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【ドクターズコラム】優しさを伝えるマルチモーダル・ケア技法 “ユマニチュード”を知ろう

国立病院機構東京医療センター 高齢者ケア研究室室長 

本田 美和子 先生

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ユマニチュードは、「あなたのことを大切に思っている」と伝えるための技術

「ユマニチュード」は、フランスのイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティという二人が創り出した、40年あまりの実績をもつケアの技法です。二人はもともと体育学を教えていた教育者でしたが、病院で働く看護師に患者さんの移動技術を教えるために、この分野に足を踏み入れました。
実際に医療の現場を訪れると、そこにはさまざまな困難な状況にある高齢の患者さんと、その方々に対してケアをうまく行うことができずに、疲弊している専門職がいました。二人は、単に体を動かすことにとどまらず、ケアの現場で困っている状況を専門職と一緒に考え、いろいろな方法を試すことで解決していきました。この経験から生まれた技法が、ユマニチュードです。

認知症の家族を介護している方のなかには、「一生懸命に介護をしているのに、拒絶される」「怒られてしまう」という経験をもつ方々が少なくありません。それは決して、介護をしている方が優しくないからではありません。介護をする側の「心の問題」ではなく、「方法の問題」なのです。

ユマニチュードは、ケアを行う相手に「あなたのことを大切に思っています」ということを、“相手が理解できるように伝える”ための技術です。この技術を身につけることで、ケアを穏やかに受け取ってもらうことができます。その結果として、介護における困った状況を減らしたり、解決したりすることができるようになります。

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ユマニチュードの柱は「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つ

ユマニチュードでは、「人とは何か」と考えることを大切にしています。人は、周囲にいる人から「あなたは大切な人なんですよ」と伝えられることで、“人らしさ”を獲得して生きています。これは、誰にとっても同じです。
「あなたは大切な人です」と伝える方法は、実は世界共通です。相手の目を、正面から近い距離で見つめること。相手に穏やかに、ゆっくりと話すこと。相手の腕をつかむことなく、広く触れること。これらは、子供や恋人、配偶者など、自分が大切だと思っている相手に対して、私たちが無意識に行っているコミュニケーションです。このコミュニケーションの方法を、介護を行う相手に対して、意識的に行うことが大切です。
さらに、できるだけ体を起こし、立つ時間や歩く時間を確保することで、健康を保ち、その人らしさをより尊重することができます。

この「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つを、「ユマニチュードの4つの柱」と呼んでいます。4つの柱を同時に複数組み合わせること、つまりマルチ(複数の)モーダル(要素)を使ったケアが、ユマニチュードの基本です。

私たちが4つの柱を組み合わせたコミュニケーションを取ることで、相手にはたくさんの情報が届きます。そして、その情報の一つひとつが、「あなたのことを大切に思っています」というメッセージを含んでいることが重要です。
「あなたのことを大切に思っている」と、「見る」ことや「話す」ことで伝えていても、そのときに相手の腕などをつかんでしまっていては、メッセージに矛盾が生じます。大切なのは「自分が出しているメッセージに矛盾がないように、4つの柱を組み合わせる」こと。これによって、相手といい関係を結べます。

ユマニチュードを用いた、具体的な介護の方法を知ろう

以下に、いくつか具体例をご紹介します。

【部屋に入るときには、いつも必ずノックをする】

介護のために相手に近づくときには、まずノックから始めます。物をたたく音は、人の声よりも聞こえやすいので、声で呼びかけるよりも気がついてもらえます。ノックをすることで、「私があなたの近くに来ました」というメッセージを伝えます。相手といい関係を結ぶための、大切な第一歩です。

【本人が自信をもってできることを頼む】

人は誰でも、自分が知っていることには自信があり、知らないことは不安に感じます。認知症をお持ちの方も同じです。そして、不安に思う気持ちが、繰り返し質問をしたり、どこかに行ってしまおうとするなどの、行動心理症状につながってしまうのです。

このような行動が見られるときには、「不安になっているんだな」と考えて、本人の不安を取り除く工夫をします。具体的には、ご本人が自信をもってできることを、一つずつ頼むとよいでしょう。たとえば、一緒に簡単な調理をしたら、「ありがとう」「助かる」とその都度伝えます。本人に、自分が役に立っていることを実感してもらい、不安な気持ちを取り除く、介護の技術です。

【いい思い出を知っておく】

認知症の行動心理症状は、本人が不安を感じることが引き金となります。不安になっているなと感じるときには、本人が安心して過ごせるような工夫をします。

本人がよく知っていること、とりわけ楽しかったことや、誇りに思っていることについて語り合うのは、安心してもらうためのとても有効な手段です。そのために、私たちは本人のいい思い出について、よく知っておくことが必要になります。これまでの人生で何があったのかを具体的に知っておくことも、介護の大切な技術です。楽しい思い出の写真を数枚用意しておくだけでも十分です。

ユマニチュードを学ぶために

ユマニチュードについて、具体的な考え方や技法を学ぶことのできるサイトやツールがあるので、紹介します。国立病院機構東京医療センターの高齢者ケア研究室では、ご家族がユマニチュードを学べる動画を配信しています。
https://www.youtube.com/channel/UCHopS0wOt0R9Iun1ZH5fpLg

TBSの報道特集チャンネルでも、ユマニチュードの特集を公開しています。
https://www.youtube.com/watch?v=C7V03-Mhkdw 

また、筆者がNHKの厚生文化事業団と制作した、家族介護者向けの3枚組DVDを、ご希望の方に無料で貸し出しています。下記サイトから申し込みが可能です。
https://www.npwo.or.jp/info/8210

いかがでしょうか。認知症の人の介護に、ぜひ役立ててみてください。

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薬の使い方

独立行政法人国立病院機構 東京医療センター総合内科医長/医療経営情報・高齢者ケア研究室

本田 美和子ほんだ みわこ先生

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