2024年6月『「幕間」の心理学―人生の転機の乗り切り方―』を上梓した精神科医・保坂隆先生は、長らくがん患者のメンタルケアの第一人者として、多くの人生に寄り添ってきた。
保坂先生は、人生100年時代を迎え、50代以降も続いていく現代人の第二の人生には「幕間(まくあい)」の期間があるという。
がんの治療期間だけでなく、定年前の数年間、子どもが巣立った後、親の介護の期間などがこの「幕間」にあたる。
これまでの人生からの転機を迎える世代に向けて、ウェルエイジングのための保坂先生からのメッセージを聞いてみよう。
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伊能忠敬の人生
第二の人生で、もともと自分の夢であった測量を学び直し、50歳から夢の実現をしたのが伊能忠敬であると、保坂先生は紹介している。
伊能忠敬とは千葉県の貧しい漁村の網元に生まれ、数え18歳の時に婿養子として倒れかかった商家に入った人物である。
そこで算盤などに抜きん出た能力を生かして、店の記録や経理書類を参考にしながら見事に再建を果たした。
そして、50歳を迎えた伊能忠敬は家督を長男に譲り、幼い頃から興味を持っていた天文学を勉強するため江戸へ出た。
その4年前から彼は隠居を領主に申し出ていたのだが、なかなか認められなかった。
そのため、実際に隠居することになるまでの4年間が彼にとっての「幕間」に相当していると保坂先生は言っている。
やっと隠居を認められた忠敬は浅草の「天文方暦局」を目指し、当時の天文学の第一人者である高橋至時の門下生となって「若い頃から持っていた夢の実現」のために猛勉強をした。
今で言う「社会人入学」だろうが、江戸時代にしかも50歳を過ぎた忠敬にとっては「海外留学」くらいに生活環境の変化だったはずだと保坂先生は想像する。
その後、56歳から全国を歩き始め、日本地図を作成し、11代将軍徳川家斉に認められたことで幕命が下りる。
「個人的な仕事」が「公式な国家事業」に変わった瞬間であった。
保坂先生は、この測量に取り掛かるまでを「第1幕」とすると、忠敬は少年の頃からの夢を果たす測量、つまり「第2幕」に取り組んだことになると言い、また、人生の「第1幕」「第2幕」どちらにも一生懸命取り組み、目的を果たすことは並大抵の努力ではなく、その背景には強い同期がなければ達成できないだろうと言っている。
それが、実はその人の「夢」とか「価値観」とか「人生の方向性」というものなのだと説いている。
伊能忠敬の人生から、定年退職やがんの治療、介護の期間を「人生の第2幕への期間=幕間」であるとし、この期間を利用して自身の夢を実現することを勧めている。
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定年退職後では遅い?
伊能忠敬の場合とは対照的なケースはどうだろうか?
「幕間」を意識せず、第1幕を終えてしまった時に人間は強い「喪失感」や「執着」をおぼえると保坂先生は言っている。
一流企業の課長を勤めていたある男性の例を紹介する。
男性は定年を迎えた後、朝寝坊をしたり、平日にゴルフに行ったり、友人との飲み会に参加したりして退職後の自由な時間を楽しんでいた。
しかし、2、3ヶ月経過すると逆にやることがなくなり逆に退屈し始めた。
そんな時に後輩の「時々会社に遊びに来てください」という言葉を思い出し、フラーッと辞めたばかりの会社に行った。
ところが、受付のゲートを通るためのIDカードがないことに気づき、初めてその職場を辞めた自分に気づく。
なんとか課長補佐と会うことができたのだが、「元気そうだね」という挨拶以上に話は弾まず、いそいそと会社を離れることになったのだ。
その時に男性が感じた「喪失感」は想像以上に強く、翌日から朝起きられなくなってしまい、やがて憂うつ感を感じるようになり、「うつ病」と診断されたそうだ。
症状はその後の治療で改善していったが、その男性は「第二の人生をどうするか」についてうつ病改善のためのカウンセリングで考え始めたと保坂先生は言っている。
このことから、第1の人生を終えてから過去にしがみつく(執着する)のではなく、第2幕の人生に転じていかなければいけないが、第2幕になってからそれを見つけるには相当な時間がかかると保坂先生は言う。
やはり、第1幕が終わるまでの1~2年間を「幕間」の時間と意識して、第2幕の準備を始めなければならないということだ。
定年退職前の「幕間」を活かして輝く!
ここでは伊能忠敬と同様、「幕間」を意識して第2幕へ繋げられた方のケースを紹介する。
その女性は、定年退職を2年後に控え、その後の人生について保坂先生と話し合いを重ねていた。
保坂先生は、女性は「宅建」の資格を持っていることから、その資格を使った職業に退職後就くことを勧めた。
しかし、女性はそれに乗り気ではなくその代わりに「整理収納や片付けの資格」を取り、その仕事をしてみたいと言ったそうだ。
そうこうしているうちに友人の推薦で「片付けセミナー」の講師をさせてもらい、毎週開催していたところ別の所からもオファーが来るようになった。
さらには「女性のための企業セミナー」にも参加し始めた。
毎週土曜の丸一日を使ったワークショップに10週連続で参加し、最後には参加者が「起業プラン」を発表してお互いにディスカッションすると言う本格的なセミナーだったようだ。
この起業セミナーがきっかけとなり、女性は残された退職までの1年間で改めて「宅建」の資格が活かせる仕事について調べ、週末に近所の不動産屋で見学しながら、1年後の起業に向けて楽しい毎日を送っているという。
このように自分の興味関心があるものを理解し、第2の人生の送り方について1~2年ほど前から考えることが第2幕で役立つ資格や経験を手にいれる重要な「幕間」の時間になると保坂先生は言っている。
書籍『「幕間」の心理学 人生の転機の乗り切り方』について詳しく知りたい方はこちらも合わせてご覧ください。
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「イラスト/玉田紀子」
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