福井大学高エネルギー医学研究センター 生体機能解析学部門
岡沢 秀彦様
アルツハイマー病の原因物質と考えられているアミロイドβとタウ。
今回はその物質を、PETという最先端の画像診断装置を使って研究している、福井大学高エネルギー医学研究センターの岡沢秀彦教授にお話を伺いました。
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研究内容について
編集部:岡沢様の研究室ではどういった研究を行っているのでしょうか?
岡沢様:私はPETを用いて、アミロイドβについて研究しています。
アミロイドβはアルツハイマー病の原因物質の1つですが、健常者の脳内にもあるんですよね。
しかし、健常者であればアミロイドβを排泄する機能が働くのですが、アルツハイマー病の方はその機能がうまく働かず溜まってしまいます。
この働きをPETによって可視化できるのではないかということが2010年ごろから広がってきて、私もそういった研究を行っています。
編集部:なるほど、具体的な研究内容を教えてください。
岡沢様:実は、アルツハイマー病の人だけにアミロイドβが溜まっているのではないんですよ。
アミロイドβが溜まっていても認知機能が保たれていることもあります。
ですから、認知症の人とそうでない人の間にはどういった違いがあるのかということを研究しています。
また、アルツハイマー病のもう1つの原因物質、タウタンパクの溜まり方を見ればより精度高く検査できるのではないかと考えています。
理想を言うと高齢の健常者に継続的に検査を受けてもらい、変化を追っていくことですが少し難しいです。
これは、検査に使う薬剤の開発を進める上でも非常に重要なのですが、、
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脳内酸化ストレスについて
編集部:貴学のHPを事前に確認させていただいたところ、「アミロイドβよりも脳内酸化ストレスの方がアルツハイマー病の上流の原因になっている可能性がある」という記述を拝見したのですが、そもそも酸化ストレスとはどういったものなのでしょうか?
岡沢様:酸化ストレスとは簡単にいうと、人体に有害な作用のことです。
ただ、酸化ストレスが上流の原因になるというのは、仮説であってまだわかっていません。
アミロイドが脳内にたまると、それを除去しようとするミクログリアという細胞が攻撃に出ます。
そうすると、活性酸素種と呼ばれる、酸化ストレスの原因になる物質を出します。
これが脳の神経を傷つけ、認知症の原因になっているのではないかと言われています。
その前に、そもそもアミロイドβ排泄機能の低下にも酸化ストレスが関与しているのではないかと考えた訳です。
これまでにALS(筋萎縮性側索硬化症)やパーキンソン病の患者では、脳の一部が酸化ストレス状態になっているという論文を発表しています。
編集部:なるほど、酸化ストレスを出さないための薬などはないのでしょうか?
岡沢様:一般的な物質は脳には届かないんですよね。
ですから、一般薬とかで酸化ストレスを抑えるのは非常に難しいです。
しかし、方法がないわけではありません。
寝ている間は。アミロイドβを排出してくれる作用が働きます。
アミロイドβが適切に排出されれば、ミクログリアが活発に働く必要もなく、そのため酸化ストレスは発生しません。
ですから、結局は質の良い睡眠が非常に重要だと言えます。
認知症研究を始めたきっかけ
編集部:認知症に関する研究を始めたきっかけを教えてください。
岡沢様:私は放射線科医であって、患者を診察する診療医ではありませんので、直接認知症の患者様と接する機会はほとんどありません。
検査で少し接するくらいです。
検査の際に、そういった認知症の方と直接接する機会があると、普通のやり取りがスムーズにできないことがあり、少しショッキングな気持ちになるんですね。
また、私の父も認知症だったこともあり、元々自分がやっていた画像研究を通じながら、認知症を治したいという気持ちになったことがきっかけです。
編集部:なるほど、今後の方針等はございますか?
岡沢様:タウの研究を通した認知症の根本原因の探求や、異常物質が睡眠によって排出されることについて画像研究を通じて探求していきたいと思っています。
健達ねっとをご覧いただいている方へのメッセージ
編集部:最後に健達ねっとのユーザー様に一言お願いします。
岡沢様:我々は、MRIやPETを使用し、認知症に不安がある方の検査を認知症脳ドックという形で実施しております。
実際、がんの検査と合わせて認知症の検査を行う方が多いですが、認知症のみの検査も受け付けております。
自分にはまだ関係ないことと思っていても、長い時間をかけて進行するのが認知症です。
ぜひ早め早めの検査をおすすめします。