セロトニンはうつ症状の治療に用いられる薬としてよく知られています。
しかし、セロトニンの副作用から生じる症候群についてはあまり知られていません。
セロトニン症候群とはどのような症状があるのでしょうか?
また、どのような原因でセロトニン症候群は生じてしまうのでしょうか?
本記事ではセロトニン症候群について以下の点を中心にご紹介します。
- セロトニンとは
- セロトニン症候群とは
- セロトニン症候群の症状と後遺症
- セロトニン症候群の対処法
セロトニン症候群について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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そもそもセロトニンとは?
セロトニンとは、脳内の神経伝達物質の1つです。
セロトニンは感情に起因する神経伝達物質の興奮を落ち着かせ、精神の安定に働きます。
セロトニンが不足すると他の神経伝達物質の働きを抑制することが難しくなります。
その結果、攻撃的な感情や抑うつ的な症状があらわれやすくなります。
現代人はセロトニンが不足しやすいといわれています。
その原因として以下のことがあげられます。
- 食事が不規則のためセロトニンを合成する必須アミノ酸トリプトファンが不足
- 日光不足や運動不足によりセロトニンを分泌するセロトニン神経が活性化しない
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セロトニン症候群とは?
セロトニン症候群はセロトニンに関連する薬を服用中に出現する副作用です。
セロトニン含有の薬物の服用後数時間以内にあらわれることが多いです。
セロトニン症候群の診断にはSternbachの診断基準がよく用いられます。
以下の症状のうち、少なくとも3つ認められるとセロトニン症候群が疑われます。
精神症状の変化(錯乱、軽躁状態) | 興奮 | 発汗 | 振戦 | 協調運動障害 |
ミオクローヌス | 反射亢進 | 悪寒 | 下痢 | 発熱 |
原因薬剤は抗うつ薬やパーキンソン病治療薬などです。
特に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)で起きることがほとんどです。
治療変更など、SSRIの摂取量が増加した場合セロトニン症候群が出現しやすくなります。
一方で通常摂取している場合はセロトニン症候群が出現する可能性は高くありません。
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他の病気との違い
セロトニン症候群に類似した症状や疾患はいくつかあり鑑別が必要です。
具体的には次の通りです。
セロトニン症候群と悪性症候群の違い
悪性症候群とは、抗精神病薬などを服用することで出現する副作用をいいます。
悪性症候群の発症率は、抗精神病薬服用患者の約0.2%前後といわれています。
悪性症候群は内服増量後、数日から数週間かかって徐々に発症することが多いです。
悪性症候群の主な症状は以下の通りです。
- 原因不明の発熱
- 自律神経症状:発汗や頻脈、尿閉など
- 筋強剛
セロトニン症候群と比較すると、以下の点で異なります。
- 内服後より症状の発現はセロトニン症候群が急速である
- 悪性症候群は筋強剛しやすく、セロトニン症候群は不随意的な動きが出やすい。
出典:厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル セロトニン症候群」
セロトニン症候群と賦活症候群の違い
賦活症候群は抗うつ薬の投与初期や増量後に出現する副作用のことをいいます。
中枢神経系の刺激症状が出現しやすいです。
具体的な症状として、次の通りです。
不安 | 焦燥 | 不眠 | 衝動性 |
パニック発作 | 易刺激性 | 希死念慮 | 躁状態 |
セロトニン症候群との違いは次の通りです。
- 賦活症候群は自律神経症状や身体症状が少ない
- 賦活症候群は自殺関連事象と結びつきやすい
セロトニン症候群と離脱症候群の違い
離脱症候群(中断症候群)は抗精神病薬を止める、もしくは減薬したときに生じる症状です。
特にSSRIの服用を減薬したときに離脱症状は見られやすいです。
抗精神病薬の服用中止後の1~3日後に症状が見られることが多いです。
具体的な症状として、次の通りです。
めまい | 頭痛 | 吐き気 | 倦怠感 |
しびれ | 耳鳴り | 性欲減退 | 不安 |
セロトニン症候群との違いは次の通りです。
- セロトニン症候群は内服量を増やしたとき、離脱症候群は減らしたときに発症する
- 離脱症候群は耳鳴りとしびれの症状である「シャンピリ感」を伴いやすい
セロトニン症候群の初期の軽症症状
セロトニン症候群を早期発見するために初期症状を知っておく必要があります。
具体的には以下の通りです。
急に落ち着かない
セロトニン症候群になると精神状態が不安定になる場合があります。
急に落ち着きがなくなり、以下のような軽症症状が見られる場合があります。
- 不安が増しそわそわする
- 混乱が見られる
- イライラする
痙攣
セロトニン症候群になる部分的な筋肉のけいれんが見られる場合があります。
具体的には以下の症状です。
- 手足のぴくつきや震え
- 体が固くなる
発汗・脈が速くなる
セロトニン症候群になると自律神経が乱れる場合があります。
初期の軽症症状としては以下の通りです。
- 発汗量が増加する
- 脈が速くなる
セロトニン症候群の症状・症例
セロトニン症候群は上記の症状以外に様々な症状を呈します。
具体的には以下の通りです。
精神状態の変化
初期症状より精神状態の変化が見られる場合があります。
具体的には以下の症状です。
- 軽躁状態
- 興奮
- 錯乱
自律神経の活動亢進
セロトニン症候群を発症すると自律神経の活動亢進が見られる場合があります。
具体的には以下の症状です。
- 38℃以上の発熱や発汗
- 頻脈
- 頻呼吸と呼吸困難
- 下痢
- 血圧変動(低血圧または高血圧)
神経筋の活動亢進
セロトニン症候群を発症すると神経や筋肉の活動亢進が見られる場合があります。
具体的には以下の症状です。
- 不随意運動:ミオクローヌス、振戦
- 悪寒
- 筋強剛
- 腱反射亢進
- 協調運動障害
セロトニン症候群がもたらす後遺症
稀ではありますが、セロトニン症候群になると重篤な症状を伴う場合があります。
具体的には以下の症状です。
40℃以上の高熱
セロトニン症候群の重篤な症状の1つに40℃を超える発熱があります。
発熱が持続すると他の重篤な症状を併発する可能性があり、死亡するリスクが高まります。
横紋筋融解症
横紋筋融解症は骨格筋細胞が融解・壊死し、筋肉細胞が血液に流出する症状をいいます。
外傷以外にセロトニンのような薬の副作用で発症することもあります。
自覚症状は以下の通りです。
- 四肢の脱力感
- 腫脹
- しびれ
- 痛み
- ミオグロビン尿(赤褐色尿)
横紋筋融解症が続くと腎不全や循環不全を併発することがあり、最悪死に至ります。
腎不全
腎不全は腎臓の機能が著しく低下し、体内の水分や老廃物を排泄できなくなる病気です。
症状としては以下の通りです。
- 尿量減少
- 浮腫
- 食欲低下
- 全身倦怠感
治療法として腎臓の負担を減らし老廃物の排出を促すため透析治療を行う場合があります。
DIC
症状としては以下の通りです。
- 多臓器不全:肺や心臓など重要臓器の働きが弱ってしまうこと
- 出血:DICになると大量に血小板を使用してしまうため全身が出血しやすくなる
死
セロトニン症候群は適切な処置を行うことで約70%の方が自然に回復するといわれています。
しかし処置が遅れ上記のような重篤な症状が続くと、最悪死に至る場合があります。
出典:厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル」
セロトニン症候群の機序となるレクサプロ
セロトニン症候群を副作用にもつ治療薬の1つにレクサプロがあります。
ここではレクサプロの概要やセロトニン症候群を発症させる機序について説明します。
レクサプロとは
レクサプロは抗精神病薬の1つです。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)に分類されます。
主にうつ病・うつ状態、社会不安障害に対し適応があります。
レクサプロは他の薬と比較し、以下の点で優れています。
- 服用回数が1日1回のため飲み忘れが少ない
- セロトニンのみを増幅させる効果があり、副作用が少ない
- 減薬による離脱症状が少ない
レクサプロの副作用によるセロトニン症候群
レクサプロを服用すると稀にセロトニン症候群を伴う場合があります。
理由として、SSRIの特徴が影響していると考えられます。
先述の通り、SSRIは他の薬と比較し、セロトニンのみを増幅させる効果があります。
そのため、内服量が増えすぎると体内のセロトニン量が大幅に高まります。
その結果、セロトニン症候群を発症してしまいます。
短酸リチウムなど他の抗精神病薬との併用にも注意が必要です。
その理由はレクサプロとの相互作用でセロトニン量が増幅しやすくなるためです。
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セロトニン症候群の対処法
セロトニン症候群の対処法として以下の方法があります。
- 抗うつ薬の服用を中止する
- 安静にする
それぞれについて説明します。
抗うつ薬の服用を中止する
原因となる薬剤をすべて中止します。
通常内服中止後24時間以内に70%程度の方は改善するといわれています。
安静にする
内服中止以外に安静を伴う対症療法が重要です。
対症療法の例としては以下の通りです。
- 発熱に対して、体を冷やす
- 発汗に対して水分補給する、難しい場合は点滴する
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抗うつ薬の投与について
抗うつ剤は精神病以外の疾患にも投与される場合があります。
その際もセロトニン症候群の症状が出ないか注意が必要となります。
具体的な例として、帯状疱疹患者について説明します。
帯状疱疹治療後も慢性的な神経痛が残り、痛み止めを内服しても効果がありませんでした。
そこで、心理的アプローチとして抗うつ剤に内服変更しました。
ところが、内服変更後に筋強剛やミオクローヌス、気分高揚などの症状が見られました。
いわゆるセロトニン症候群の症状でした。
内服を中断したところ、上記症状は軽減し、状態改善につながりました。
このことから、精神病以外の患者に対しても抗うつ剤の投与には注意が必要となります。
抗うつ薬の投与について、以下のような因子を持つ方は特に注意が必要です。
肝機能障害 | 躁うつ病患者 |
自殺念慮又は自殺企図がある、または既往のある患者 | 脳に器質的障害がある、または統合失調症の可能性のある患者 |
てんかん等の痙攣性疾患又はこれらの既往歴のある患者 | 心疾患でQT延長又はその既往歴のある患者 |
出血傾向、または出血の危険性を高める薬剤を併用している患者 | 緑内障又はその既往歴のある患者 |
高齢者 | 小児 |
出典:J=STAGE「デュロキセチン投与をきっかけにセロトニン症候群と思われる 症状を呈した帯状疱疹関連痛の 1 症例」
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セロトニンの症候群についてのまとめ
この記事では、セロトニン症候群についての基本的な知識をお伝えしました。
以下でこの記事で紹介したことについてまとめます。
- セロトニンとは脳内の神経伝達物質の1つで精神の安定に働く
- セロトニン症候群とは体内のセロトニンが過剰になり様々な症状を呈する症候群
- 初期症状は落ち着きのなさや頻脈などが見られ、対処が遅れると死の可能性がある
- セロトニン症候群の対処法として、抗うつ薬の服用中止と安静がある
セロトニン症候群への理解が深まり、日々の介護や予防にお役立ていただけたら幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。