても、脳細胞が壊死する前に血流を再開できれば、脳細胞の死滅は防げます。
つまり、麻痺などの後遺症を回避できるわけです。
具体的には、発症から4.5時間以内の治療が理想的です。
ただし、4.5時間いっぱい治療を待ってよいわけではありません。
4.5時間以内であっても、1分治療が遅れただけで、重篤化するケースもあるためです。
また、病院に到着しても、すぐに治療が受けられるわけでない点に留意しておきましょう。
治療前には、血液検査などがあるためです。
実際に治療が始まるのは、病院到着後1時間ともいわれています。
つまり逆算すると、発症後3.5時間以内には病院に搬送する必要があります。
脳梗塞後の経過は、治療開始までの時間に大きく左右されます。
気になる症状がある場合は、ためらわずに速やかに病院を受診してください。
出典:一般財団法人 日本生活習慣病予防協会【脳梗塞】
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脳梗塞の治療のまとめ
ここまで、脳梗塞の治療についてお伝えしてきました。
脳梗塞の治療の要点を以下にまとめます。
- 脳梗塞の主な治療法はt-PA治療だが、対応できない場合は血管内治療などが用いられる
- 脳梗塞の後遺症には、運動麻痺・言語障害・失語症・記憶力の低下などがある
- 脳梗塞のリハビリは、急性期・回復期・維持期の3段階で、それぞれの身体状況にあわせて行われる
- 脳梗塞は発症後の治療が早いほど予後が良くなるため、できるかぎり速やかに病院に搬送するべき
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。