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健達ねっと>専門家から学ぶ>ドクターズコラム>【ドクターズコラム】認知症の人と、豊かなコミュニケーションをとるために

【ドクターズコラム】認知症の人と、豊かなコミュニケーションをとるために

富山県立大学看護学部学部長 老年看護学教授

竹内 登美子 先生

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コミュニケーションの基本は、人としての尊厳を尊重すること

「コミュニケーション」とは、お互いの意思を伝達することです。私とあなたとの間に、心と心を繋ぐ豊かな感情コミュニケーションがあったり、お互いの「知覚・感情・思考の伝達」が心地よいものであったりするなら、どんなに生きる喜びにあふれることでしょう。逆に、人は無視されたり、居心地の悪い場所にいたりすることは、耐えがたいものです。
このことは、認知症の人にとってもまったく同じです。人としての尊厳を尊重し、「あなたを大切に思っていますよ」「あなたは私(私たち)にとって大切な存在です」という意思を伝達することが、「人とのコミュニケーション」の基本だといえます。

では、身体的機能や認知機能が低下してきた高齢者や、言葉による会話ができなくなってきた認知症の人とは、どのようにコミュニケーションをはかればいいのでしょうか。
言葉による意思疎通ができないために、自分のことを理解してもらえず、興奮したり、昔のことを思い出して落ち着かない行動をとったりする認知症の人は、少なくありません。このような言動のことを、認知症の人のBPSD(行動・心理症状)といいますが、上手なコミュニケーションや対応によって、多くのBPSDは緩和・解消することがわかっています。

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「ユマニチュード」のケア技法を取り入れてみよう

認知症の人とのコミュニケーションのとり方はさまざまですが、特に効果的な、フランス発祥の知覚・感情・言語によるコミュニケーションに基づいたケア技法、「ユマニチュード」の一部をご紹介しましょう。認知症の人の反応が大きく変わるので、医療や介護の現場でも大変注目されていますが、この技法の基本は、ご家族でも実施できるものです。

①見る技術

「見る」ことが伝える、言葉によらないメッセージは、たとえば、同じ目の高さで見ることで「平等な存在であること」、近くから見ることで「親しい関係であること」、正面から見ることで「相手に対して正直であること」を相手に伝えています。

②話す技術

低めの声は「安定した関係」を、大きすぎない声は「穏やかな状況」を、前向きな言葉を選ぶことで「心地よい状態」を実現することができます。また、相手から返事がないとき、私たちは次第に黙ってしまいます。無言の状況は「あなたは存在していない」と伝える否定的メッセージとなるため、言葉をあふれさせる工夫をしましょう。

③触れる技術

触れることも相手へのメッセージであり、相手を大切に思っていることを伝えるための技術を用います。具体的には、「広い面積で触れる」、「腕などをつかまない」、「ゆっくりと手を動かす」などによって、優しさを伝えることができます。
※①②③は、日本ユマニチュード学会HP(https://jhuma.org/humanitude/)から抜粋

このとき、①②③をできるだけ同時に行うと、脳の刺激を高めることができます。たとえば、同じ高さから認知症の人の目をしっかりと見つめて、にっこりと微笑み、「顔色がいいですね」などと話しかけましょう。そして退出時には、共にいい時間を過ごしたことを振り返る会話を。「一緒に過ごせてとても楽しかったです」「またお話ししましょう」などと告げましょう。

認知症の人の本当の姿を知り、コミュニケーションを促進しよう

このコラムの冒頭で、コミュニケーションの基本は尊厳の尊重だと述べました。しかし、自分の中にある、認知症の人に対する偏見に気づき、認知症の人の本当の姿を知るためには、本人の声を聴くほかありません。
2013年に筆者が構築した「認知症の語り」Webサイトは、介護で多忙な人々が、認知症の本人や家族の思いを知りたいと願ったときに、自宅にいながら、各々が求める認知症の種類や進行度に応じた情報を得ることができるよう、構築したものです。適宜更新しており、2021年7月にはサイト全体を見直して、大幅な更新を実施しました。現在は、14人の認知症の人と、42人のご家族の語りを掲載しています。
たとえば、アルツハイマー型認知症の05さんは、映像で次のように語りかけてくださっています。

「一人ひとりの人格があって生きているということを絶えず自分に言い聞かせている。アルツハイマーであってもちゃんと生きていくことができることをわかって欲しい」
※認知症の語りWebサイト(https://www.dipex-j.org/dementia/)から抜粋

「認知症になったら何も分からない人になる」、「迷惑をかけるだけの存在になる」などという、古い知識に基づいた偏見に気づかされる、語りの一つだと思いませんか?

サイトでは、今回の更新で、新しいトピックとして「前頭側頭型認知症に特徴的な症状:常同行動・無関心/無気力・脱抑制など」を追加しています。認知症といえば「アルツハイマー型」と思われがちですが、認知症にもさまざまな種類があり、症状の出方も大きく異なります。ぜひ一度、Webサイトを視聴してみてください。表情や声の調子などの情報が加わった語りは、同じような状況にいる人々に勇気を与え、認知症の人とのコミュニケーションを促進してくれることでしょう。

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富山県立大学看護学部長・教授

竹内 登美子たけうち とみこ先生

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