自分や家族が、認知症や知的障害などを患い判断能力が不十分になったとき、財産管理を代理できる成年後見制度を検討する方は多いと思います。
しかし、手続きや費用について、具体的な部分がわからない方もいるのではないでしょうか。
本記事では、成年後見制度について以下の点を中心にご紹介します。
- 成年後見制度に必要な書類や費用について
- 成年後見制度のメリットとデメリット
- 成年後見制度の利用者の推移
成年後見制度の申立てを検討している方のためにも、ご参考いただけますと幸いです。
ぜひ、最後までご覧ください。
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そもそも成年後見制度とは?
成年後見制度とは、認知症や知的障害などを患い、判断能力が十分でない方の財産の管理や必要な契約など、法的に代理で行えるようにする制度です。
代理となる方を後見人と呼び、後見人は個人だけでなく、複数の人や法人を選択できます。
成年後見制度には種類がある?
成年後見制度は大きく分けると、法定後見制度と任意後見制度の2つに分かれています。
そして法定後見制度は、病気を患った方の症状のレベルごとに種類が分けられています。
それぞれの種類について、以下で説明していきます。
法定後見制度
本人の判断能力が欠如してしまったときに、利用できる制度です。
法定後見制度は、本人の判断能力のレベルによって、以下の補助、保佐、後見の3種類に分かれています。
補助 | 判断能力が不十分と判断された場合に、割り当てられる。 財産に関する契約の一部のみ、後見人に同意権と取消権が与えられる。 |
保佐 | 保佐は、判断能力著しく不十分な方と判断された場合に、割り当てられる。 補助よりも多くの範囲で同意権と取消権が、後見人に与えられる。 |
後見 | 後見は、判断能力が欠けているのが通常の状態の方と判断された場合に、割り当てられる。 財産に関する契約全てにおいて、同意権と取消権が後見人に与えられる。 |
任意後見制度
任意後見制度は、本人の判断能力が正常なときに、あらかじめ後見人を決めておく制度です。
後見人の申立てが完了するまでに、時間と費用が掛かるので、その手続きを事前に実施しておけるというメリットがあります。
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成年後見制度に必要な費用と書類は?
成年後見人の申立てする際に、必要な費用と書類について説明します。
必要な費用は?
まず成年後見制度の申立てにかかる費用を解説していきます。。
かかる費用は以下の表の通りです。
申立て手数料及び後見登記手数料 | 3,400円 |
送達・送付手数料 | 後見申立て:3,270円 補助・保佐申立て:4,210円 |
鑑定費用 | 約10万~20万円 |
医師の診断書作成手数料 | 数千円(各病院により異なる) |
住民票・戸籍抄本の費用 | 300円~(自治体により異なる) |
登記されていないことの証明書の発行手数料 | 収入印紙300円分 |
後見人に対する報酬 | 約2万円/月 |
それぞれの項目ごとに詳しく解説していきます。
申立て手数料及び後見登記手数料
収入印紙の代金として、3,400円分の費用がかかります。
また、補助・保佐の申立てで代理権・同意権の付与依頼する場合は、それぞれ800円の収入印紙が追加で用意する必要があります。
送達・送付手数料
審判書の送付や、土地や不動産の登記申請する際の資料の送付費用が発生します。
後見の申立てが3,270円、保佐・補助の申立てが4,210円の費用となります。
鑑定費用
申立人が用意した診断書とは別に、認知症や知的障害のレベルを細かく診断するために、裁判所が医師に依頼する場合があります。
これを鑑定といい、費用は10万~20万円ほどです。
裁判所から鑑定の指示がない場合は、この費用は発生しません。
医師の診断書作成手数料
かかりつけ医の診断書の作成は病院によって様々ですが、だいたい数千円程度が目安となります。
住民票・戸籍抄本の費用
住んでいる市区町村の役場で発行してもらう住民票や戸籍抄本の費用は、それぞれ300円~発行できます。
市区町村により、金額が異なる場合があるので、対象の自治体に確認しましょう。
登記されていないことの証明書の発行手数料
収入印紙の発行で、300円ほどかかります。
後見人に対する報酬
後見人になった人は、報酬付与の申立てができます。
報酬の申立てがあった場合は、家庭裁判所が報酬の有無や金額を決定します。
基本的な金額の目安は、月額2万円となりますが、特別な事情がある場合に限り、基本報酬額の50%までを追加報酬として加算できます。
また、後見人を監督する役割を担う、成年後見監督人の報酬もあります。
管理する財産の額によって金額は変わりますが、目安として月額1万~3万円ほどです。
手続きにかかる費用だけでなく、月額で支払う報酬を見落とさないように注意しておきましょう。
必要な書類は何がある?
続いて必要な書類と入手方法について、1つずつ見ていきましょう。
- 申立書
- 申立人の戸籍謄本
- 本人の戸籍謄本
- 戸籍の附票
- 登記事項証明書
- 診断書
- 成年後見人候補者の戸籍謄本・住民票・身分証明書・登記事項証明書
- 申立書付票
- 本人に関する報告書
申立書
申立書は、主に認知症や知的障害などを患った本人と、成年跡見制度を申請する申立人と、後見人を希望する方に関する情報を記載する書類です。
家庭裁判所のホームページから、資料一式をダウンロードできます。
申立人の戸籍謄本
申立てする方の戸籍謄本です。
住んでいる市区町村の役場で発行できます。
本人の戸籍謄本
認知症や知的障害などを患った方の戸籍謄本です。
住んでいる市区町村の役場で発行できます。
もし、申立人と親子関係にある場合は、戸籍謄本は1通だけで問題ありません。
戸籍の附票
戸籍の附票とは、戸籍が作られてから現時点までの住所が記載されている資料です。
住んでいる市区町村の役場で、発行できます。
登記事項証明書
別の後見人がすでに本人に登記されていないか、証明するための書類です。
この書類の発行は法務局ででき、法務局のホームページから資料請求ができます。
診断書
かかりつけ医の診断書が、必要になります。
成年後見人制度の補助、保佐、後見の3種類の内、どの支援が必要か判断するための基準になります。
成年後見人候補者の戸籍謄本
後見人を希望する方の、戸籍謄本です。
候補者と申立人が同一の場合は、どちらか1通の発行で問題ありません。
成年後見人候補者の住民票
後見人を希望する方の、住民票です。
住んでいる市区町村の役場で、発行できます。
候補者と申立人が同じ場合は、1通の発行で問題ありません。
成年後見人候補者の身分証明書
住んでいる市区町村の役場で、発行する身分証明書です。
後見人の分を、用意しましょう。
成年後見人候補者の登記事項証明書
後見人を希望する方が、すでに別の方の後見人になっていないかを証明するための書類です。
この書類の発行は法務局でおこなっており、法務局のホームページから資料請求ができます。
申立書付票
補助、保佐、後見の支援を受ける方の、生活状況や親族関係について記載する書類です。
申立書と同様に家庭裁判所のホームページから、資料一式をダウンロードできます。
本人に関する報告書
報告書は、後見人の審査が通った際に提出する報告書・定期的に提出する報告書・後見人の役割を終えたときに提出する報告書の3つあります。
審査が通った際に提出する報告書は、財産の内訳や収支予定などの情報を記載します。
そして、予定通りの収支ができているか、1年に1回、家庭裁判所に報告する必要があります。
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成年後見制度の手続きは?
次にどのような手順で手続きが行われるかについて、見ていきましょう。
以下に申立ての流れをご紹介します。
- 住んでいる地域の家庭裁判所から、申立書を入手する
- かかりつけ医から、診断書を作成してもらう
- 市区町村の役場で、住民票・戸籍謄本などを発行してもらう
- 申立書の作成をする
- 家庭裁判所に面談の予約と、作成した申立書を送付する(申立書、診断書、住民票、戸籍謄本などを提出する)
- 家庭裁判所に訪問し、面談をする
- 家庭裁判所が審査し、後見人が決定される
- 家庭裁判所にて登記される
- 本人の財産、収入、負債などの情報を集める
- 集めた情報を基に報告書を作成し、家庭裁判所に提出する
家庭裁判所の審査で、問題が無ければ後見人の登記がされます。
書類を用意してから登記が完了するまでは、1ヶ月半くらいの期間がかかることを想定しておきましょう。
成年後見制度の費用が払えない場合は?
もし費用を払えない場合でも成年後見制度を利用できる場合があります。
例えば、本人が生活保護を受給して申立ての費用が支払えない場合は、費用を役所側で負担してくれる場合があります。
この助成の詳細については、住んでいる地域によって異なるため、詳しくは各市区町村のホームページを確認してください。
成年後見制度を利用するメリット・デメリット
メリット
申請の方法や費用について知った上で、改めて成年後見制度を利用するメリットについて、おさらいしていきましょう。
- 通帳やキャッシュカードの管理や、お金の入出を代理で行える
- 正常に判断できない状態で本人が行った契約を、取り消せる
- 意図しない財産の使い込みを、防止できる
認知症や知的障害であることを悪用されて、不必要に契約してしまった取引を無効にできます。
また、本人が勝手にお金を引き出して、散財してしまうことも予防できます。
デメリット
成年後見制度は、便利な制度だと思われるかもしれませんが、注意点もあるためチェックしていきましょう。
- 申請するための費用がかかる
- 株式投資や不動産投資のために財産を使用できなくなる
- 後見人になった人は、本人が死亡するまで後見人を務めなくてはいけない
- 後見人を誰に任命するかは、家庭裁判所の判断で決定され、必ずしも申立人の希望が通るわけではない
本人の財産を保護するための制度であるため、本人に関する正当な目的以外でお金を使うことはできなくなります。
また、一度後見人になると、簡単に辞めることができない点も注意しましょう。
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成年後見制度の利用者は増加傾向?
成年後見制度の利用者は、年々増加傾向にあります。
平成25年時点では利用者が17万6564人だったのに対し平成30年時点では21万8142人となっており、5年間で約4万人も増加しています。
増加した理由の1つとして、認知症患者の増加が背景にあります。
そして、認知症の患者数は今後も増加すると推定されるため、成年後見制度の利用者数も増え続けることが予測されます。
利用者数は増加していますが、注意しなければならない点はあります。
前述した通り、一度申立てをして後見人になったら本人が死亡するまでその役割を担わなければならず、親族を後見人にするように希望を出しても希望通りにならないこともあります。
これらの点を注意したうえで、申立てをしましょう。
成年後見制度の費用まとめ
ここまで、成年後見制度の申立てに関する情報を中心にお伝えしました。
要点を以下にまとめます。
- 必要な書類は家庭裁判所、法務局、役場、病院など様々な機関から用意する必要がある
- 認知症や知的障害などを患った本人の財産を安全に管理できるが、後見人となった人は、簡単に後見人を辞退できない点に注意
- 認知症患者の増加などを背景に、年々成年後見制度の利用者は増えている
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。