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【ドクターズコラム】ライフスタイルを改善して認知症を予防しよう

国立長寿医療研究センター 

副院長 櫻井 孝 先生

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“高齢者の5人に1人が認知症”の時代が来る

 

わが国では、認知症高齢者は2012年時点で462万人と報告されており、2025年には約1.5倍の700万人になると推計されています

つまり、高齢者の5人に1人が認知症という時代がくるのです。認知症高齢者の増加は、日本のみならず、高齢化が進む世界中の国で深刻な問題となっています。最近ではアルツハイマー型認知症の疾患修飾薬(*1)が、米国食品医薬品局より条件付きで承認されました。

しかし、薬に頼るのではなく、認知症の発症や進行を抑制する「ライフスタイルの改善」に今、大きな期待が寄せられています。

2020年に、認知症の専門家たちによって構成されるランセット国際委員会より発表された「認知症における修正可能な危険因子」(*2)から、今日からできる認知症予防の取り組みについて紹介します。

 

【表】認知症における修正可能な危険因子(*2)

危険因子

リスク比 (95% CI)
人生早期 (45歳未満) 
低教育歴1.6 (1.3-2.0)
中年期 (45-65歳) 
 聴力障害1.9 (1.4-2.7)
 外傷性脳損傷1.8 (1.5-2.2)
 高血圧1.6 (1.2-2.2)
 アルコール 過剰摂取1.2 (1.1-1.3)
 肥満  (BMI ≥ 30)1.6 (1.3-1.9)
高齢期 (> 65歳) 
 喫煙1.6 (1.2-2.2)
 うつ1.9 (1.6-2.3)
 社会的孤立1.6 (1.3-1.9)
 身体不活動1.4 (1.2-1.7)
 糖尿病1.5 (1.3-1.8)
 大気汚染1.1 (1.1-1.1)

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12の危険因子を改善すれば、認知症を約40%予防できる

 

ランセット国際委員会は、認知症のリスクに、人生のステージごとの危険因子として12の因子を挙げています(表参照)。これらの因子に対して適正な対策を行うと、認知症の発症は約40%減少すると予測されています。現段階では、決定的な認知症の予防方法は確立されていませんが、有効性を示す証拠が集積されつつあります。

これらの危険因子において、「運動習慣」、「食生活」、「社会とのかかわり」は特に大切な因子です。認知症の予防活動に、積極的に取り組んではどうでしょうか。

 

【運動習慣】神経細胞を活性化。脳の萎縮を防ぐ効果も

運動不足になると、身体機能のみならず、認知機能も低下しやすくなります。逆に、運動すると神経細胞が活性化され、脳の萎縮も抑制されることが示されています。

ウォーキングなどの有酸素運動、スクワットや筋トレなどのレジスタンス運動は、認知機能の改善に効果的であることが報告されています。週に3日以上、ややきついと感じる程度の負荷をかけることが推奨されます。また、運動しながら計算やしりとりなどを同時に行うと、さらに脳が活性化されます。

 

【食生活】バランスよくしっかり食べる。お酒は適量を守って

特定の栄養素を大量にとっても、認知症の予防効果はありません。多くの食品をバランスよく食べることが、認知症予防によいとされています。

世界では、地中海食(*3)が推奨されています。わが国においては、「大豆・大豆製品、緑黄色野菜、淡色野菜、海藻類、牛乳・乳製品の摂取量が多く、米の摂取量が少ない」という食事パターンの傾向が強いほど、認知症発症が少なかったことが報告されています。

 

また、適量のアルコール摂取は、認知症の予防効果があることも示されています。

アルコールを過剰に摂取すると認知症の発症が増えることは、多くの報告が一致しています。具体的には、1週間に168g以上のアルコールを摂取する人は、認知症リスクが高まります(*2)。これは、ビールに換算すると週に3.4L以上です。

一方、全くアルコールを飲まない人より、適量のアルコールを飲む人のほうが、認知症の発症が少ないことも知られています。まさに「酒は百薬の長」といえます。ただし、アルコールを飲まない人が無理して飲む必要はありません。

 

そのほか、中年期には肥満やメタボリックシンドロームを避ける食生活が大切ですが、高齢になると、むしろ低栄養を避けることがポイントになります。運動して、その分しっかり食べましょう。

 

【社会活動】万全の感染対策のうえで、人と接する機会を持とう

積極的に家の外に出て、人と交流すること、社会の中での自分の役割を見つけることは、認知機能の低下を抑制するといわれています。コロナ禍において自粛生活が長くなり、多くの高齢者が身体機能、認知機能の低下と向き合っています。

ワクチン、マスク、手洗いなどの感染対策をしたうえで、リハビリテーションなどの活動に参加することが大切です。

 

昔から「継続は力なり」と言います。認知症の予防には、何より継続することが大切です。自分の得意なことから、楽しんで始めてみてください。

 

【注釈一覧】

(*1)疾患が生じる過程に直接作用して進行を抑えるなど、疾患を根本から治療する薬。

(*2)参考文献 Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Livingston G, Huntley J, Sommerlad A, et al. Lancet. 2020 Aug 8;396(10248):413-446.

(*3)地中海沿岸諸国で古くから伝わっている食習慣。①果物や野菜を豊富に使用する、②乳製品や肉よりも魚を多く使う、③オリーブオイル、ナッツ、豆類、全粒粉など未精製の穀物をよく使う、④食事と一緒に適量のワインを飲む、といった特徴がある。

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薬の使い方

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 副院長・もの忘れセンター センター長

櫻井 孝さくらい たかし先生

米国神経科学会
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