嚥下評価は、全身状態の評価と摂食・嚥下機能を段階的に評価する検査です。
また、嚥下スクリーニング検査により、嚥下障害の度合いが判明します。
嚥下評価には、どのような検査があるのでしょうか?
嚥下スクリーニング検査には、どのような評価基準があるのでしょうか?
本記事では、嚥下評価について以下の点を中心にご紹介します。
- 嚥下評価の概要について知りたい
- 嚥下スクリーニング検査の種類について知りたい
- 嚥下障害ごとの嚥下食の種類について知りたい
嚥下評価について、理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
嚥下評価とは
嚥下評価とは、スクリーニングを通して、摂食・嚥下機能を段階的に評価する検査です。
例えば、検査中の反応である「むせこみの有無、呼吸状態、食事の残留感」などから、嚥下機能の評価をしていきます。
嚥下障害になると食べ物が食べにくくなります。食べ物が食べにくくなり、食欲も低下し、栄養が不足していきます。そもそも嚥下障害とはどのような障害なのでしょうか?嚥下障害にはどのような治療方法があるのでしょうか?本記事では[…]
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嚥下評価をするための検査
嚥下評価の一貫として、嚥下スクリーニング検査、精密検査などが実施されます。
はじめに、それぞれの検査についてみていきましょう。
嚥下スクリーニング検査
嚥下スクリーニング検査とは、食事に関する口・咽喉の動きを診察し、簡易的な検査を受けてもらい、摂食嚥下障害の疑いがある人を絞り込んでいくものです。
嚥下スクリーニング検査の種類については、以下のとおりです。
- 反復唾液嚥下テスト
- 水飲みテスト(窪田式)
- 改訂水飲みテスト
- フードテスト
- 頸部聴診法
- ガムテスト
1つずつ解説していきますので、参考にしてください。
反復唾液嚥下テスト
なんらかの嚥下障害の疑いがある際に、実施されるテストです。
30秒の間に、唾液を飲み込める回数の測定を行います。
制限時間内に、2回以下の場合は摂食嚥下障害の可能性が高いです。
反復唾液テスト上で、問題がない方は、水飲みテストに移行します。
水飲みテスト(窪田式)
30mlの水(大さじ2杯程度)を一定のペースで飲んでもらい、嚥下機能の評価を行います。
具体的には、嚥下の回数やむせの有無などを観察したうえでの、5段階評価の実施です。
評価の際には、水を飲んだ際のプロフィールおよび、エピソード(飲み方の傾向)を照らし合わせて嚥下機能を評価します。
具体的なプロフィール・エピソード評価の目安は、以下のとおりです。
プロフィール
- ① 1回でむせることなく飲むことができる
- ② 2回以上に分けるが、むせることなく飲むことができる。
- ③ 1回で飲むことができるが、むせることがある。
- ④ 2回以上に分けて飲むにもかかわらず、むせることがある。
- ⑤ むせることがしばしばで、全量飲むことが困難である。
エピソード
- すするような飲み方
- 含むような飲み方
- 口唇からの水の流出
- むせながらも動作を続けようとする傾向
- 注意深い飲み方
プロフィール1は「正常」で、2の場合は「障害の可能性がある」という判定になります。
次に、3、4、5に該当する方は、「明らかに異常あり」です。
改訂水飲みテスト
改訂水飲みテストは、少量の冷水を口に含み、嚥下動作を確認します。
水飲みテストにより、評価する項目は、以下のとおりです。
- むせこみの有無
- 嚥下動作による呼吸状態
- 声の変化
試験上、嚥下動作に問題なければフードテストに移ります。
フードテスト
フードテストは、高齢者用食品のプリンや、お粥のような液状の食べ物で検査します。
食品を飲み込んだあとに、以下の内容を評価していきます。
- 口内に食べ物が残っていないか
- 呼吸の変化がないか
- むせこみがないか
などを評価して、嚥下機能の動作を確認していきます。
なお、次の頸部聴診法は、フードテストと並行して実施するテストです。
頸部聴診法
頸部聴診法は、フードテストと並行して行う検査方法です。
食品を飲み込んでいる最中に、聴診器を活用して首の部分から、嚥下音を聴診します。
聴診の主な目的は、飲み込み動作前後での、呼吸音の観察です。
また、嚥下機能に合わせて、必要な検査を組み合わせるパターンもあります。
ガムテスト
その名のとおりで、ガムを噛むことで、咀嚼能力を評価するテストです。
頸部聴診法など、嚥下の症状ごとに検査を組み合わせて実施されることがあります。
嚥下精密検査
嚥下精密検査は、以下の2つの検査方法が挙げられます。
- 嚥下内視鏡検査
- 嚥下造影検査
1つずつ、解説していきます。
嚥下内視鏡検査
食事内に造影剤を混合したものをX線で透視しながら、ビデオに記録する検査方法です。
ビデオの録画内容を参考に、嚥下機能を解析していきます。
検査の主な目的としては、診断的・治療的検査の2つが存在しています。
検査の目的 | 内容 |
診断的嚥下内視鏡検査 | 器質性・機能的異常の確認、食事の通過状況、 咽頭に食べ物が残存していないかの確認などを実施する |
治療的嚥下内視鏡検査 | 誤嚥の防止、咽頭への残留の減少、 口腔から食道までの通過しやすい方法などについて検証する |
嚥下造影検査
嚥下造影検査とは、嚥下機能について透視検査を利用する評価法です。
検査時には、バリウムを含む液体や、とろみ液などを飲み込みます。
そして、「誤嚥、食べ物の残留および、安全に飲み込めているか」などを検証します。
嚥下機能の安全性に関しては、「頸部の前屈、後屈、回旋」などの各姿勢ごとの、誤嚥・食べ物の残留率をみて嚥下法を評価していきます。
私たちは、食事をするとき、無意識に咀嚼しています。咀嚼には、食べ物をかみ砕くこと以外にも、私たちの健康を守るためのさまざまな役割があります。咀嚼の役割や重要性は、どのようなものなのでしょうか。本記事では咀嚼について以下の[…]
嚥下チェッカー
嚥下機能の状態を簡易的にチェックするなら、嚥下チェッカーが向いています。
言語聴覚士(ST)の嚥下評価基準を基に作られており、3分の時間で嚥下状態を分析可能です。
嚥下評価と、状態を一括管理しつつ、改善案の提示もあるため便利なコンテンツです。
たった3分でできる嚥下チェッカーを用いて、誤嚥防止に役立ててることが可能です。
嚥下食の難易度レベル
嚥下障害のレベルにより、摂取するべき嚥下食も変化します。
前述した検査によって、評価されたものをベースに、個々に合った食事が提供されます。
嚥下障害に合わせて、難易度の低いものから、難易度の高い普通食に移行できる仕組みです。この章では、どのような形状・メニューがあるのかを紹介していきます。
嚥下訓練食
嚥下訓練食は、食事の摂取・嚥下機能が低下している場合に用いられます。
栄養摂取が目的ではなく、コード0j、0tなど分類したうえで、嚥下の訓練用に使われます。
コード0jはべたつきがなく、まとまりがよく、柔らかい食感のゼリーです。
メニューの例としては、お茶ゼリー、果汁ゼリーなどが挙げられます。
コード0tの嚥下訓練食品は、均質でまとまりがあり、べたつきがなく、とろりとした食べ物で、お茶や果汁にとろみを付けたものが挙げられます。
いずれも、誤嚥した場合を想定しつつ、そのままの飲み込みやすさを考慮している食品です。
嚥下食
嚥下食は、咀嚼および飲み込む力が衰えている方向けの食品です。
主に、食べやすいように「とろみ・食感・形態」などを調整しています。
食品の分類は、コード表記で管理しやすくなっています。
嚥下障害のレベルに応じて、メニューが決められていることも特徴です。
具体的なメニューの例として、ゼリー・プリン、ペースト状の重湯やお粥、煮込みハンバーグ・大根の煮物・卵料理などが挙げられます。
介護食
介護食は、高齢者食よりもさらに、弱まった機能を補助する食事を指します。
誤嚥の防止のために、食事の形状の調整や、疾患ごとの対応が必要です。
具体的には、噛む力が低下しているならば柔らかい食事、飲み込みが困難であればとろみをつけるなどの工夫をしていきます。
パサつかず、なめらかなメニューで、大きさも一口大にしてあるものが多いです。
メニューの例として、全粥、軟飯、こしあん、かぼちゃの煮つけなどが挙げられます。
普通食
普通食は、摂食・嚥下機能が正常な方向けの食事です。
健康的な人が、普段食べているような食事ともいえます。
しかし、はじめは形状と柔らかさ、なめらかさなど、誤嚥の危険を考慮しています。
主食は、ご飯で、うどんやパン、揚げ物も食べられます。
嚥下障害とは、食べ物を食べて飲み込む動作が不自由になった状態をいいます。嚥下障害では、どのように食事を工夫したら良いのでしょうか?嚥下障害では、どのような食事形態があるのでしょうか?本記事では、嚥下障害の食事について以下の点[…]
嚥下食調理に便利な調理器具の紹介
ここまでで、嚥下食の調理に種類について解説してきました。
次に、嚥下食調理に便利な調理器具を紹介します。
- ミキサー
- ハンドミキサー
- フードプロセッサー
- ブリクサー
- ミルサー
- パコジェット
上記の調理器具は、嚥下食の調理において非常に役立ちます。
ぜひ参考にしてください。
ミキサー
ミキサーは、野菜・フルーツジュースを作る際に、使われている一般的な調理器具です。
なめらかな、ポタージュスープやペーストに適しています。
ミキサーを活用する際は、食事の量を効率的に増やしたい場合に適しています。
ハンドミキサー
ハンドミキサーは、1人、2人などの少数の調理に、適している調理器具です。
分量の少ない食材でも、ミキサーにかけられることがポイントです。
さらに、アタッチメントの交換により、機能を拡張しやすいというメリットもあります。
フードプロセッサー
フードプロセッサーは、野菜を細かく刻んだり、ミンチにできる調理器具です。
野菜のみじん切り・千切り以外に、つぶす・こねる・混ぜるなど、調理が手軽にできます。
例えば、スムージー、お粥や野菜ペーストなど、嚥下食に適した料理を簡単に作れます。
ブリクサー
すり鉢すりこぎをイメージした、嚥下食にも優れた調理器具です。
例えば、フードプロセッサーは、水分と食材の分量が大切な要素になります。
しかし、ブリクサーは、水分が少なくてもペースト状に処理できます。
そのため、ペースト状の料理が多い嚥下食にとっては、非常に便利な器具です。
ミルサー
ミルサーは、食材を裁断する調理器具です。
キサーと比較して、容器が小さく2枚刃で食材を刻みます。
そのため、仕上がりは粗く、食材も粒が残る程度に仕上がります。
自家製のふりかけ、煮干し、茶葉など、固体を粉末状にする際に活躍する器具です。
パコジェット
パコジェットは、食材の衛生面や保存性を維持しやすい調理器具です。
なぜなら、冷凍保存できるので、食材が傷むことが少ないからです。
調理時は、一旦凍結させてからの処理なので、ミキサーよりもなめらかなに仕上がります。
摂食・嚥下障害のある患者の把握状況
最後に、全国国民健康保険診療施設協議会の報告書を元に、摂食・嚥下障害のある患者さまの把握状況について解説していきます。
- 摂食・嚥下障害のある患者数の把握
- 患者へのスクリーニングの実施状況
- 疑いのある患者への対応
主に、上記の項目について触れていきますので、ぜひ参考にしてください。
摂食・嚥下障害のある患者数の把握
国保直診施設である328件の回答施設において、摂食・嚥下障害のある患者数を把握しているのかを聞いたところ、把握している患者数は、39.3%と全体の4分の1でした。
その施設において、摂食・嚥下障害があった患者の内訳は、下記表のようになりました。
患者の種類 | 8割以上(%) | 6割以上8割未満(%) | 4割以上6割未満(%) | 2割以上4割未満(%) | 2割未満(%) |
入院患者 | 5.7 | 3.4 | 11.5 | 42.5 | 36.8 |
外来通院患者 | 1.8 | 0.0 | 1.8 | 7.3 | 89.1 |
訪問診療患者 | 13.4 | 1.5 | 16.4 | 16.4 | 52.2 |
データからみえることは、外来通院患者、訪問診療患は2割未満であることがわかります。
入院患者は、2割以上4割未満が多い傾向にあります。
患者へのスクリーニングの実施状況
各施設において、スクリーニング検査の実施状況を確認したところ、入院患者のなかで、摂食・嚥下障害の疑いのある者のみが67%を超えています。
一方で、外来通院患者、訪問診療患者においては、未実施の施設が7割を超えています。
つまり、患者全体にスクリーニングの実施が行き届いていないことが現状なのです。
疑いのある患者への対応
スクリーニング検査の結果、摂食・嚥下障害の疑いがある患者がいた場合の対応については、入院患者が最も自施設内の対処が多いことがわかりました。
入院患者がいる施設については、以下のようなものに対応していました。
- 評価
- 嚥下訓練
- 口腔ケア
- 栄養評価
- 食形状の調整
などの、8割以上が自施設での対応です。
また、外来通院患者と訪問診療患者については、自施設での対応が3~4割で、他施設に紹介する場合が、5~6割程度でした。
出典:全国国民健康保険診療施設協議会「摂食・嚥下機能の低下した高齢者に対する地域支援体制のあり方に関する調査研究事業報告書」
嚥下評価のまとめ
今回は、嚥下評価についてご紹介しました。
嚥下評価についての要点を以下にまとめます。
- 嚥下評価とは、摂食・嚥下機能を段階的に評価する検査である
- 反復唾液嚥下テスト、水飲みテストなどを用いて、多種多様な検査で判定する
- 嚥下訓練食・嚥下食・介護食など嚥下機能ごとに、提供される食事が変化する
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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