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健達ねっと>専門家から学ぶ>ドクターズコラム>【ドクターズコラム】高齢者は「低栄養」にならない心がけを

【ドクターズコラム】高齢者は「低栄養」にならない心がけを

名古屋大学大学院医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学教授

葛谷 雅文 先生

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“食べ過ぎ”も“食べなさ過ぎ”も、高齢者の栄養面では悪影響

体の栄養状態は、皆さんが食事からとる栄養の量と、体が必要としている栄養(エネルギーやさまざまな栄養素)とのバランスで決まります。栄養状態の評価は「良好」「過栄養(必要以上に栄養をとり過ぎ)」「低栄養(必要な栄養よりも不足している)」に分かれ、「良好」以外は皆さんの健康に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

「過栄養」は、体重が増える原因となり、肥満(症)、糖尿病、メタボリックシンドロームなどと関係して動脈硬化を進めてしまう可能性があります。いっぽう、「低栄養」は体重の減少をまねき、筋肉も少なくなり、最近話題の「フレイル(虚弱)」や「サルコペニア(筋肉が減少すること)」になったりします。さらに栄養状態が悪くなると、病気に対する抵抗力がなくなって、感染症やさまざまな病気にかかりやすくなります。

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高齢者では、肥満よりも低栄養による“やせ”や“体重減少”に注意!

成人では、肥満があると死亡のリスクが高くなることが知られています。しかし高齢者では、実は肥満でも成人ほど死亡のリスクは高くなく、むしろ“やせ”や“体重減少”が死亡のリスクを高めます。

体格指数、すなわちBMI (body mass index)をご存知でしょうか。これは体重 (kg)を身長 (m) の二乗で割ることによって計算できます。高齢者では、もし肥満(日本ではBMIが25kg/m2以上、欧米では30 kg/m2以上)があったとしても、成人のときと同じようにやせようとすると、体調を崩す可能性があります。私としては、BMIが30 kg/m2を超えるような肥満でなければ、無理な減量は体を壊すかもしれず、かえって危険だと思っています。ただし、糖尿病など、肥満と関連する病気がある場合は別です。かかりつけ医に相談してください。

一般に75歳以上の後期高齢者になると、知らず知らずのうちに、体重が徐々に低下することがあります。これは加齢により、食欲に関係するホルモンなどが作用するためといわれています。このような生理的な体重の減少ならまだいいのですが、病気につながるような低栄養に陥ってしまう高齢者もいます。実際に、高齢者には低栄養になりやすい多くの要因があります。

薬や口腔状態、食事の環境に加え、“認知症”が低栄養につながる

たとえば、高齢者では多くの病気を同時に抱えている場合が多く、そのため多くの薬を服用している方がいます(「ポリファーマシー」といいます)。服用中の薬による副作用で、食欲低下が起こる場合が多くあります。また、義歯が合わない、歯周病があるなどで噛む力が低下したり、飲み込むことがうまくできずにむせてしまったりする(「誤嚥(ごえん)」といいます)のも、十分な食事がとれない原因になるのです。

生活環境も重要です。一人暮らしや、一人で食事をとる(「孤食(こしょく)」といいます)という状況は食事内容が簡素化されやすく、食事を抜くことも多くなります。

 

そして認知症も、低栄養になる要因の一つです。認知症が進むと、多くの方々は食事の摂取量が減ってきます。それにはいくつかの要因があると思われます。

認知症の患者さんは食事に集中しづらく、さらに病気が進行すると、食べ物自体の認知ができなくなるほか、飲み込む力も低下していきます。認知症では味覚や嗅覚も低下するといわれ、食欲自体が低下する可能性も高いです。また、栄養不良になると、ものを飲み込む力がなくなり、誤嚥や誤嚥性肺炎の原因にもなります。

認知症の方もできるだけ食事を上手に食べていただき、栄養状態を良好に保つことが必要です。十分に栄養がとれ、栄養状態が良好な方は、認知症自体の進行が穏やかになるという報告もあります(*1)。さらに、合併症のリスクも低下します。

積極的な「たんぱく質の摂取」と「体重測定」で高齢者の栄養を管理しよう

では、高齢者の方は何を食べたらよいのでしょうか? 基本的には、まんべんなく多くの食材を食べていただきたいと思います。特に高齢者では、「たんぱく質」の摂取量が減りやすくなる一方、加齢とともに骨格筋の量も減りやすくなります(サルコペニア)。筋肉をつくるには、食事からのたんぱく質摂取が大変重要です。

よって、できるだけたんぱく質を十分にとることを心がけてください。たんぱく質が多い食べ物としては、肉や魚も重要ですし、それ以外にも乳製品、卵類、豆類、ナッツ類などにも多く含まれています。これらを、まんべんなく食べるように意識しましょう。

 

たんぱく質の積極的な摂取に加えて、高齢者の方に是非お願いしたいのは、体重の測定です。体重は健康状態をよく表すバロメーターです。特に、栄養状態の指標としては大変有用です。体重が増えてきているのか、または減ってきているのか、1週間に1回程度測定して、ノートに記録してみましょう。半年間で2~3kg以上減ってくるようでしたら要注意です。かかりつけ医への相談をおすすめします。

 

そして前述したように、一人暮らしや、一人で食事をとる方(孤食)は、特に食事には注意してください。低栄養を防ぐため、さまざまな食材を摂取することを心がけつつ、食事を抜くことはやめましょう。コロナ禍においてはなかなか難しいかもしれませんが、できれば多くの方と一緒に食事をとれるような環境があればよいですね。一人で食べるよりも複数人で一緒に食べると、食事量は1.4倍増えるというような報告もあります(*2)。男の方では、一人暮らしだと緑黄色野菜や果物の摂取が低下しているとの報告も。ぜひ意識してほしいと思います。

 

【参考文献】

*1) Sanders CL, Wengreen HJ, Schwartz S, et al; Cache County Investigators. Nutritional status is associated with severe dementia and mortality: The Cache County Dementia Progression Study. Alzheimer Dis Assoc Disord. 32:298-304, 2018.

*2) Herman CP. The social facilitation of eating. A review. Appetite. 86:61-73, 2015.

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名古屋大学大学院研究科地域在宅医療学・老年科学教授

葛谷 雅文かずや まさふみ先生

日本老年医学会 評議員・理事
日本内科学会
日本動脈硬化学会 理事

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