病気やケガなどで口から食事をとれない場合「経管栄養」という方法があります。
最近では介護施設でも経管栄養ができるようになりました。
介護施設では、どのように経管栄養を実施しているのでしょうか。
本記事では介護施設での経管栄養について以下の点を中心にご紹介します。
- 介護施設で経管栄養ができる条件
- 介護施設でできる経管栄養とは
- 経鼻経管栄養でのトラブル
介護施設での経管栄養について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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経管栄養とは
経管栄養とは、胃や腸にチューブやカテーテルで直接栄養を注入することです。
食事が自分で食べられないときや、誤嚥の危険性があるときなどに経管栄養を施します。
経管栄養には「胃ろう」「腸ろう」「経鼻経管栄養」などの種類があります。
経管栄養を必要とする方の状態や介護環境によって選択肢が異なってきます。
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介護施設での経管栄養とは
経管栄養は医療行為のため、医師か看護師しか実施できませんでした。
しかし、2012年に社会福祉法・介護福祉法の改正があり、一定の条件のもとであれば介護職員も経管栄養を実施できるようになりました。
この改正の背景には、増え続ける高齢者と受け入れる介護施設の役割があります。
高齢者が増加するとともに、医療ケアを必要とする高齢者や施設入居者も増加します。
そのため、受け入れる施設が不足するなど、看護師だけでは十分な医療ケアを実施することが難しくなりました。
現場の声が反映され、より現実的な介護を目指すために法律が改正されました。
そして、経管栄養の方も介護施設に幅広く受け入れられるようになりました。
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介護施設で介護職員が経管栄養を行う条件
介護施設で介護職員が経管栄養を実施できる条件として、以下の3つが必要となります。
「喀痰吸引等研修」を修了している
喀痰吸引等研修は「基本研修」と「実地研修」にわかれています。
さらに、喀痰吸引等研修は、対象者によって第1号・第2号・第3号研修にわかれています。
職種 | 対象者 | 研修時間 | 実地研修内容 |
第1号研修 | 不特定多数 | ・講義50時間+各行為のシミュレーター演習 ・実地研修 | ・口腔内の喀痰吸引 ・鼻腔内の喀痰吸引 ・気管カニューレ内部の喀痰吸引 ・胃ろうまたは腸ろうによる経管栄養 ・経鼻経管栄養 |
第2号研修 | 不特定多数 | 第1号研修と同様 | ・口腔内の喀痰吸引 ・鼻腔内の喀痰吸引 ・胃ろうまたは腸ろうによる経管栄養 |
第3号研修 | 重度障がい者など特定の方 | ・講義8時間+演習1時間 ・実地研修 | 特定の方に関する必要な行為のみ |
出典:厚生労働省【介護職員等による喀痰吸引等についての制度周知パンフレット】
喀痰吸引等研修は、学歴や資格などの制限がないので誰でも受講が可能です。
「認定特定行為業務従事者認定証」を交付されている
居住している都道府県宛てに「認定特定行為業務従事者認定証」を申請します。
その際、喀痰吸引等研修終了後に交付される「研修終了認定証」を提出します。
申請が受理され、認定特定行為業務従事者認定証が交付されます。
介護施設等が「登録特定行為事業者」の登録をしている
喀痰吸引等研修を受けているだけでは、経管栄養を実施できません。
介護職員が働く介護施設等が「登録特定行為事業者」に登録する必要があります。
対象となる施設や事業所等の例は、以下の通りです。
介護関係施設 | 特別養護老人ホーム、老人保健施設、グループホーム、有料老人ホーム、通所介護、短期入所生活介護など |
障がい者支援施設など | 通所施設、ケアホームなど |
在宅 | 訪問介護、重度訪問介護など |
特別支援学校 |
出典:厚生労働省【喀痰吸引等の制度について】
なお、医療機関は対象外となります。
介護施設で介護職員も可能な経管栄養
経管栄養は、医療行為として医師か看護師でなければできませんでした。
しかし、研修を受けることで介護職員も経管栄養の実施が可能になりました。
介護職員が実施できる経管栄養には、
- 胃ろう
- 腸ろう
- 経鼻経管栄養
の3種類があります。
それぞれの特徴やメリット・デメリットを詳しくみていきましょう。
胃ろう
腹部から胃に穴を開けて、挿入した管から栄養を注入します。
経管栄養を胃ろうにする対象は、誤嚥などの危険性があるが消化管には問題がない方です。
胃ろうのメリット
胃ろうには以下のようなメリットがあります。
- 誤嚥による肺炎リスクを軽減できる
- 経鼻経管栄養よりも不快感や違和感などの負担が少ない
- 経鼻経管栄養よりもカテーテルが抜けにくい
- 衣類で隠れるので目立たない
- 口から食事することもできる
- 運動やリハビリがしやすい
- 入浴することもできる
- 対応できる介護施設が多い
胃ろうのデメリット
胃ろうには以下のようなデメリットがあります。
- 腹部と胃に穴を開ける手術が必要
- 口腔内が不潔になりやすい
- 定期的なメンテナンスに費用がかかる
- 感染症や胃食道逆流のリスクがある
腸ろう
腹部から腸に穴を開けて、挿入した管から栄養を注入します。
腸ろうは、胃ろうと同じように嚥下機能に問題がある場合に施されます。
胃切除などの理由で、胃ろうを行えない方を対象とした経管栄養です。
腸ろうのメリット
腸ろうには以下のようなメリットがあります。
- 誤嚥による肺炎リスクを軽減できる
- 栄養剤が逆流してしまうリスクが胃ろうよりも低い
- 腸で直接栄養が吸収できるので、健康回復に直結する
- 経鼻経管栄養よりもカテーテルが抜けにくい
- 衣類で隠れるので目立たない
- 口から食事することもできる
- 苦痛や不快感が少ない
腸ろうのデメリット
腸ろうには以下のようなデメリットがあります。
- 腹部と腸に穴を開ける手術が必要
- 胃ろうよりもチューブが細くて詰まりやすい
- 穴を開けた部分に皮膚トラブルが起こることがある
- 口腔内が不潔になりやすい
- 腸に注入するため、下痢をおこしやすくなる
- 胃ろうよりも栄養剤の注入速度を遅くする必要がある
経鼻経管栄養
経鼻経管栄養は、鼻の穴から胃までチューブを挿入して、栄養を注入する方法です。
主に嚥下機能に問題があるものの、消化管機能には問題がない方が対象となります。
胃ろうや腸ろうに比べて、比較的短期間に口からの栄養摂取が見込まれる方に実施されます。
経鼻経管栄養のメリット
経鼻経管栄養には以下のようなメリットがあります。
- 手術の必要がなく、管の挿入が容易である
- ほとんどの方に適用できる
- 安定して栄養摂取できる
- 口から食事が摂れるようになれば、すぐにやめられる
- 消化管の機能を維持できる
- 在宅で始められる
- 体への負担が少ない
経鼻経管栄養のデメリット
経鼻経管栄養には以下のようなデメリットがあります。
- チューブが肺に入ってしまう危険性がある
- かぶれなどの皮膚トラブルが起こるリスクがある
- チューブ装着時の不快感や苦痛、違和感などがある
- 自分で抜いてしまうことがある
- 見た目があまりよいとはいえない
- 嚥下訓練が難しい
- 管理が難しいので、対応していない介護施設がある
介護施設は多くの方をサポートできるよう、多様なサービスを提供しています。しかし、胃ろうがある方の場合、慎重に介護施設を選ぶ必要があります。介護施設は胃ろうがあっても入居できるか?胃ろうがあっても受け入れてくれる介護施設とは?[…]
介護施設での経管栄養を行う手順
経管栄養を介護施設で実施する場合には、一連の流れを理解しておく必要があります。
実施前の準備
経管栄養は、実施する前の準備が重要です。
医療行為であることを念頭に置き、万全の状態で行います。
手洗いや除菌を徹底し、利用者の体調などのチェックや注意事項を確認してから実施しましょう。
利用者の意思確認
介護施設で経管栄養を実施するときには、利用者の了承を得ることが必要です。
了承されたら、体を半坐位ポジションにして栄養剤が逆流しないような体勢に整えます。
経管栄養の実施
介護施設での経管栄養の実施は、利用者の様子を見ながら慎重に行います。
途中で異変などがあった場合、すぐに中止できるようにしておきましょう。
経過後の観察
栄養剤を注入し終わっても、1時間程度は利用者の様子を観察します。
もし体調に異変があった場合には、素早く対処しなくてはなりません。
また、栄養剤の漏れがないかといったことも併せてチェックします。
とくに問題がないことを確認してから、体位を戻しましょう。
器具の片付けと記録
経管栄養が終わったら、使用した器材の後片付けをします。
介護施設では、申し送りを含めて利用者の記録を残しておきます。
経鼻経管栄養の在宅でのケアと手順方法
経鼻経管栄養は、介護施設だけでなく在宅で家族がケアできるというメリットがあります。
看護師から方法や手順を教わって十分に理解し、事故のないようにしましょう。
栄養剤の注入前に確認しておくこと
栄養剤の注入は、毎日何度かに分けて行います。
その際には以下のことに注意して、事故のないように細心の注意を払いましょう。
- チューブが口の中でとぐろを巻いていないか
- 呼吸の状態は苦しそうではないか
- モニターが付いている場合、酸素飽和度の値が低下していないか
- カテーテルチップ(専用の注射器)で吸引すれば、胃の内容物が引けるか
- 胃の内容物が引けないときには、空気を注入すれば気泡音が聞こえるか
また、栄養剤には
- 食品タイプ:本人や家族がドラッグストアなどで調達できる
- 医療品タイプ:医師の処方箋が必要
の2種類があり、どちらを選択するかは医師が判断します。
栄養剤の注入方法と手順
栄養剤の注入方法の手順は以下の通りです。
間違えないように行いましょう。
- 上半身を45度に起こし、チューブが胃の中まで挿入されているかカテーテルチップで確認する
- 事前に常温に戻しておいた栄養剤をイリゲーターに移す
- イリゲーターと鼻のチューブをつなげる
- イリゲーターのストッパーをゆっくりと緩めて、栄養剤を注入する
- 薬がある場合は、白湯でとかしておいた内服薬を鼻のチューブから注入する
- 注入終了後、白湯を注入して栄養剤や内服薬を洗い流す
注入後のケア
経管栄養を注入後は、逆流や嘔吐の心配があります。
30分〜1時間程度は半坐位の姿勢のままにして、すぐに寝かせないようにします。
なお、清潔を保つケア方法として、口腔ケアは必ず行いましょう。
口腔内が汚れていると、虫歯だけでなく肺炎のリスクが高まります。
また、経鼻チューブをしたままでも入浴は可能です。
その場合、固定テープが濡れるとはがれやすくなるため、洗顔は避けた方がいいでしょう。
やさしく顔を拭く程度にしておきましょう。
経鼻経管栄養で起こりやすいリスクと対処法
経鼻経管栄養で起こりやすいトラブルとして
- 栄養剤を肺へ誤注入
- 管の詰まり
- 皮膚の荒れ
- 下痢や嘔吐
- 管の自己抜去
などが挙げられます。
トラブルの内容と予防方法についてみていきましょう。
栄養剤を肺へ誤注入
チューブが間違って肺に入ってしまうと肺炎や窒息を引き起こしかねません。
チューブ交換時や栄養剤注入時は、鼻から胃に正しくチューブが入っているか毎回確認しましょう。
管の詰まり
経鼻経管栄養のチューブが詰まったままで、無理に栄養剤を注入し続けてはいけません。
途中で破裂して、破片が胃に残ってしまうリスクがあります。
チューブが詰まりかけたら、医師や看護師に連絡して新しいものと交換しましょう。
また、白湯でチューブを洗い流す、酢水でチューブ内部を満たすなどして詰まりを予防することも重要です。
皮膚の荒れ
経鼻経管栄養では、常にチューブを鼻や頬に固定しておかなければなりません。
テープで肌に固定するため、敏感肌の方は腫れや赤みなどの肌トラブルが起こることがあります。
肌トラブルが起きてないか日々確認するようにしましょう。
テープは同じ場所に貼らないようにして、ときどき貼る場所を変えましょう。
下痢や嘔吐
栄養剤の濃度や温度、注入速度などによって、下痢や嘔吐が起こることがあります。
注入の際は、医師の指示に従いましょう。
それでも改善されない場合は、医師と相談して経管栄養の方法を変えることも必要です。
管の自己抜去
誤って管を抜いてしまう「自己抜去」には、常に注意する必要があります。
認知症を患っている方の場合は、鼻や喉の不快感から自己抜去を繰り返す可能性があるため、とくに注意が必要です。
また、チューブが手に引っかかって抜けてしまうこともあります。
チューブを入念に固定したり、注入時以外は髪にピンで留めたりするとよいでしょう。
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経管栄養は介護療養型医療施設で多い?
日本慢性期医療協会の報告によると、経管栄養の実施割合は介護療養病床で42.1%となっています。
医療療養病床が54.1%ですから、高い割合で経管栄養が実施されていることがわかります。
出典:日本慢性期医療協会【医療が必要な要介護高齢者のための長期療養施設の在り方に関する調査研究事業報告書(2016)】
また、厚生労働省は経管栄養に対するニーズを調査し、以下のように報告しています。
【入所者全体に対する胃ろう・経管栄養を実施した入所者の割合(H19)】
介護療養型医療施設 | 特別養護老人ホーム | 介護老人保健施設 |
38.3% | 9.9% | 6.8% |
出典:厚生労働省【介護療養型医療施設におけるたんの吸引・経管栄養に対するニーズ】
経管栄養を必要としている方が、介護療養型医療施設、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設の順に多いことがわかります。
介護療養型医療施設(介護療養病床)は、急性期を過ぎた、介護度が高い要介護者を受け入れる介護施設です。
看護職員や介護職員が多く配置されており、充実した医療ケアを提供しています。
介護施設で経管栄養を望む場合には、介護療養型医療施設が受け入れやすいといえるでしょう。
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介護施設での経管栄養のまとめ
ここまで介護施設での経管栄養について紹介してきました。
介護施設での経管栄養の要点を以下にまとめます。
- 介護施設で経管栄養を実施できるのは、医師や看護職員、「喀痰吸引等研修」を修了した介護職員である
- 介護施設でできる経管栄養は「胃ろう」「腸ろう」「経鼻経管栄養」の3種類である
- 経鼻経管栄養では「肺への誤注入」「管の詰まり」「自己抜去」といったトラブルが起こりやすい
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。