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地域支援を活用して認知症の人を支える

産業医科大学神経内科学講座 教授

足立弘明 先生

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認知症には、多様な原因と症状がある

厚生労働省の研究調査によれば、2025年には高齢者の約700万人が認知症になると推計されています。認知症の原因は多様で、あくまでも“病気”であって“悪”ではなく、社会的な理解を必要としています。それぞれの疾患に応じた治療や対応が必要であり、その中には医療関係者のみでなく、地域で認知症の患者さんを支えていくことも大変重要です。

認知症とは、脳の器質的な変化により、記憶機能やそのほかの認知機能が、日常生活に支障をきたす程度にまで低下した状態をいいます。

たとえば、仕事の場においては、前日の会議の内容を忘れてしまったり記憶障害、ロッカーの鍵や重要書類のしまい忘れが目立つようになったり、物が見つからないときに部下のせいにしたりします(人のせいにする、判断力の低下)。日常生活でも、近所に住む親族のところに何度も電話をし、前にかけてきた内容を覚えていなかったり(記憶障害)、買い物へ行って、同じビールをたくさん買って冷蔵庫内をいっぱいにしたり(計画性欠如、遂行障害)、囲碁教室など、趣味で行っていたところへいろいろな理由をつけては行かなくなったりする(新たなことをしたがらず、引きこもる、社会性消失)などの変化が現れます。

アルツハイマー型認知症の診察場面では、「今日は何月の何日ですか?」と質問をした際に、「えーっと何月でしたっけ」と付き添いの家族のほうを振り返って尋ねたり(人に頼る)、「今日は新聞もテレビも見てこなかったものですから」と言い訳したりする (取り繕い)などの特徴的な振る舞いがみられます

認知症の原因となる病気も多様で、神経変性疾患による「アルツハイマー型認知症」、「レビー小体型認知症」、「前頭側頭型認知症」、脳出血や脳梗塞などの脳血管障害による「血管性認知症」などが含まれます。そして、認知症全体の約6割がアルツハイマー型認知症とされています。このほか、脳炎などの感染症や、プリオン病、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症なども、認知症の原因になります。

認知症の症状は大きく2つに分けられており、記憶障害・見当識障害・判断力低下などの「認知機能障害=中核症状」と、幻覚・徘徊・暴力・抑うつなどの「行動・心理症状(BPSD)=周辺症状」があります。さらに、認知症の種類により現れる症状には特徴があり、たとえば、アルツハイマー型認知症は記憶障害や判断力・注意力の低下、レビー小体型認知症は幻視や妄想、手の震えや転倒しやすさ、前頭側頭型認知症は反社会的行動などがみられます。

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薬などによる適切な治療や、症状の予防が大切

アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などの場合、根本的な改善は難しいのですが、進行を遅らせる薬や、BPSD(行動・心理症状)を改善する薬があります。現在、アルツハイマー型認知症の治療薬は2系統・4種類で、飲み薬のほかに貼り薬もあり、進行に応じて薬の増量や、他剤の併用も行います。認知症が進行して薬を飲み込めない人には、口の中で溶けて水なしで飲めるタイプの薬(口腔内溶解錠)もあります。

ふだんの生活においては、車の運転は事故の危険性が高く厳禁ですが、本人にとって楽しいことをすれば脳機能が高まります。生活習慣病や食生活の注意、適度な有酸素運動とともに、できるだけ好きなことを積極的に行うことが勧められます。

高齢者の一人暮らしや夫婦世帯の増加に対する支援

今後の認知症診療の現場で大きな問題となることが予想されているのが、65歳以上の独居、または、夫婦とも65歳以上という世帯が増加すること。いわゆる「老老介護」や「認認介護」、独居の認知症高齢者が増加することです。独居の認知症の患者さんは、重症化するまで医療やケアに結びつきにくいことが予想されます。

これを少しでも防ぐために考えられているのが、多職種協働チーム(認知症初期集中支援チーム)による、訪問診療やケアのアプローチです。

認知症初期集中支援チームとは、複数の専門職が家族の訴えなどにより、認知症が疑われる人や認知症の患者さん宅を訪問し、アセスメントや家族支援などの初期の支援を包括的・集中的(おおむね6ヶ月)に行い、自立生活のサポートを行うチームです。対象者は、40歳以上で、在宅で生活しており、かつ認知症が疑われる、または認知症の患者さんで以下のいずれかの基準に該当する人になります。

◆基準1:医療・介護サービスを受けていない人、または中断している人で以下のいずれかに該当する人

(ア)認知症疾患の臨床診断を受けていない人

(イ)継続的な医療サービスを受けていない人

(ウ)適切な介護保険サービスに結び付いていない人

(エ)診断されたが介護サービスが中断している人 

◆基準2:医療・介護サービスを受けているが認知症の行動・心理症状が顕著なため、対応に苦慮している人

認知症の人へのさまざまな支援体制を知ろう

認知症の人やその家族の暮らしを支えるサービスは、医療・介護・地域の連携など、多方面からのアプローチが可能です。それには、認知症サポーターなどによる見守り、配食などの生活支援サービスや、権利擁護などの地域支援事業の活用、市民後見人の育成および活用、認知症の患者さんやその家族に対する、支援団体による電話相談や交流会の実施などがあげられます。

在宅系のサービスとしては、介護保険制度を利用した訪問介護・訪問看護・通所介護、小規模多機能型居宅介護、短期入所生活介護、24時間対応の訪問サービス、複合型サービス(小規模多機能型居宅介護+訪問看護)などがあります。施設・居住系のサービスとしては、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、認知症共同生活介護、特定施設入所者生活介護などがあります。このほか、老人クラブ・自治会・ボランティア・NPOなどの利用も可能です。地域包括支援センターやケアマネジャーが、これらの相談業務やサービスのコーディネートを行います。

地域包括支援センターは、高齢者の暮らしを地域でサポートするための拠点として、自治体などにより設置されている機関です。似た施設に「居宅介護支援事業所」がありますが、こちらは要介護認定を受けている高齢者のケアプランを作成する施設です。それに対し、地域包括支援センターはすべての高齢者の相談を受け付け、「介護予防ケアマネジメント」「包括的・継続的ケアマネジメント」「総合相談」「権利擁護」の4つを業務の柱として、地域に住む高齢者に加え、その支援や介護に携わっている方々を支える役割を果たしています。

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認知症の特性を理解したケアを心がけよう

認知症のケアは、患者さんが同じことを何度も聞いてきて困ったり、目が離せなかったり、介護者のペースでできない、ありがとうと言ってもらえないなど、介護者にとっていくつかの障壁があります。そのため、認知症という病気の特性を理解し、それに基づいたケアが必要になります。認知症の人の能力低下を理解し、過度に期待せず、簡潔な指示や要求を心がけることが重要なのです。

たとえば、認知症の人が混乱したり、怒り出したりする場合は、要求を変更することを要します。失敗につながるような難しい作業は、避けてあげることも有用です。

認知症に伴う障害に向かい合うことを本人に強いたりせず、穏やかで安定した、支持的態度を心がけること。できるかぎり簡潔に説明し、不必要な変化を避けることで、認知症の患者さんを支えることにつながっていきます。さらに今回、このコラムで述べたような種々の認知症支援サービスを有効に活用すれば、認知症の患者さんを支えることにつながっていくものと思われます。

薬の使い方

産業医科大学脳神経内科 教授

足立 弘明あだち ひろあき先生

日本神経学会専門医・指導医
日本認知症学会専門医・指導医
日本内科学会内科認定医・指導医

  • 日本神経学会専門医・指導医
  • 日本認知症学会専門医・指導医
  • 日本内科学会内科認定医・指導医

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