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健達ねっと>専門家から学ぶ>ドクターズコラム>認知症の人とのコミュニケーションに “リアリティ・オリエンテーション”を取り入れよう

認知症の人とのコミュニケーションに “リアリティ・オリエンテーション”を取り入れよう

デイサービスセンターお多福 統括管理者

高橋 克佳 先生

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認知症の人は、今がいつで、ここがどこなのか分からなくなりやすい

私たちの働く施設は、1日定員15名の地域密着型通所介護事業所です。利用者さんは、症状はさまざまですが、ほぼ100%の方が何らかの疾患により認知症を発症しています。

そのような環境で、高齢者ゆえの難聴や白内障などの持病もあり、さらに認知機能障害が存在すると、コミュニケーションのとり方も十人十色となります。

この状況で、どのように円滑に利用者さんの意見を聞き、意見を交換し、コミュニケーションをとるか。それを考えるとき、私たちの事業所では、必ず「見当識障害」への配慮に留意するよう心がけています。

 

「見当識」とは、自分が今どのような状況に置かれているかを把握する能力のことをいいます。見当識障害では、季節、日時、場所、人物などが理解しにくくなります。

たとえば、季節や時間の理解が難しくなると、朝起きたときに今が朝なのか、昼寝から目覚めたのかがわからなかったり、今が暑い時期なのか寒い時期なのかわからなくなって、真夏に厚着をしたり、冬場に暖かい部屋から急に外出して、急な寒さに不安が強くなったりすることがあります。見当識障害のある方すべてではありませんが、多くの方が、朝から「今はいつ?」「ここはどこ?」の不安にさらされていることになります。

 

これらは、デイサービスなどの施設内においても同様に起こります。送迎車で到着し、「施設には来てみたが、ここは何ていう地区なんだ?」「家から遠いのか?」と不安になられる方。昼食もおやつも皆さんと楽しそうに食べ、夕焼けが見えそろそろ日没という時間に「そろそろ息子が帰ってくるんだ。おやつを準備するから帰ります!」と不安になられる方。表現方法はさまざまですが、見当識障害による不安の表れだと考えられます。

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“今”を伝えるリアリティ・オリエンテーションで、安心できる状況をつくる

見当識障害に対応するための言葉を使ったコミュニケーションは、朝、利用者さんを送迎車で迎えに行くときから始まります。独居の認知症の方には、送迎に向かう前に必ず電話で連絡をします。そのときには、次のような声かけをするよう心がけます。たとえば夏季の場合です。

 

「おはようございます! 今日も暑いですね……そうですね、もう8月○日ですもんね」

まず、今が一年のどの季節に当てはまるのかを、自然な流れで伝えます。

「今日は○日○曜日ですので、ご自宅には9時ごろ伺いますね!」

ここで認知症の方は、今が朝で、8月で夏だと理解し、「今はいつなの?」という不安から少しの時間解放されます。

 

このように季節や時間を伝える方法は、「リアリティ・オリエンテーション(RO)」とも呼ばれています。

私たちは、認知症のある人と関わるとき、常にこのリアリティ・オリエンテーションを意識します。言葉に“時間”や“季節”を伝える情報をプラスして話し始めることで、相手が安心できる状況をつくり、次の言葉やコミュニケーションをとるようにしています。

 

ほかにも、何かが始まる前、たとえばもうすぐ体操の時間となったときには、「そろそろ10時30分になりますね。体操の時間ですから、湯飲みを片付けましょう」などと声をかけます。

また、全体的にリアリティ・オリエンテーションを行いながら、前述した「ここはどこの地区だ?」と不安になる方には、日付や季節のお話をしてから“場所”の説明をするようにします。「ここはどこだ?」という不安の本質は、「外はどんな状況で、いつになったら家に帰れるんだ?」という不安が多いようです。今の日時を伝え、いつでも帰ることができるということを説明すると、「あ! そうか」と落ち着いてくださったり、夕焼けを見て不安になる方には、「夕日がきれいですね。陽の落ちる時間も早くなりましたが、今は夕方3時です。もうすぐ帰るバスが到着しますよ」と話すと、「車で帰れるなら、いいや!」と安心してくださる場面も少なくありません。

その人がたどってきた生活史を意識した声かけも大切

さらに、数字や日時の理解が難しい方もいらっしゃいます。そのような方には、その人の生活史に沿ったリアリティ・オリエンテーションが必要になります。

 

たとえば、農家でお米を作っていた生活史をもつ認知症の人に5月ごろをイメージしてほしいとき、「田植えの時期ですね」と伝えたり、もしそれが公務員として働いていた人であれば「人事異動が終わってひと息ついた頃でしょうかね」と伝えたりします。このように、数字や日時の理解に難しさを感じている人には、“○月○日○曜日”と言うよりも、慣れ親しんだ生活史に合わせたリアリティ・オリエンテーションのほうが、より季節を伝えやすく、理解してもらいやすいということがあります。

不安にとらわれている時間を少しでも減らし、コミュニケーションを深めよう

認知症の人とのコミュニケーションは、これをやれば完璧!ということはありません。

エッセンシャルワーカーや、介護を担う家族の方も皆同じように、人の意見や要望を受け入れようとするとき、自分に少しでも不安な要素があるとなかなか受け入れることができません。認知症の人も同じだと思います。

不安要素を少しでも減らしてコミュニケーションを深めていく“リアリティ・オリエンテーション”を、私たちが常に意識し、日常的な「今はいつ?」や「ここはどこ?」の不安から認知症の人を少しの時間でも開放して、スムーズなコミュニケーションをとるための一助としていただきたいと思います。

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NPO認知症ケア研究所統括管理者

高橋 克佳たかはし かつよし

看護師
認知症ケア専門士
アクティビティディレクター

  • 看護師
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