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トップページ>専門家から学ぶ>ドクターズコラム>【2】認知症の権威と語る「40代からの認知症予防」

【2】認知症の権威と語る「40代からの認知症予防」

本記事は、【2】認知症の権威と語る「40代からの認知症予防」です。今回のインタビューは【1】【2】【3】の3部構成となっております。【1】と【3】の記事も合わせてご覧ください。

【1】では、私たちが向き合うべき認知症予防について、医療側と介護側の両面からお話しいただきました。実際に現場で行動まで落とし込んでいる方々だからこそ、説得力のある内容になっています。

そこで【2】では、認知症の治療に焦点を当てて、新井先生ご自身の見解をお聞きしました。さまざまな情報が入り混じるネット社会の中で、正しい情報を分かりやすくお伝えできるよう徹底しています。認知症の方本人だけでなく、ご家族も併せて参考にしていただけると幸いです。

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認知症治療薬:アデュカヌマブ

上条: 今ある認知症のお薬はどうなのでしょうか?ここ最近言われている、アデュカヌマブについてお聞きしたいです。

新井先生: アルツハイマー病を例に挙げると、さっきのアミロイドが、20年、25年前から徐々に徐々に溜まってくるというのが始まりです。それがなぜ溜まってくるのかはわからないのだけど、アルツハイマー病の始まりは、42個のアミノ酸からなっているアミロイドβタンパクが、脳の中にどんどん溜まっていくことです。普通は分解されて血液の中に出ていくのだけど、それが脳の中に溜まってしまう。それが20年や25年かけて少しずつ溜まって発症していきます。

何とかマブというのは、モノクローナルアンチボディの略です。だから、まあコロナのワクチン療法なんかと同じですね。ワクチンは弱毒化した抗原を打ちますけど、アデュカヌマブは抗体ですね。だから抗体がアミロイドβとくっついて脳の中から減らす減らすということは、アルツハイマー病の進行を遅らせる。

上条: さっきの話で言うと、2次予防(【1】の記事を参照)ということですか?

新井先生: そう、本当は1次予防をしたい。だから、アミロイドがそんなに溜まっていない段階で使えば1次予防になるわけです。今のところ進行を23%くらい遅らせるって、そんなに強くないのだけど。でも、根本的にアミロイドに作用する薬剤として初めて認められました。大事なのは、アミロイドβタンパクが脳の中に溜まって、今度は神経細胞でタウタンパクというのが巻き込まれてきます。巻き込まれてくると今度はだんだん神経細胞の働きが悪くなって神経細胞が弱ってきてしまう。最悪死んでしまうわけです。弱ってきたときに記憶と関係するアセチルコリンというのが減ってくるので、それを補充するのが現在使われている薬アリセプトです。でも1年弱くらいしか進行は止められないのです。

ー山本: 神経細胞がダメージを受けてしまうから、その部分は回復できないということですね? 

新井先生: そうそう。アミロイドをいくら取り除いても回復できない場合があります。まあ火事で例えるなら、類焼しているといくら火の元の原因を取り除いても無理なので、だから神経細胞があまりダメージを受けないところで、アデュカヌマブを使います。今の治験も軽度認知障害か初期のアルツハイマー病を対象にしています。脳が委縮する前に使いたいですね。

―上条: なるほど。今23%ですけどこれから研究が進んで、その%が上がっていくといいですよね。

新井先生: ほんとそう思いますよ。今回は、大きな一歩ではあると思います。月に人類の一歩を刻んだと同じくらい画期的なことです。今までいっぱい薬がトライされてみんなことごとくダメになってきたけど、今回は初めて風穴を開けました。だけど、まだまだ根治薬と言われるようなレベルにはなってない状況です。今後はもちろん、どんどん改善されたものが認知されてくると思います。

―山本: アミロイドβの蓄積によって、脳細胞が侵されてしまう、壊れてしまうという仮説が有力と言われていますが、実際どうなのでしょうか?

新井先生: 実はそこが科学的に重要なポイントです。最初アミロイドβタンパクの保護作用があるから、脳梗塞とか脳のダメージを受けるとアミロイドβが周りに出てきます。西洋ではアミノ酸40くらいですけど、アミノ酸が溜まっていくのは42個でちょっと長いですね。水に溶けにくく、不溶性になって、とぐろを巻いて、神経細胞の毒になるってことは確かです。だから最初はなんかの拍子でアミロイドが溜まってきてしまう。例えるならば、白血球とかがウイルスとか細菌と戦って、死んだのが膿みたいになるわけですけど、そういうふうにアミロイドβも戦って、最後は膿みたいに溜まってきてしまうのかな。

―山本: 何かを守っていたかもしれないということですか?

新井先生: 最初はそうですね。だから取り除くとどうなるかということがあるのだけども、ただ神経毒となって溜まり始めているのは確かなので取り除くのは悪くないことです。根本的な原因は、アミロイドβじゃなくて、じゃあなんでそうなるかっていうところです。もっと上流は分かっていません。

―山本: アデュカヌマブについては、米食品医薬品局(FDA)で承認されたのであれば、日本でもほぼ間違いなく厚生労働省は承認するだろうという観測ですかね。

新井先生: 承認は科学的な根拠だから、承認はするでしょう。まず、アミロイドPETでその薬を使うと脳の中のアミロイドが減るというのは人間で証明されています。統計学的に有意差をもって進行を遅らせるっていうこともはっきりしています。副作用もそれほどではなく大丈夫です。家族会や患者さん、いろんなアカデミーからも、承認して欲しという強い要望があります。この4つがあると学術的にはOKです。臨床的にみるとこの23%がどうかというのはあるけど、これはエビデンスとしてはっきりしているので、米食品医薬品局は承認するしかないのです。

だけどこの4つだと、臨床的に23%がどうなのかというので、臨床的には大きな議論を呼んでいます。統計的に差があったとしても、臨床的にはどれくらいの効果があって、新薬としてそれだけの莫大のお金を生み出して、費用対効果と言うのかな。そんなに価値がたいしたことないという議論は日本も含めてあるわけです。一方で、最初の4点でFDAが承認したっていう科学的なエビデンスを日本でも否定できないから、日本も承認はすると思います。だけど日本の場合はもう一つ健康保険っていう条件があります。

ー山本: 健康保険の対象に入るかどうかですよね。

新井先生: そう。それに含まれたら1本50万円するのを1年間やると600万円になってしまいます。日本は高額医療費支給制度もあるから、それを健康保険でやったら破綻しかねません。だから日本は健康保険で認めるかどうかという話だけど、アメリカの場合は民間保険だからこだわらなくてもいいわけです。そういう商品を売って買う人が買えばいい。日本の場合は国の税金みたいなもので健康保険は国家予算だから破綻したらだめなので、オプジーボなんかも高いのが下げられたわけです。

あのような問題になってくるので本当に健康保険でカバーするのか、AGEとかEDのお薬とかは承認はしているけど自己負担になるのか、もしくは先ほど話した若年性に限定するのか、どうなるかは多分今必死になって検討しているはずです。学術的な話ではなく、それはお金の話です。学術的な話はもうクリアしているけど、臨床的にはどうかというのと、日本の場合は一番経済的な問題です。アメリカのようにはいかないわけです。

ー山本: 米食品医薬品局はこの先、一応条件付きで臨床データを積み上げるという話になっていますが、結構な宿題になると思います。現実的に、アメリカでも日本でも効果があると見込まれる人たちに絞られることはありそうですか?

新井先生: まあ、現実的には一旦承認したのを取り下げるとなるとかなり大変なことになるのでそこは難しいと思います。でも、大きな意味ではその間に別の薬を出そうという作戦もあります。その薬だけではなく、置き換わっても、大きな問題ではないわけですので。絞るという意味では、若年性に限るとかはより現実的かとも思います。

ー山本: アデュカヌマブが承認されたということで、他の薬の候補も再度盛り上がりを見せてきましたね。

新井先生: エビデンスは方法論の話であり、解析から対象、デザインがかなり大きく作用します。アデュカヌマブは、今までドロップアウトしてきた薬よりその作戦がうまくいったのだと思います。アミロイド仮説に基づいたものとか、他のものも加えると100種類以上が今まで長い歴史で全部だめになってきました。だから超エリートなんです。日本では(2021年)12月中に結論が出ます。アメリカは(2021年)3月でしたが、議論を呼んで6月まで3か月伸びたわけですね。

上条: ありがとうございます。

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認知症治療のアプローチ

ー山本: 先生、治療シーンでも、新薬は一つの新しいアプローチとして組み入れられてきそうですか?

新井先生: ものすごくいろんな影響があります。アルツハイマー病の概念が変わって、広がりました。以前は、認知症になった段階からアルツハイマー病でしたが、今は軽度認知障害(MCI)やプレクリニカル、無症状のところまで広がりました。アミロイドが溜まっているというのは、アルツクリニック東京でも行っているアミロイドPETでわかります。そうすると、生物学的にはそこからアルツハイマー病が始まっています。だからアルツハイマー病は、認知症の枠を飛び越えて発症前まで広がっています。でも、日本の制度は病気になってからしか健康保険でカバーできないから、その前段階はカバーしないのです。軽度認知障害で使う薬については保険をどうするのかとなり、非常に治療が変わってきます。

日本の制度の中でも国民皆保険は良いけど、医学とか生物学的の研究がどんどん進んでくると、日本の制度や介護保険は逆に足かせになる可能性があります。だから、今日のキーワードでもある2次予防みたいなのがどんどん中心になってくるというのはあります。

ー山本: 先生のクリニックでは、陽性が出た段階で「始まりました」「始まっています」という診断や、『病気』としての捉え方を伝えていますか?

新井先生: そうです。うちは、脳ドッグというのが脳外科から始まったのだけど、MRI中心っていうのがポイントです。脳外科の先生は動脈瘤とか、そういうのを見つければ手術できるから一番いいわけです。だけど委縮は、脳ドッグを毎年受けていても大丈夫ですと済んでしまう。ある時、委縮がはっきりしたときにはもう認知症の一歩手前になっているわけです。軽度認知障害のときはあまり委縮がはっきりしないのです。それで順天堂の時は、何年も脳ドッグ受けたのになんで見つからなかったのかと外来で質問を受けることが多くありました。

そこで、アミロイドPETを導入したドッグを高くても必要な人にはやろうかなと考えました。そこで見つければ、2次予防を早くできます。基準値よりも少なければ、もうちょっと今の生活に安心できるし、高い場合はもう積極的にアミロイドを増やさないような作戦をとります。先ほど話した対応、食事とか運動とか睡眠とか全部やります。まだ症状がなくてもアミロイドが溜まっている人を積極的に始めます。

「アミロイドを見つけたので、あとは二次予防をやってください」だと、無責任でもあるし、お節介にもなりうるので、予防を目指した健脳カフェを作りました。四谷三丁目のPETが置いてあるところの2階が空いているので、そこで体操や先ほど話したような大事なところをみんなで実践します。家でやってくださいっていう言葉だけではサービス不足なのでこういう場を今年作りました。

上智大学の高齢心理学の松田教授と一緒になり、家族会の東京支部と一緒に開催し、あとは先ほど話したような(【1】の記事を参照)森永乳業の40代からの認知症リスク低減機構とか、東急不動産が作った健康社会推進機構という社団法人などが一緒になって行っています。要するに、いろんな企業も含めて、予防活動をここでやろうということです。コンソーシアムも作ってやろうと考えました。

―山本: お値段もボランタリーですね。

新井先生: そうです!そうなんですよ。ストレッチ体操(ラクティブ)をまず1時間やります。そのあといろいろな人とお話したり、栄養指導なんかもしたりという場を作りました。アミロイドPETやって見つけても、そのままほっとくのではやはり片手間なので、薬出す前の人の段階の人に対してやろうということです。

―山本: 先生のクリニックを受診してなくても、予防に興味がある方は直接行って参加してもいいんでしょうか?

新井先生: そうです。

―上条: 何歳から行ってよろしいのですか?

新井先生: 何歳でも大丈夫です。今私の患者さんは若年性の人もいるので、40代後半から80代前半までの人がいます。まだ始まったばっかりなので、金曜日は私がそこに行っていて、他の曜日は別の先生がやってくれています。金曜日は来てくれるのですが、他の日はまだ企業と一緒に宣伝を少しずつしているところです。

―上条: 特別なストレッチ体操を行なっているのですか?

新井先生: ラクティブという東急不動産系の高齢者マンションで行っている体操をしています。グランクレールで開発した、台の上で座ってやるもので指導者の人に来てもらい行っています。月木金なので、他の火水も別の運動系の人に来てもらう計画です。要するにいろんな企業が、例えば森永乳業がビフィズス菌でMCCというのが認知症予防にいいとか、あと他にも色んな企業に参加してもらうなどです。うちのアミロイドPETドッグとペアでやらないと、見つけても片手間になってしまうからです。

認知症治療におけるサプリメント

―山本: 最近よく見るサプリメントに対して先生の見解はどうですか?

新井先生: 見解はWHOがはっきり出しています。「予防はサプリメントには頼らない」、WHOが出している答えの一つです。単純に考えて、1つのサプリで症状改善されるようだったら苦労はないですよね。

―山本: 健康食品の中には、ドイツやフランスで医薬品として承認されている成分を含むものもあります。物によっては効果が期待できなくなってきたのでしょうか?

新井先生: なくなってきていると思います。フランスだとアリセプトなんかも医療保険の対象ではなくなりました。だから、薬の世代が変わるときには古い薬にはお金使わないようにどこでも切られてしまうのだけど、サプリメントはエビデンスを出していこうという企業の姿勢があって、MCCは僕も見たけどいいデータ出しています。あれは、薬承認につながるくらいのいいデータです。ああいうものはやはりデータを見て信用できる企業とは一緒にやろうとしています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

続編となる【3】認知症の権威と語る「40代からの認知症予防」では、本インタビューの総括として医療分野との向き合い方についてお聞きしています。医療に対する不安を解消するためにも、ぜひご覧ください。

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アルツ・クリニック東京・順天堂大学医学部名誉教授

新井 平伊あらい へいい先生

日本老年精神医学会専門医・指導医
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