嚥下障害は重大な病気のサインの可能性があります。
病気を見逃さないためにも、嚥下に関して不調がある場合は、病院で検査を受けましょう。
嚥下に問題がある場合は、嚥下造影検査が行われることが一般的です。
嚥下造影検査とは、どのような検査なのでしょうか。
本記事では、嚥下造影検査について、以下の点を中心にご紹介します。
- 嚥下造影検査とは
- 嚥下造影検査の対象となる疾患
- 嚥下造影検査の費用
嚥下造影検査について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
嚥下とは
嚥下とは、飲食物や唾液を飲み下す動作のことです。
嚥下の動作は、次の5段階によって成り立ちます。
先行期 | 目の前の食べ物を目・鼻などで「食べ物」として認識し、口に運ぶ段階 |
準備期 | 先行期で口に入れた食べ物をかみ砕き、食塊(かたまり)にする段階 |
口腔期 | 準備期でできた食塊を舌を使って喉の奥に運ぶ段階 |
咽頭期 | 「嚥下反射」という機能によって食塊が咽頭を通過し、食道に入る段階 |
食道期 | 食塊が食道から胃へ運ばれる段階 |
咽頭期の「嚥下反射」とは、咽頭蓋が下がる反射運動を指します。
咽頭蓋とは、気管の入り口を塞ぐ蓋のような器官です。
嚥下時に咽頭蓋が下がることで、食塊が食道を外れて気管に入るリスクが低くなります。
反対に、嚥下反射がうまく機能しなければ、食塊が気管に入りやすくなります。
食塊が誤って気管に入ることは「誤嚥」と呼ばれています。
誤嚥は誤嚥性肺炎という肺炎に発展することもあります。
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嚥下造影検査の目的
嚥下造影検査とは、飲食物を飲み下す際の過程・状態を調べるための検査です。
検査の目的は、嚥下に支障がないかを見極めることです。
たとえば嚥下に問題がある場合は、誤嚥性肺炎のリスクが高くなります。
誤嚥性肺炎は、高齢者にとっては命を落とす可能性のある病気です。
誤嚥性肺炎などを防ぐために、嚥下造影検査を行い、嚥下の状態を把握しておくというわけです。
嚥下造影検査の対象となるのは、嚥下に問題が生じている方です。
たとえば次のような症状がある場合は、嚥下造影検査の対象となります。
- 食事中によくむせたり、咳が出たりする
- 飲食物が誤って気管に入ることが多い
- 唾液が飲み下せず、口中に溜まっていることが多い
- 食べ物や胃液が喉元まで逆流する
- 食べるのが極端に遅くなった
- 食後に痰が出る
私たちは、食事をするとき、無意識に咀嚼しています。咀嚼には、食べ物をかみ砕くこと以外にも、私たちの健康を守るためのさまざまな役割があります。咀嚼の役割や重要性は、どのようなものなのでしょうか。本記事では咀嚼について以下の[…]
嚥下造影検査が必要な疾患
嚥下造影検査は、嚥下障害を伴う疾患がある方に実施されることが一般的です。
嚥下障害とは、飲食物をうまく飲み込めない状態を指します。
たとえば以下のような疾患の方は、嚥下障害のリスクが高くなります。
そのため、嚥下造影検査が行われることがあります。
脳梗塞
脳梗塞は嚥下障害の代表的な原因です。
脳梗塞とは、脳の血管が詰まったり塞がったりする状態です。
脳血管が詰まった先へは血流が流れなくなるため、脳細胞が壊死していきます。
脳細胞が壊死すると、その部位が司る脳機能は失われます。
結果として、身体のさまざまな機能に支障があらわれやすくなります。
たとえばのどの筋肉を司る脳細胞が壊死すると、嚥下障害があらわれやすくなります。
脳出血
脳出血は脳血管が破れて出血を起こす状態です。
血管が破れた部位から先へは血流が流れなくなるため、脳細胞が酸欠を起こして壊死していきます。
脳出血は、脳梗塞と並んで嚥下障害の代表的な原因です。
急性期の脳梗塞・脳出血では、約30%の確率で嚥下障害が出るとも指摘されています。
くも膜下出血
くも膜下出血は、脳を覆う「くも膜」の下の血管が破れて出血することです。
脳出血の1種と考えられています。
くも膜下出血が起こると、脳にある隙間の中に血液が溜まります。
あるいは、出血によって血液が少なくなることで、脳への血流が途絶えることもあります。
いずれも脳細胞に甚大なダメージを与えるため、脳機能が停止しやすくなります。
結果として、嚥下障害をはじめさまざまな身体的不調があらわれやすくなります。
パーキンソン病
パーキンソン病は、脳の異常によって全身の筋肉が動かしづらくなる病気です。
のどの筋肉の動きにも支障がでやすくなるため、嚥下障害のリスクが高まります。
パーキンソン病のその他の症状には、たとえば以下があります。
- 手足の震え
- 筋肉の固縮
- 歩行障害
- 動作がゆっくりになる
認知症
認知症とは、脳の萎縮によって脳機能が著しく低下する状態です。
認知症も嚥下障害の主な原因の1つです。
たとえば喉の筋肉を司る部位の脳細胞が損傷すると、嚥下障害が起こりやすくなります。
なお、認知症の方は嚥下機能に問題はなくとも、食事が困難になる場合があります。
食事が困難になる理由としては次が代表的です。
- 視覚・嗅覚の低下により、食べ物を食べ物として認識できない
- 食事中にすぐ注意が他にそれてしまい、食事を続行できない
- 箸やスプーンなどを口にうまく運べない
- 口に入れたものを食べ物として認識できず、ずっと口の中に溜めておく
食事を摂るのが難しい現象は、まとめて摂食嚥下障害と呼ばれます。
嚥下摂食障害の症状の種類・程度は個人によって異なります。
脳性麻痺
脳性麻痺とは、胎児または出生児の脳がなんらかの原因で損傷することです。
脳性麻痺が起こると、全身の運動機能に生涯にわたって障害が残ります。
たとえばのどの筋肉が異常に緊張しやすくなるため、食道や気道が狭窄することがあります。
食道や気道が狭くなると、ものを飲み下しにくくなります。
つまり嚥下障害が起こりやすくなるというわけです。
咽頭・喉頭・食道がん
咽喉頭がんや食道がんも嚥下障害の代表的な原因です。
咽喉頭・食道にがんができると、飲食物を飲み込むときに腫瘍とこすれます。
すると飲食物がスムーズに喉を通りにくくなるため、誤嚥が起こりやすくなるのです。
嚥下障害ではありませんが、がん治療の副作用によって食欲が減退し、食事が摂れなくなることもあります。
その他
その他の嚥下障害の原因には、たとえば以下があります。
- 加齢
- うつ病
- 喉の外傷
- 先天的な器質異常(口蓋裂)
- 薬剤の副作用
もっとも代表的な原因は加齢です。
歳を重ねると全身の筋力が低下するため、喉の筋肉も弱くなります。
ものを飲み込む力が弱くなるため、誤嚥などの摂食障害が起こりやすくなるのです。
嚥下造影検査の流れ|検査方法
嚥下造影検査とは、X線を当てながら、バリウムでできた飲食物を飲む検査です。
実際に飲食物が喉を通る状態をレントゲンで確認することで、嚥下の状態などを確認します。
嚥下造影検査を行うのは放射線科が一般的です。
多くの場合、嚥下造影検査はレントゲン透視室で行われます。
つまり嚥下造影検査を希望する場合は、放射線科やレントゲン透視室を備えた病院を受診する必要があります。
嚥下造影検査には、次のようなスタッフが関わることが一般的です。
医師 | 検査の流れの指示・評価・方針の決定など、検査全体を指揮する |
看護師 | 検査時の食事介助や誤嚥時の吸引 |
放射線技師 | X線をコントロールして被ばくを低減させる |
管理栄養士 | 検査用の食事の準備・介助 |
言語聴覚士 | 医師とともに、検査の方針・流れ・評価の決定などを行う |
検査中は、椅子などに座って、提供された食事を飲食することが一般的です。
提供されるのは、通常の食事・バリウムでできた疑似食品・ゼリーなどです。
食事をしている最中はX線が照射されます。
撮影されたレントゲンは、ビデオなどに記録されることもあります。
検査後は記録された映像を元に、喉の腫瘍の有無や嚥下の状態などの分析を行います。
検査に際して準備しておくべきものは、病院や医師によって異なるため、必ず事前に確認してください。
特に指示がない場合は、食事に備えてタオル・ティッシュ・エプロンなどを用意しておきましょう。
検査前の食事の是非についても、病院などによって方針が異なります。
軽食は許可されている場合が多いですが、詳細は医師に確認してください。
嚥下造影検査の所要時間は15~30分が平均的です。
嚥下造影検査の危険性|何%の確率で発生する?
嚥下造影検査にはリスクが伴います。
代表的なリスクは次の通りです。
誤嚥性肺炎
検査のための食事で誤嚥を起こし、その後肺炎に発展する可能性があります。
ただし、多くの病院では、検査中に誤嚥が起こった場合は、ただちに看護師が吸引を行います。
そのため、誤嚥から誤嚥性肺炎に発展する確率は低いといえます。
ただし、適切な処置を行っても誤嚥性肺炎が起こる確率はゼロではありません。
消化器系への影響
嚥下造影検査で使用するバリウムにはヨードが含まれます。
体質などによっては、ヨードを摂取することで消化器系に不調があらわれることがあります。
代表的な症状は次の通りです。
- 下痢
- 腹痛
- 腹部の不快感
- 便秘
造影剤アレルギー
バリウムに含まれるヨードに反応して、アレルギー症状が出ることがあります。
具体的な症状は次の通りです。
- 吐き気・嘔吐
- かゆみ
- 蕁麻疹
- 発熱
- 喘息
- アナフィラキシーショック
造影剤アレルギーによって副作用があらわれる確率は、0.1~5%ほどと指摘されています。
放射線による被爆
嚥下造影検査はX線を用いる検査であるため、微量の被爆が起こることがあります。
なお、嚥下造影検査における放射線被曝量は約15mGyです。
放射線障害が起こる放射線被曝量は個人によって差があります。
一般的には、重大な放射線障害が起こるのは100mGyからと考えられています。
嚥下造影検査で用いる放射線は基準値の量を大きく下回ります。
つまり、嚥下造影検査による放射線障害のリスクは極めて低いと考えられています。
しかし場合によっては、嚥下造影検査によって次のような被爆症状があらわれることもあります。
- 皮膚障害
- 血液の病気(白血病)
- 倦怠感
- がん
嚥下造影検査の費用
嚥下造影検査の費用は、病院・入院の有無などによって異なります。
今回は、費用の相場をご紹介します。
外来
外来で嚥下造影検査を受けるときの費用相場は次の通りです。
【保険の負担割合別】
- 1割負担:1660円
- 2割負担:3310円
- 3割負担:4970円
病院によっては、提供する食事代・投薬代などの追加費用が発生することがあります。
入院
嚥下造影検査では入院が必要になる場合もあります。
入院期間は病院や個人の状態などによって異なります。
検査費用も入院期間などに応じて変動することが一般的です。
入院すると、検査料金以外に食事代・ベッド代などが発生するためです。
入院を伴う嚥下造影検査の検査費用の例は次の通りです。
【2泊3日の場合/保険の負担割合別】
- 1割負担:1万5000円
- 2割負担:2万5000円
- 3割負担:3万5000円
嚥下造影検査の代替|嚥下内視鏡検査
体質などによっては、嚥下造影検査を受けられない場合もあります。
たとえばヨードアレルギーがある方が代表的です。
嚥下造影検査が実施できない場合は、かわりに嚥下内視鏡検査が行われることがあります。
嚥下内視鏡検査とは、細い管につけた小型カメラを鼻から喉に通す検査方法です。
嚥下内視鏡検査のメリット・デメリットをご紹介します。
メリット
嚥下内視鏡検査のメリットは次の通りです。
- 放射線を用いないため、妊娠中の方などでも利用できる
- 造影剤を用いないため、ヨードのアレルギー症状が起きない
- 耳鼻咽喉科などの外来で手軽に受けられる
- 咽頭がんなどの有無を確認できる
デメリット
嚥下内視鏡検査のデメリットは次の通りです。
- 嚥下の瞬間を直接観察できない
- 小型カメラを飲み込むときに吐き気・痛み・鼻血が出る場合がある
- 施術者に高度な技術が必要
- 痛みがある場合は麻酔が必要になる
- 小型カメラの誤嚥
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嚥下障害の原因疾患の割合
厚生労働省の発表によると、肺炎患者の多くは75歳以上の高齢者です。
入院中の肺炎症例のうち、7割は誤嚥性肺炎が占めています。
誤嚥性肺炎の原因の多くは誤嚥などの嚥下障害です。
ちなみに、嚥下障害は次のような疾患が原因で起こりやすくなります。
割合(%) | |
脳梗塞 | 39.1 |
脳出血 | 12.2 |
くも膜下出血 | 5.1 |
パーキンソン病 | 4.9 |
アルツハイマー病 | 2.6 |
嚥下障害の原因疾患の6割は脳血管障害が占めています。
具体的には、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血が該当します。
出典:厚生労働省【2.高齢化に伴い増加する疾患への対応について】
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嚥下痛・嚥下障害を放置すると危険!隠された病気
嚥下障害は重大な疾患の症状としてあらわれることもあります。
つまり嚥下障害の放置は、重大な疾患を見過ごすことにつながりかねません。
たとえば次のような疾患は嚥下障害を伴うことが多く、放置すると命を落とす可能性があります。
病態 | 嚥下障害以外の主な症状 | |
急性喉頭蓋炎 | 喉頭蓋に炎症が起こる | 声がかすれる・痰・咳・喉の痛み・発熱・呼吸困難 |
悪性腫瘍・咽頭がん・口腔がん | 口腔・咽頭に悪性の腫瘍ができる | 声がかすれる・痰・咳・喉の痛み・口を開きづらい・しこり |
扁桃周囲膿瘍 | 扁桃腺・胸部などの炎症が深刻化して膿がたまる | 喉から耳にかけて激しい痛み・高熱・リンパ節の腫れ・口臭・よだれ |
重大な病気を見逃さないためにも、嚥下に関して不安な症状がある場合は、念のため病院で検査を受けましょう。
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嚥下造影検査のまとめ
ここまで、嚥下造影検査についてお伝えしてきました。
嚥下造影検査の要点を以下にまとめます。
- 嚥下造影検査とは、レントゲンをあてながらバリウムなどを飲んで、嚥下時の喉の動きなどを確認する検査
- 嚥下造影検査の対象となる疾患は、脳血管障害・パーキンソン病・咽喉頭や食道のがん
- 嚥下造影検査の費用は個人によって異なるが、外来であれば1600~5000円が相場
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。