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【専門家インタビュー】認知症のない社会を目標に:神経疾患の解明を目指す

宮崎大学 医学部付属病院 脳神経内科 助教

杉山崇史様

宮崎大学 医学部附属病院 脳神経内科 助教の杉山様らは、小胞体にある特定の膜タンパク質を欠損させることでコレステロール合成経路が抑制され、神経細胞の萎縮が生じ、その結果脳の萎縮に繋がるという新たなメカニズムを解明しました。

このメカニズムは今後神経疾患の治療法のターゲットとなり得ることも考えられます。

神経疾患を引き起こす病態脳には、神経細胞内の細胞小器官の一つである小胞体にストレスがかかっている「小胞体ストレス」が多くの場合示されていました。

本研究での発見において、小胞体ストレスそのものが脳萎縮の直接的な要因ではなかったということも重要なポイントとなります。

今回は詳しい研究内容についてや研究成果がどのように認知症の克服に繋がっていくのか、杉山様に詳しくお伺いしました。

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臨床医の立場として携わった研究

 

編集部:まず杉山様がこの研究を行うに至った経緯をお伺いしてもよろしいでしょうか。

杉山様:もともと私は純粋な臨床医として脳神経内科の診療に携わっていました。臨床に明け暮れて、色々な検査を行って最善と考えられる治療を行ったつもりでしたが、どんなに頑張っても治せない時や、診断を説明する時に原因はまだ分かりませんとしか言えない場面で苛立つようになり、難病の病態解明の糸口になる研究を自分も行ってみたいと思うようになりました。

編集部:研究という別の観点から、患者さんに対してアプローチをされようとしたのですね。実際にどのような研究を行ったのですか。

杉山様:それまで私は基礎研究は全く行ったことはありませんでした。一度、臨床とは異なる観点で生命現象の研究をしてみたいと思い、大学院生として所属したのが、今回の研究を行った宮崎大学医学部機能制御学講座という臨床医がいない研究室でした。

この研究室の目標は、生命現象のメカニズムを解明し、病気の解明に繋げることでした。

病気を対象としていても臨床医とは全く異なるアプローチをしているところが非常に刺激的でした。

そこで与えられたテーマが、脳における小胞体の役割の解明でした。

編集部:まず脳と小胞体について基本的なことを教えていただいてもよろしいでしょうか。

杉山様:脳は膨大な量の神経細胞が集まって構成されています。神経細胞は複雑な形態をしていて、多くの突起を伸ばしていますし、又、突起間の信号伝達を担うシナプスを形成することで発達します。

小胞体とは、合成されたタンパク質を折りたたんだり修飾したり、脂質を合成したりする細胞小器官です。

編集部:脳における小胞体の役割を解明するということですが、具体的にはどのようなことが目的とされていたのでしょうか。

杉山様:脳が老化したり、認知症が生じているような病気の脳では、神経突起やシナプス形成が抑制されるとともに脳が萎縮します。又、小胞体が脳にとって重要だということは、これまでの研究で十分明らかになっていましたが、その詳細なメカニズムについては不明な点が多いです。

そこで、今回は小胞体の膜に存在して、小胞体の品質管理に必須のタンパク質であるDerlinという物質を欠損させたマウスを作製して、小胞体の機能を低下させたら、脳にどのような異常が生じるかを解析することとしました。

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実験を通して新たに分かったこと

 

編集部:実際にどのような実験を行ったのでしょうか。

杉山様:まず今回のマウスの行動を解析したところ、運動機能がとても悪くなっていることが分かりました。さらに脳の中で運動の調整を行っている小脳と線条体という部分が小さくなっていることが分かり、運動機能の低下と対応する結果だと考えられました。なぜ脳が小さくなっているのかという点について解析を進めると、神経細胞の突起が短くなっていることが分かりました。

編集部:神経細胞が小さくなることで小脳と線条体が萎縮して、その結果、運動機能が悪くなったということですね。どのようなことが原因だったのでしょうか。

杉山様:今回着目したDerlinという物質は、様々な神経疾患に関与するとされている小胞体ストレスを軽減する役割があります。今回の脳萎縮も小胞体ストレスが関与しているのではないかと思っていました。ところが意外なことに、小胞体ストレスは脳萎縮の直接的な原因ではないことが分かりました。色々な実験を行って、コレステロールを合成する経路が抑制されていることが、神経細胞の突起が短くなっていることの原因であることが分かりました。

編集部:コレステロールというと、悪玉コレステロールは動脈硬化の原因になり得る、などと悪いイメージもあるのですが・・・

杉山様:コレステロールは、細胞の健康な状態に維持するために必須の物質です。脳内には生体内の全コレステロール量の20~25%が存在していると言われており、脳にとっては特に大切な存在だと言えます。

編集部:コレステロールが脳にとって大切ということは、コレステロールと脳の病気との関係は以前から分かっていたのでしょうか?

杉山様:コレステロール代謝の異常はアルツハイマー病との関連も注目されており、脳の病気との関り自体は以前から知られていました。

しかし、今回の研究では、小胞体の特定の膜タンパク質を欠損させるとコレステロール合成経路が抑制されて、神経細胞の萎縮が生じ、その結果、脳の萎縮に繋がることを見出したのが重要な点だと思います。

編集部:これまで基礎研究をしたことがないというお話しでしたが、大変でしたか。

杉山様:最初にマウスの行動異常が分かり、それから、そのメカニズムを解析するというアプローチは、患者さんを診察するときの考え方と似ているので、最初は取り組みやすいかなと思いました。しかし詳細な解析を進めていくときは、終わりが見えず、涙なくしては語れないくらい大変でした(笑)。

しかし非常に良い経験でした。

幅広い神経疾患に共通するメカニズム

 

編集部:今後、病気の治療にも発展させることは可能なのでしょうか。

杉山様:今回ターゲットにした小胞体の膜タンパク質であるDerlinは、まだ実際の病気との関連は示されてはいないですね。つまり、現段階では直接的に患者さんには応用できない、ということになります。ただ、今後、神経疾患の治療法のターゲットとなり得る、ということは言えるのではないかと考えています。

編集部:認知症の治療にはいかがでしょうか。

杉山様:認知症というのは認知機能を担っている部分に障害が起こることで発症するものです。今回はたまたま運動の部分で多く症状が出ていただけで、同じように認知機能の部分に障害が起こっていたら、認知症に十分応用できると考えております。

今回明らかにしたメカニズムは、認知症以外の幅広い神経疾患に広く共通するものであると思っております。

臨床への応用に向けて

 

編集部:この研究をもとに、現在どのようなことを行っていますか。また、今後どのようなことに発展させていきたいですか。

杉山様:機能生化学講座にいたときは完全に基礎研究に没頭していましたが、今は再び患者さんの診療中心の仕事をしています。

今回の研究を臨床にも応用できればいいなとは考えており、やはり小胞体を治療ターゲットとした治療には注目しています。実際に小胞体に着目して開発している治療薬は海外でも治験が進んでいます。

小胞体に関連する治療薬の治験が日本でも始まる時には、今回の研究で得られた知識を活かせるのではないかな、とも思っております。

最終的に患者さんの治療に結びつけるのが私の役割であると思っております。

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健達ねっとをご覧いただいている方へのメッセージ

 

編集部:最後に健達ねっとのユーザー様に一言お願いします。

杉山様:認知症はご本人がつらいだけでなく、介護するご家族の方々にもご苦労が多いと思います。困っていることがあったらご家族の方々も、患者さんも、気軽に相談していいと思います。全てにアプローチできるわけではないですけれども、内服薬などによって改善する部分もあります。

そもそも認知症を根本的に治療していくのは難しいことなのですが、困っていることを少なくすることはとても大事です。

ですので、もしなにか困ったことがあったら、近くの脳神経内科、精神科に相談することも認知症と向き合ううえで大切なことであると思います。

薬の使い方

宮崎大学医学部付属病院脳神経内科助教

杉山 崇史すぎやま たかし先生

日本臨床ストレス応答学会
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