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【専門家インタビュー】認知症の方の日常生活、介護を工学的に支援するために

京都工芸繊維大学 情報工学・人間科学系
教授 桑原 教彰様

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研究内容について

編集部:工学的な支援というのは、どういった支援のことなのでしょうか?

桑原様:工学、特に情報通信技術を使って、認知症の方の生活の質、QOLを向上させ、また介護する方の介護負担を軽減するための支援技術の研究を行ってきました。

編集部:具体的にどういった研究をおこなっているのですか?

桑原様認知症の介護において最も大変なことは、認知症に伴って発症する行動心理症状(BPSD)への対処です。中核症状である記憶障害や見当識障害に起因する不安が引き金となり、家族や介護者への暴言、暴力、徘徊や失禁などが症状として現れます。あまりにもひどい場合は薬物で対処するしかありませんが、副作用のことを考えてまずは非薬物療法で対処することになります。非薬物療法として回想法、音楽療法などが知られていますが、実施にはセラピストが必要になります。

そこでセラピストを代行するような仕組みを情報通信技術やロボット技術を活用して実現する研究を行っています。また最近ではスマートテキスタイルといった様々なセンサ機能を有する衣服を活用して心電や脳波を計測し、認知症の方の気持ちを深層学習の技術を活用して推測する研究も実施しています。

編集部:研究の成果を教えていただけますか?

桑原様:セラピストを代行するための仕組みとして、認知症の方の昔の写真から「思い出ビデオ」を自動生成するシステムを開発しました。ナレーションやBGM、また映像効果を自動的に付与することで、疑似対話的な魅力的なコンテンツに仕上がります。これを活用することでBPSDに悩まれていたご家族の介護負担が一気に軽減しました。

またNTT様と共同で、施設入居の認知症の方を対象に遠隔で傾聴活動ができるシステムの研究開発を行いました。NTT様が提供するテレビ電話システムに写真共有機能を組み込んで、離れていてもあたかもその場で昔のアルバムを一緒に見て話しているような感覚を実現しました。

次にメディア・セラピーという療法を考案しました。これはグループホームに入居する認知症の方のQOLや介護施設の介護者の負担を減らすことを目的としたものです。認知症の方とそのご家族、そして施設介護者が一堂に会して、認知症の方の昔の写真をプロジェクタで大きく投影しながら、認知症の方が元気であった頃、活躍していた頃の思い出を語り合うものです。施設に入居する際には一般的に、認知症の方の生活歴をご家族からヒヤリングして介護に活用していますが、聞き取りした情報だけでは伝わりにくいこともあります。写真、映像で生活歴を皆が共有することで、介護の様々なシーンでそれを活用できることが分かりました。入居者のBPSDに悩まされた介護士の方の負担が劇的に軽減した事例もありました。

そしてセラピーの際にどのような写真を用いればよいのか、思い出の写真が少ない認知症の方、ご家族はどうしたらよいのかという問題を解決するために、インターネット上から対話が弾む写真を自動的に検索して推薦するシステムの研究も実施しました。

また介護士の負担軽減を目的としてロボットを活用したレクリエーションについての研究をNTT様と実施しました。レクリエーションの企画運営は施設にとって非常に重要ですが、それを得意としていない介護士の方にとっては負担となっています。クラウド上に様々なサービスプログラムが用意され、ロボットがそれを進行することにより、介護士の方も入居者と一緒にレクリエーションを楽しめる。またレクリエーションの企画を考える時間を削減し、より介護に集中ができるような環境が実現できました。

編集部:どういった経緯で今の研究を始めたのですか?

桑原様:私は2002年から2006年まで、関西のけいはんな学研都市にある国際電気通信基礎技術研究所(ATR)・知能ロボティクス研究所で、認知症の方を情報通信技術で支援する研究プロジェクトに携わっていました。このときの「思い出ビデオ」の研究で、BPSDに悩む認知症の方、家族介護者の方の介護負担を劇的に軽減させたのを目の当たりにし、これをライフワークにしようと考えました。

2007年に京都工芸繊維大学に移ってからも、スマートテキスタイル技術や深層学習といった新しい技術を活用して、認知症の方、家族介護者の方のQOLの改善を目指して研究を行っています。

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研究の目標について

編集部:今後の研究方針を教えてください。

桑原様:認知症が進むと楽しめることがどんどん少なくなってきます。認知症の方が楽しんで参加できるアクティビティを、バーチャルリアリティ技術などを活用して実現していきたいと考えています。そのためには認知症の方が本当に楽しんでいるのか、感情表出が困難になった認知症の方の気持ちを推し量る技術の精度も高めていきたいと考えます。

編集部:研究の最終的な目標などはありますか?

桑原様:日本は超高齢社会であり、高齢になると認知症になることを避けることが難しい時代を迎えています。自分が認知症になっても家族の介護負担が少なく、また自分も楽しんで暮らせるような仕組みを、自分が元気なうちに構築することが最終的な目標と考えています。

健達ねっとをご覧になっているユーザーへのメッセージ

編集部:健達ねっとをご覧いただいている方に、一言お願いいたします。

桑原様:実は私が研究してきたことは、現在では大概のことをスマホで出来るようになってきています。昔を思い出したいときにはスマホでとった写真を検索してスライドショーで楽しむ。孫の顔が見たい、声が聞きたいときにはスマホのビデオ通話を使う。記憶が覚束無くなればスマホのカレンダ機能、メモ機能を使う。あるいはスマホで写真を残す。道に迷いそうなときはスマホのマップ機能を使う。

認知症になる前にスマホの使い方に習熟しておくことで、初期の認知症の方のQOLは大きく改善するはずです。軽度の認知症になったらスマホを使いなさいと、ATRの時の共同研究者である安田清先生(当時、千葉労災病院)が仰っておられます。ぜひ活用してください。

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