高齢化が急速に進み、年々介護施設の需要は高まっています。
ALS患者やそのご家族の方で在宅での療養や介護が難しく、介護施設の入居を考えている方々も少なくありません。
「介護施設ってALS患者でも入居できるのかな?」
「介護施設の入居にはどのような基準があるの?」
などの疑問を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、ALS患者や介護施設の種類について解説しながら、介護施設の入居基準やALS患者のサービスの活用法などについてもご紹介します。
- ALSとは
- 介護施設の種類
- 介護施設の入居基準
- ALS患者が入居できる介護施設
- ALS患者のサービスの活用法
ぜひ、最後までご覧いただき、ALS患者の方で介護施設への入居を検討している方は参考にしてください。
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ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは
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ALSは正式には筋委縮性側索硬化症といい、脳からの命令を筋肉に伝える働きをしている運動ニューロンが侵される病気です。
ALSは指定難病の1つであり、令和元年度末時点で日本には約1万人の患者がいます。
ALSの症状
ALSになると手足・のど・舌の筋肉を動かしづらくなり、筋肉が徐々に痩せて力が入らなくなっていきます。
痛みを感じた時に手を引っ込めたり、歩行や物を持ち上げたりといった動作が少しずつ困難になり、舌やのどの筋力が低下することにより、コミュニケーションにも支障を生じてきます。
話す言葉が不明瞭となり、ラ行やパ行の発音がしづらくなります。
病気が進行すると、随意運動といわれる自分が思うように手や足を動かす運動や、ものを飲み込むといった日常動作も難しくなります。
そのため、胃ろうやたんの吸引、人工呼吸器が必要になることがあります。
その一方で、心臓や胃腸、体の感覚機能、視力、聴力、内臓機能など自律神経が支配している器官には障害がおきません。
発症しやすい年齢層は60~70代で比較的男性に多く見られるのが特徴です。
ALSに必要な医療ケア
これまでは発症してから亡くなるまでの期間は2~5年といわれてきました。
しかし、医療の発達により長期療養も可能になり、10数年という長期間にわたってゆっくりした経過をたどるケースもあります。
ALS患者が進行に伴い必要となってくる医療的ケアについて詳しく見てみましょう。
胃ろう
胃腸の消化機能に関しては問題がありませんが、舌やのどの筋肉が弱まることにより、食べ物を飲み込む嚥下ができなくなります。
胃ろうを造設し、胃に直接栄養をとり入れなければらない場合があります。
たんの吸引
舌やのどの筋肉が弱まることにより、たんの自己喀出(じこかくしゅつ)ができなくなってしまいます。
24時間体制で定期的にたんの吸引が必要になります。
人工呼吸器
呼吸をするには自律神経と随意筋である呼吸筋の両方が必要です。
ALSで運動ニューロンが侵されることにより、呼吸の筋肉が徐々に弱まっていきます。
やがて呼吸も困難な状態になってしまいます。
呼吸が困難になると、人工呼吸器により呼吸をサポートしながら、生活しなくてはなりません。
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介護施設の種類
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介護施設には公的な施設と民間運営の施設があります。
それぞれの施設の特徴について詳しく見てみましょう。
公的な施設
公的な施設は主に4つに分けられます。
介護老人福祉施設
要介護3以上の方が入居することができ、入浴や食事など日常生活に必要なサービスを受けることができる施設になります。
他の介護施設と比較すると安価なため、地域によっては入居待機者が多いです。
介護老人保健施設
病院で入院生活を送っていた方が退院後すぐに在宅で生活することが難しい場合、在宅復帰を目指すために入居します。
入居期間は、原則として3~6ヶ月の期限になります。
医師や看護師が常駐しており、医療的ケアやリハビリにも対応しています。
介護医療院
2018年4月より新設された「介護医療院」は、2017年度に廃止することが決定した「介護療養型医療施設」の転換先として、新たにできた要介護者向けの介護施設になります。
日常生活の身体介助や生活支援をはじめ、日常的な健康管理や看取り、ターミナルケアなどの医療的ケアを受けることができる施設です。
医師や看護師が常駐し、急性期から回復期にある寝たきりの方の医療的ケアやリハビリに対応しています。
軽費老人ホーム
軽費老人ホームとは60歳以上の独居が不安な方、家族と同居できない方、家族の援助を受けることが難しい方などが入居できます。
軽費老人ホームには、A型・B型・C型(ケアハウス)の3種類があり、食事の提供や入浴の準備、緊急時の相談や対応、介護サービスなどに対応しています。
民間運営の施設
民間運営の施設は主に2つに分けられます。
認知症高齢者グループホーム(認知症対応型共同生活介護)
65歳以上で要支援2以上の認知症を持つ方が、専門的なケアを受けながら家庭的な雰囲気で共同生活を送ることができる施設になります。
その市区町村の方しか入居することができません。
有料老人ホーム
高齢者が入居し、心身の健康保持や生活を安定させることを目的として「食事の提供」、「介護(入浴・排泄・食事)の提供」、「洗濯・掃除等の家事の供与」、「健康管理」のうち、いずれかのサービスを1つ以上提供している施設になります。
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介護施設の入居基準
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介護施設へ入居するためにはどのような基準があるのでしょうか?
各項目ごとに詳しく見てみましょう。
要介護度
施設によって要介護度の入居条件は異なっています。
公的施設である介護医療院、介護老人保健施設に共通する入居条件は「要介護1以上」となっています。
特別養護老人ホームの入居条件は原則「要介護3以上」ですが、認知症などによって日常生活に支障が生じるなど特別な事情がある場合は「要介護1以上」の方も入居対象とされています。
民間運営の施設であるグループホームの入居条件は「要支援2以上」が必要です。
また、有料老人ホームの場合は施設によって入居条件が異なっており、「要支援」や「要介護」ではなく、「自立」の方でも入居できる施設もあります。
収入
収入に対しての基準は設けられていませんが、収入や資産をチェックして支払いが可能かどうかを確認する施設もあります。
収入が少ない方や生活保護を受けている方でも入居できる施設から、高額な施設までさまざまです。
自身の状況に適した施設を見つけたら、パンフレットを取り寄せたり、地域包括支援センターに相談してみましょう。
年齢
施設によって入居対象者の年齢は異なります。
介護保険法では原則65歳以上を対象としているため、多くの施設では65歳以上が入居対象者の年齢として設定されています。
しかし、法令で定められた特定疾病が認められた場合は、40歳から入居可能な場合があります。
また、介護サービスを利用しない方が施設に入居する場合は65歳以下でも入居可能な場合があります。
年齢の設定はあくまで原則であって、状況によっては対応してくれる施設もあるため、問い合わせしてみると良いでしょう。
必要な医療的ケア
必要な医療的ケアの内容によっても、介護施設への入居条件に大きく関わってきます。
介護施設は医療機関とは異なり、多くの高齢者の方々が介護を受けながら生活している場になります。
施設によって医師や看護師の配置状況は異なっています。
介護医療院・介護老人保健施設・介護付き有料老人ホームでは医師や看護師が常勤しており、医療依存度の高い方でも受け入れています。
保証人
保証人や身元引受人の有無も介護施設の入居条件の1つになります。
介護施設は保証人や身元引受人に利用料の支払い、緊急時の連絡先、施設サービス計画書(ケアプラン)や治療方針の承諾、入院や死亡時の対応などを依頼します。
そのため、どの介護施設でも入居契約時には保証人・身元引受人が必要となります。
ALS患者は介護施設に入居できる?
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介護施設にはたくさんの種類があり、その施設によって入居者や提供するサービス、働いているスタッフの職種などは異なっています。
入居者の状態は、「自立している」、「身の回りの支援が必要な状態」、「介護が必要な状態」、「リハビリが必要な状態」、「医療処置が必要な状態」などさまざまです。
ALSの方は、人によっても状態が異なりますが、筋力の低下により、胃ろうやたんの吸引、人工呼吸器管理が必要な場合があるため、「介護・リハビリ・医療処置が必要な状態」として認識されます。
そのため、看護職員が常駐している介護施設が受け入れ可能な施設となります。
定期的なたんの吸引や人工呼吸器の管理など高度な医療的ケアが必要なため、受け入れの割合が少ないのも現状です。
受け入れ状態は施設によっても異なりますが、ALS患者でも受け入れ可能な介護施設について詳しく見てみましょう。
介護医療院
介護医療院は日常生活の身体介助や生活支援をはじめ、日常的な健康管理や看取り、ターミナルケアなどの医療的ケアを受けることができる施設です。
介護医療院には、医師1名以上、入所者6名に対して看護師1名、入所者5~6名に対して介護職員1名が配置されています。
リハビリ職員(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)、薬剤師、栄養士、ケアマネージャー(介護支援専門員)など医療機関に近い職種の職員も配置されており、介護・リハビリ・医療的ケアにも対応しています。
介護老人保健施設
介護老人保健施設は介護保険が適用できるサービスで、長期入院をしていた方などが在宅復帰を目指して、リハビリを中心として介護・医療・看護などの包括的なケアサービスを受けることができる施設です。
65歳以上で要介護1~5と認定された方や満40歳以上65歳未満で特定疾病により要介護1~5と認定された方を対象としています。
入居者100名に対して常勤医師1名、看護師9名、介護職員25名、リハビリ職員(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)ケアマネージャー(介護支援専門員)、支援相談員の配置が定められており、医療的ケアにも対応しています。
介護付有料老人ホーム
介護付有料老人ホームとは、介護スタッフが24時間常駐しており、食事、入浴、排泄に至るまで日常生活におけるあらゆる介助サービスを受けることができる介護施設です。
身の回りの支援のみが必要な介護度が軽い方から寝たきりや認知症など介護度が高い方までさまざまな状態にある入居者を対象としています。
日中は看護師やリハビリ職員(理学療法士、作業療法士)が常駐しており、医療処置やリハビリが行われるほか、協力医療機関と連携し、医師による定期的な健康診断や訪問診察も行われます。
夜間緊急時は、看護師がオンコール体制で待機しており、病院に搬送できる体制が整っている施設もあります。
まれに医師が常駐し、24時間体制で看護師を配置している施設もあります。
ALS患者の介護施設以外のサービスの活用
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ALS患者でも介護施設への入居が可能ですが、高度な医療的ケアが必要となるため、受け入れ可能な施設が少ないのが現状です。
そんな中、様々な社会資源を利用しながら在宅で介護を受けているALS患者も少なくありません。
ALS患者が利用できる社会資源について詳しく見てみましょう。
ALSの診断を受けたらすること
ALSは指定難病のため、かかりつけ医や保健所等の難病担当保健師に相談し、指定難病医療費助成の手続きをしましょう。
40歳以上の場合は介護保険が利用できるため、ケアマネージャーに相談しましょう。
日本ALS協会や同支部の近隣患者や家族と情報交換しましょう。
医療費はどうなっているの?
ALSは指定難病であり、将来的に高度な医療が必要な状態になる可能性が高い病気です。
そのため、指定難病医療費助成、高額療養費の還付制度、身体障害者手帳で身体障害者医療費助成制度(重度障害者医療証等)を利用することができます。
また、生命保険はできるだけ解約せずに入院給付金などを利用しましょう。
在宅サービスを受けるには?
ALSでも年齢や障害の程度によって受けられるサービスが異なっています。
かかりつけ医・保健師・福祉事務所等に相談の上、身体障害者手帳を申請しましょう。
40歳未満の方
指定難病受給者証と身体障害者手帳がある場合は、障害者総合支援法を利用しましょう。
身体障害者手帳がない場合は自治体独自のサービスがあれば利用しましょう。
他に、ボランティアなどを利用するのも良いでしょう。
40歳以上の方
介護保険が受けられるため、介護保険の利用申請をしてサービスを受けましょう。
指定難病受給者証と身体障害者手帳がある場合は介護保険にない障害者総合支援法のサービスも利用しましょう。
住宅を改修したい/福祉用具を借りたい
身体障害者手帳と指定難病受給者証を持っている方は、補装具や日常生活用具を利用しましょう。
在宅療養等支援用具として、障害者総合支援法による地域生活支援事業から吸引器やパルスオキシメーターなどの給付を受けましょう。
日本ALS協会等の福祉機器(意思伝達装置など)の貸出サービスを利用しましょう。
40歳以上の方は上記の他に介護保険が受けられるため、介護保険の利用申請によってサービスを受けることができます。
在宅での呼吸器の管理は?
呼吸器は医療保険により、病院からレンタルすることができます。
介護施設は家族の負担を減らすのにも効果的
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ALSは進行性の指定難病であり、一度発症すると、症状が軽くなるということはありません。
病状の進行とともに介護度は高くなり、医療的ケアの必要性も増していきます。
ALS患者は在宅で療養されている方も多く、そこには家族の大きな介護負担が伴っています。
家族の介護負担軽減のためにも、うまく介護施設や社会資源を利用していくことが重要となってきます。
ALSの在宅療養での家族の介護負担例について詳しく見てみましょう。
平均闘病期間
ALSは発症すると脳からの命令を筋肉に伝える働きをしている運動ニューロンが侵され、徐々に身体の筋肉が弱くなり、呼吸筋も働かなくなってしまうという病気です。
大多数は呼吸不全で亡くなります。発症から死亡まで2~5年といわれています。
進行が遅い場合は10年以上生きられる方もいます。
入院を決めた主な要因
在宅療養中のALS患者の63%がたんの吸引などを必要としており、ほぼ全ての家族が医療従事資格はありませんが、医師の指導のもとに行っているのが現状です。
家族はALS患者のたんの吸引のため、24時間患者から離れられず、私用や休息の時間も取れず、長期の介護生活による疲労のため、入院や施設への入所を決めるケースが多いようです。
1日の吸引回数
たんの吸引は1時間に1回程度必要であり、1日に24回も行うため、ALS患者の介護者は24時間体制で介護にあたらなければなりません。
就寝中の吸引・体位変換回数
ALS患者の状況によって吸引の回数は異なります。
就寝中のたんの吸引や体位交換を2時間ごとに実施すると考えると、就寝から起床までの間に4~5回必要になります。
痰の吸引に関する家族の声等
ALS患者の家族は24時間体制でたんの吸引が必要であり、患者につきっきりのため私用が足せず困っている方が多いのが現状です。
たんの吸引や介護を任せられる人がおらず、ALS患者の家族は夜間も休息できず疲労が蓄積されるなど負担が大きい状態です。
また、胃ろう・たんの吸引・呼吸器などの医療的ケアが必要なALS患者がデイサービスやショートステイを利用する際、家族の同伴が要求されるため、結局家族は休養がとれず負担が軽くなりません。
たんの吸引ができる訪問看護師の訪問時間や訪問回数が増えることを期待している家族が多いようです。
介護施設とALS患者のまとめ
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ここまで、ALS患者や介護施設の種類について、入居基準やALS患者のサービス活用法などを中心にお伝えしてきました。
要点を以下にまとめます。
- ALSとは脳からの命令を筋肉に伝える働きが侵されることで筋肉が弱まり、高度な医療的ケアが必要になる病気である
- 介護施設の入居基準には要介護度、収入、年齢、必要な医療的ケア、保証人の有無などがある
- ALS患者が入居できる介護施設には介護医療院、介護老人保健施設、介護付き有料老人ホームがある
- ALS患者は指定難病医療費助成、高額療養費の還付制度、身体障害者手帳で身体障害者医療費助成制度などを利用することができる
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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