パーキンソン病をお持ちの方や介護されている方で「食べものが飲み込みにくい」「何度もむせてしまい食事が進まない」など嚥下障害でお困りの方はいらっしゃいませんか?
「パーキンソン病の嚥下障害って何?」
「むせないような工夫はないの?」など、疑問に思うことが様々あると思います。
本記事では、食べにくさや飲み込みにくさといったパーキンソン病でみられる「嚥下障害」について以下の点を中心にご紹介します。
- 嚥下障害の対処法
- 重い嚥下障害と経管栄養について
ご家庭でも、すぐに実践できる内容もありますので、ご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
パーキンソン病とは
パーキンソン病は中脳の黒質ドーパミン神経細胞が減少して起こる病気です。
神経細胞の中のタンパク質(αシヌクレイン)が凝縮して留まることが原因とされています。
パーキンソン病は50歳以上で起こる病気です。
ただし、若年性パーキンソン病と呼ばれ、40歳以下でも起こる方もあります。
パーキンソン病は以下の4つを主な運動症状とする病気です。
- 振戦(ふるえ)
- 動作緩慢
- 筋強剛(筋固縮)
- 姿勢保持障害(転びやすいこと)
全国のパーキンソン病患者数は以下の表のように年々増加傾向にあります。
【パーキンソン病全国患者数】
疾患名 | 平成24年度 | 平成25年度 | 平成26年度 |
パーキンソン病関連疾患(人) | 120,406 | 126,211 | 136,559 |
出典:難病情報センター【特定疾患医療受給者証所持者数 – 難病情報センター】
パーキンソン病について詳しく知りたい方は下記の記事を合わせてお読み下さい。
パーキンソン病は、難病指定されている疾患でとくに高齢の方に多く見られます。パーキンソン病は早期の発見・治療によって進行をゆるやかにできるため、症状を見逃さないことが大切です。本記事では、パーキンソン病について解説します。[…]
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嚥下障害とは
嚥下障害は、食べものを噛み砕く動作や飲み込む動作に何らかの問題が生じた状態のことを指します。
パーキンソン病でみられる嚥下障害では、具体的に以下の症状が多くみられています。
- 口から食べものがこぼれる
- 口の中によだれが溜まり、口から垂れてくる
- 食べるのに時間がかかる
- 食べものを飲み込みにくい
- 飲み込む前後や、飲み込んでいる最中にむせこむ
上記のような症状が見られる嚥下障害ですが、実はパーキンソン病と密接な関係があります。
日本神経学会が作成したパーキンソン病診療ガイドライン2018によると、パーキンソン病の患者の30~80%程度が嚥下障害を自覚しているとされています。
また、パーキンソン病の死因の24~40%を占める誤嚥性肺炎は、嚥下障害によって引き起こされているため、その治療や対処は重要です。
パーキンソン病の方が健康を維持するために避けては通れない嚥下障害。
では、パーキンソン病でみられる嚥下障害というものはどのようなメカニズムで生じているのでしょうか。
以下項目ごとに詳細に解説します。
嚥下障害のメカニズム
嚥下のメカニズムは5つの段階に分けられており、食べものを認識する時から飲み込んで胃に送り込まれるまで身体の中で複雑な動作が行われています。
(1)先行期
食べものの見た目やにおいなどで食べものを認識し、口へ運ぶ時期を指します。
また食べ方を判断する時期でもあります。
(2)口腔準備期
口に入れた食べものを噛んで唾液と混ぜ合わせ飲み込みやすい形にする時期を指します。
混ぜ合わせるときに、顎や舌、歯など口周りの筋肉を使います。
(3)口腔送り込み期
口の中で飲み込みやすくした食べものを、舌を使ってのどの奥の咽頭に送り込む時期を指します。
口腔送り込み期に、唇は閉じて、舌は上あごにつけることで送り込みやすくする役割があります。
(4)咽頭期
嚥下反射により、食べものを咽頭から食道の入口に送る時期を指します。
咽頭の奥には胃につながる食道と、肺につながる気管との二つの道があります。
普段は呼吸をするため気管の道が開いていますが、食べものを飲み込む際は反射的に喉頭蓋というフタが気管の道を閉じ、間違って気管に入らないようにします。
(5)食道期
食道の螺動運動と重力によって食べものを食道から胃へ送り込む時期を指します。
この時、食道の入り口の筋肉を収縮させて閉じることで食べものが口腔内へ逆流することを防いでくれます。
普段はこの一連の動作を無意識に行っています。
しかし、この中のどこかで問題が起きている場合、嚥下障害が生じます。
嚥下障害による合併症
では、パーキンソン病で嚥下障害が起こることで私たちの身体にはどのような影響が考えられるでしょう。
具体的には以下の合併症が考えられ、体調の悪化などを引き起こす危険性が高まります。
誤嚥性肺炎
食べものや唾液などが誤って気管に入ってしまった時、身体は気管から食べものや唾液を押し出そうとします。
この現象が「むせり」です。
健康な状態であれば押し出せますが、パーキンソン病の場合、押し出す力が弱くそのまま肺に入ってしまう場合があります。
そうすると、食べものに付着していた細菌が繁殖し、炎症を起こし肺炎となります。
パーキンソン病の嚥下障害による合併症のなかで、もっとも起こりやすい症状です。
低栄養、脱水
嚥下障害で食事に時間がかかると、十分に栄養がとれず栄養不足になる危険性があります。
また、水分もうまく飲み込めず脱水症状を引き起こす危険性もあります。
口の中の細菌繁殖
食べものや唾液がうまく飲み込めず口の中にたまることで、雑菌や細菌が繁殖しやすい環境が生まれてしまいます。
その状態で誤嚥することで、重度の肺炎を引き起こす危険性があります。
パーキンソン病は、難病指定されている疾患でとくに高齢の方に多く見られます。パーキンソン病は早期の発見・治療によって進行をゆるやかにできるため、症状を見逃さないことが大切です。本記事では、パーキンソン病について解説します。[…]
嚥下障害はなぜ起こる?
嚥下障害はパーキンソン病の症状の一つです。
パーキンソン病の嚥下障害は、パーキンソン病の方の約半数に見られるといわれています。
パーキンソン病の方の死因の多くが肺炎との統計をとった病院の報告もあります。
パーキンソン病における嚥下障害の重要性がわかります。
パーキンソン病特有の症状は、振戦、動作緩慢、筋強剛、姿勢保持障害の運動症状です。
パーキンソン病の症状は口の中や口の周りにある咽頭筋の筋肉の動作にも影響します。
パーキンソン病による嚥下障害は咽頭筋の動作低下が原因と考えられています。
嚥下障害は咽頭期から口腔期へと進行していきますが、口腔期まで気づかれにくいといわれています。
自覚がなくても、パーキンソン病の早期から口腔ケアやリハビリによる予防が重要です。
嚥下障害の対処法
パーキンソン病にとって嚥下障害は、早期から食事場面において対処を行うことで合併症を予防でき、健康な状態を長く続けることに繋がります。
そこで、ご家庭でも行うことができる対処法を中心にご紹介します。
食べものにとろみをつける
食べものや飲み物にとろみをつけることで、のどを通る速さがゆっくりとなり飲み込みやすくなります。
とろみ剤はドラッグストアでも市販されています。
味やニオイがない商品の方がどんな食べものにも使いやすいです。
食べものを飲み込みやすい形にする
あらかじめ食べものを一口大に切っておくことで飲み込みやすくなります。
また、柔らかく煮たり、焼いたりすることで口の中でかみ砕きやすくすることもポイントです。
食べもののほかにも、お薬を粉末から錠剤に変えたり、ゼリーに混ぜたりするなど工夫することも大切です。
姿勢を気を付ける
パーキンソン病において不安定な姿勢や過度に前かがみの姿勢で食事を行うと、飲み込みにくく誤嚥につながる危険性があります。
踵が床につく高さの椅子(ひじ掛けがあるとさらに安定します)に深く腰掛け安定した姿勢を維持することが重要です。
口腔ケアをする
口の中に食べもののカスなどが溜まると雑菌が繁殖しやすくなり、合併症の危険性が高まります。
こまめに歯磨きやうがいを行い、清潔を保つことが大切です。
重い嚥下障害と経管栄養
これまで、パーキンソン病の嚥下障害に対する対処法などを紹介してきました。
しかし、様々な工夫を行っても改善が難しいほど重い状態になると、口から食べる行為自体が命の危険を伴うことがあります。
そんな状態でも栄養を補給する方法が大きく二つあります。
経鼻経管栄養
鼻から胃まで届く経鼻胃管(チューブ)を通じて、直接胃に栄養を送り込む方法です。
手術の必要がなく手軽に行うことができますが、鼻から胃までチューブが入っているため異物感・違和感があるのと、嚥下訓練を行いづらいデメリットがあります。
胃ろう
腹部に小さな穴を開け、そこにチューブを取り付け、栄養を送りこむ方法です。
チューブの取り付けは内視鏡を使った手術で、15分程度で完了します。
胃に直接栄養を送る方法としては経鼻経管栄養と同じですが、胃からのどにかけてチューブが入っていないため「いつでも口から食べる嚥下訓練が行える」というメリットがあります。
上記の方法で栄養を補給しながら、少しずつ口から食べるリハビリを続けることで、また口から食事に戻れるようになる可能性もあります。
パーキンソン病で見られる嚥下障害のまとめ
ここまでパーキンソン病における嚥下障害のメカニズムや、家庭でも実践可能な対処法などを中心にお伝えしてきました。
要点を以下にまとめます。
- パーキンソン病でみられる嚥下障害とは、食べものを口に運んで胃に入るまでに何らかの問題が生じて飲み込みづらい状態のこと
- 嚥下障害の対処法は、食べものにとろみをつける、一口大に刻む、食べる姿勢をよくする、口の中の清潔を保つなど
- 重い嚥下障害には、経鼻経管栄養や胃ろうなど、胃に直接栄養を送る方法がある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
パーキンソン病は、10万人当たり100~150人(60歳以上では100人に1人)が発症する進行性の病気です。中脳の神経伝達物質であるドパミンが減少することで起こります。パーキンソン病はほとんどが孤発性です。近年の研究で、患者の方[…]