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言葉だけに頼らず、 認知症の人の気持ちに寄り添ったコミュニケーションを

国立長寿医療研究センター 副看護師長

萩原淳子 先生

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声のトーンや表情など、言葉以外の要素が重要に

認知症の人は、病気の進行に伴って徐々に言語的なコミュニケーションが困難となり、自分から周囲の人に“言葉”で伝えることや、周囲の人から伝えられた“言葉”を理解することが難しくなります。
そのため、認知症の人とのコミュニケーションでは、声のトーンや、話す速さ、表情、触れ方などの“言葉以外の要素”が重要となります。

例えば、「座りましょう」という言葉かけでも、ゆっくり腰を支えながら目を見て笑顔で話しかけるのと、強引に腕を引っ張りながら硬い表情で話しかけるのとでは、相手が受け取る印象はまったく違います。
さらに、言葉に加えて文字に書いたり、イラストを用いたりと、視覚的な情報を活用することでメッセージが伝わりやすくなります。

また、認知症の人は、一度にたくさんのことを話しても記憶に残りにくいといわれています。
そのため、伝える時には、1つ1つ短い言葉で簡潔に伝えることも必要です。

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言動の背景にあるメッセージを理解する

認知症の人とのコミュニケーションでは、「その人の言葉や行動の背景には理由がある」と考え、会話をしながら、そこにある本人のメッセージを探っていきます。
ここで、私の体験談をお話しします。

入院してきたAさんは、認知症の進行により、言語的なコミュニケーションが少し難しい方でした。

ある日、Aさんが、

「目を小さくして! 早く!」

と私に繰り返し訴えてきました。

私は「目を小さくする」という意味がわからなかったのですが、なんとかAさんからのメッセージに応えようと、Aさんのまぶたを手で閉じたり、流れている音楽のボリュームを小さくしたりしてみました。
しかし、Aさんの訴えや苛立ちは強くなる一方でした。
そこで私は、Aさんが“まぶしいから明かりを小さくしてほしい”と訴えていることに気付き、電気を消してみました。
すると、Aさんは本当に安心した表情になったのです。

私はその表情をみて、Aさんの伝えたいメッセージを理解できたことを、心からうれしく思いました。
Aさんとのこの関わりは、私にとって「理解する」ことを諦めなくてよかったと感じられた、大切な事例です。

認知症の人は、さまざまな苦痛や不快な症状をうまく周囲に伝えられずに、易(い)(ど)性や落ち着きのない行動につながることも少なくありません。
認知症の人がイライラしたり、落ち着きがない行動が見られたときには、その背景に身体的な不調や不快な環境刺激がないか、注意深く確認してみましょう。

その人のこれまでの“生活史”を活用する

私が勤務している認知症対応病棟では、患者さんが入院される際、ご本人やご家族に、「これまでの生活習慣」、「趣味」や「出身地」、「職業歴」、「好きな話題」、「好まない話題」、「好きな音楽」や「好きなテレビ番組」などの情報を、プロフィールシートに記入していただいています。
誰でも、初めてお話しする人とは何を話したらいいのかと身構えると思いますが、病棟のスタッフはこの情報のおかげで、コミュニケーションがとりやすくなっています。

例えば、入院後、緊張のためか表情が硬かったBさん。
プロフィールシートから“飼っている犬の散歩を日課にしている”という情報を得て、「Bさんは犬を飼っていると聞きましたよ」と話しかけると、とてもうれしそうに愛犬の話をしてくださいました。
また、大工の棟梁だったことを誇りにしているCさんに職業歴を伺うと、得意げに、大工だったときのお話をしてくださいました。

ご自分が得意なことや、好きなことの話をするときには、皆さん、生き生きした表情になります。
認知症の人は、誰に何を話したかという出来事は忘れても、そのとき抱いた“よい感情”や“悪い感情”は残るといわれています。
認知症の人とのコミュニケーションに限ったことではありませんが、話す相手には「楽しかったな」「安心したな」と、よい感情を抱くようなコミュニケーションを心掛けることが大切です。

このように、認知症の人のこれまでの生活史を周りの人に伝えることで、コミュニケーションを活発にするだけではなく、その人らしさを活かしていくことができます。
ご家族など周囲の方は、デイサービスなどの交流の場で、認知症の人へのコミュニケーションツールのひとつとして、プロフィールシートをスタッフに渡し、活用してもらってはどうでしょうか。

介護は合わせ鏡。息抜きの方法を見つけ、心に余裕を持とう

介護者がイライラして対応していると、合わせ鏡のように、認知症の人からイライラした反応が返ってくることがあります。
これは認知症特有の症状というわけではありません。
誰でも、笑顔を向けられれば笑顔で返したくなりますし、不愉快な言動をされると、こちらも不愉快になることがあるのではないでしょうか。

病院でも、認知症の人を看護する際、看護師側の業務が忙しく、時間に追われてイライラしたまま対応していると、認知症の人に看護師の感情が伝わり、落ち着きがなくなることがあります。
言葉で直接伝えなくても、“イライラしている”という非言語的な要素が相手に伝わり、結果的に認知症の人に対して不適切な関わりとなって、さらに認知症の人の不快感や混乱が増強してしまうのです。
まずは大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせることが大切です。

当院の認知症の人の家族のための教室(現在はプチ・茶論として開催中)では、認知症に関する知識・技術を学ぶ教育プログラムに加え、同じ体験をしている介護者同士が、日頃の介護について話し、交流できる時間を設けています。
その交流の場で、

「なかなかこちらの言っていることを理解してもらえずに、苛立ちが募ることもあります。そんなときは、自分の部屋にこもって好きな音楽を大きなボリュームで聞いて、気持ちを切り替えています」

と話すご家族や、

「自分が楽にならないと介護は続かないから、1人で頑張らずに、周りに助けてもらいましょうよ」

と、他の介護者に呼び掛けていたご家族もいました。

疲労やストレスの蓄積は、感情のコントロールを難しくし、コミュニケーションに影響を与えます。
自分なりの息抜きの方法を見つけることや、ケアマネジャーや家族会、デイサービスなど、相談できる相手や場所など周囲の力を借りることで、心に余裕が生まれ、円滑なコミュニケーションに繋がります。

認知症が進行するとスムーズなコミュニケーションが困難になりますが、まずは、認知症の人の不安な気持ちに寄り添うことが大切です。
そして、認知症の人を支えるご家族自身が笑顔でいることが、認知症の方の笑顔につながり、コミュニケーションを円滑にします。

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