腹水は少量の時は自覚症状があまりありません。
腹水なのか肥満によるものかの区別もつきにくいです。
腹水はどうして溜まるのでしょうか?
腹水と肥満の見分け方があるのでしょうか?
本記事では腹水セルフチェックについて以下の点を中心にご紹介します。
- 腹水が溜まる原因
- 腹水セルフチェックのコツ
- 腹水の治療方法
腹水セルフチェックについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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腹水とは
腹水はお腹の中に水(タンパク質を含む体液)がたまった状態です。
通常、お腹の中には腸がスムーズに動くために50mL程度の腹水が存在しています。
正常時は腹水は腹膜などで産生され、血管や腹膜での吸収でバランスを取っています。
腹水は「腹水の過剰産生」や「腹水の排出の妨げ」でバランスが崩れて起こります。
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腹水セルフチェックの前に|知っておきたい症状
お腹の中に溜まった腹水の量が増えるにしたがって症状があらわれてきます。
通常は症状を起こすことはありませんが、腹水が進むと他の症状を起こすこともあります。
腹水が大量になると、胃の圧迫や横隔膜の押し上げで以下のような症状がみられます。
蛙腹になる(おなかが膨らむ) | おへそが飛び出る |
胃の圧迫で食事が摂れない | 吐き気がする |
呼吸が苦しく息切れがする | 足のむくみ |
体重の増加 | 疲労 |
便秘 | 消化不良 |
溜まった腹水の対処法はいくつかありますが、症状の一時的な改善がほとんどです。
腹水は再発性の高い症状です。
腹水がたまる原因
腹水が溜まる原因には以下の3つがあります。
- アルブミンの低下
- 肝臓の血管障害
- 病気によるもの
それぞれの腹水が溜まる原因についてご紹介します。
アルブミンの低下
アルブミンの低下は、腹水が溜まる原因となります。
アルブミンとは、血液中のタンパク質のことです。
アルブミンの役割は、血管中の水分量の保持と余分な水分を血管に吸収することです。
アルブミン低下は腹水の吸収不良を来し、血管の水分が外へ滲みだして腹水になります。
肝硬変などによってアルブミンが正常に作られなくなると、腹水が溜まりやすくなります。
肝臓の血管障害
肝硬変で肝臓が硬くなると、肝臓へ血液を送る門脈が圧迫され肝臓内で血管障害(血圧の上昇)が起こります。
血管内圧が高くなると、不要になった腹水を血管に吸収することができなくなります。
腹水を吸収できずに圧の高い血管内から水分が外へ滲みだして腹水になります。
肝硬変はアルブミンの低下と血管障害の両方の原因が起こる代表的な疾患です。
病気によるもの
肝硬変のほかにも以下のような病気で腹水の貯留が起こります。
がん性腹膜炎 | 心不全 |
腎不全 | ウイルス性肝炎 |
膵炎 | 結核性腹膜炎 |
それぞれの原因についてご紹介します。
【がん性腹膜炎】
腹水が起こる原因の1つにがん性腹膜炎による「腹水の過剰産生」があります。
腹水の過剰産生は主に腹膜の炎症によって起こります。
がん性の腹膜炎は、がんがもとの部位から腹腔内へ転移したときに起こります。
肝臓がんや大腸がん、胃がんなどが進行して腹膜へ転移したがんを腹膜播種といいます。
腹膜播種は、がん性腹膜炎を起こします。
がん性腹膜炎があらわれたときは、がんが末期に近い状態のときです。
腹水の溜まりによる痛みや腸閉塞、水腎症などの合併症を起こします。
【心不全】
心不全の腹水は、漏出液で血管内圧の上昇が原因となって出現します。
心不全によって、静脈で血液が滞留します。
結果、血管内圧の上昇を招き、水分が浸み出て腹水が増えます。
【腎不全】
体の水分量は腎臓によって一定に保たれています。
腎不全の悪化で尿量が減ると体の水分量が増えて水分が滞留します。
お腹に滞留した水分は腹水となります。
【ウイルス性肝炎】
ウイルス性肝炎は、肝炎ウイルスによって肝機能障害を引き起こす病気です。
中でもC型肝炎は慢性化すると腹水の合併症を伴う肝硬変に進むことがあります。
【膵炎】
膵炎によって膵液が腹腔内に漏れ出して貯留する膵性腹水があります。
膵内で炎症が起こると活性化した膵酵素が血液や尿、腹水へと溢れだします。
【結核性腹膜炎】
結核性腹膜炎は細菌感染を伴う特発性細菌腹膜炎の1つです。
特発性細菌腹膜炎は結核や肝硬変、ネフローゼ症候群などに伴って発症します。
症状の1つに腹水貯留があります。
腹水になる原因について、さらに詳しく知りたい方は、こちらの記事も是非ご覧ください。
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腹水セルフチェックのコツ
腹水のセルフチェックのコツを以下に2点ご紹介します。
- 自覚症状の確認
- 腹水なのか脂肪なのかの見分け方
自覚症状の確認
腹水が溜まってくるとお腹が圧迫されて症状があらわれてきます。
セルフチェックで確認できる自覚症状は以下のようなものです。
原因 | 症状 |
胃の圧迫によるもの | 食欲不振 |
吐き気 | |
肺の圧迫によるもの | 息切れ |
血管圧迫による血液循環の悪化 | 足のむくみ |
腹水なのか脂肪なのかの見分け方
腹水なのか脂肪なのかのセルフチェックによる見分け方について以下3点ご紹介します。
- 内臓脂肪の場合
- 皮下脂肪の場合
- 腹水の場合
それぞれの特徴から見分ける方法をご紹介します。
内臓脂肪の場合
肥満体形をまずセルフチェックで内臓脂肪か皮下脂肪かに見分けます。
内臓脂肪は触診だけでは見分けづらいものです。
内臓脂肪は内部から膨らんでくるので以下のような特徴があります。
- 腹部が張る
- 皮膚には光沢がある
- お腹のふくらみは仰向けに寝ても横に流れず大きな変化がない
皮下脂肪の場合
皮下脂肪による肥満体形の特徴は以下のようなものです。
- 下腹部を中心としたたるみができる
- 内臓脂肪に比べやわらかい
- お腹のふくらみは仰向けに寝ると左右の横腹に流れる
- 起きているときに比べお腹のふくらみは減少する
腹水の場合
腹水の場合もお腹のふくらみは仰向けに寝ると皮下脂肪と同じく左右の横腹に流れます。
したがって、腹水と皮下脂肪のセルフチェックでの見分けは打診によります。
以下の2つの方法があります。
【腹水の波動のチェック】
片方の手のひらを脇腹に添え、反対側の脇腹を軽く叩きます。
添えていた手のひらに波動を感じた場合は腹水を疑います。
【打診音の違い】
仰向けに寝た状態で腹水があるときの打診音は
- 腹側で鼓音
- 脇腹で濁音
となります。
腹水が多量にある場合は、水の移動がないため打診音による聴取ができません。
打診音による聴取ができない場合は、圧迫によって浮腫を調べる方法を検討します。
腹水の治療方法
腹水の治療方法について以下4点を説明します。
- 受診する科
- 診断方法
- 治療方法
- 入院期間
受診する科
腹水が溜まっているかもしれないと思った場合は、まずは内科を受診しましょう。
腹水の診断は医師の診断、画像検査、腹水の分析と進んでいきます。
診断方法
腹水の診断には以下の3つがあります。
【医師の診断】
腹水が大量にある場合は腹部診察で診断がつくこともあります。
腹部を軽く打診すると鈍い音がしますが、少ない(約1Lに満たない)と検知できないこともあります。
【画像検査】
画像検査では超音波検査またはCT検査が行われることがあります。
【腹水の分析】
腹水の原因を分析するために腹壁に針を刺して腹水のサンプルを採取することがあります。
調べる内容は以下のようなものです。
腹水液の種類 | 色 |
にごり | 血液 |
細菌 | がん細胞の有無 |
治療方法
腹水の主な治療方法には以下のようなものがあります。
【安静にする】
- 肝臓に血液が入りやすくして腹水の産生を減らす(肝硬変の方など)
- 腎臓に血液が届きやすくなり余分な水分を尿で排出できる
【塩分制限】
塩分を摂りすぎると、血液中のナトリウム濃度を下げるために体は水分を溜めようとします。
利尿剤の効果を出すためには、塩分の制限が必要です。
塩分の制限は水分の制限にもつながりますが、症状によっては水分量の制限も必要です。
【利尿薬】
食事による効果が得られない場合、通常は利尿薬(サムスカなどのV2-受容体拮抗剤)を使います。
【腹水の排出】
症状が強い場合や腹水を急いで減らす場合は、お腹に針を刺して腹水を排出します。
お腹に針を刺して腹水を排出する方法を腹腔穿刺といいます。
腹水穿刺は以下のような目的で行います。
- 腹水治療の原因が特定できない腹水の分析・診断
- 抗がん剤の注入
- 腹水貯留による苦痛の緩和
腹水穿刺の適応は原因が特定できない腹水貯留と難治性腹水です。
腹水ろ過濃縮再静注法(KM-CART)を用いて、抜いた腹水の栄養分を体に戻すこともあります。
腹水の原因がアルブミンの不足である場合は、血液製剤のアルブミンの点滴を行います。
アルブミンの点滴には、使用日数制限があるので注意が必要です。
入院期間
腹水穿刺治療は、合併症を発症するリスクがあります。
したがって腹水穿刺は実施前、実施中、実施後も看護観察を必要とします。
腹水ろ過濃縮再静注法(KM-CART)では、入院期間は安全を診て2泊3日となっています。
治療法について、さらに詳しく知りたい方は、こちらの記事も是非ご覧ください。
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腹水になりやすいのはどんな人?
腹水になりやすい人はどんな人かについて以下の2点を説明します。
- 腹水を引き起こす代表的な病
- 遺伝的に腹水が溜まりやすい人
腹水を引き起こす代表的な病
腹水を引き起こす代表的な病気には以下のようなものがあります。
- 主に炎症が原因:がん性腹膜炎、細菌性腹膜炎、ウイルス性腹膜炎、膵炎
- 主に血管内圧の上昇やアルブミンの不足:肝硬変、心不全、腎不全
遺伝的に腹水が溜まりやすい人
腹水が溜まりやすい病気に遺伝性の疾患があります。
腹水が溜まる原因の1つに以下のような遺伝性のがんがあります。
卵巣がん | 子宮体がん |
乳がん乳がん | 大腸がん |
胃がん | 膵臓がん |
その他、腹水が溜まる病気の1つである腎不全も遺伝性の糖尿病を原因とする場合があります。
その中でも女性特有の腹水というものがあります。
下記では、女性特有の腹水について詳しく解説していますので、こちらの記事も合わせてお読みください。
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腹水予防のコツ
腹水を予防する1番のコツは、腹水の原因となる病気にならないことです。
腹水の代表的な病気の1つである肝硬変の場合は、以下のような予防があります。
- 過度な飲酒を控える
- 健康診断で肝機能の指摘があれば禁酒する
- 生活習慣病(肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症など)を治療・予防する
腹水の原因となるがんの予防についてもほぼ同様のことがいえます。
国立がん研究センターも「日本人のためのがん予防法」で以下のように提示しています。
- 喫煙はせず他人のタバコを避ける
- 飲むなら節度のある飲酒
- 偏らずバランスの取れた食事
- 日常生活を活動的に
- 体形は適正な範囲内に
- 肝炎ウイルス感染症検査やピロリ菌検査
出典:【がん予防法の提示 2017年8月1日改訂版 | 科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究 | 国立がん研究センター がん対策研究所】
腹水になったときのケアのポイント
腹水になったとき入院中にする治療の1つは安静と塩分制限です。
腹水は再発性が高いので、退院後も自宅で安静や塩分制限を続けましょう。
塩分制限は以下のようにします。
- 通常の場合 :1日の塩分は10gまで
- 腹水が溜まる人 :1日の塩分は8g以下
塩分を控えるためには以下のようなことを心がけましょう。
- 低塩調味料の使用
- みそ汁やラーメンなどの汁は残す
腹水がある時期の食事の摂り方について、詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
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腹水が溜まるのは末期癌の証拠?
腹水が溜まるのは末期癌の証拠なのか以下の2点について説明します。
- 末期がんと腹水の関係
- 末期がんのその他の症状
末期癌と腹水の関係
がんの進行と腹水には関係があります。
腹水が起こる原因の1つに「腹水の過剰産生」があり、腹膜の炎症によって起こります。
がん性の腹膜炎は、がんがもとの部位から腹膜内へ転移した時に起こります。
肝臓がんや大腸がん、胃がんなどが進行して転移したがんを腹膜播種といいます。
腹膜播種は手術療法では完全に取り除くことができません。
がん性腹膜炎になると、炎症を抑えるために腹水が過剰に産生されることになります。
がん性腹膜炎があらわれたときは、がんが末期に近い状態のときです。
末期癌のその他の症状
末期がんになると腹水以外にも以下のような症状があらわれます。
癌性疼痛 | 胸水 |
浮腫 | 黄疸(肝) |
吐き気 | 嘔吐 |
吐血 | 腸閉塞 |
体重減少と疲労 | リンパ節の腫れ |
がんの進行と腹水貯蓄の関係について、さらに詳しく知りたい方は、是非ご覧ください。
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TIL療法について
TIL(腫瘍内浸潤リンパ球)療法は免疫細胞療法の1つです。
TIL療法は標準的ながん治療に加えて行う治療法で、腹水を利用します。
TIL療法は自分の体内にある免疫力を持つ細胞を活用し、がん細胞を攻撃する治療法です。
TILは他の免疫細胞に比べがんを確実に捉えて攻撃力も高いと考えられています。
TILは体内から取り出した腹水から免疫細胞を分離し、体外で増殖・活性化させます。
体外で増殖・活性化させた免疫細胞を再度体内へ戻しがんと闘わせるのです。
自身の免疫細胞を利用するTIL療法には以下のようなメリットがあります。
外来での治療が可能 | 患者の生活の質(QOL)の改善 |
がんの状態に関わらず治療が可能 | 転移や再発予防に効果 |
痛みの緩和 | 副作用が少ない |
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腹水セルフチェックのまとめ
ここまで腹水セルフチェックについてお伝えしてきました。
腹水セルフチェックについての要点を以下にまとめます。
- 腹水が溜まる原因にはアルブミンの低下、肝臓の血管障害、肝硬変やがんなどの病気によるものがある
- 腹水セルフチェックには特徴的な自覚症状の確認と腹水か脂肪なのかの見分け方がある
- 腹水の治療方法には安静、塩分制限、利尿薬による排出、腹腔穿刺による排出がある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。