高次脳機能障害と認知症は、似た症状を見せることがあります。
脳の損傷という点では共通点もありますが、はっきりとした違いも存在します。
そこで、この記事では以下のようなことを中心に高次脳機能障害と認知症の関係について解説します。
- 高次脳機能障害の特徴とは
- 認知症の特徴とは
- 高次脳機能障害と認知症の違いとは
- 高次脳機能障害の改善に注目されるQOLとは
ぜひ最後までご覧いただき、高次脳機能障害と認知症の理解にお役立てください。
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高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは「脳血管障害」「脳外傷」「低酸素脳症」といった病気や事故などによって脳に残る後遺症のことです。
物理的、あるいは病気で脳にダメージを負うことによって生じる障害を指します。
記憶障害
新しいことが覚えられない、発症以前のことが思い出せないといった症状があります。
認知症との違いは、発症を境にして障害が起こる点です。
注意障害
注意力が散漫になり、一つのことを集中して行えない、二つ以上のことを同時に行えないといった症状があります。
ぼんやりとした時間が長くなり、表情が乏しくなります。
遂行機能障害
優先順位がわからないため、目的に対して計画が立てられません。
そのため、約束の時間までに仕上げるという行動ができなくなります。
社会的行動障害
感情のコントロールが困難になり、興奮しやすくなります。
その結果、極端に自己中心的になったり、依存的になったりします。
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認知症とは
認知症とは、脳の機能が低下して生活に支障をきたすようになってしまった状態のことです。
認知症は高齢者に多く発症し、超高齢社会の今、認知症発症者数は年々増えています。
内閣府「平成29年度版高齢社会白書 日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」によると、2020年の65歳以上の認知症有病率は16.7%で6人に1人となっており、602万人に達すると推計されています。
そんな認知症には原因の違いにより、いくつかの種類があるのでご紹介します。
アルツハイマー型認知症
認知症の原因疾患の約67%がアルツハイマー型認知症です。
原因は、脳にアミロイドβという物質が沈着することで神経細胞に障害が起こることです。
頭部CTなどの検査をすると、記憶をつかさどる「海馬」の萎縮が多く見られます。
アルツハイマー型認知症の症状の特徴は「物忘れ」から始まることが多い点です。
初めは「歳だから物忘れも仕方ない」という程度ですが、徐々に進行し「今日の日にちがわからない」「家族の名前が思い出せない」といった記憶障害につながります。
血管性認知症
認知症の原因疾患の約20%が血管性認知症です。
原因は、脳梗塞や脳出血といった脳血管の障害によるものです。
再発を繰り返すことで、脳へのダメージが大きくなり認知症を発症します。
血管性認知症の主な症状は、「歩行困難」「言語障害」「嚥下障害」に伴い、意欲が低下してしまうことです。
レビー小体型認知症
認知症の原因疾患の約4%がレビー小体型認知症です。
原因は、レビー小体というたんぱく質の塊が脳神経を傷つけるためです。
レビー小体は、脳だけでなく全身の神経にもできるため、どこにできるかで症状も変わります。
大脳皮質にできれば「認知症」に、脳幹にできれば「パーキンソン病」にと症状に違いが出てきます。
特徴的な症状は、存在しない人や物が見える「幻視」です。
そのほかにも嗅覚の低下、睡眠中の異常行動、身体が小刻みに震えるなど症状がみられます。
高次脳機能障害は、外見上分かりにくく、本人にも自覚症状が無いことが多いです。今回は、そんな高次脳機能障害の症状や原因を以下のポイントに沿ってご説明します。高次脳機能障害になった場合に失われる機能はどのようなも[…]
高次脳機能障害と認知症の違い
高次脳機能障害と認知症の症状は、よく似ていることもあって混同されやすいのですが、ハッキリとした違いがあります。
違いを見分けて高次脳機能障害に適した治療を始めることが大切です。
年齢が関係するか否か
認知症は、高齢者に多く発症する特徴があります。
一方で、高次脳機能障害に年齢は関係ありません。
進行性であるか否か
認知症は進行することはあっても、完治することはありません。
長い年月をかけてじっくりと症状が進行していき、記憶障害だけでなく、日常生活における動作が難しくなっていきます。
さらに、人の顔が識別できなくなったり、思った言葉が出てこなくなったりと症状は進行していきます。
一方で、高次脳機能障害は進行性ではないという点が大きな違いとなります。
治療やリハビリを続けることで、100%ではありませんが、症状の改善が期待できます。
発症した時期がわかるか否か
認知症の場合は、物忘れなどから始まりますが、ハッキリとした発症時期が特定できません。
しかし高次機能障害の場合は、「脳卒中で倒れた」「交通事故で頭を強く打った」後に発症するため、発症時期が特定できるという違いがあります。
つまり、発症時期が特定できるのが高次脳機能障害で、特定できないのが認知症です。
QOLの向上が高次脳機能障害を改善?
高次脳機能障害の様々な症状を改善するためには、リハビリが欠かせません。
さらに最近では、メンタル部分も重要視され「QOL」や「Well-being」が注目されています。
QOLとは
QOLとは、「Quality Of Life」の略で「生活の質」や「人生の質」といった意味です。
生きる上での満足度といってもいいでしょう。
充実した毎日で心身が満たされた生活を送ることは、高次脳機能障害の改善効果に期待が持てます。
QOLの向上は、「本人がどのようなときに幸せを感じるのか、何を大切にして生きていきたいか」が基本になります。
そのため、人によってQOLは千差万別ということになるでしょう。
たとえば、障害があっても人の手を借りず、自分の努力で克服することに生きがいを感じている方に先走って手を貸すことは、QOLを低下させてしまうことになります。
高次脳機能障害の方が基本的な生活をスムーズにできるアシストをしながら、さらに幸せを見いだせる状況を作り出すことでQOLは高くなります。
Well-beingとは
Well-being(ウエル・ビーイング)とは、身体的、精神的、社会的に良好な状態で幸せを感じることです。
この理論は、ポジティブ心理学に基づいており「どうやったら病気が治せるか」よりも「どうすればもっと幸せになれるか」に気持ちをシフトするという理論です。
Well-beingは5つの要素から成り立っています。
- 気持ちが前向きであること
- 何かに没頭できること
- 人間関係が良好であること
- 人生の意味や意義を見いだせること
- 達成感があること
高次脳機能障害になって悲観するのではなく、ありのままの自分を受け入れたうえでWell-beingを高く保つことは、生きることへの幸せにつながるでしょう。
高次脳機能障害と認知症の違いのまとめ
ここでは、高次脳機能障害と認知症の違いを中心に紹介してきました。
この記事のポイントをおさらいすると以下の通りです。
- 高次脳機能障害は、病気やケガで脳に損傷を受けたことで残る後遺症で、症状として「記憶障害」「注意障害」「遂行機能障害」「社会的行動障害」などが見られる
- 認知症は、脳の機能が低下して生活に支障をきたすようになってしまった状態で、「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」などそれぞれで症状が異なる
- 高次脳機能障害と認知症の主な違いは「年齢が関係するかどうか」「進行性かどうか」「発症時期がわかっているかどうか」
- 高次脳機能障害の改善に、QOLやWell-beingが注目されている
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。