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健達ねっと>専門家から学ぶ>ドクターズコラム>認知症の人と社会をつなぐ“認知症カフェ”

認知症の人と社会をつなぐ“認知症カフェ”

介護老人保健施設の里

松永美根子 先生

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まわりとの交流を通じて、認知症の人や家族が“ほっ”とできる認知症カフェ

認知症と診断されたら、誰もが外に出ることや、人と関わることがとても不安になり、いろいろなことに億劫になるのではないかと思います。まして若年性認知症(*1)となれば、子供の学業や経済的な負担など多くの不安を抱え、家族もこれからどうしたらいいか、途方に暮れる方が多いのではないでしょうか。そんな認知症の人や家族の居場所となり得る、“ほっ”とする場が、「認知症カフェ」だと考えます。

認知症カフェは、2012年(平成24年)に発表された「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」における「地域での日常生活・家族の支援強化」の中で、認知症の人やその家族などに対する支援として普及が示されました。2019年(令和元年)度の厚生労働省の実績調査によると、47都道府県1516市町村にて、7988の認知症カフェが運営されています。

認知症カフェは、認知症の人やその家族、地域住民、認知症の専門職など、誰もが参加し、交流できる場となっています。その形態はさまざまで、場所も民家や施設、喫茶店、公民館で行うところなどがあります。また、毎日行っているところもあれば、週1回や月に1~2回のところなど、頻度や開催時間もさまざまです。
私が勤務する孔子の里でも、2003年(平成15年)の12月から「おれんじカフェなないろ」として月1回開催し、認知症の人やそのご家族、ご近所の方々、民生委員、ケアマネージャーなど、毎回20~40人が参加されています。

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認知症カフェが、認知症の人と家族を見守る“目”を増やす

認知症カフェは、一般の地域の人に認知症について理解してもらい、認知症の人と普通に出会い、交流する場を大切にしています。そのことが、認知症の人と家族を見守る“目”を増やすことにつながります。
また、閉じこもりがちな認知症の人やその家族が、安心して受け入れてもらえる場であり、気軽に専門職に相談でき、地域との絆を結び直すことができる場でもあります。
ここで、実際に「おれんじカフェなないろ」に参加された方の例を2つご紹介します。

【ケース①】両親の老後の生活を心配し、相談先を求めて訪れたAさん

90代の両親と同居されているAさん(60代女性・独身)。現在、Aさんの両親は要介護状態ではないのですが、Aさんは将来の介護について不安を覚え、どこに相談をすればよいのか悩んでいました。そんな中、区長さんの声かけで「おれんじカフェなないろ」に参加し、カフェスタッフに専門職がいることがわかって、とても安心されたそうです。Aさんいわく、「近くに介護施設があることは知っていたが、何となく敷居が高く、気軽に相談できると知らなかった」ということでした。
両親に介護が必要になったとき、カフェに行けばいつでも相談できる、ということがわかったAさんは、今では「自分の気分転換にもなるから」と、両親と一緒に毎回カフェに参加しています。

【ケース②】ご近所の方からの働きかけで、認知症カフェに足を運ぶことができたBさん

 奥様と二人暮らしのBさん(80代男性)。Bさんの奥様はアルツハイマー型認知症ですが、Bさんはそのことを誰にも相談せず、自分一人で奥様の介護をしていました。Bさんがトイレに行ったときや、ついウトウトしたときに奥様が外に出られるため、Bさんは毎日奥様を捜されていたそうです。

そのころ、Bさんのご近所では、歩いているBさんの奥様に挨拶をすると、以前のように笑顔や会話が続かないことに、「どうも様子が変だ」と気にかけてくれる人がいました。さらに、ご主人がいつも奥様を捜している様子を見て、「もしかして、認知症なのではないか?」と思い、民生委員を通して、地域包括支援センターに相談したのです。
地域包括支援センターの声かけで、Bさんは「おれんじカフェなないろ」に奥様と二人で参加されるようになりました。Bさんは、「妻が認知症だということは、近所の人は誰も知らない」と思っていましたが、3度目のカフェ利用時に、近所の人が気づいていることや、力になりたいと思っていることを知りました。そして苦労話の後、近所の人の協力による奥様の見守り、買い物、ご主人の病院受診時のサポート体制などが一気に整ったのです。
まさに認知症カフェが、認知症の人とその家族、地域の人、専門職とで情報を共有し、お互いを理解する場になった一例といえます。

認知症の人が“普通であたり前”の存在に。お互いに助け合う社会へ

日本の認知症高齢者数は、2025年(令和7年)には約700万人になると推測されており、65歳以上の約5人に1人が認知症になると見込まれています。
このような日本の背景を踏まえ、認知症カフェには“介護者の負担を軽減し、専門職や地域の人と情報を共有する”という役割があると思います。また、認知症の人の居場所や役割づくり、認知症についての学びの場という目的もあります。
「認知症カフェ」という場にさまざまな人が集い、あたり前に同じ時間を過ごす。つまり、認知症カフェは、認知症の人やその家族、そして地域の人で時間・場所・情報を共有することを通して、地域の人が認知症の人を自分たちの生活の中に“普通であたり前の存在”として受け入れ、理解することにつながるのではないでしょうか。また、地域の人が認知症の人やその家族を見守り、お互いに助け合う動機づけになるかもしれません。さらに、地域のひとが、自分の家族や周囲の人の何らかの症状に気づき、受診などにつなげる初期支援のきっかけにもなり得ると思われます。

認知症の人も、そうではない人も、「人」として出会い、認め合い、支え合う。認知症カフェは、これから迎える、認知症730万人時代の地域社会の縮図なのかもしれません。

 

【注釈一覧】

*1)65歳未満で発症する認知症。

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介護老人保険施設孔子の里

松永 美根子まつなが みねこ先生

介護老人保健施設孔子の里(熊本)副施設長
小規模多機能ホームひごっ家施設長
DCM上級ユーザー

  • 介護老人保健施設孔子の里(熊本)副施設長
  • 小規模多機能ホームひごっ家施設長
  • DCM上級ユーザー

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