本記事では中心静脈栄養について紹介します。
一般の方向けにわかりやすく説明していきます。
中心静脈栄養は経口摂取や経腸栄養ができないときに点滴を使って栄養を維持します。
また、末梢静脈栄養より長期間カテーテルを使用できます。
そもそも中心静脈栄養とはどのようなことをするのでしょうか?
末梢静脈栄養と違う点はどんなところなのでしょうか?
本記事では、中心静脈栄養について以下の点を中心にご紹介します。
- 中心静脈栄養の特徴
- 中心静脈栄養によるメリット・デメリット
- 自宅で中心静脈栄養を行う際の管理方法
最後には、中心静脈栄養患者の在院期間についても紹介しています。
ぜひ最後までお読みください。
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中心静脈栄養とは
中心静脈栄養とは、中心静脈にカテーテル先端を留置し、留置したカテーテルを通して栄養、水分、薬剤などを点滴する方法です。
中心静脈栄養はTPN(Total Parenteral Nutrition)やIVH(Intravenous Hyperalimentation)などとも呼ばれています。
ちなみに、中心静脈とは、心臓につながる太い静脈(上大静脈、下大静脈)のことで、体中から集めた血液を心臓に戻す役割を持ちます。
静脈栄養には、中心静脈栄養に対して末梢静脈栄養という方法もあります。
末梢静脈栄養とは、腕などの末梢静脈と呼ばれる細い血管から点滴する方法です。
注射針を通して容易にカテーテルを留置できることがメリットです。
しかし、末梢静脈は血管が細く炎症を起こしやすい、高カロリー輸液や薬剤などの投与に制限があるなどの理由で、1週間〜10日程度の栄養維持が目的になります。
対して中心静脈栄養は、感染や事故抜去を起こさなければ、数カ月以上使用できることもあるようです。
そのため、口から食べ物を取り入れる「経口摂取」、胃ろうや腸ろうなど胃腸にカテーテルを通して輸液を行う「経腸栄養」が、長期間行うことが難しい場合に検討されます。
参照:静脈栄養の適応と管理 | 健康長寿ネット
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中心静脈栄養のメリット・デメリット
前述したとおり、静脈栄養には中心静脈栄養と末梢静脈栄養があります。
まずは末梢静脈栄養のメリット・デメリットについて簡単に説明します。
末梢静脈栄養のメリットは、外科的処置無しで、注射針を通して容易にカテーテルを留置できることです。
デメリットには、血管が細く炎症を起こしやすいため、高カロリー輸液や薬剤などの投与に制限があることや、1週間〜10日ほどの栄養維持が目的のため長期に留置できないなどがあります。
ここからは、中心静脈栄養のメリット・デメリットについて説明します。
参照:経管栄養の種類と特徴、メリット・デメリットを徹底解説!
メリット
中心静脈栄養のメリットは大きく5つあります。
- 苦痛が少ない
- 高カロリー輸液の注入ができる
- 長期間使用できる
- 自宅で実施可能
- 入浴や外出ができる
苦痛が少ない
中心静脈栄養は、体内や体外に留置した中心静脈カテーテルを通して血管内に輸液製剤を投与します。
注射針を穿刺することも少ないので、苦痛を感じることは多くありません
CVポートの場合は穿刺が必要になりますが、そこまで痛みは感じません。
末梢静脈栄養の場合、カテーテル交換の度に、注射針の穿刺に伴う苦痛や静脈炎のリスクが高くなります。
高カロリー輸液の注入ができる
末梢静脈栄養と比べ、中心静脈栄養は必要な薬剤や高カロリー輸液を使用して様々な栄養を投与することができます。
高カロリー輸液には、粘度や濃度が高い輸液製剤が多いため、末梢静脈などの細い血管から投与することは、血管の炎症や詰まりなどのリスクがあります。
中心静脈は血液量が多く、血流も早いため、薬剤や高カロリー輸液を注入してもすぐに希釈されるので、炎症や詰まりなどのリスクは少なくなります。
長期間使用できる
中心静脈栄養は、使用できる期間は決まっていませんが、感染や事故抜去を予防できれば、数ヶ月以上使用できることもあります。
対して末梢静脈栄養の場合、血管の炎症予防のためカテーテルは96時間以上は留置しないとガイドラインにあるため、長期間の使用となるとカテーテル交換が定期的に必要になります。
中心静脈栄養は血管が太いため、血管の炎症や詰まりが起こりにくいのです。
また、一度入れたカテーテルは、問題が起きない限りは留置し直すことがないため、長期的に使用が可能です。
しかしながら、長期的に安全に中心静脈栄養をするには、感染や事故抜去を起こさないよう、日々のカテーテル管理や観察が大切になります。
自宅で実施可能
中心静脈栄養は長期間持続して使用できるため、在宅静脈栄養が可能です。
しかし、末梢静脈栄養は短期間でカテーテルの交換が必要となるため、在宅静脈栄養ができません。
中心静脈を自宅で行う場合、輸液バッグの交換、カテーテルの管理、穿刺(CVポートの場合のみ)などを自分たちで行う必要があります。
入浴や外出ができる
また、中心静脈栄養は、カテーテル挿入部に防水の保護フィルムを貼ることで、入浴できます。
CVポートの場合は、入浴の数時間前に針を抜き、穿刺部分を消毒し、保護すれば、いつも通り入浴できます。
輸液バッグの交換などを正しく行っていれば、時間がある時に外出することも可能です。
参照:静脈経腸栄養ガイドライン
中心静脈栄養(IVH)とは|特徴や種類・自宅で行う際の注意点まで
デメリット
中心静脈栄養のデメリットは、感染症と合併症を引き起こす可能性があることです。
感染症や合併症を予防するために、毎日のカテーテルの管理が必要です。
点滴の前後にカテーテルの消毒や洗浄など、病院から教えてもらった管理法を徹底しましょう。
また、感染症や合併症を発症すると体や見た目に不調があらわれます。
体に違和感が無いか日頃から意識したり、定期的に診察を受けることで悪化を防げるかもしれません。
感染症
中心静脈栄養を利用しているときに、最も起こりやすいトラブルが感染症です。
中心静脈栄養は長期間に渡ってカテーテルを留置できますが、その代わりにカテーテル感染の可能性があります。
カテーテル挿入部や輸液製剤の汚染など、様々な原因から感染症を引き起こすことがあります。
感染が悪化すると、致命的な臓器不全を引き起こす敗血症になることもあります。
日頃から、カテーテル挿入部の発赤や膨張などの確認をし、発熱などの体調不良などが起きていないか観察することで、感染の悪化を防ぐことにつながります。
参照:中心静脈栄養(IVH)とは|特徴や種類・自宅で行う際の注意点まで
合併症
感染症の他に、合併症のリスクもあります。
- 血栓症
- 輸液製剤による合併
- 症消化管機能の低下による合併症
異物となるカテーテルが血管内で刺激となり、血栓が形成されやすくなります。
血栓が形成されていくと、発熱、むくみ、点滴の落ちが悪くなるなど、体調や見た目から気がつけます。
大きくなった血栓が飛んでしまうと、肺塞栓症や脳塞栓症など命に関わることもあるため注意が必要です。
また、輸液製剤による合併症で、高トリグリセリド血症、ビタミン欠乏症、微量元素欠乏、高血糖などを引き起こす可能性もあります。
さらに、中心静脈栄養のために消化管の使用機会が減少することで、消化管機能の低下による合併症も引き起こすことがあります。
胃腸が弱ることで腸内細菌による感染症、肝機能の低下、胆石などを発症します。
消化管が使えるのであれば、できるだけ胃腸から栄養を投与することが推奨されています。
参照:中心静脈栄養(IVH)とは|特徴や種類・自宅で行う際の注意点まで
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自宅で中心静脈栄養を管理する際の注意点
輸液製剤の取扱い
輸液製剤は医師の処方により、病院や薬局で調剤されています。
しかし、場合によっては直前に調剤するものもあり、家族やご本人が混ぜて調剤する場合があります。
輸液製剤は「冷暗所保存」と書かれたものは冷蔵庫に食品とは分けて保管しましょう。書かれていないものは直射日光の当たらない涼しくてほこりの当たらない場所に保管しましょう。
輸血バッグの取扱い
輸血バッグが空になった際の交換に関して、誰が交換できるのか、どのように交換するのかを説明してください。また、介護職員は輸血バッグを交換することができないことも伝えてください。
輸液バックが空になると、交換が必要です。
交換の際は、点滴チューブにあるストッパーの開閉、点滴チューブの充填が必要です。
輸液バッグの交換は医療的ケアにあたるため、医師、看護師、患者もしくはご家族が交換することは可能ですが、介護職員は交換できません。
カテーテルの取扱い
間欠注入法や、点滴を長時間に渡って外していた場合、新しい輸液バックに交換し、カテーテルとの接続が必要です。
間欠注入法とは、24時間に渡って点滴する持続注入法に対して、数時間だけ点滴する方法です。
体外式カテーテルの場合は点滴に接続します。
体内埋め込み型ポート式の場合は専用の穿刺針を点滴に接続し、穿刺します。
カテーテルの取り扱いも介護職員が行うことはできません。
ヘパリン製剤の取扱い
血液が固まることを防ぐために、ヘパリン製剤を注射器でカテーテル内に注入します。
ヘパリン製剤とは、血液凝固を防止する効果を持ち、血液抗凝固剤として利用されている薬剤です。
輸液バックを長時間外すと、カテーテル内の血液が固まり、カテーテルが使用できなくなってしまいます。
ヘパリン製剤をカテーテル内に注入することで、カテーテル内の血液凝固を防ぎます。
ヘパリン製剤も介護職員が注入することはできず、医師、看護師、患者、もしくはご家族が注入することは可能です。
入浴時の注意点
体外式カテーテルの場合、入浴時に挿入部が濡れることを防ぐために、保護テープを覆うように、防水作用のある保護フィルムを挿入部に貼り付けます。
挿入部が濡れることで感染リスクが高まるため、濡れてしまったときは保護テープを剝がして消毒しましょう。
体内埋め込みポート式の場合、入浴する数時間前に針を抜き、皮膚を消毒するだけで大丈夫です。
保護フィルムや保護テープを貼る必要はありません。
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中心静脈栄養患者の在院期間
中心静脈栄養は長期間の使用に向いており、中心静脈栄養を利用している約半数は6ヶ月以上在院しているようです。
中心静脈栄養患者の在院期間は以下の通りです。
1ヶ月以内 | 10.5% | 6ヶ月〜12ヶ月 | 25.7% |
1ヶ月〜2ヶ月 | 9.9% | 12ヶ月〜24ヶ月 | 13.5% |
2ヶ月〜6ヶ月 | 27.2 | 24ヶ月〜 | 13.2% |
以上の通り、長期間の使用に向いている中心静脈栄養ですが、カテーテルの留置期間が長いほど感染のリスクは高まります。
しかし、定期的にカテーテルを交換したからといって、感染の頻度は低下しないことがわかっています。
そのため、カテーテルの留置期間の目安に決まりはありません。
中心静脈栄養の必要性を毎日評価し、不要とわかったときに早めにカテーテルを抜去することで、感染を防げます。
中心静脈栄養まとめ
ここまで中心静脈栄養についてお伝えしてきました。
中心静脈栄養の要点をまとめると以下の通りです。
- 中心静脈栄養は、中心静脈にカテーテル先端を留置することで、高カロリー輸液で栄養を補える。
- 中心静脈栄養によるメリットは、自宅で実施可能、カテーテルを長期間の留置が可能である
- 中心静脈栄養によるデメリットは感染症や合併症のリスクがある
- 自宅で中心静脈栄養する際の管理方法は、輸液製剤の管理と交換、カテーテルの状態確認、ヘパリンの取り扱い、入浴時の防水などがある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。