荒木 厚 先生
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生活習慣病を改善することで、認知症を予防できる
近年、わが国では、欧米型の生活様式への変化により、糖尿病、肥満症などの生活習慣病が増えています。これらの疾患は認知症を引き起こしやすく、その結果、認知症も生活習慣病の合併症として増加しています。
認知症は認知機能が低下し、社会生活に支障が出る病気です。「アルツハイマー病」、「血管性認知症」などがありますが、アルツハイマー病では脳にβアミロイドという異常なたんぱく質がたまり、血管性認知症では脳梗塞などが多くみられるようになります。生活習慣病を患っている人が認知症になると、服薬や注射などのセルフケアがうまくできなくなり、誰かのサポートがないと治療が困難となります。
現時点では、認知症を根本的に治療できる薬剤はありませんが、中年期からの生活習慣を改善することで予防できる可能性があることもわかってきています。このコラムでは、生活習慣、生活習慣病と認知症との関連について解説し、認知症を防ぐための生活習慣についても述べてみます。
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糖尿病があると、認知症のリスクが1.5~2倍に!
生活習慣病で認知症との関連が注目されているのが、糖尿病です。多くの疫学研究で、糖尿病がある人は、糖尿病がない人と比べてアルツハイマー病は約1.5倍、血管性認知症は約2倍起こりやすいことが明らかになっています(*1)。しかしながら、すべての糖尿病の人が認知症になりやすいというわけではありません。“認知症になりやすい危険因子を持っている糖尿病の人”が、特に注意すべきなのです。
まず、未治療の糖尿病がもっとも認知症になりやすいことがわかっています。次に、高血糖で、2カ月間の血糖の平均値を表すHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が8.0%以上の人が起こりやすくなります。また、人の助けを借りないと回復しないような重症の低血糖があると、認知症が起こりやすいこともわかっています。脳卒中、腎症などの合併症や、動脈硬化性疾患の危険因子である高血圧を患っている人、中性脂肪値が高い人も注意すべきです。
さらに、生活習慣では身体活動量の低下、高脂肪食、緑黄色野菜不足などに加えて、社会交流が乏しいことも糖尿病における認知症の危険因子であるという報告があります。
したがって、糖尿病における認知症を防ぐためには、
- 糖尿病の治療をきちんと受ける
- 血糖、血圧、血中脂質、体重を適正かつ良好な状態に保つ
- 身体活動を増やし、過不足なくバランスのよい食事を心がけ、人との交流を豊かにする
これら3つが大切です。
中年期の肥満症は認知症予防に逆効果。併発すると悪循環に陥りやすい
中年期、すなわち45~64歳の肥満症の人は、肥満がない人と比べて認知症に約1.33倍なりやすいことがわかっています(*2)。「肥満」とはBMI(体格指数。体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で求められる)が25を超えた状態のことで、さらに肥満によって合併症が起きているなど、健康障害が生じていると「肥満症」と診断されます。BMIが30を超えると、アルツハイマー病が起こりやすいという報告もあります(*2)。
肥満症では、体験した出来事などの「エピソード記憶」や、計画を立てたり段取りをつけたりする「実行機能」などの認知機能が障害されやすいこともわかっています。食べたことを忘れるなど、エピソード記憶の障害は肥満の増悪をもたらすので、肥満症と認知機能障害の悪循環をまねく可能性が指摘されています。
いっぽうで、食事、運動などの生活習慣を改善したり、減量手術を受けたりして体重を減らすと、記憶力や実行機能などの認知機能が改善するという報告も多くみられます。
最近では、インクレチンという消化管ホルモンの作用を利用した注射薬「GLP-1受容体作動薬」が、血糖だけでなく、体重を減らす効果があることから、肥満がある糖尿病の人に使用されています。このGLP-1受容体作動薬は、動物実験において、認知症のモデル動物のβアミロイドを減らし、認知機能を改善することが報告されています(*3)。人での検証はされていませんが、将来、体重を減らすような薬剤が認知症の予防薬になるような時代が、ひょっとしたら来るかもしれません。
運動、食事、睡眠など、毎日のちょっとした心がけで認知症を予防できる
認知症を防ぐための生活習慣においてもっとも重要なものは、週4日以上の定期的な「有酸素運動」です。
有酸素運動は、ウォーキング、水泳、ダンスなどです。ややきついと感じる程度の強度で1日30分、週4日以上行います。血糖の状態や血圧が良くなり、血液中の善玉コレステロールが増え、動脈硬化が改善されて認知症を予防する可能性が期待できます。とある研究によると、週3回以上運動する人のほうが、3回未満の人と比べて認知症の危険度が38%も減っています(*4)。また、アルツハイマー病のモデル動物に運動をさせると、脳内のβアミロイドが減るということも分かっています。
そのほか、筋肉に負荷をかける「レジスタンス運動」や、ストレッチなどの「柔軟性運動」を有酸素運動に組み合わせて行うなど、多要素の運動も認知機能に好影響を与えます。レジスタンス運動は、スクワット、ダンベル体操や、市町村の運動教室、ジム、介護保険のデイケアサービスなどを利用することで行えます。
食事では、野菜、魚、果物の摂取が多いと、認知症の発症が少ないことがわかっています。認知症を減らす可能性がある食事として、「地中海食」や「日本食」などがあげられます。
地中海食は、野菜、果物、穀類、豆類、魚、オリーブオイルをとり、加工肉やお菓子を減らし、適量の赤ワインを飲むという食事です。日本食では、米、みそ汁、海藻、漬物、緑黄色野菜、魚、お茶という食事パターンが認知症リスクを減らすという報告があります。ただし、日本食の場合、漬物とみそ汁の塩分が多くならないよう注意する必要があります。
睡眠時間も大切です。睡眠時間は、短くても長くても認知症になりやすいといわれています。1日の睡眠時間が7時間台の人と比較すると、5時間以内だと約2.4倍、9時間以上でも約2.4倍、認知症になりやすくなります(*5)。6~7時間の睡眠を取ることが理想的であると思います。
また、閉じこもりの人が認知症になりやすいことがわかっています。一人暮らしなどで、家族、親族、友人と週1回未満しか会わない人は、そうでない人と比べてアルツハイマー病の危険度が約8倍高いといわれています(*6)。そのいっぽうで、知的活動、音楽などが認知症を予防するということが分かっています。
以上をふまえて、認知症を予防するため行うべきことを、8ヵ条としてまとめてみました。
- 糖尿病を予防または治療し、高血糖、低血糖にならないようにする。
- 血圧、脂質、体重をよい状態に保つ
- 中年期の肥満を治療する
- 身体活動量を増やし、有酸素運動、レジスタンス運動などを行う
- 野菜、魚などを多くとり、バランスのとれた食事をする
- 6~7時間の適度な睡眠をとる。
- 家に閉じこもらず、人との交流を豊かにする。
- 知的活動、音楽、ボランティア活動などをする。
できることから日々の生活に取り入れ、実践していきましょう。
【参考文献】
*1) Xue M, et al. Diabetes mellitus and risks of cognitive impairment and dementia: A systematic review and meta-analysis of 144 prospective studies. Ageing Research Reviews 2019;55:100944.
*2) Pedditizi E, et al. The risk of overweight/obesity in mid-life and late-life for the development of dementia: a systematic review and meta analysis of longitudinal studies. Age Ageing 2016; 45(1): 1421.
*3) Bomfim TR, et al. An anti-diabetes agent protects the mouse brain from defective insulin signaling caused by Alzheimer’s disease-associated Aβ oligomers.J Clin Invest 2012;122:1339-1353.
*4) Larson EB, et al. Exercise is associated with reduced risk for incident dementia among persons 65 years of age and older. Ann Intern Med. 2006 Jan 17;144(2):73-81. Ann Intern Med 2006;144:73-81.
*5) Benito-León J, Bermejo-Pareja F, Vega S, Louis ED. Total daily sleep duration and the risk of dementia: a prospective population-based study. Eur J Neurol 2009;16:990-997.
*6) Fratiglioni L, Wang HX, Ericsson K, Maytan M, Winblad B. Influence of social network on occurrence of dementia: a community-based longitudinal study. Lancet 2000; 355(9212):1315-9.