脳出血は、くも膜下出血と並ぶ出血性の脳血管疾患の1つです。
脳出血を発症すると、多くの場合に後遺症が残ります。
では、脳出血が起こるとどのような症状が出るのでしょうか?
脳出血の発症を防ぐ方法はあるのでしょうか?
本記事では、脳出血について以下の点を中心にご紹介します。
- 脳出血の症状とは
- 脳出血が起こる原因
- 脳出血を予防するための方法とは
後遺症の種類やリハビリ方法、脳出血による年間死亡者数についても解説しています。
脳出血について理解するためにも、ご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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脳出血とは
脳出血とは、脳卒中の症状の1つです。昔は脳溢血(のういっけつ)とも呼ばれていました。
脳内を走る細い動脈が何らかの原因で破れ、血液があふれ出した状態のことを指します。
あふれた血液は固まって「血腫」となり、周囲を圧迫しながら脳細胞を破壊するのです。
破壊された脳細胞は、壊死または壊死に近い状態となり、様々な症状を引き起こします。
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脳出血の典型的な症状・前兆・初期症状
脳出血の典型的な症状は、主に以下のとおりです。
- 頭痛が急に起こる
- 左右どちらかの手足が麻痺する
- 嘔吐
- 意識の混濁
それぞれ解説します。
頭痛が急に起こる
脳出血が起きると前触れもなく突然頭痛が起こり、徐々に痛みが増していくのが特徴です。
出血が少量であれば頭痛が起きない、もしくは軽度の痛みの場合もあります。
左右どちらかの手足が麻痺する
出血箇所の反対側の手足に生じるしびれや麻痺(片麻痺)も、脳出血の症状です。
脳幹部分が出血した場合は、四肢麻痺(左右両方に起こる麻痺)が出現することもあります。
嘔吐
当然の吐き気や嘔吐も、脳出血の可能性があります。
出血が少量の場合は軽い吐き気の場合もあり、嘔吐のみで緊急性を判断するのは困難です。
意識の混濁
脳内の出血量が多い場合に、意識の混濁などの意識障害が起きる場合があります。
脳の中にできた血腫によって脳内の圧が上がり、脳がむくむためです。
脳梗塞というと、突然倒れて意識を失うイメージを持っている方が多いかもしれません。しかし、それは脳梗塞の症状のほんの一部なのです。脳梗塞の原因や症状についてよく理解することで、もしもの時に適切な対応ができるようにしましょう。また、[…]
脳出血は何時間で受診すべきか?救急時の対応は?
脳出血の疑いがある場合は、可能な限り早く医療機関を受診することが重要です。
発症から4.5時間以内であれば、tPAという薬剤による治療が可能となる場合があります。
また、4.5時間を超過しても、8時間以内であれば血栓回収治療を行うことができます。
このように、迅速に病院を受診することによって、有効な治療ができ、後遺症が軽減される確率が高くなります。
なお、治療をするための検査・診察などには1時間ほどかかります。
そのため、4.5時間以内に速やかに治療を開始するためには、症状が現れてから2時間以内に病院に行く必要があります。
また、周囲の人に脳出血の症状が現れた場合は、身体を横たえて脳への血流をスムーズにすることが重要です。
その際、楽に呼吸できる体制にし、喉にものが詰まっていないかを確認しましょう。
脳出血が起こりやすい部位と症状
脳出血が起こりやすい部位は以下のとおりです。
- 視床(ししょう)出血
- 被殻(ひかく)出血
- 小脳出血
- 脳幹出血(橋(きょう)出血)
- 皮質下(ひしつか)出血
主な症状と合わせて、それぞれ解説していきます。
視床出血
視床出血は、大脳の最も深い部分での出血のことを指します。
「視床」とは、視覚や聴覚で得た情報を集約して感覚中枢に送る役割を持つ部分です。
視床出血に伴う症状は、主に以下のとおりです。
- 頭痛
- 片麻痺
- 顔の片方がゆがむ顔面神経麻痺
- 意識障害など
被殻出血
被殻出血は、大脳の深い部分での出血のことを指します。
被殻出血に伴う症状は、主に以下のとおりです。
- 片麻痺
- 顔面神経麻痺
- 言語障害など
小脳出血
小脳で生じた出血のことを指します。
小脳出血に伴う症状は、主に以下のとおりです。
- 頭痛
- 吐き気や嘔吐
- ふらつきなどの運動障害など
脳幹出血(橋(きょう)出血)
呼吸や血圧の安定など、生命活動の中心となる脳幹に生じた出血のことを指します。
脳幹出血に伴う症状は、主に以下のとおりです。
- 頭痛
- 吐き気や嘔吐
- 意識障害など
皮質下出血
大脳皮質と呼ばれる部分で起こる出血のことを指します。
皮質下出血に伴う症状は、主に以下のとおりです。
- 頭痛
- 片麻痺
- 感覚障害
- 半盲(視野の半分が欠ける)など
脳出血の右脳・左脳による症状の違い
脳出血は、起こった場所によって症状が違います。
視床出血や被殻出血は大脳の深い位置で起こる出血です。
これらの脳出血が起こった場合、半身に麻痺やしびれが現れます。
脳出血が脳のどちら側でどこで起こったかによって、症状が出現する場所が異なります。
例えば、出血が脳の右側部分で起こった場合は、左半身に症状が現れます。
反対に、脳の左側部分で出血している場合には、症状は右側で起こります。
被殻出血が左脳で起こった場合の後遺症としては、言語障害が残る可能性があります。
脳出血になる原因
脳出血を引き起こす原因は、主に以下のとおりです。
- 高血圧
- 血管腫
- 動静脈奇形
- 硬膜動静脈瘻(こうまくどうじょうみゃくろう)
- 脳腫瘍
それぞれの症状と脳出血の関係について詳しく解説します。
高血圧
高血圧は、脳出血を引き起こす最たる原因といわれています。
高血圧による血管壁へのダメージの影響で、血管が裂けて血液があふれ出すのです。
また、高血圧に伴って引き起こされる動脈硬化も脳出血の原因の1つです。
血管腫
脳内に発生する血管腫が出血することによって、脳出血を引き起こします。
脳出血に関連がある血腫として知られるのが、血腫が海綿状に膨らむ「海綿状血管腫」です。
海綿状血管腫は、出血がない場合では無症状であることも少なくありません。
ただ、一度出血すると再出血する可能性が高く、定期的に状態を確認することが必要な症状です。
動静脈奇形
脳の血管にある先天的な奇形が原因で、出血することがあります。
奇形の部分を取り除く手術をするのが一般的ですが、再発しやすいため注意が必要です。
硬膜動静脈瘻
硬膜の中で、本来繋がるはずのない動静脈が直接繋がってしまう病気が硬膜動静脈瘻です。
静脈よりも圧が強い動脈血に静脈の血管壁が耐えられなくなり、出血に繋がります。
脳腫瘍
脳腫瘍の合併症状として、脳出血が起こることがあります。
脳腫瘍の種類は以下の2つです
- 脳自体から発生した原発性脳腫瘍
- 脳以外の場所でできた腫瘍が脳に転移した転移性脳腫瘍
原発性脳腫瘍と比較すると、転移性脳腫瘍のほうが脳出血を伴いやすいといわれています。
脳出血を若い方が起こす原因は?
中高年の脳出血は、糖尿病などの生活習慣病による動脈硬化が原因の場合がほとんどです。
しかし、若年層で起こる脳出血の場合は異なります。
若い年代の方に起こる脳出血の原因として挙げられるのは、脳動脈の先天的な異常によるものです。
アジア系の人種には、生まれつき動脈の一部がもろくなっている人がいます。
何らかの事情で、動脈の層に裂け目ができた場合、動脈が裂けて脳出血が起こってしまうことがあります。
それ以外にも、高血圧やタバコの喫煙も、脳出血の原因として大いに関係性があると言われています。
脳出血の検査方法
脳出血の有無を調べる検査方法は以下のとおりです。
- CTスキャン
- MRI
- 血管造影検査
順番に解説していきます。
CTスキャン
X線撮影をコンピュータで解析する方法です。
脳の断層像(輪切りにした状態)を映し出すことで、脳出血の有無などを判定します。
急性期の出血は「高吸収域」と呼ばれ、白く見える状態で描出されるのが特徴です。
MRI
磁力を利用して脳の断層像を映し出す検査方法です。
MRI検査はCTスキャンよりも検査時間を要するものの、感度が高い映像を得られます。
また、脳出血の出血源である動静脈奇形などがないか確認することが可能な検査です。
血管造影検査
足の付け根から細いカテーテル(管)を入れて造影剤を注入し、X線撮影する検査です。
血管造影検査は血管の走行や流れ、病変部位の特定のために行われます。
脳出血の治療方法
脳出血が起きた際の治療法は主に以下のとおりです。
- 降圧薬の投与
- 手術
- 幹細胞治療
薬の種類や手術の内容を詳しく解説します。
降圧薬の投与
脳出血を発症する原因の多くが高血圧であり、治療には降圧剤の投与が推奨されています。
日本脳卒中学会によると、脳出血の治療として降圧剤を投与した結果、
- 降圧が良好な症例では予後が良い
- 血腫の増大が少ない
- 術中、術後の再出血を抑制する効果がある
という報告があることが分かっています。
出典:日本脳卒中学会「Ⅲ脳出血高血圧性脳出血の非手術的治療 2-2血圧の管理」
手術
脳内の出血量が多い場合は、手術によって血腫を取り除きます。
脳出血の際の手術には、以下の2つの方法があります。
- 開頭血腫除去術
- 血腫吸引術
それぞれ解説します。
開頭血腫除去術
頭の骨を外し、顕微鏡でチェックしながら血腫を除去する手術方法です。
脳の一部を切開し、脳内にある血腫を除去していきます。
脳の圧迫をやわらげ、二次的に発生する脳のむくみを予防することが可能です。
血腫吸引術
内視鏡によって血腫を除去する手術方法です。
10円玉大の穴を頭蓋骨に開け、内視鏡と吸引管を挿入して血腫を取り除きます。
開頭手術と比較すると半分ほどの時間で済み、患者の方の負担も少ないのがメリットです。
幹細胞治療
脳出血を起こした本人の脂肪組織から採取し、培養した幹細胞を静脈投与する治療法です。
投与した幹細胞の栄養素により、
- 血管を新しく生成
- 脳の血流を改善
- 神経などの機能回復
- 炎症を沈静化
- 痛みなどの緩和
などの効果を得られます。
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脳出血の後遺症とリハビリ
脳出血の発症により、多くの場合に後遺症が残ります。
後遺症がみられる場所は以下のとおりです。
- 運動障害
- 嚥下障害
- 言語障害
- 高次脳機能障害
リハビリの方法も合わせてそれぞれ解説していきます。
運動障害
身体の左右どちらかの手足が動かしにくくなる、または動かせなくなる症状です。
一般的に、足よりも手に強く症状が出るといわれています。
脳出血が起きた部位によっては、足に強く麻痺が出る場合も少なくありません。
リハビリ方法
治療後、無理のない程度でベッド周辺にてリハビリを開始します。
廃用症候群(不活動が続き、筋肉や関節が萎縮し運動機能が低下した状態)の予防のため
- 手足を動かす
- 寝返りを打つ
などを中心に行いながら、身体を動かすことに慣れていきましょう。
体調が安定した頃からは、生活に関する基本動作(トイレや食事など)をします。
段差など、危険がない場所で繰り返し練習しましょう。
嚥下障害
食べ物を飲み込みにくくなる症状です。
脳出血が起きた部位によって、回復が見込める場合と難しい場合に分かれます。
リハビリ方法
言語聴覚士によって機能や飲み込みの評価を確認したのちに、
- 発声や舌の運動
- 首や肩回りの筋肉の運動
- 食事形態に合わせた飲み込みの練習
などをしていきます。
言語障害
ろれつが回らない、言葉が出にくいなどの症状です。
リハビリによって回復しやすい場合と、リハビリしても症状が改善しない場合があります。
リハビリ方法
嚥下機能のリハビリと同様に言語聴覚士による評価を実施し、
- ゆっくり話す練習
- 口周りのストレッチ
- 文字盤やカードを使ったコミュニケーションの練習
などを進めていきます。
高次脳機能障害
脳が損傷し、神経が傷つくことによって起こる様々な症状の総称です。
- もの忘れが激しいなどの記憶障害
- 1つのことに集中できない注意障害
- 物事の優先順位が付けづらくなる遂行機能障害
- 感情のコントロールが難しくなる社会的行動障害
などがあります。
リハビリ方法
まずは、患者の方本人が障害を認めるところからのスタートです。
障害の程度によって、まずは日常生活における動作をする際の注意点などを確認します。
毎日の練習やメモによって、日常生活を取り戻す工夫を重ねていくことが大切です。
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脳出血の回復過程・退院後の生活
脳出血からの回復の過程では、脳浮腫やディアスキシスといった症状がみられます。
これらの症状に対する治療、リハビリをすることにより、脳の機能を回復させていきます。
脳出血の回復には長期間を要します。
本人、家族ともに、回復のためには継続して通院が必要であることを知っておくことが大切です。
医師に治療計画や回復の見通しを確認しておきましょう。
自宅での療養では、脳出血の再発予防のため、日々の健康状態の確認や生活習慣の改善が重要です。
回復の過程では、家族のサポートが大切です。
看護師やリハビリステーションのスタッフに、患者が自力でできることと、介助が必要なことを確認しておきましょう。
活用できる社会資源についても把握しておきましょう。
もしも自宅療養中に、再発が疑われる症状が出た場合、すぐに病院を受診します。
その際に時刻を記録しておくことで、発症からの経過時間を正確に把握し、有効な治療につなげることができます。
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脳出血の余命
複数の研究結果から、脳出血を起こした患者の余命は、平均すると12年程度であるといわれています。
高齢になるにつれ、亡くなる患者の数は増加傾向にあります。
また、高血圧、糖尿病などの疾病のある患者の場合は、死亡率が高いという結果が出ています。
さらに、発症してから再発までの期間が短いほど、死亡率が高い傾向にあります。
そのため、これらの死亡リスクを高める疾病をしっかりと治療し、再発に努めることが大切です。
脳出血の死亡率・生存率
ボスニア・ヘルツェゴビナの研究では、脳出血発症後、5年以内の生存率は24%です。
栃木で行われた研究では、脳出血を発症した人の5年後の生存率は58%という結果が出ています。
死亡した患者の多くは、脳出血を発症してから1か月以内の再発によるケースが多いと言われています。
発症後10年の生存率を調査した複数の研究結果でも、10%以上の患者が脳出血を再発していると言われています。
これらの研究結果から分かる通り、脳出血の再発は、生存率を低下させるという特徴があります。
そのため、再発のリスクを上げるような危険因子は、取り除くことが大切です。
脳出血の後遺症がない確率は?
脳出血を起こした患者の後遺症の有無について、発症3か月後の患者に対して研究が行われました。
全体の69%の患者が全く後遺症が残らない、または軽度の後遺症があるものの介助は必要ない、という状態に回復しています。
脳出血の状態や持病などによって予後は様々ですが、リハビリを行うことで回復の見込みが高まります。
発症後から3か月の間が回復が大きい時期といわれています。
社会復帰を可能にするためにも、この期間にリハビリを開始することが重要です。
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脳出血を予防するには
脳出血の予防に効果的な対策は以下のとおりです。
- 高血圧の予防
- 禁煙
- 飲酒を控える
- 生活習慣の見直し
それぞれ解説します。
高血圧の予防
高血圧は、脳出血を引き起こす最大の危険因子です。
日本高血圧学会の基準では最大血圧が140mmHg以上、または最小血圧が90mmHg以上の場合を高血圧と診断します。
毎日血圧を測り、高血圧になっていないか確認することが大切です。
自宅で手軽に使える血圧測定器も数多く販売されているため、活用していきましょう。
禁煙
タバコは、脳出血だけでなく様々な病気のリスクを高めます。
喫煙が習慣になっている方も、禁煙によって病気の重症度を下げられるかもしれません。
飲酒を控える
アルコールは適量を摂取すると、コレステロール値を下げる効果があるといわれています。
脳出血を予防するためにも、過度な飲酒を控えて適正飲酒を心がけましょう。
生活習慣の見直し
生活習慣の見直しも、脳出血を予防するためには大切です。
- 1日30分程度の有酸素運動
- ストレスを発散させるための趣味などを生活に取り入れる
- バランスの取れた食事
- 自分に合った睡眠時間を確保し、疲労を取り除く
など、できることから始めましょう。
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脳出血による国内の年間死者数
厚生労働省は、日本における死因別死亡数の統計を公表しています。
データによると、2019年に内出血で亡くなった方は以下のとおりです。
出血性の脳血管疾患である2種類と、脳血管疾患全体の死亡数の統計
項目 | 男性(人) | 女性(人) | 総数(人) |
脳内出血 | 1万7957 | 1万4819 | 3万2776 |
くも膜下出血 | 4319 | 7412 | 1万1731 |
脳血管疾患(全体) | 5万1768 | 5万4784 | 10万6552 |
出典:厚生労働省「国内での死亡例の発生状況について」
2019年における脳内出血での死亡数は、脳血管疾患全体の30%ほどを占めています。
血圧コントロールと生活習慣を見直し、脳出血発症のリスクを減らしていきましょう。
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脳出血のまとめ
ここまで、脳出血について解説してきました。
脳出血についての要点を以下にまとめます。
- 脳出血の症状は、突然の頭痛や片麻痺、嘔吐、意識の混濁など
- 脳出血が起こる原因は、高血圧や血管腫、動静脈奇形、脳腫瘍など
- 脳出血を予防するには、血圧を下げる、禁酒禁煙、生活習慣の見直し
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。