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健達ねっと>専門家から学ぶ>ドクターズコラム>【ドクターズコラム】“理想の介護”にこだわらず、認知症の人に寄り添うケアを

【ドクターズコラム】“理想の介護”にこだわらず、認知症の人に寄り添うケアを

医療法人社団翠会 和光病院 

石川 容子 先生

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本人の苦悩、介護者の大変さは、当事者にしかわからない

近年、認知症の啓発普及は、かなり進んできたように感じます。「認知症はとても身近な病気です」といったフレーズも多く聞かれます。そうはいっても、家族の誰かが認知症になったり、あるいは自身が老いたとき、はじめて認知症を身近に感じるのではないかと思います。
認知症を知ろうと思えば、インターネット、書籍、パンフレットなど、今や情報はさまざまなところから入手できます。しかし、どんなに病気の理解が進んでも、認知症の人の苦悩を理解することは、たやすいことではありません。また、認知症の人を介護する人の大変さも、当事者でなければわからないことがたくさんあるだろうと思います。

私の勤める和光病院には、「認知症看護外来」というものがあります。そこでは、看護師が介護に関する相談に応対したり、将来のことを一緒に考えたりしています。
このコラムでは、ご本人や介護者の肩の荷が少しでも軽くなることを願い、実際に介護者から多く聞かれる相談や、抱えている悩み、それに対する応えの一部を紹介したいと思います。

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【お悩み①】言ったでしょ!聞いてない!の押し問答にぐったり

⇒記憶の低下による混乱が、できるだけ少なくなるようサポートしましょう

認知症が進み、長年通っている病院に1人で通院することが難しくなり、家族が付き添うことはよくあります。多くの場合、家族は受診の前日に「明日は10時に病院だから、忘れないでね」と本人に伝えます。本人も、そのときには「わかった」と返事をしますが、当日になると「どうしたの、どこか行くの」と、初めて聞いたかのような言葉が返ってきます。こちらとしては「昨日、伝えたのに」、「わかったと返事していたじゃない」と言いたくなりますが、本人にとっては、まったく覚えのないことなのです。

「とにかく、すぐに忘れてしまい困る」、「伝えたことを聞いていないと言うので、押し問答になり、お互いにぐったりしてしまう」という話をよく聞きます。しかし、そもそも認知症の記憶障害は、忘れるというよりは、“覚えておくことができない”のです。前もってではなく、“当日に”、「今日は、病院に行くから支度をしましょう」と伝えるほうがよいです。

認知症の人は日々の暮らしの中で、このような出来事をたくさん体験しているのではないかと思います。記憶の低下をまったく自覚していないわけではなく、本人は「ばかになった気がする」「頭がおかしくなった」と言い、ふさぎこんでしまうことがあります。不安をなくすことはできませんが、そばに寄り添い、混乱を最小限にするサポートが大切です。

【お悩み②】何もせずにゴロゴロしていて心配

⇒頭はフル回転しています。休息は大切なサポートです

「デイケアから帰宅すると、ずっと、うとうとしている」、「デイケアのない日は、ゴロゴロしていて、何も刺激がなくて心配」という話を聞くことがあります。
記憶(*1)が低下している本人にとって、デイケアという場所の理解や、そこでの人間関係を理解することは、大変困難です。知らない場所で、知らない人たちに気を遣いながら数時間を過ごすことは、想像以上に疲労します。帰宅して緊張がほどけた際には、きっとくたくたです。デイケアでそれなりに過ごしているようなら、周囲の人は「疲れたのだなあ」と思って見守ることが大切だと思います。
日常生活で、本人は何をするにも頭をフル回転させないとうまくいかなくなっていますので、脳も体も休息が必要です。健康上の問題がなければ、ゴロゴロしていても、あたたかく見守っていてよいと思います。

【お悩み③】妄想、暴力的な行動などがあってつらい

⇒介護だけではどうにもならないことがあります。医師や専門家に相談を

「妻が浮気をしている」「知らない男と寝ている」と思い込み、幻視や妄想から暴力的になることがあります。こちらがそれを否定すればするほど、本人は怒ってしまい、ついには妻(夫)が家に居られなくなる、というような状況が起こり、切羽詰まって相談に至るケースがあります。
こうした妄想は、周囲の人の力で修正することが難しいです。家の中でがんばり過ぎて家族中が振り回されてしまうと、誰も幸せではありません。このようなときには、薬などによる治療が有効な場合があります。医師や専門家に相談し、入院治療などをおすすめしています。

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【お悩み④】ついつい怒ってしまい自己嫌悪……

⇒家族は“理想の介護”にこだわらなくてOKです

「仕方がないとわかってはいるけれど、何度も同じことを聞かれて優しくできない」「ついつい怒ってしまう自分が嫌になる」「介護の本には“本人のペースに合わせる”と書かれているけれど、そんなことはできない」……。こんなふうに、認知症についての知識を深めている家族ほど、自分を責め、落ち込まれることがあります。
365日、24時間介護している家族にとって、教科書にあるような理想の介護は、なかなか無理があります。介護のプロではなく家族なのだから、言い合いをしたり、腹を立てたりするのは当然。自分を責めなくてよいのです。イライラして怒鳴ってしまってこちらが落ち込んでいても、案外、本人はケロッとして覚えていなかったりします。

家族にはそれぞれの生活があり、介護においては、多くのことに折り合いをつけなければならないと思います。そもそも“正しい介護”、“理想の介護”などは存在せず、その家族なりの介護でよいのです。本人の尊厳だけではなく、介護する人の尊厳も守られなければ、誰も幸せではありません。

いかがでしたでしょうか。主に、自宅で生活する認知症の人の介護について書きましたが、どのような状況であっても、大切なことは、認知症による中核症状によって、本人が何に困っているのか、何をサポートすればよいのかを、周囲の人が考え続けていくことだと思います。心配事なく生活をすることは、なかなか難しいかもしれませんが、周囲の人のあたたかい心や優しいまなざしが、本人にとって何よりの“よい環境”だと思います。

 

【注釈一覧】

*1)今の時間や、今いる場所、相手がだれであるかなどの状況を把握する能力。

薬の使い方

医療法人社団 翠会 和光病院 看護部長

石川 容子いしかわ ようこ

認定看護管理者
認知症看護認定看護師

  • 認定看護管理者
  • 認知症看護認定看護師

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