笹本 友里 管理栄養士
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生活習慣病、フレイル、活性酸素を防ぐことが、認知症予防につながる
WHOが2019年に発表したガイドライン「認知機能低下および認知症のリスク低減」には、「高血圧」、「糖尿病」、「脂質異常症」などの「生活習慣病」の予防の重要性が示されています。
また、要介護状態にいたる前段階として位置づけられる「フレイル」は、加齢によって心身ともにし、社会的つながりも弱くなってしまうなど多方面な問題を抱えやすいことから、認知症の要因といわれています(*1)。しかし、食事の改善をはじめとした適切な取り組みを行うことで、再び健康な状態に戻ることができるのも、フレイルの特徴です。
さらに、体に取り込んだ酸素の一部が変化した物質である「活性酸素」も、細胞や血管を酸化させ、老化や動脈硬化の要因となることから認知症の原因物質といわれています。
認知症にならないために「これさえ食べておけば大丈夫!」と紹介できる好都合な食品は、残念ながらありません。しかし、「生活習慣病」、「フレイル」、「活性酸素」、この3つを防ぐことは、認知症の予防につながります。その観点から、今回のコラムでは、認知症予防における食事のポイントを3つお伝えします。
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①バランスのよい食事を目指そう
テレビで「これがよい!」と取り上げられた食品が、スーパーからなくなるという現象をたびたび見かけます。一部の食品に偏った食事、いわゆる“ばかり食い”には注意が必要です。食べ物は複数の栄養素を持ち合わせているため、“ばかり食い”をすると本来摂取すべき栄養素に過不足が生じるからです。では、どうすればバランスがよくなるのでしょうか。
はじめに、自分にとっての「1日に必要なエネルギー(kcal)」、つまり食事量を知る必要があります。
体格を示す指標BMI(Body Mass Index)は、〔体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)〕から求めることができます。BMI18.5未満を「やせ」、25以上は「肥満」、22を「標準」とし、〔BMI22 × 身長(m)×身長(m)〕が“標準体重”となります。ここから〔標準体重×身体活動量25〜35kcal(1日の活動量によって異なる)〕を計算することで、その人にとっての1日に必要なエネルギーが何kcalほどか、だいたいの目安が求められます。
最近では、飲食店のメニューやコンビニの商品でも、栄養成分表示がわかりやすく示されていることが多いです。前述の計算式で求めた「1日に必要なエネルギー(kcal)」を3等分し、1食分の目安として、食事を選んでみるとよいでしょう。
バランスのよい食事を目指すうえで次に大切なことは、「栄養素を偏りなくとる」ことです。そのためには、主食・主菜・副菜を揃える必要があります。
主食とは、ごはん・パン・麺などの“炭水化物(糖質・食物繊維)”を多く含む食品で、主に体を動かすエネルギー源となります。1食の目安は、軽く握ったこぶし1つ分程度です。
主菜におすすめなのは、魚・肉・卵・大豆製品など“たんぱく質”を多く含む食品で、体を作るもととなります。フレイル予防のためにも、毎食の摂取が重要です。摂取量は「肉類」「魚類」「卵」「大豆製品」「乳製品」の5品目を、それぞれ手のひら1つ分(指以外)程度、毎日摂取することを目安とします。
ちなみに、魚の脂に豊富な不飽和脂肪酸(EPA・DHA)には、脳神経細胞の機能維持や血流改善効果があり、動脈硬化予防にも有効だといわれています。刺身や水煮缶を使えば、調理の手間もなく、手軽に摂取することができます。
副菜におすすめなのは、野菜・きのこ・海藻など、“ビタミン”、“ミネラル”、“食物繊維”を多く含む食品です。そのほかの栄養素からのエネルギー生成を促す働きや、皮膚や血管を丈夫に保つ役割があります。1食の目安は、生野菜なら両手に1杯、温野菜なら片手に1杯程度です。
そして、普段の食事をバランスよくするコツとして、“ちょい足し”もおすすめします。炭水化物だけの食事になりがちなとき、たとえば麺類には“卵とカット野菜を加える”、食パンには“チーズとミニトマトをのせる”、たんぱく質が不足しがちなサラダには“ツナを加える”など、食材を少し加えるだけで、バランスのよい食事に近づきます。
②“塩分控えめ”を心がけよう
塩分の過剰摂取は高血圧の原因となり、継続すると「動脈硬化」のリスクとなります。動脈硬化は血管を劣化させ、認知症の引き金となる可能性があります。
日本人の平均的な塩分摂取量は約10g/日であり(*2)、これはWHOが目標とする5g/日未満に対して、非常に多いことがわかっています。
とはいえ、毎回塩分量をこまかく確認するのは、現実的ではありません。そこでまずは、「汁物は1日1杯までを目安とする」、「麺類のスープはできるだけ残す」、「漬物や佃煮を控える」など、塩分の多い食品を控えめにすることを意識してみましょう。
また、普段当然のように使っている調味料は、そんなに使わなくてもおいしく食べられるかもしれません。かける前、つける前に、味見をしてみる習慣をつけましょう。しょうゆは、スプレーボトルを使用すると、少量でまんべんなくふきかけられるのでおすすめです。
③抗酸化物質を味方にしよう
認知症の要因の1つ、活性酸素を防ぐために味方となるのが、「抗酸化物質」です。
大豆のイソフラボン、ゴマのセサミン、緑茶のカテキンなどが有名な「ポリフェノール」、緑黄色野菜に豊富なβカロテン、リコピンなどの「カロテノイド」、たまねぎやにんにくに含まれる「イオウ化合物」、野菜や果物、いも類に豊富な「ビタミンC」、ナッツ類に豊富な「ビタミンE」は、すべて抗酸化物質の一部です。ここでは紹介しきれないほど、まだまだたくさんの種類があります。
摂取量を増やすコツは、「食卓の彩りを意識する」こと、そして「野菜や果物は新鮮なうちに食べる」ことです。また、抗酸化物質は水溶性で、体内に蓄えておけない性質があるため、こまめに摂取する必要があります。やはり、「これさえ食べておけば大丈夫!」ということではなく、バランスのよい食事が基本となります。
いかがでしたでしょうか。今回は3つのポイントお伝えしましたが、難しく考える必要はありません。「食卓が茶色っぽいから緑を足そう」、「たんぱく質が足りないから豆腐も食べよう」、「ソースをつけなくても十分おいしく食べられるな」という小さな意識を、ポイントカードのスタンプを貯めるような感覚で、楽しく続けることが認知症予防につながります。ぜひ、次の食事から何か1つでも実践し、ポイントを貯め始めましょう!
【注釈一覧】
*1)厚生労働省『食べて元気にフレイル予防』参照