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認知症予防に向けた、運動のもたらす効果

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認知症の“予防”には、アクティブな生活が大切

認知症は、高齢者における健康において重要課題の一つであり、国家施策として「共生」と「予防」をキーワードにさまざまな対策が講じられています。

認知症予防のためにはアクティブな生活を送ることが重要であることは、本サイトの下記コラムにおいても記されている通りです。

◆「普段の生活をアクティブに!認知症予防の最新知見」

普段の生活をアクティブに!認知症予防の最新知見

本コラムでは、そのようなアクティブな生活のなかでも、とくに“運動”に着目したいと思います。

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認知症になりやすい人でも、運動でそのリスクを下げられる可能性がある

運動と認知症に関しては、さまざまな種類の研究が行われてきました。

とくに観察研究(対象者に対して介入をせず、健康状態などを観察し、集めたデータを解析する研究方法)により、認知症の発症リスクが低かった人の特徴が見えてくるなかで、「運動習慣を持っている人のほうが認知症の発症の割合が低かった」という報告が数多くされてきました。

そのような報告の一例として、大規模なデータベースを活用し、「遺伝子のリスクと運動習慣を含めたライフスタイルに応じて、認知症の発症リスクが異なるのか」という点について検討した研究を紹介します。

 

イギリスの長期大規模研究「UK Biobank study」では、認知機能障害や認知症を有していない60歳以上の登録者196,383名を対象に、約8年間の追跡調査を行い、認知症を発症した人を同定しました。

ベースライン(最初の状態)における「運動習慣」「食習慣」「喫煙」「飲酒」からみた認知症発症のリスクと、遺伝子からみた認知症発症のリスクを組み合わせて検討したところ、遺伝子からみたリスクが高い人であっても、良い生活習慣を有していると、そうでない人に比べて認知症の発症割合が優位に低かったと報告されました[1]

このような観察研究をはじめ、数多くの研究結果をまとめた解析からは、認知症の危険因子のなかでも修正可能な因子は約35%と推計され、そのうち身体活動の低下(運動不足)は約3%を占めると報告されました[2]

 

WHOが作成した『認知機能低下および認知症のリスク低減におけるガイドライン』によると、エビデンスレベル・推奨レベルはばらついているものの、身体活動、知的活動や社会活動の促進、生活習慣の適正化など、日常生活において取り組める内容が記載されています[3][4]

高齢者に対して、認知症予防の取り組みを広く実施してもらうためには、個々の趣向性に応じた取り組みやすい環境整備が望まれます。そのなかで、身体活動の増進や運動の実施は、比較的取り組みやすく、推奨レベルも高めに提示されており、認知機能の低下抑制に対し期待されている手段の一つです。

認知機能の低下がある人もない人も、運動によるポジティブな効果が期待できる

実際に運動をすることで認知機能にどのような影響があるのか、認知症の発症にどのように影響が及ぼされるのかということについて検討した研究も、数多く報告されてきました。さまざまな研究から得られた結果を統合解析した報告を紹介します。

 

50歳以上を対象にした、運動を用いた介入により認知機能への効果を検討した39の研究から、研究全体として運動の有用性、すなわち認知機能に対してポジティブな効果が示唆されました。個々の研究をみると、運動により改善がみられたものや、低下の度合いが小さいなどさまざまでした。

さらに、認知機能の状態(Mild Cognitive Impairment[MCI:軽度認知機能障害]の有無)が判別できる研究に絞り、認知機能低下の有無別に運動が及ぼす効果をみたところ、認知機能の低下によらず、運動の有用性が示唆されました[5]

MCIとは、“認知症ではなく日常生活は自立しているが、客観的認知機能低下が認められる状態”とされており、“認知機能のテストにおいて、年代や教育歴が同じくらいの人の標準値と比べて低下が認められた場合”と定義することが多いです。

 

また、運動とひと口に言っても、検証されてきた運動の種類は多岐にわたります。具体的には、有酸素運動、レジスタンストレーニング、複合的プログラムなどさまざまです。

そのなかで、効果検証された運動の種類別に見た解析の結果をみると、有酸素運動、レジスタンストレーニング、太極拳、複合的プログラムのいずれにおいても、認知機能に対して効果があることが示唆されました[5]

“頭を使いながらの運動”にも、よい効果がある

ほかにも、運動と認知課題を組み合わせて頭を使いながら運動をする「コグニサイズ」や「dual-task(デュアルタスク)トレーニング」についても、認知機能に対してよいとされる効果が報告されてきました。

コグニサイズは造語で、運動と認知課題(計算、しりとりなど)を組み合わせた、認知症予防を目的とした取り組みの総称です。英語のcognition (認知) とexercise (運動) を組み合わせてcognicise(コグニサイズ)といい、国立長寿医療研究センターが開発しました。具体的な実施方法は、国立長寿医療研究センターのホームページにある資料などをご確認ください

◆国立長寿研究センター 研究所 老年学・社会科学研究センター 予防老年学研究部

いっぽうで、運動プログラムの効果検証としてアウトカム(効果の度合いを検討するためのデータ)に認知症の発症そのものを含んでいる報告はまだ報告例が少なく、一定した見解が得られていません。

今後も、この領域における研究の報告を確認していくことが重要です。


【参考文献】

[1] Lourida I, Hannon E, Littlejohns TJ, et al. Association of Lifestyle and Genetic Risk With Incidence of Dementia. JAMA. 2019.

[2] Livingston G, Sommerlad A, Orgeta V, et al. Dementia prevention, intervention, and care. Lancet. 2017;390: 2673-2734.

[3] WHOガイドライン『認知機能低下および認知症のリスク低減』邦訳検討委員会. 認知機能低下および認知症のリスク低減 WHOガイドライン. 2020.

[4] World Health Organization. Risk reduction of cognitive decline and dementia WHO Guidelines.

[5] Northey JM, Cherbuin N, Pumpa KL, Smee DJ, Rattray B. Exercise interventions for cognitive function in adults older than 50: a systematic review with meta-analysis. Br J Sports Med. 2018;52: 154-160.


国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
研究所 老年学・社会科学研究センター 予防老年学研究 副部長
土井剛彦 先生

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター研究所 老年学・社会科学研究センター 予防老年学研究 副部長

土井 剛彦どい たけひこ先生

国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 予防老年学研究部 副部長

  • 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 予防老年学研究部 副部長

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