パーキンソン病の治療は薬物療法が中心です。
しかし、重症化すると外科手術や胃ろうによる治療が検討されることもあります。
本記事では、パーキンソン病の治療について、以下の点を中心にご紹介します。
- パーキンソン病の治療法
- 手術による治療
パーキンソン病の治療のためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
パーキンソン病は、難病指定されている疾患でとくに高齢の方に多く見られます。パーキンソン病は早期の発見・治療によって進行をゆるやかにできるため、症状を見逃さないことが大切です。本記事では、パーキンソン病について解説します。[…]
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パーキンソン病とは
パーキンソン病とは、脳の異常が原因で、さまざまな身体障害があらわれる疾患です。
具体的な発症原因は、脳の神経伝達物質であるドパミンが不足することです。
ドパミンは、脳の情報伝達を助けるホルモンで、不足するとさまざまな身体障害があらわれます。
では、なぜドパミンが不足するのでしょうか。
理由は、レビー小体という異常な物質が脳に蓄積するからです。
パーキンソン病では、とくに中脳の黒質という部位へのレビー小体の蓄積が目立ちます。
中脳の黒質はドパミンを生成する器官です。
レビー小体が蓄積すると、中脳の黒質の脳細胞が破壊されるため、働きが低下します。
つまりドパミンの生成が十分に行われなくなるため、ドパミン不足が起こります。
一方で、パーキンソン病の主な症状は、筋肉の硬直や手足の震えといった運動症状です。
また、うつや幻覚、妄想といった非運動症状があらわれることも多いです。
【パーキンソン病の主な症状】
- 安静時に手足が震える(静止時振戦)
- 筋肉が硬直して手足や関節が動かしづらくなる(筋固縮)
- 身体のバランスが取れなくなる(姿勢反射障害)
- 動きが遅く・小さく・少なくなる(無動)
- うつ・幻覚・妄想・自律神経失調など(非運動症状)
難病にも指定されているパーキンソン病。発症すれば日常生活に支障をきたす可能性のあるパーキンソン病ですが、どのような症状や特徴があるのでしょうか?そこで今回は以下について紹介していきます。 パーキンソン病の運動症状 […]
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パーキンソン病の治療方法
パーキンソン病には根本的な治療方法はありません。
よって治療方法は、諸症状の軽減に重きを置く「対症療法」が中心です。
薬物療法
薬物療法は、パーキンソン病の治療でもっとも一般的な方法です。
薬物療法で用いる薬には、大きく分けるとドパミン系薬剤と非ドパミン系薬剤の2種類があります。
ドパミン系薬剤
ドパミン系薬剤とは、脳にドパミンを補充する薬です。
パーキンソン病の原因はドパミン不足なので、薬でのドパミンの補充によって症状の改善が期待できます。
ドパミン系薬剤には「L-ドパ」と「ドパミンアゴニスト」の2種類があります。
L-ドパは、パーキンソン病治療のもっとも基本的な治療薬です。
L-ドパはドパミンの原料となる薬で、脳で代謝されることにより、ドパミンに変換されます。
パーキンソン病による運動症状の改善に高い効果を示し、吐き気・めまいのような身体的な副作用が低い点がメリットです。
ただし、L-ドパは薬を長期間服用すると、効果が安定しづらくなります。
具体的には、薬効が2時間~3時間で切れる「ウェアリングオフ現象」や、手足が勝手に動く「ジスキネジア」などがみられます。
一方、ドパミンアゴニストはドパミンによく似た合成物質です。
脳内でドパミンと同じ働きをすることで、パーキンソン病による運動症状の改善を図ります。
薬の持続時間が長く、長期間の服用の弊害があらわれにくい点がメリットです。
一方、L-ドパと比べると、パーキンソン症状の治療効果はゆるやかです。
非ドパミン系薬剤
パーキンソン病の治療には「非ドパミン系薬剤」も用いられます。
具体的な効果は薬剤によって異なるものの、一般的にはドパミン系薬剤の効果を高めるために用いられます。
非ドパミン系薬剤として代表的なのが抗コリン薬です。
とくに手足の震えの治療に有効な薬です。
抗コリン薬は、脳内の「アセチルコリン」の活動を抑制する作用があります。
アセチルコリンは神経伝達物質の一つで、ドパミンの分泌を抑制する働きがあります。
よって抗コリン薬でアセチルコリンを抑制すると、ドパミンの働きが高まるため、パーキンソン病の症状改善を期待できます。
リハビリテーション療法
薬物を用いない治療法です。
主に身体訓練が中心となります。
パーキンソン病では身体が動かしづらくなるため、自然と運動量が減少しがちです。
しかし身体を動かさないと、筋力が低下したり身体が固くなったりして、パーキンソン病がますます悪化しやすくなります。
反対に適度な運動は、筋力や体力のほか、身体の柔軟性が維持できるため、パーキンソン病の症状の軽減が期待できます。
パーキンソン病のリハビリテーションは、主に4つの運動に分けられます。
- 体力と筋力を維持するための運動
- 筋肉や関節の柔軟性を保つための運動
- 姿勢維持や歩行を改善するための運動
- 呼吸を強化して疲れにくい体を作るための運動
リハビリテーションでは、本人の体力・身体機能にあわせて、無理のない運動を行いましょう。
具体的には、散歩やストレッチなどの軽い有酸素運動が有効です。
激しい運動は転倒やケガの原因となるため、控えましょう。
運動療法は、身体機能や筋力・歩行の改善のほか、姿勢の改善にも役立ちます。
さらに、「QOL」の向上も期待できます。
QOLとはクオリティ・オブ・ライフの略で、「生活の質」をあらわします。
すなわちパーキンソン病の方の身体的苦痛を軽減し、人生の質や満足度を向上させることが、運動療法の目的の一つです。
手術療法
薬物療法やリハビリテーションの効果が十分でない場合、手術療法が選択されることがあります。
具体的には「脳深部刺激療法(DBS)」が用いられます。
DBSは、脳に電極を埋め込み、電気刺激を与えることで、脳神経の興奮を抑制する効果があります。
50歳から65歳の方に発症することが多いパーキンソン病。日常生活に影響を及ぼし、治すことが難しい病は、高齢者の増加に伴い発症する患者も増えており、厚労省が指定している難病の一つです。パーキンソン病は一度発症しても治療すれば治る病なの[…]
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パーキンソン病の薬物療法について
パーキンソン病の治療は、薬剤を用いた治療が一般的です。
患者の状態に合わせて複数の薬を併用して治療を行います。
代表的な治療薬|効果と副作用
これまでにご紹介したように、パーキンソン病で用いられる薬は「ドパミン系薬剤」と「非ドパミン系薬剤」があります。
治療に用いられる薬を下記の表にまとめました。
名称 | 効果 | 注意点 | |
ドパミン系薬剤 | L-ドパ | ・パーキンソン病治療の中心的な薬。 ・迅速な効果が期待できる。 | ・運動合併症が出る可能性があるため、長期間の服用は避ける。 |
ドパミンアゴニスト | ・L-ドパよりも緩やかで安定した効果が期待できる。 | ・成分によって心臓弁膜症、突発的睡眠・傾眠の副作用があるため注意が必要。 | |
非ドパミン系薬剤 | MAO-B阻害薬 | ・ドパミンの効き目を長くする。 | ・ジスキネジア症状が強まる可能性があるため、注意が必要。 |
COMT(カテコール-O-メチル転移酵素)阻害薬 | ・L-ドパを効率よく脳内に届ける。 | ・稀に突発性睡眠が起こることがある。 | |
ドパミン遊離促進薬 | ・ドパミンの分泌を促進する。 | ・精神神経系症状が現れる可能性がある。 | |
抗コリン薬 | ・アセチルコリンとドパミンのバランスを保つ。 | ・高齢者や認知症患者の服用は控える。 | |
ノルアドレナリン補充薬 | ・ノルアドレナリンを補充する。 | ・血圧上昇など循環器系の症状が現れる可能性がある。 | |
ドパミン賦活薬 | ・ウェアリングオフ現象を改善する効果が期待できる。 | ・稀に突発性睡眠が起こることがある。 | |
アデノシン受容体拮抗薬 | ・ドパミンと反対の作用をもつアデノシンを抑制し、ドパミンとのバランスを回復する。 | ・ジスキネジア症状が強まる可能性があるため、注意が必要。 |
治療薬の使い分け
パーキンソン病の治療薬は、「ドパミン系薬剤」を主として、「非ドパミン系薬剤」など複数の薬剤を併用することが一般的です。
症状や病気の状態によって、主治医が処方する治療薬を服用します。
パーキンソン病に用いられる治療薬以外の薬を服用している場合は、飲み合わせに注意が必要な場合があります。
必ず事前に主治医に相談することが大切です。
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パーキンソン病で手術療法を検討するタイミング
発症から5年後は、手術療法を検討すべきタイミングとして挙げられます。
「ウェアリングオフ現象」や「ジスキネジア」がみられるようになった時期も手術を検討するタイミングです。
ウェアリングオフ現象やジスキネジアは、パーキンソン病発症からある程度時間が経ってあらわれます。
具体的には、発症後5年以降が一般的です。
治療薬が効きづらくなった段階と考えられますので、治療法の一つとして、手術を検討すべきタイミングです。
パーキンソン病の治療は薬物療法が中心です。しかし、重症化すると外科手術や胃ろうによる治療が検討されることもあります。本記事では、パーキンソン病の治療について、以下の点を中心にご紹介します。 パーキンソン病の治療法 […]
パーキンソン病のデバイス補助治療(DAT)
パーキンソン病の治療法についてご紹介します。
脳深部刺激療法:DBS(Deep Brain Stimulation)
脳深部刺激療法は、国際的にみると約30年の臨床実績があり、日本国内においても2000年に保険適応となりパーキンソン病治療に用いられています。
脳深部に電気刺激を与える事で治療効果を得る療法なので植込み型の医療機器を装着する必要があります。
【装着が必要な機器】
- 神経刺激装置
- リード(刺激電極)
- 延長用ケーブル
- 患者用プログラマー
従来、外科手術において脳神経深部にある過剰興奮していた神経核を破壊していたものが、電気による高頻度刺激を加える事で、神経核の過剰興奮を抑制する事ができるようになりました。
大掛かりな手術を要せず、パーキンソンの症状を軽くし、現在の薬の量を少なくする事ができるのが特徴です。
注意点としては、機器の植込みが必要であるため手術が必要であるため、出血リスクや感染リスクを伴う事がある点です。
また、植込まれた神経刺激装置の寿命は一般的な使用で5年程度といわれており、必要に応じて取り替えしなければなりません。
これらの点から比較的若年層で症状の軽減や進行を抑制したい患者向けの療法となります。
レボドパ/カルビドパ配合剤持続経腸療法:LCIG(Levodopa-carbidopa continuous infusion gel (LCIG) therapy)
レボドパ/カルビドパ配合剤持続経腸療法は、日本国内において2006年に保険適応となった新しいパーキンソン病治療法で、胃瘻チューブを介してレボドパを空腸に持続的に投与する事で安定した効果を得ます。
胃瘻を作る事が支障となりますが、持続的にレボドパが投与されるため、動きにくくなる時間を短縮し、ジスキネジアの程度も軽減する事ができます。
また、安定した効果が得られる事で、精神症状の悪化や認知機能障害の改善も期待できます。
胃瘻を作成しても今まで通りに食事が取れる点や入浴にも制限がかからないのが特徴です。
治療適応は主に進行期パーキンソン病の方で症状を安定化させたい患者向けの療法となります。
パーキンソン病の治療費は補助が出る?
パーキンソン病の治療には、難病医療費助成制度を利用することができます。
条件としては、下記の2点を満たす必要があります。
- ホーン・ヤールの重症度3度以上
- 生活機能障害度2度以上
上記2点に該当していなくても、医療費総額が33,330円を超える月が年間で3回以上ある場合は、補助の対象となります。
難病医療費助成制度を受けた場合、医療費の自己負担額が2割までに軽減されます。
また、1か月の自己負担額のうち、上限を超えた部分について助成を受けることができます。
ただし、助成対象となるのは、医療、介護サービスの中でもパーキンソン病に対して行われたものだけです。
例えば、その他の病気やケガ、医療機関までの交通費、認定申請時に提出する診断書の作成費用などは対象外となります。
補助の申請をするためには、診断書などの書類が必要です。
難病指定医が作成した診断書や必要書類を都道府県の窓口に提出し、申請します。
パーキンソン病の治療は薬物療法が中心です。しかし、重症化すると外科手術や胃ろうによる治療が検討されることもあります。本記事では、パーキンソン病の治療について、以下の点を中心にご紹介します。 パーキンソン病の治療法 […]
高齢で合併症がみられるときはパーキンソン病の治療はできない?
高齢の方がDBS手術を受けると、認知症のリスクが上昇します。
では、高齢の方でパーキンソン病が重症化した場合は、どのような治療法があるのでしょうか。
答えの一つが「デュオドーパ治療」です。
デュオドーパ治療とは、胃に穴をあけてチューブを挿入し、パーキンソン病の治療薬を直接小腸に送り込む治療方法です。
デュオドーパ治療を検討すべきタイミングは、ウェアリングオフ現象やジスキネジアといった「運動合併症」があらわれたタイミングです。
運動合併症は、パーキンソン病が進行すると、多くの人にあらわれます。
運動合併症の原因は、治療薬の血中濃度が安定しなくなることです。
なぜならパーキンソン病の方は、次第に胃腸の働きが低下するからです。
よって薬を服用しても胃腸で吸収されづらくなり、結果として運動合併症が起こります。
運動合併症があらわれると、一般的にはDBS手術が選択されます。
ただし、前述のとおり、高齢の方のDBS手術には、認知症のリスクがつきまといます。
そこで、もう一つの選択肢としてデュオドーパ治療が検討されます。
デュオドーパ治療では、胃ろうから専用のチューブとポンプを使用して、カセット内の薬を小腸に送り込みます。
小腸に直接治療薬を送り込むことで、薬の吸収率を高めることができます。
血中濃度も安定しやすくなるため、ウェアリングオフ現象などの運動合併症の軽減が期待できます。
ちなみに、デュオドーパ治療に用いられる薬は、L-ドパにカルビドパを加えた「レポドバ製剤」です。
投薬時間は1日最大16時間です。
チューブは日中つけておき、就寝前に取り外すのが一般的です。
デュオドーパ治療は、日本では2016年に承認されました。
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パーキンソン病の治療のまとめ
ここまで、パーキンソン病の治療についてお伝えしてきました。
要点を以下にまとめます。
- パーキンソン病の治療法は、「薬物療法」や「運動訓練・リハビリテーション」など
- 手術療法には、脳に電極を埋め込む「脳深部刺激療法」や、胃ろう手術を伴う「デュオドーパ治療」がある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
パーキンソン病の病名は聞いたことがあるという方がほとんどだと思います。しかし、どのような病気でどのようなリハビリをするのか知らない方もいるのではないでしょうか。本記事では、パーキンソン病のリハビリを中心に以下の内容に沿って解説していき[…]