飲み込むことが上手にできなくなることを嚥下障害といいます。
嚥下障害は、食事がしにくくなるだけでなく、窒息など命の危険もあります。
嚥下障害は、予防することができるのでしょうか。
本記事では嚥下障害の予防について以下の点を中心にご紹介します。
- 嚥下障害を予防するトレーニングとは
- 嚥下障害を予防する食べ物とは
- 嚥下障害を予防する口腔ケアとは
嚥下障害の予防について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
嚥下障害とは
嚥下とは、食べ物を口の中で咀嚼し、飲み込み、食道から胃へと送り込む一連の動作です。
普段の私たちは、意識せずに行っている動作ですが、病気や加齢で不自由になります。
これを嚥下障害といいます。
嚥下障害によって、食事が進まず栄養不足になったり、脱水症状になります。
食べ物がうまく飲み込めなくなるため、のどに詰まって窒息する危険性もあります。
そのほかにも、誤嚥を起こして肺炎を起こすことも少なくありません。
嚥下障害は、普段からトレーニングを続けることで、改善することができます。
また、食事の内容を嚥下しやすいものに変えることで、食べやすくすることもできます。
年を取ると誰でも嚥下機能が衰えて、むせることが多くなります。
嚥下障害の予防のために、日頃からトレーニングを心がけるようにしましょう。
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嚥下障害を予防するトレーニング方法5選
嚥下障害を予防するためには、毎日のトレーニングが必要です。
トレーニングといっても大げさなものではありません。
ストレッチなどで嚥下のための筋肉を柔軟にするだけで、嚥下障害を予防できます。
では、具体的にみていきましょう。
口周りのストレッチをする
口周りのストレッチとしては「あいうえお体操」「パタカラ体操」があります。
あいうえお体操は、大きく口や顎を動かすトレーニングです。
大きな声を出すことで腹圧が高まるので、誤嚥時のせき込み力が強くなります。
パタカラ体操は、舌や唇のトレーニングになります。
嚥下機能や発声機能にも効果が期待できます。
肩や首のストレッチをする
肩や首周辺の筋肉が硬くなっていたり、身体に余分な力が入っていたりしていませんか。
飲み込むときの筋肉が緊張状態になっていると、嚥下もスムーズに行えません。
食事の前に、上半身を中心にストレッチを行いましょう。
肩や首をゆっくり回すこと、腕を左右に大きく広げ、深呼吸することも効果的です。
歌を歌う
歌を歌うときは、自然と口を大きく動かさなければ声は出ません。
そのため、唇や舌などの口の周りの筋肉を鍛えることができます。
大きな声で歌うことで、背筋や腹筋などの筋肉も鍛えることができます。
また、歌を歌うことは口をたくさん動かすことになります。
口を動かすことで、唾液の分泌が盛んになります。
唾液は、洗浄や殺菌などの働きがあるので、口腔内の環境がよくなります。
にらめっこをして表情筋を動かす
咀嚼するときには、顔の表情筋も大切な役割を持っています。
認知症などで、表情が失われていくと、表情筋が衰えて、嚥下障害が起こります。
表情筋を鍛えるためにも、ときどきにらめっこをして表情筋を動かしましょう。
にらめっこで頬を大きく膨らませたり、舌を思いきりベーと出しましょう。
表情筋が自然と鍛えられます。
早口言葉を言う
早口言葉も嚥下障害を予防するための筋肉トレーニングとして効果があります。
子供のころよく遊んだ早口言葉は、高齢者にもなじみのあるものでしょう。
たとえば
「生麦生米生卵」
「隣の客はよく柿食う客だ」
「蛙ぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」
など、みんなで声を出して楽しみながらトレーニングができます。
私たちは、食事をするとき、無意識に咀嚼しています。咀嚼には、食べ物をかみ砕くこと以外にも、私たちの健康を守るためのさまざまな役割があります。咀嚼の役割や重要性は、どのようなものなのでしょうか。本記事では咀嚼について以下の[…]
嚥下障害の予防に役立つ食べ物
毎日の食事内容で、嚥下障害を予防することができます。
歯が健康なうちはなんでもよく噛んで食べる
歯が健康なうちは、できるだけ噛み応えがあり、咀嚼回数が増える食物を食べるように心がけましょう。
咀嚼力を普段からつけておくことが大切です。
玄米
玄米は、白米に比べると咀嚼回数がおよそ2倍必要です。
筋活動量を比較してみても、白米の2倍以上、お粥の17倍と大きな差が出ています。
ごはんを玄米に切り替えるだけで、自然に咀嚼力が身に付き嚥下障害を予防します。
根菜|ニンジン、ダイコン、ゴボウ、レンコン
野菜は、できるだけ噛み応えのあるものを選びましょう。
たとえば、ニンジンやゴボウ、レンコン、ダイコンなどの根菜がおすすめです。
煮物にするときには、柔らかくなりすぎないようにして、食感を残すことがポイントです。
豆類
豆類も噛む力を鍛えます。
とくに大豆は、タンパク質も豊富なので、高齢者にはピッタリでしょう。
ひじきの煮物に少し固めの大豆を入れてアクセントにしてもいいでしょう。
ナッツ類|アーモンド、クルミ、ピーナッツ
ナッツ類も咀嚼力を高める食べ物です。
よく噛むことで、口のまわりの筋肉を鍛えることができます。
ナッツ類は、栄養的にも優れており、良質の脂質を摂取することができます。
小腹が空いたときなど、少量のナッツ類をおやつ替わりにするとよいでしょう。
海藻類|昆布、わかめ、ひじき
食事に昆布、わかめ、ひじきなどの海藻類を積極的に取り入れましょう。
とくに昆布は、乾燥したまま「おしゃぶり昆布」として咀嚼トレーニングに使えます。
時間をかけて固い昆布を噛むことで、昆布の旨味により唾液の分泌を促します。
噛む力と同時に口腔内の環境を整え、嚥下障害を予防します。
小魚
煮干し、乾燥ちりめんなど、小魚を食べるのも、咀嚼回数を多くします。
小魚を骨ごと食べるとカルシウムの補給にもなり、骨や歯の健康にも効果が期待できます。
奥歯ですりつぶすように噛み砕くことで、顎をトレーニングし嚥下障害を予防します。
乾物|切り干し大根、高野豆腐、するめ
乾物類も噛む力をアップさせます。
植物繊維の多い切り干し大根、弾力のある高野豆腐もよいでしょう。
よく噛まないと飲み込めないするめは、口が寂しいときに食べると、満腹感がでます。
嚥下機能が落ちてきたら誤嚥しにくい食事をとる
すぐにむせてしまう、歯がグラグラして固いものが食べにくい。
このように嚥下機能が落ちてきたら、誤嚥しにくい食事に変えていきましょう。
脂がのった旬の魚
脂肪や水分が多い魚は、加熱しても身が固くならず、嚥下しやすくなります。
たとえば、「かれい」「きんめだい」「たちうお」「銀だら」「ぶり」などです。
鰹や鮭など熱を加えることでパサつく魚は、ほぐして片栗粉でとろみをつけましょう。
脂身が適度にある薄切り肉
赤味は、熱が加わると固くなり、パサついてしまいます。
赤味よりも、バラ肉など脂身が適度にある薄切り肉の方が食べやすくなります。
片栗粉をまぶして茹でると、表面がツルンとして飲み込みやすくなります。
柔らかめの炒り卵
卵は、火を通し過ぎると、パサついて飲み込みにくくなってしまいます。
炒り卵を作るなら、火を入れすぎず半熟状態の方が嚥下しやすくなります。
牛乳を少し入れて柔らかめの炒り卵にしてもよいでしょう。
絹ごし豆腐
大豆製品の場合は絹ごし豆腐がおすすめです。
木綿豆腐は、やや水分が少ないため嚥下しにくいかもしれません。
練りゴマやマヨネーズなど、粘りのある調味料で和えると食べやすくなります。
かぼちゃ
かぼちゃは、冷凍すると必要な分だけ調理することができます。
また、冷凍かぼちゃを自然解凍すると、マッシュできるくらいの柔らかさになります。
カボチャの皮は固く、嚥下しにくいため取り除いて調理しましょう。
長芋
すりおろした長芋は、そのままでも食べやすい食材です。
とろみがあるので、ご飯にかけたり、飲み込みにくいものと一緒に食べるとよいでしょう。
皮を除去したトマト、なす
トマトは、皮が口の中に残りやすい食材です。
湯むきをして皮を取り除きましょう。
湯むき前にトマトに小さな切れ込みを入れておくと、皮がツルンとむけやすくなります。
嚥下障害の程度によっては、中の種も取り除いておくと安心です。
同じようになすも皮が嚥下の妨げになっている場合があります。
なすは、ピーラーなどで皮をむいて調理するとよいでしょう。
冬瓜、ダイコン
冬瓜やダイコンは、柔らかく煮込むことで嚥下しやすくなります。
圧力鍋を使えば、簡単に柔らかくすることができ、味も浸み込みやすくなります。
嚥下障害の場合は、舌でつぶれるくらい柔らかくするとよいでしょう。
納豆
納豆は、とろみやつなぎになる食材です。
納豆単品だけでなく、いろいろなものを混ぜると嚥下しやすくなります。
嚥下障害によっては、ひきわり納豆を使ってもよいでしょう。
種を取り除いたオクラ
オクラもネバネバ成分があるため、嚥下がしやすい食材です。
ただし、通常なら問題ないオクラの種には注意しましょう。
嚥下障害がある場合は、オクラの種は取り除いておいた方が安心です。
嚥下障害を予防する食品で作るレシピ
嚥下障害を予防するためには、のど越しや柔らかさなどに注意して調理をします。
おすすめのレシピを紹介しますので、ぜひ試してみてください。
お茶ゼリー
<材料>
・麦茶1リットル
・ゼラチン15g
<作り方>
①麦茶を作ったら、熱い状態でゼラチンを入れてよく混ぜます。
②適当な大きさのコップに入れて、冷蔵庫で冷やし固めます。
鶏のやわらか揚げ
<材料>
鶏モモ50g
調味液
醤油、みりん小さじ2/3
酒 小さじ1/2
ニンニク、ショウガ適量
卵 適量
薄力粉40g
水小さじ2
揚げ油
<作り方>
①鶏肉は、食べやすいように1㎝角に切ります。
②調味液にしばらく漬けこんだあと、卵、薄力粉、水を混ぜた衣をまとわせます。
③スプーンでひと口大にまとめたら、170度の油で揚げます。
山かけまぐろ粥
<材料>
ネギトロ用のミンチになったまぐろ 50g
とろろ 50g
醤油
わさび
あおのり
<作り方>
①醤油とわさびを溶いて、まぐろを和えます。
②その上にとろろと青のりをかけます。
③お粥にかけて出します。
かぼちゃサラダ
<材料>
冷凍かぼちゃ 3~4切れ
牛乳 小さじ1
マヨネーズ 小さじ1
塩 少々
<作り方>
①冷凍かぼちゃは、耐熱容器に入れて600Wのレンジで5分加熱します。
②かぼちゃの皮は、飲み込みにくいのでスプーンで取り除きます。
③よくつぶして牛乳をまぜ、ペースト状にしたら、マヨネーズと塩で味を調えます。
さつまいものレモン煮
<材料>
さつまいも 30g
レモン汁 1g
砂糖 2g
お湯 15㏄
<作り方>
①さつまいもを柔らかく煮ます。
②お湯、レモン汁、砂糖を混ぜ、片栗粉やとろみ調整食品でとろみをつけます。
③さつまいもにかけて盛りつけます。
嚥下障害を予防するための口腔ケア7選
嚥下障害を予防するためには、筋肉トレーニングだけでなく、口腔ケアも大切です。
口腔ケアをおろそかにすると、歯周病など嚥下障害が起こりやすい環境を作ってしまいます。
器質的口腔ケア|歯や口を清潔で健康に保つ
歯ブラシだけでなく歯間
歯ブラシだけでは、歯の隙間の汚れは取れません。
とくに嚥下障害を持つ方は、口の中にカスが溜まりやすくなります。
唾液の分泌も少なくなるため、唾液で口を洗い流す清浄作用も弱まります。
歯間ブラシやフロスを使って、歯と歯の隙間の汚れもケアしましょう。
フッ素入りの歯磨き粉を使う
高濃度フッ素配合歯磨き粉は、虫歯予防も期待できます。
フッ素が歯をコーティングすることによって口腔内トラブルを防ぎます。
コーティング効果によって歯の表面の凸凹がなくなり、歯垢が付きにくくなります。
入れ歯も掃除する
入れ歯を外したあとは、口の中のお手入れが必要です。
歯が1本もなくても、歯肉や上あご、舌に食べかすが残っているからです。
また、入れ歯も専用の洗浄液などで掃除します。
とくに金具の部分は、食べかすがこびりつきやすいので、歯ブラシで擦るとよいでしょう。
舌や粘膜用ブラシを使う
嚥下しにくくなると、唾液の分泌量が減ります。
唾液の分泌量が減ると、口の粘膜や舌に食べかすが残ってしまいます。
そのまま放置すると、細菌が繁殖して、虫歯や歯周病、さらには誤嚥性肺炎の原因になります。
粘膜はデリケートですから、傷つけないようにケアしなくてはなりません。
舌や粘膜専用のブラシを使うとよいでしょう。
ない場合には、ガーゼなども代用品になります。
機能的口腔ケア|舌、口唇、頬の機能を向上させる
顔面の体操をする
口腔内に空気をためたり、すぼめたりします。
頬の筋肉をはじめ顔面全体をトレーニングすることで、口を閉じる口輪筋を鍛えます。
口輪筋が鍛えられると、食べこぼしを防ぐことができます。
頬を膨らませるときは、思いっきり、すぼめるときにはストローを吸うようにします。
10回程度を目標に体操をしましょう。
舌の体操をする
嚥下障害では、舌が思うように動かせないというケースもあります。
舌を自由に動かすことは、食べ物を正しく噛める位置に移動させるために必要です。
また、口の中の食べかすを少なくするなど重要な働きがあります。
口を大きく空けて、上下左右に舌をできるだけ伸ばしましょう。
上下左右を1セットとして、10回程度を目標に体操しましょう。
唾液腺(耳下腺、舌下腺、顎下腺)のマッサージをする
嚥下障害を持つ方は、唾液の量も少なくなってしまいます。
唾液腺を刺激して、唾液が出やすいようにする体操です。
とくに顎下腺は、唾液量の約60~70%を占めています。
顎下腺は、顎の骨の内側にあります。
この柔らかい部分に両手を当てて、耳の下から顎に向かって押し込んでいきます。
指の腹でやさしく押しながら、少しずつずらしていきましょう。
5回程度を1~2セット行うとよいでしょう。
嚥下障害の予防まとめ
ここでは、嚥下障害の予防について紹介してきました。
要点を以下にまとめます。
- 嚥下障害を予防するトレーニングは「ストレッチ」「歌」「早口言葉」など
- 嚥下障害を予防する食べ物は、嚥下機能のレベルに合わせて選ぶ
- 嚥下障害を予防する口腔ケアは、歯や口腔内のお手入れと体操やマッサージ
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。