高齢になると嚥下機能が低下して食事中にむせたりします。
嚥下反射機能の低下が食事中にむせたりする原因です。
嚥下反射のメカニズムはどうなっているのでしょうか?
嚥下反射が弱まるとどうなるのでしょうか?
本記事では嚥下反射について以下の点を中心にご紹介します。
- 嚥下反射のメカニズムについて
- 嚥下反射が弱まる原因について
- 高齢者の嚥下反射について
嚥下反射について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
嚥下とは
嚥下とは⼝で飲⾷物を咀嚼したのち、飲み込み、胃まで送り込む⼀連の動作を⾔います。
嚥下は⼝、咽頭、喉頭の器官の筋⾁や神経を連携して使って出来る動作です。
食べ物を口に入れてから嚥下するまでの過程は以下の5段階に分けられます。
- 先行期
- 準備期
- 口腔期
- 咽頭期
- 食道期
嚥下にかかわる器官の機能が阻害されることは、
- ⼈間が⽣きるための「栄養をとる」ことが 阻害される
- ⼈間として感じる⼤事な「飲⾷の楽しみ」が阻害される
ことになります。
嚥下は体や精神⾯の健康にとって極めて重要なことと言えます。
以下の記事では嚥下障害について詳しく解説しております。
よろしければご覧ください。
スポンサーリンク
嚥下反射のメカニズムを簡単に解説
嚥下反射のメカニズムについて以下の3点を説明します。
- 嚥下反射は咽頭期に起こる
- 嚥下反射は舌咽神経と迷走神経によって起こる
- 嚥下反射のプロセス
嚥下反射は咽頭期に起こる
嚥下反射は食べ物を口に入れてから嚥下するまでの咽頭期の段階で起こります。
食べ物は嚥下反射と言う機能を使って食道へ送り込まれます。
嚥下反射は食塊が気管へ入らないようにする大変重要な機能です。
嚥下反射は喉の喉頭蓋が下がって気管の入り口に蓋をして食塊が入らないようにします。
尚、食べ物が咽頭を通過するときは誤嚥を防ぐために呼吸は一時的に制御されます。
咽頭期の段階で生じる嚥下性無呼吸と言い、嚥下後は呼吸から再開されます。
嚥下反射は舌咽神経と迷走神経によって起こる
嚥下反射にかかわる神経は舌咽神経と迷走神経です。
舌咽神経と迷走神経には以下のような働きがあります。
- 舌咽神経:舌のつけ根と咽頭の運動と感覚をつかさどる
- 迷走神経:咽頭・声帯・食道の運動と感覚をつかさどる
咽頭期には舌咽神経と迷走神経がかかわって嚥下反射の複雑な動きを制御しています。
各段階にかかわっている神経をまとめると以下のようになります。
- 準備期:三叉神経、顔面神経
- 口腔期:舌下神経、三叉神経、顔面神経
- 咽頭期:舌咽神経、迷走神経
- 食道期:迷走神経、アウエルバッハ神経叢
嚥下反射のプロセス
嚥下反射は以下のようなプロセスで起こり、食塊を咽頭から食道まで送ります。
咽頭を挙上する
食塊が咽頭を通って食道へ向かうとき舌骨がもっとも挙上し、連動して喉頭が挙上します。
喉頭挙上という動作です。
舌口蓋を閉鎖する
食塊を咽頭へ送るのに重要なのが舌を挙上し口蓋へつけることです。
舌の口蓋への挙上が不十分だと咽頭への送り込みがうまくいきません。
咽頭への送り込みがうまくいかないと食物が口腔内に残ることになります。
鼻咽腔を閉鎖する
食塊が咽頭へ送られるとき鼻咽腔は軟口蓋で遮断されます。
鼻咽腔の遮断が不十分だと、食物や水分の鼻腔への逆流が起こります。
咽頭蓋を下げて気管の入口を塞ぐ
舌口蓋の閉鎖で喉頭の挙上が起こることで喉頭蓋が倒れて気管の入り口に蓋をします。
喉頭閉鎖という動作です。
喉頭が上前方へ挙上し、喉頭後方の食道入り口が開きます。
食道入り口が開いたところへ食塊が押し込まれます。
喉頭挙上が不十分だと、食道入り口の開き具合が不十分(食道入口開大不全)となります。
食道入り口の開き具合が不十分で食塊の一部が気管へ侵入することを誤嚥と言います。
嚥下するときは呼吸が止まる
嚥下するときは鼻咽腔が遮断され呼吸は止まっています。
食道括約筋を緩めて食べ物を食道へ送る
食道入り口に押し込まれた食塊は食道括約筋の弛緩で食道へ送られます。
食塊が食道へ送られ胃へと向かうと鼻咽腔の遮断が解かれ呼吸が再開されます。
私たちは、食事をするとき、無意識に咀嚼しています。咀嚼には、食べ物をかみ砕くこと以外にも、私たちの健康を守るためのさまざまな役割があります。咀嚼の役割や重要性は、どのようなものなのでしょうか。本記事では咀嚼について以下の[…]
嚥下反射が障害されたらどうなる?
嚥下反射が障害されると以下のような様々な症状が起こります。
それぞれの症状についてご紹介します。
誤嚥しやすくなる
嚥下反射が障害されると食べ物が食道ではなく気管へ入り誤嚥を起こしやすくなります。
誤嚥で最もよく見られる症状は
- 飲み込みにくい
- むせる
といったものです。
特にむせ込みは気道に食べ物や水分が入りそうなときに防御反応として起こります。
むせ込みの防御反応は健康な人にも起こります。
しかし、食事をしているときに日常的にむせ込みが起こる場合は嚥下障害が疑われます。
日常的に誤嚥しやすくなっていることは嚥下反射の機能低下によるものと判断されます。
嚥下の後に声がガラガラになる
嚥下の後に声がガラガラになることがあります。
嚥下の後にガラガラ声になる原因は嚥下反射の障害によるものです。
嚥下のときに喉頭の方へ入った食べ物や唾液が声帯の上に残ってしまうのが原因です。
声帯に残った食べ物や唾液が原因で、うがいをしているようながらがら声になるのです。
痰が絡む
嚥下反射が障害されると、食後に痰がからむような感じになることもあります。
痰が絡む感じになるのは、呑み込み力が弱くなって喉に食べ物が残るためです。
食後に胸焼けを感じる
嚥下反射が障害されると、食後に胸焼けを感じることもあります。
食べ物は飲み込む瞬間に胃の入り口の筋肉が緩んで食道から胃へ送り込まれます。
加齢などで胃の入り口の筋肉の力が弱くなると胃から食べ物が逆流することがあります。
食べ物が食道へ逆流すると強い胃酸で食道が炎症を起こしむかむかする症状を起こします。
食が進まず痩せる
嚥下反射が障害されると食が進まずやせる現象が起こります。
嚥下反射に障害があると
- 飲み込む力が弱くなるので食べ物を口に入れる量が少なくなる
- 喉に食べ物が残った感じがして食事の時間がかかる
などから、結果的に食事量が減り栄養が十分とれなくなるからです。
嚥下反射が弱まる原因5選
嚥下反射が弱まる原因を以下に5つ挙げます。
- 加齢による筋力低下
- 脳血管障害による麻痺
- 神経筋疾患
- 心理的な原因
- 医原性の原因
それぞれの原因についてご紹介します。
加齢による筋力低下
嚥下反射が弱まる主な原因に加齢による筋力低下があります。
加齢による摂食嚥下機能の低下と影響には以下のようなものがあります。
- 喉頭を吊りあげている筋力の減少で喉頭挙上障害になる
- 食道の入り口の括約筋の機能低下で喉頭閉鎖不全になる
- 咽頭収縮筋の収縮力低下で咽頭に唾液や食べ物が残留する
いずれも摂食嚥下機能にかかわる筋力が加齢によって低下することで起こる影響です。
喉頭挙上や喉頭閉鎖が不十分なことや咽頭での食べ物の残留は誤嚥リスクを高めます。
脳血管障害による麻痺
嚥下反射が弱まる原因疾患に脳梗塞や脳出血などの脳血管障害があります。
脳血管障害の後遺症によって嚥下にかかわる筋肉を動かす神経が麻痺することが原因です。
脳血管障害の麻痺で起こる嚥下障害の症状として以下のようなことがあります。
- 口唇が十分に閉じないため食べ物がこぼれ落ちる
- 舌をうまく動かせない
- 喉頭をうまく動かせない
神経筋疾患
嚥下反射が弱まる原因疾患には以下のような神経筋疾患があります。
- 筋委縮性側索硬化症(ALS)
- パーキンソン病
運動ニューロン疾患であるALSでは以下のような嚥下障害が起こります。
- 舌圧の低下
- 咽頭反射の遅れ
- 上食道括約筋の弛緩不全
また、ドーパミン不足が原因のパーキンソン病では運動にかかわる働きが低下します。
運動にかかわる働きには口の中や咽頭筋の動きにも影響を与えます。
心理的な原因
心理的な原因で嚥下反射がうまくいかないことがあります。
心理的原因となる疾患は、神経性食欲不振症や認知症、うつ病などです。
心理的な原因で起こる嚥下困難の症状には以下のような特徴があります。
- 喉に異物感はあるが食べ物摂取時の嚥下困難はない
- 唾液を飲み込むときの異物感が強い
つまり、心理的な原因の場合は、異物感はあるが嚥下には問題がないことです。
医原性の原因
嚥下反射が弱まる医原性の原因には以下のようなものがあります。
- 薬剤の副作用
- 経管栄養チューブの影響
- 術後の合併症
それぞれの原因についてご紹介します。
【薬剤の副作用】
薬の副作用で起こる嚥下障害は「薬剤性摂食嚥下障害」と呼びます。
薬剤性摂食嚥下障害では
- 食事中の眠気
- 動作緩慢、誤嚥、むせ込み
- 口腔内乾燥、よだれ、飲み込めない
などの症状があらわれます。
【経管栄養チューブの影響】
経管栄養チューブを留置した状態では以下のような誤嚥のリスクがあります。
- 嚥下反射の遅れ
- チューブ周囲に付着した残留物の誤嚥
【術後の合併症】
術後の合併症は、嚥下にかかわる筋や神経が手術操作によってダメージを受けることで起こります。
新生児の嚥下反射
新生児の嚥下反射について以下の2点を説明します。
- 新生児は呼吸を止めずに嚥下できる
- 赤ちゃんの摂食嚥下障害の原因となる基礎疾患
新生児は呼吸を止めずに嚥下できる
新生児は呼吸を止めずに嚥下できます。
呼吸を止めずに嚥下できる新生児期と離乳開始期を比べると以下のようになります。
【咽頭の構造的発達と嚥下機能の発達】
新生児期 | 離乳開始期 | |
口蓋垂と喉頭蓋の距離 | 近い | 遠い |
中咽頭 | 狭い | 広い |
呼気と飲食物の通り道 | 交差しない | 交差する |
新生児は中咽頭部が狭いために母乳やミルクの流路が気道と交差しません。
母乳やミルクの流路が気道と交差しないので呼吸を止めずに嚥下することができるのです。
赤ちゃんの摂食嚥下障害の原因となる基礎疾患
赤ちゃんの摂食嚥下障害の原因となる基礎疾患を以下に挙げます。
口腔から食道までの器官の奇形
口腔から食道までの器官の奇形は摂食嚥下障害を起こす構造異常になります。
例えば、口腔、あご、咽頭、食道などの構造異常で先天的奇形に類するものです。
口腔から食道までにできる腫瘍
口腔、あご、咽頭、食道などにできる腫瘍も摂食嚥下障害を起こす構造異常になります。
脳性麻痺
脳性麻痺は摂食嚥下障害を起こす神経障害です。
脳性麻痺は神経障害のうちの中枢神経系の障害です。
精神発達遅滞
精神発達遅滞は脳性麻痺と同じく神経障害のうちの中枢神経系の障害です。
球麻痺
球麻痺は神経障害のうちの末梢神経の障害です。
染色体異常
染色体異常も原因の1つと見られる先天性核上性球麻痺は咽頭喉頭部の運動障害を起こします。
脳血管障害
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害は摂食嚥下障害の原因となる基礎疾患です。
筋ジストロフィー
筋ジストロフィーは摂食嚥下にかかわる筋系の障害です。
高齢者の嚥下反射
高齢者の嚥下障害について以下の3つを説明します。
- 高齢者では嚥下反射惹起遅延がみられる
- 加齢による嚥下反射機能の影響は個人差が大きい
- 高齢者で嚥下反射が減弱する原因
高齢者では嚥下反射惹起遅延が見られる
高齢者では嚥下反射惹起遅延が見られます。
嚥下反射惹起遅延が起こると食塊の流入に喉頭閉鎖が間に合わず誤嚥の原因となります。
高齢者の嚥下反射の惹起遅延の原因は
- 末梢受容器の加齢による衰え・委縮
- 神経伝導速度の低下
- 中枢神経系の加齢による衰え
などが挙げられます。
加齢による嚥下反射機能の影響は個人差が大きい
加齢による嚥下反射機能の影響は個人差が大きく、皆に同様に起こるわけではありません。
さらに、高齢者には嚥下機能にかかわる疾患や背景も複雑に影響します。
したがって、加齢の変化だけでは容易に説明がつかない場合もあります。
高齢者で嚥下反射が減弱する原因
高齢者で嚥下反射が減弱する原因には以下のようなものがあります。
咽頭を吊り上げる筋肉が減り咽頭が下がる
加齢に伴う嚥下機能の変化の1つに安静時の喉頭の位置の下降があります。
喉頭の位置が下がるのは加齢によって喉頭を吊り上げている筋肉の減少が原因です。
筋肉の減少によって起こる症状を喉頭挙上障害と言います。
食道入口の括約筋機能が低下する
食塊は咽頭から食道へ送り込まれると食道入り口部が一過性に開いて食塊を受け入れます。
括約筋の機能低下が起こると食道入口部開大不全や喉頭閉鎖不全が起こります。
食道入口部開大不全や喉頭閉鎖不全は誤嚥を起こす原因となります。
咽頭収縮筋の収縮力が低下する
咽頭収縮筋の収縮力の低下は咽頭に唾液や食べ物が残留する原因となります。
誤嚥のリスクは咽頭に唾液や食べ物が残留することで高まります。
薬物代謝が低下して副作用が生じやすくなる
高齢者では薬物代謝が低下して不随意運動などの副作用が生じることがあります。
不随意運動などの副作用によって嚥下反射機能が障害されることに注意が必要です。
抗精神病薬や抗パーキンソン薬は注意すべき代表的な薬です。
嚥下反射を維持する方法7選
嚥下反射を維持する方法7選を以下にご紹介します。
嚥下体操をする
嚥下体操は嚥下を行いやすくするために行う体操です。
嚥下にかかわる部位(首、肩、胸郭、口腔器官)の運動を毎食前1セット実施しましょう。
体操1セットは以下のようなことを行います。
- 深呼吸(腹式呼吸の要領で)
- 首を回す
- 首を左右に倒す
- 肩の上げ下げ
- 両手を挙げて軽く背伸び
- 頬を膨らませたりすぼめたり(2~3回繰り返す)
- 舌で左右の口角を触れる(2~3回繰り返す)
- 息が喉に当たるように強く吸って止め、三つ数えて吐く
- 「パパパ、ラララ、カカカカ」とゆっくり言う
- 深呼吸を数回繰り返す
肩や首周りのストレッチをする
肩や首、胸郭のストレッチをします。
筋肉をリラックスさせ、関節の可動域を広げて嚥下反射の妨げにならないようにします。
以下のようなストレッチを行います。
- 深呼吸をしながら首を左右に8回程度傾ける
- 首をすぼめるようにして、肩を上げて、すとんと落とす
- 両腕を上げて、背筋を伸ばし左右に倒す
食前に唾液腺マッサージをする
食前に以下のような唾液腺のマッサージを行います。
【耳下腺へのマッサージ】
親指を除く4本の指で頬にあて後ろから前に向かってまわします。
頬にあてる位置は上の奥歯のあたりです。
【顎下腺のマッサージ】
親指で顎の内側のやわらかい部分を耳の下から顎の下まで8ヵ所くらい順番に押します。
【舌下腺へのマッサージ】
両手の親指をそろえて、顎の真下から舌を突き上げるようにゆっくりグーと押します。
姿勢をただす
食事するときの姿勢は嚥下反射に影響があります。
椅子に座ったときの最も嚥下しやすいのは以下のような姿勢です。
- 体幹はほぼ垂直
- 頭部はやや前傾
反対に浅く座って体幹が後ろに傾いたり前頚部が伸びるような姿勢はよくありません。
喉頭の動きが制限されるような姿勢はスムーズな嚥下反射を妨げることになります。
笑顔を作り、よく笑う
笑顔を作り、よく笑う人ほど嚥下機能の低下を防ぎ嚥下反射を維持することができます。
笑う動作は口腔ケアの体操と同じ役割を果たすからです。
口や舌、喉など嚥下に必要な筋肉トレーニングになります。
おしゃべりをする
おしゃべりをすることは嚥下反射の機能維持に役立ちます。
嚥下とおしゃべりすることは、どちらも体の同じ部位を使う行為です。
よくおしゃべりをすれば口や舌、喉を多く使うので嚥下機能の維持にもつながります。
リハビリで早口言葉やパタカラ体操をするのも嚥下機能維持の狙いがあります。
歌を歌う
歌を歌うことも嚥下反射維持に役に立ちます。
大きな口を開けて歌を歌えば、唇や舌、口周りの筋肉も大きく動きます。
唇や舌、口周りの筋肉は嚥下にかかわる筋肉と同じで食べ物を飲み込む力が強化されます。
スポンサーリンク
嚥下反射のまとめ
ここまで嚥下反射についてお伝えしてきました。
嚥下反射についての要点を以下にまとめます。
- 嚥下反射は咽頭期に舌咽神経と迷走神経がかかわり喉頭挙上、喉頭閉鎖、食道入口開大などが起こる嚥下機能
- 嚥下反射は加齢による筋力低下、脳血管障害の麻痺、神経筋疾患、心理的・医原性原因で弱まる
- 高齢者には嚥下反射惹起遅延、喉頭挙上障害、食道入口部開大不全、喉頭閉鎖不全などが見られるが加齢による影響は個人差が大きい
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。