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健達ねっと>専門家から学ぶ>達人インタビュー>【専門家インタビュー】アルツハイマー型認知症(AD)モデルマウスを用いた研究

【専門家インタビュー】アルツハイマー型認知症(AD)モデルマウスを用いた研究

名城大学薬学部薬品作用学研究室 准教授
間宮隆吉様

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研究内容について

編集部:アルツハイマー型認知症(AD)モデルマウスについて教えてください。

間宮様:我々が専攻する行動薬理学は、ヒトの病態に類似した動物モデルを使って新しい治療薬の開発を目指す学問領域です。現在、使用されている医薬品のほとんどは、適切な病態モデル動物によってその効果が評価され開発されてきました。

しかし、1990年代まではアルツハイマー型どころか、臨床病態を反映した認知症モデル動物はいませんでした。当研究室でも、ある特定の神経に絞って、薬物による神経破壊や神経機能低下モデル動物を作製してきましたが、納得できるものではありませんでした。そんな中、アルツハイマー型認知症の原因がアミロイドβタンパクであることが報告されると、1995年に遺伝的変異を加えたアルツハイマー型認知症モデルマウスが開発されました。

その後、よりヒトの病態に近いものが開発されたことから、我々もそのマウスを分与してもらい、現在研究に使用しています。つい最近、理化学研究所の西道隆臣先生のグループが新しいモデルマウスを作製したと発表されています。

編集部:認知症を治す薬の開発を目指されているのですね。

間宮様:はい、アルツハイマー型認知症をはじめとした認知症をなくす、という思いはずっと持ち続け、研究を進めています。

でも、そのスタンスは少し変わってきました。以前は、薬で治すという思いで取り組んでいたのですが、上述したような遺伝子改変によるモデルマウスが作製されたことによって、薬が作用するターゲットが絞られたわけですので、すぐ認知症は克服されると思っていました。

ところが、アミロイドβタンパクをできなくするような薬を作っても、必ずしも認知症の症状がすっかり良くなることはないようなのです。ヒトの脳は複雑ですから、徐々に凝集し蓄積してきたアミロイドβタンパクがなくなっても、神経精神機能の変化や低下は抑えられず、症状は完全に回復しませんでした。
我々のグループも、アミロイドβタンパクをターゲットとしたワクチン開発や血液透析などにもチャレンジしてきましたが、残念ながら成功しませんでした。ほかにもアルツハイマー型認知症患者の脳内で減少していると報告されたダイノルフィンなどいくつかのペプチド(15個程度のアミノ酸が結合したもの)についても、マウスの脳内に直接注入してみましたが、同様でした。ですから、認知症を根本的に“治す”というのは難しいと思うようになりました。

編集部:なるほど、では次はどういった研究をされたのですか?

間宮様:そこから、“予防”に着目するようになりました。

日本の認知症患者が増えたのは食生活が変わったからだという研究者もいました。もしそれが本当なら和食の効能を探ってみようと考え、ごはん、特に栄養成分の豊富な玄米に注目しました。

折しも和食ブームで食品企業からの支援もあり、発芽玄米の研究を進めました。意外にも当時でも、和食はいいと言われていても、どういう成分に効果があるのか十分わかっていませんでした。

そこで、認知症モデルマウス(当時はアミロイドβタンパク注入モデル)に発芽玄米入りの飼料を与えて、対照群と比較したところ、認知症様症状が抑制されました。さらに、その主な作用は、玄米の胚芽部分に含まれるフェルラ酸による脂質カルボニル化の抑制であることも明らかになりました。

また、納豆や味噌の原料である大豆中に含まれるダイゼインという成分に気分を穏やかにする(イラつきや不安を抑える)作用があることもわかりました。こうしたことから、玄米や大豆製品を中心とした和食の意義を改めて感じました。

編集部:他に食品に関係した認知症の研究はありますでしょうか。

間宮様:我々の研究室の平松教授が、他分野の研究者と共同研究を進めていました。干ばつや乾燥に耐えられる植物やイネに関するプロジェクトを進める中で、ベタインという化合物の存在に気づきました。ベタインの効果について研究を進めていくと、ベタインにも抗酸化作用があり、アルツハイマー型認知症モデルマウスに対して有効であることを見出しました。

現在は、サプリメントとしての開発が可能かさらに研究しています。

編集部:ありがとうございます。また、トクホやサプリメントなどの研究にも着手されていたということですが、これらの信頼性について伺ってもよろしいでしょうか。

間宮様:トクホや日本におけるサプリメントは、医薬品でなく食品に分類されています。トクホ、栄養機能食品や機能性表示食品は、消費者庁が販売等を認めていますので安全性については信頼できると思います。

しかし、医薬品のような治療効果を期待するのは難しいのではないかと思っています。

職業柄、一般市民を対象にしたセミナーや講演会でお話しする機会をいただきます。その際に、健康食品やサプリメントのことをよく質問されます。このことは、多くの方が、健康に興味を持っていらっしゃるということで、非常に良いことと思います。

ただ、時間に余裕ができたから、健康に注意しようというのではなく、若い世代の人たちも日ごろから自分の体に気を付けて日常生活を送ってほしいと願っています。そういう意味で、薬に関する親子講座(家族と学ぼう!おくすり教室)を定期的に開いて、若い世代に対しても薬や健康についての啓蒙活動を行っています。

編集部:なるほど。我々も認知症についての情報を発信する立場ですが、いかに若い世代に発信できるかというのは常に課題に感じております。

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研究にかける思い

編集部:研究室を選んだきっかけと研究室の最終的な目標をお聞かせください。

間宮様:当時(1994年)在学中に「記憶」と「免疫」に興味を持っていました。この研究室(薬学作用研究室)の初代教授の亀山勉先生にお話を伺った際に、「脳はブラックスボックスだ。それを明らかにするのは君たちだ!」という熱いメッセージに心を打たれて、この研究室への入室を決めました。

やはり、最終目標は認知症を根絶することです。でも根絶できなくても、我々人類が長く健康で過ごし、天寿を全うすることを実現できるような研究に携わっていきたいと考えています。

健達ねっとをご覧いただいている方へのメッセージ

編集部:最後に健達ねっとのユーザー様に一言お願いします。

間宮様:後半は予防の話になってしまいましたが、薬の研究も進めています。現在は認知症のうち、認知障害のような中核症状を和らげたり進行を遅らせることはできるようになりました。

患者さんだけでなく、その家族にとって深刻なのは周辺症状かと思います。現在は、周辺症状に有効な薬の開発を進めるために、特に既存の薬物の中から新たな効果を見出す(ドラッグリポジショニング)に重点を置いて研究を進めています。人類が認知症を克服する日のために、これからも日々努力し、貢献したいと考えています。

本日は、ありがとうございました。

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名城大学 薬学部薬品作用学研究室 准教授

間宮 隆吉まみや たかよし

日本神経精神薬理学会(評議員)
日本薬理学会(評議員)

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